【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
一週間後
朝
ツボツボのきのみジュースを用いた醸造計画を大人たちと立案してから、俺達の朝には新しい習慣ができた。
朝食の前に身支度を整えて湖畔を歩き、ログハウスの対岸に向かう。そこは一部が隆起した岩場になっており、さらによく見ると一部に“くぼみ”があり、人が通れるようになっている。
ここを通り抜けると……そこは洞窟の壁際に木製のテーブルと椅子、そして棚が並べられ、封をされたツボが安置されているきのみジュースの醸造所──もとい“秘密基地”。
実は先日のバザーのクイズ大会で景品として手に入れたわざマシン、あれを確認したところ中身が“ひみつのちから”だった。そこでウパーに覚えてもらい、できた洞窟は気温が昼夜通して安定していたので、ジュース作りの作業場兼保管庫として使うことになったのだ。
その時点ではただ広めのスペースがある洞窟だったが、いつもの通りケントさんのDIYで洞窟に合わせた家具を作ってもらい、作業に支障のない環境を整えてもらった。
「おはよう、早いね」
「おはようございます。ミヤビさんこそ」
秘密基地の中を見回していると、眠たげなミヤビさんが入ってきた。きのみジュースの醸造に関しては、彼が主に協力してくれることになっている。
挨拶もそこそこに、俺達は木製の棚が並ぶ一角へ移動。棚に並ぶ陶器のツボを取り出して、いくつかを正面に設置された長いテーブルに置く。これらは昨日から仕込みを開始している、各種きのみジュースだ。
静かに蓋を外してみると、内部から甘酸っぱく濃厚な香りがふわりと立ちのぼる。中身は荒く潰した“モモンのみ”や“オレンのみ”とツボツボの体液の混合物。表面にはまだ果肉の形が少し残っているけれど、とろみを帯びた乳白色の液体へと変化しつつある。
『今日もカビや雑菌の繁殖はなさそうだな』
(ツボツボの菌のおかげだね)
まだたった1週間の実験データだが、順調に進めば2日後には全体がジュースとして完成するだろう。
ボールを投げてポケモンたちにも出てきてもらい……特にツボツボは別途設置されている椅子の上へ。そして封を開けたツボを見せると、彼らも慣れた手つきで中身の確認を始める。
ここでの俺達の仕事は主にきのみジュース作りの本家本元であるツボツボの反応を見て、ジュースの出来を評価すること。いわゆる“職人のカン”的なものでの判断と、その感覚を掴むこと。
「まだデータが少ないけれど、前回より順調に発酵が進んでいるね」
一方、ミヤビさんは手元のノートに室温や気泡の量などを記録しつつ、少量のサンプルも採取している。より客観的かつ科学的な視点でデータを収集することで、安定した品質でジュースを作れるようにするためだ。
きのみジュースを作り始めてから聞いた話だが、ミヤビさんはキノコや微生物を主に研究していて、今の職業に就いたきっかけも子供の頃に興味を持ったことがきっかけとのこと。“初心を思い出せて楽しい”と言って率先して手伝ってくれるので、こちらとしても大助かり。
「……よし、今日の記録は終わったよ」
「次は攪拌ですね」
「ウパッ!」
「オリ!」
机の下で待機していたウパーとオリーニョが元気に声を上げ、部屋の隅に置いてある道具を持って来る。それは先端に丸い板をつけて判子のような形にした棒。
これを使ってツボの中身を押し込むように、コト……と陶器の底に木が触れる手ごたえを感じたら、中身を底から引き上げる。こぼれないように動作はゆっくりと……これを繰り返すことできのみの形が残っている部分を潰しつつ、より発酵が進むように攪拌する。
「ツボー」
その間、ツボツボはツボの縁から中を覗き込み、首を傾げたり甲羅を微小に傾けたりして指示を出してくれるので従う。例えるなら師匠と弟子。
先日この子を見つけた時ほどではないけれど、仕草や雰囲気から言いたいことはなんとなく伝わる。エスパーの血筋のおかげなのだろうか?
