【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
朝
~自室~
窓から差し込む朝の光で目が覚める。体を起こすと部屋は程よく涼しく、室内だというのに澄んだ空気が満ちていて心地よい。ベッドの上で軽く伸びをして、枕元に並べて置いたモンスターボールを取り出す。
「みんな、おはよう」
ポケモンたちを出して挨拶をすると、オリーニョは頭の果実をゆらりと揺らし、ウパーはパチパチと大きな目を瞬かせながら楽しそうに尻尾を振った。そしてツボツボは甲羅からぬっと首と手足を伸ばすと、ゆっくりとした動作でこちらを見上げている。
『ツボツボも大丈夫そうだな』
(うん。怪我は治ってるみたいだし、体調も戻ったみたい)
ツボツボの様子に安心し、頭を撫でようと屈みこんだ時だった。ふわりと、甘酸っぱく濃厚な香りが鼻腔をくすぐる。きのみの香りであることはすぐにわかった。しかし普通のきのみや熟成したものの香りではない。
『この匂い、もしかして』
(ツボツボの甲羅から匂ってきてるね)
匂いの発生源をたどり、ツボツボの首元から甲羅の中を覗く。暗くてよく見えないが、内側に液体が溜まっているようだ。昨夜のうちからモモンのみを持たせていたけれど、早くもきのみジュースになったのだろう。
「相変わらず何もかもが早い」
ゲームの中では珍しいアイテムの一つに過ぎなかったが、漂う香りは実に芳醇。そしてそれを作ったツボツボは、俺の反応を見て照れ臭そうに視線をそらすが、どこか自慢だった。
「ツボツボ、これもらってもいい?」
尋ねると、ツボツボはコクリと頷くように首を縦に振ってくれる。拒否する様子はない。早速ツボツボを抱え上げ……るのは無理だったので、一旦ボールに入れて部屋を出る。
……
…………
………………
~リビング~
「お母さん、お父さん」
「あらウノ、おはよう」
「おはよう。どうかしたのかい?」
両親がコーヒーを飲んでいたので、挨拶をして事情を説明。そして実際にツボツボを出して見せる。
「よく見えないけど、これがツボツボのきのみジュースか……いい香りだな」
「少し調べた限りだと人も飲めるみたいだけど、味はどうかしら?」
「確かめるためにも何か容器に移したい」
「すぐに持ってくるわ。ちょっと待ってて」
母さんが椅子から立ち上がり、食器棚から大きめのガラスのコップと小さな漏斗を持ってきてくれた。さらに父さんがツボツボを抱え上げ、漏斗の上でそっと甲羅を傾けた。
一拍遅れて、乳白色のとろりとした液体が甲羅の穴から流れ落ちていく。香りは一段と強くなり、リビング全体に広がった。そしてコップの底から三分の一ほどの位置までジュースが溜まると、流れが自然と止まる。
『1回の生産量は少ないみたいだな』
(200〜250mlくらいかな?)
尤も、材料はきのみがたった1個ということを考えると、十分だろう。父さんが床に降ろしたツボツボの頭を、感謝を込めて撫でる。
次にコップに溜まったジュースを指先に少しつけて、舐めてみた。
まず最初に感じたのは、モモンのみが濃縮されたような濃厚な甘みで、後からコクのある酸味が押し寄せてくる。単純に甘酸っぱいだけではなく、ジュースのとろみと合わせて舌にねっとりと絡む。乳酸菌飲料のような味わいと、深み……多少のクセはあるが、嫌な風味はない。
「どんな味なの?」
母さんが興味津々といった様子で尋ねてくるが、これは説明が難しい。実際に、2人に自分で味わってもらう。
「味はヨーグルトに近いというか、発酵食品っぽいわね。お料理にも使えそう」
「う~ん……まろやかで飲みやすいと思うけど、独特な味だね」
母さんには好評だが、父さんはちょっと微妙な反応。人によって食の好みがあるのは仕方がない。材料となるきのみによって味が変わる可能性も十分あるし、配合も色々と試してみよう。
そういえば、この”きのみジュース”にもゲームでは20の回復効果があった。薬と比べれば微々たるものではあるけれど、効果についても調べられないだろうか?