(もう少し右側……底を滑らせて、反対側から掬い上げる……)
「ツボー」
『もういいみたいだな』
満足そうなツボツボの声で手を止めて、道具を待機していたオリーニョに渡した。ツボごとに使っているきのみは違うので、一度使った道具は使いまわさない。代わりにウパーから新しいものを受け取って、次のツボの攪拌を始める。
こうして全てのツボの攪拌と片付けを済ませてから、俺達は朝食に向かう。これが最近の日課になった。
……
…………
………………
~キッチン~
午前中
薬草畑の手入れをすませて食堂のキッチンを訪れると、既に母さんとシズカ先生が新しい料理の試作を始めていた。
「丁度良かったわ、もうすぐ完成するところよ」
母さん達の手元を覗き込むと、金属製のトレーに乗った2種類の鶏肉が、濃淡の異なる茶色いペーストに漬け込まれているのが分かる。
「注文通りぶつ切りの方が、カレー粉ときのみジュースのペースト。使ったジュースは
説明をしながらシズカ先生は丸鳥のトレーを持ち、キッチンの隅にあるオーブンの中に入れた。ぶつ切りの方は母さんが持っていき、ペーストも鍋の中に投入して炒め始めた。途端に広がるスパイスの香りが鼻腔をくすぐる。
『もうこれだけで期待が高まるな』
(ここから不味くはならないよね)
脳内で話している間にも2人は手際よく調理を進めて、ぶつ切りの方はじっくり煮込まれた“発酵カレー”。丸鳥の方は大きな肉の塊を豪快に焼き上げた“タンドリーチキン風・鳥の丸焼き”が完成!
味見として一匙ずつカレーを食べてみたところ──
『!! このカレー、深いッ!』
(うん……味の甘みや辛みのバランスは前と同じように感じるけど、それだけにうま味が段違いなのが分かるというか……本当に“深い”としか表現のしようがない……)
あまりの変化に驚いて、思わず母さん達に確認した。
「材料とか調理法とか、前と変えたりしましたか?」
「きのみジュースでお肉を漬け込んだこと以外は、材料も手順もそのままよ」
「私もここまで変わるなんて思わなかったわ……うま味もそうだけど、この短時間でお肉が口の中でほどけるくらい柔らかいわ」
どうやら料理担当である2人をも驚かせる完成度になったようだ。これはもう以前のダイオウドウ級から一段上がって、リザードン級と言っても過言ではないだろうけれど……念のため他の大人達の意見も聞いてみよう。
昼食を兼ねて作っていたから当然だが、丁度お昼の時間なので完成した料理を食堂に運ぶ。すると父さん達は早めに仕事の区切りがついたのか、既に食堂で待っていた。
「あら、遅くなっちゃったかしら?」
「いやいや、今日は一段と食欲をそそる香りがしたからね。少し早めに来ただけだよ」
「今日はきのみジュースを使ったカレーの試作でしたよね? うまくいったんですか?」
イワオさんとキリカさんが鼻を鳴らして覗き込むが、聞かれたシズカ先生は静かに笑うのみ。
「期待していいと思いますよ」
代わりに母さんがそう言いながら、自信ありげに大鍋からカレーをついでいる。
そして全員の手元に皿が行き渡ったところで、
「いただきます」
全員がほぼ同時にスプーンを取り、カレーをひとさじ口へ運んだ──途端に全員の目が大きく見開かれる。
「……美味しっ!? きのみジュースでこんなに変わるんですか!?」
「味はもちろんだが、前よりスパイスの角が取れて食べやすいね」
「そうなのよ、私達もさっき驚いたわ。丸焼きの方も切り分けて食べてみて」
「んじゃ失礼して」
先生が勧めると、真っ先にケントさんが丸焼きに手を伸ばす。ついでに俺も、父さんに切り分けてもらって食べてみると……ジュースの
「表面の皮がパリっとしてて歯ごたえがいい、けど中は柔らかいからマジで美味いな」
「パサつきやすい鶏肉なのにジューシーでうま味がたっぷり……これがきのみジュース、ひいては酵素と菌の効果」
ケントさんもミヤビさんも、文句なしで美味しいと太鼓判を押す。やはり今日の料理は完成度が非常に高いと言って過言ではないだろう。それは今や、ここにいる人々の共通認識だ。
そうなると当然出てくる意見が1つ。
「これは次のバザーで出すのかい?」
父が代表して母に尋ねると、母は“勿論それも考えている”と答える。
「実際にやるかどうかは今後のきのみジュースの品質と量次第ね。用意するカレーの量は前回より増やす予定だから、材料を仕込む量も増える。必然的に使うきのみジュースも多くなるわ。安全性も確保しないといけないし、急ぎ過ぎて問題を起こしたら本末転倒だから」
「それは確かに」
「来週のバザーまでの時間的な余裕はまだ十分あるし、必要なジュースのみに製造を絞ればさらに増産も可能だと思う。あとその辺りはミヤビさんがデータを取っているから、相談したらいいと思う」
「検査キットもあるので、力になれると思います」
ミヤビさんも同意してくれて、今後の方針が決定。
そして話が一区切りついたら、あとは夢中になって料理を味わうのみ。
発酵カレーと丸焼きの味を堪能して、俺達は再び各々の仕事に戻っていく。
……
…………
………………
~きのみ畑~
昼食後はいつものようにきのみの収穫、つまりはポケモン達との特訓タイム。前回と同じように採取はオリーニョの技でやってもらうのだけれど、今回からはツボツボも俺とタッグを組んで参加する。
ツボツボは移動速度が非常に遅いため、研究所から借りてきた木製の台車にツボツボを乗せて準備完了。
「それじゃあ……開始!」
「オリー!」
「ツボッ」
合図と同時にオリーニョが“すいとる”の根を伸ばす。同時にウパーがきのみを受け取るために、先回り。2匹ともこの訓練にはすっかり慣れて、息の合ったコンビネーションを見せている。
一方、ツボツボも中々頑張っていた。ツボツボは移動こそ遅いけれど甲羅の中から伸ばす手足は割と素早く動くらしく、ついでに言えば柔軟で伸び縮みもするため、長く伸ばした手で“まきつく”、あるいは“からみつく”などしてきのみをもぎ取っていく。
台車を押す俺が少々きつくなったけれど……ポケモンたちも頑張っているのだから、これもリハビリと思って頑張ろう。
こうして今日も大量のきのみを収穫できた──と満足した、その時。
「ウパッ!?」
きのみを入れたカゴの横で、満足そうに胸を張っていたウパーの体が白い光に包まれた。
「えっ、また!?」
ポケモンの進化はオリーニョに次いで二度目だったので、前より驚きは小さかった。しかし、ミニーブが進化したのも同じタイミングであることに困惑しつつ……見守っていると、小さかった体が縦横に大きく、頭部や尻尾の形状が緩やかに変化していく。
溢れんばかりの光が消えた後には、ぽってりとした丸みのある身体をしたピンク色の“ヌオー”がつぶらな瞳を瞬かせて、のんびりとした様子で俺を見ていた。
「ヌオー、進化おめでとう!」
「オゥッ!」
俺が頭を撫でて目線を合わせると、ヌオーは嬉しそうに太い腕をパタパタと振った。重度の怪我を負っていたこの子が、今では元気に、こうして進化もした事が素直に嬉しい。
……しかし、それと同時に気になることが1つ。
(サノ。今回のウパーの進化って)
『まず間違いなく特訓のせいだろうな。オリーニョかウパーのどっちかだけなら偶然とも思えるけど両方、しかも進化のタイミングまで特訓後に揃っていることを考えると、関連があると思わざるをえない。特にウパーはバトルに興味がないから、練習でも全然出してない。
つまり、経験値の出所は畑仕事の可能性が大。その上で何故かと考えて、今思い出したけど……これ“ポケジョブ”じゃないか?』
(あっ、それもあったね……ソード・シールドの、ボックスの中のポケモンをアルバイトに送って、経験値とか努力値を稼いでこさせる放置育成システム。こっちは放置じゃないけどゲームでも“ターフ農園”がアルバイト先にあったし、仕事はしている)
『この世界においては、ポケモンが人間と一緒に仕事や作業をすることが、バトルでの勝利と同じように経験値として蓄積される。成長や進化を促すトレーニングとして機能すると断定してよさそうだけど……他にも何かあるか?
(僕はレジェンドアルセウスの、きのみ採取で経験値が入ったのかと思ってた。フィールドできのみとかたまいしを採取させると、微量の経験値が入る仕様になっていたはずだから)
『あー……作業としては一緒だし、確かにそっちの可能性もあるか……ってか、下手したら重複してる可能性もワンチャンないか?』
(……確認のしようがないから、否定もできない。でも、それがあったとしたらバグじゃない?)
『現実になった世界でバグはないとは思うけど、そのくらいチートな仕様だよな』
気づいてしまった可能性に、2人でしばらく沈黙した後……結局俺達は“そういうもの”、“効率的な育成法を見つけたかもしれない”と深く考えないことにした。バトルをしなくても安全確実にポケモンを育てられるのなら、今の俺達としては助かるのだから。
この可能性に気づかせてくれたことに感謝して、もう一度ヌオーを撫でる。火照った体と頭には、ひんやりとした体温が心地よかった。