父に相談してみると、
「それなら残りはシズカ先生に分析してもらおうか。薬の事もあるし、お願いすればやってくれると思うから」
「丁度これから朝食の準備に向かうから、私が持って行ってお願いするわ。ウノは朝の支度をしてしまいなさい」
「分かった!」
こうして母さんはジュースを持って食堂へ向かい、俺は身支度を整えるべく洗面所へと向かうのだった。
……
…………
………………
朝食後
~ログハウスの裏手~
ツボツボのジュースについては分析待ちということで、今日はこれからパワー系アイテムを試してみる。参加者は俺と父さんとオーロンゲ、イワオさんとサイホーンなのだが、
「ふむ。サイホーンにはサイズが小さいかと思ったが、ポケモンのサイズに合わせて自動的に調節されるんだね」
「説明書によるとモンスターボールと同様に、ポケモンの体を縮めたり大きくしたりする性質を利用しているようですね。これにより、どんな大型のポケモンにも1つのサイズで対応できるようにしているようです」
大型のポケモンに装着すると、サイズの変化が如実に表れて驚いた。シンとルリのアリゲイツとマグマラシの時には気づかなかったけれど、たぶんあの時にも微妙にサイズは変わっていたんだろう。
『しかしモンスターボールといい、パワー系アイテムといい、この世界って結構謎に高度な技術があるよなぁ……』
(回復装置とか、医療関係も凄かったもんね)
『そっち方面も勉強しておくべきかもな』
脳内でそんな話をしていると、父さんとオーロンゲも装着が終わったようだ。
「よし、まずは軽く歩いて普段との違いを確認してみよう」
イワオさんの提案に異論はなく、この研究所の敷地の外周をぐるりと歩いてみる。すると俺には普段との違いがわからなかったけれど、ポケモンとそのトレーナー目線では明らかな違いがあったようだ。
「事前に聞いていた通り、確かに動きが遅くなっているね。元々この子の動きは鈍重だけれど、これは単純に重りをつけたというだけでなく全身に抵抗がかかっているように見える」
「グル……」
「うちのオーロンゲも同じみたいです。腕を動かしてみてくれるかい?」
「オォ……」
イワオさんにアピールするようにサイホーンが地面を踏みしめ、重い足音を響かせる。オーロンゲも父さんに促されて太い両腕を大きく曲げ伸ばし、力強い動作を見せるものの、どこか動きづらそうに眉間を寄せている。
どちらも十分に耐えられる範囲ではあるが、無視はできない動きづらさを感じていることは明らかだった。
『説明書にはサイズ調整と同じで“ポケモンの性質とポケモンが技を放つエネルギー、ひいてはそれを操作する肉体や神経に干渉することで負荷をかけている”って書かれてたな』
(単純な重りで負荷をかけてるわけじゃないから、どんなポケモンにも対応できて素早さが半減するんだね)
『今更だけど、これ安全性とかどうなんだろう? ある程度担保されているとは思うけど、こっち特有の技術だからよくわからん』
2人に聞いてみると、安全性は高いだろうとのことだった。
「もちろん無茶なトレーニングをしたりすれば別だけど、普通に動いてトレーニングをする分には問題ないと思う。
普通の重りでトレーニングをすると、どうしても腕とか足とか、限られた部分に負荷が集中する。重さに負けて重りを取り落とす、落とさなくてもバランスを崩す、すると体勢を維持するためにフォームが崩れたり無理な力を入れたり、これらは全部怪我のリスクになる。
その点、ウノが持ってきた道具は全身に負荷が分散されている。オーロンゲを見る限り、動きは鈍くなっていても体のバランスはいつも通りだ」
「怪我のリスクがあるとすれば、鈍った動きに慣れるまでが問題だろうね。一度慣れてしまえば、普通にバトルもできるだろう」
確かに改めてサイホーンとオーロンゲをみると、重い足取りではあるもののふらつくような様子は全くない。重さを感じる足音が一定のリズムで響いて、安定しているのが分かる。
そのまましばらく2人と2匹の様子を見ながら後を追っていると、些細な疑問が浮かぶ。
「そういえば……お父さんたちって、普段はあまりポケモンをボールの外に出さないよね?」
もちろん食事の時などに見かけることはあるのだけれど、逆に言えば必要な時しか外に出していない気がする。俺は別に用がなくても出していることはあるし、街に出た時もポケモンを連れ歩いている人は頻繁に目にした。
そう尋ねると、父さん達が笑って答えてくれる。
「言われてみれば確かに。別に意図的にやっているわけではないんだけどね」
「うむ。我々の仕事は自然環境の観察と研究。だが自然に対して我々は不自然、言い換えれば“異物”だろう? だから我々が存在することによる影響を最低限に抑えて、自然のままの状態を保つことが活動の都合上、さらに社会的にも重要なのさ。
その点モンスターボールはポケモンを持ち運ぶのに便利なだけでなく、野生ポケモンとの摩擦を避けるためにも優秀でね。理屈と規定で言えば拠点周辺は自由に行動させていいんだが……ううむ、改めて考えるとこれは職業病の一種かもしれないな」
ルールや法律で縛られているからではなく、仕事への向き合い方の結果そうなっているということか……と納得していたら、湖を一周しかけたところでログハウスの前にシズカ先生とミヤビさんが出てきた。こちらを見て歩いてくるので、何か用があるのだろう。
「2人とも、何かあったのかね?」
「お疲れ様。ちょっとウノ君を借りてもいいかしら? きのみジュースの分析結果が出たから、共有しておこうと思って」
「大変興味深い」
おや? ミヤビさんがだいぶ前のめりになっている。一体何があったのかと気になるが──
「ウノ、こっちはお父さんとイワオさんで大丈夫だから。先生たちと話していなさい」
「分かった! ありがとう」
そういうことになったので、2人と別れてログハウス内の食堂に移動。席についてミヤビさんが抱えていた資料を受け取り、目を通しながら説明を受ける。
「まず根本的なことだけど、ツボツボがきのみジュースを作るのは自分で飲むための栄養源として。雑食性ではあるけれど、鋭い牙や爪を持たないために、食物を噛みちぎるよりも液状にしてすする方が効率的に栄養を摂取できるからなんだ。
そしてきのみジュースはツボツボが分泌する体液に含まれる“複合酵素”の働きにより、植物の細胞壁を構成する主成分であるセルロースが糖に分解されることで、形を失いドロドロの状態にされている。
同時にツボツボの体液に含まれる菌が液化したきのみの発酵を促すことで、単純にされただけのきのみよりも栄養価が高くなる。発酵によって栄養価が高まるのはチーズなど他の発酵食品でも同じなんだけど、ポケモンが自然とそれを取り込んでいるというのは興味深い。
さらに驚いたことにこの菌は納豆菌並みに生命力が強く、他の種類の菌の繁殖を阻害してしまう。つまりきのみジュースは雑菌が極めて繁殖しにくく、腐りにくい。保存性がとても高いということになる」
「おお……ちょっと聞いただけでもいいことづくめですね」
「そうなんだよ。注意としては1点だけ、複合酵素の中に糖質をアルコールに変化させるものも微量に入っていてね。端的に言うと、放置しているとお酒になって酒造法に引っかかる。
尤もこっちはセルロースを糖に変えるより時間がかかるから、よっぽどどこかに忘れたりしなければお酒にはならないし、毒性とかそう言う類の危険はないから安心していいよ。あくまでも、しいて言えばの注意点だから」
「分かりました。デメリットらしいデメリットはないと見ていいんですね」
しかし面白いな……単純にジュースができるだけかと思えば、発酵食品と酒造りが同時にできてしまう可能性まであるとは。
『ジュースそのものを飲んでもよし、うま味が豊富なら料理の隠し味として使ってもいいかもしれない。それに料理で発酵食品と言えば“酒粕”とか“塩麴”、あれも肉を漬け込むのに使うと、柔らかくてしっとり仕上がるはず』
(料理にもいいけど、植物の細胞を分解するなら今作ってる薬にも使えないかな? 今はすり潰してきのみの薬効成分を抽出しているけど、細胞を溶かせるならもっと簡単に薬効成分を取り出せるかも? ゲームでは回復効果があったし)
確かに、そういう使い方もできるのではないか? と聞いてみると、シズカ先生が頷いた。
「パイナップルに含まれる“ブロメライン”に似た、タンパク質を分解する酵素が含まれているから料理に使うのは可能ね。薬作りのほうも、薬効成分の抽出に関しては確かにそのとおりよ。
成分とpHからするとかなり染みそうだけど……正常な細胞の再生を促進する成分も含まれているし、感染症を防ぎつつ傷の治りを早められる可能性は感じるわね。薬はさじ加減で毒にもなるし、成分が多ければいいというものではないからあくまでも可能性の話だけど」
可能性の話だとしても、十分に面白い。ミヤビさんが興味深いと興奮していたのも納得だ。
……しかし、そうなると1つ問題がある。生産量だ。試してみたいと思ったことが多くなれば、実験に必要なきのみジュースの量も多くなるはずだ。
「量のことなら1つ案がある。きのみジュースを作るために必要なのは、きのみとツボツボの体液。この2つを揃えれば、必ずしもツボツボの甲羅の中でなくてもジュースを作ることは可能かもしれない。
つまり何か大きな容器を用意して、その中にきのみと体液を加えて混ぜ合わせれば、ジュースを量産することも可能だと思う。ツボツボの作ったものを再現するためには温度管理や混ぜ方とか、色々と実験が必要になるだろうけどね」
そうか……醤油やお酒を仕込むように、きのみジュースを仕込めばいい。ツボツボに全部を任せず必要なところで手伝ってもらうことにすれば、ツボツボの負担軽減と増産が可能になるかもしれない!
「きのみの種類によって分解される速度や出来上がるジュースの味も変わるだろうし、複数の醸造容器で並行して試してみたい」
「容器だったら食料の備蓄庫にいくつか空いたツボがあったはずよ。梅干しが入ってたツボなんだけど、それでよければ洗って使っていいわよ」
ジュースの分析結果報告から、次の実験の立案と準備まで。
協力的な大人達の助けによって、急速に話が進むのだった……