【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
翌日
~ミズハタウン~
今日は次回のバザーのための買出しのため、ミズハタウンにやってきた──と言っても、俺は今日もネコメさんのお家にお邪魔することになっている。
古い木造の門前にシズカ先生の運転する車が停まると、待ち構えていたかのように砂利を踏む足音が門の奥から近づいて、何匹ものニャースたちと一緒にネコメさんが出てきた。
「ネコメさん、おはようございます!」
「おはよう、そしていらっしゃい。今日も元気ね。お母さん達もおはようございます」
「おはようございます。朝早くからすみません。今日も一日、ウノをよろしくお願いします」
「任せてくださいな。ウノ君が来てくれるなら、うちの子たちも大喜びですからね」
温和な微笑みを浮かべるネコメさんに、ここで母が車の座席からクーラーボックスを取り出す。
「ウノ、ご迷惑のないようにね。それからネコメさん、これはほんの気持ちです。もしよろしければお昼にウノと一緒に召し上がってください」
「まぁまぁ、わざわざ気を使わなくてもいいのに。これは何かしら?」
「今度のバザーで出す料理の試作品です。試作といっても自信作ですので」
「あら、それは楽しみだわ。ありがとう、遠慮なくいただきますね」
ネコメさんは目元を緩めると、ずっしりと冷えたボックスを大事そうに両手で受け取ろうとした。しかし、ネコメさんもお歳のために足がよくないので、クーラーボックスは母さんが玄関まで持ったままついてくる。
「それじゃあウノ、夕方には迎えに来るからね。大人しくしているのよ」
「お母さんもシズカ先生も、買い出し気をつけてね」
こうして母と先生は再び車に乗り込み街に向かった。車のエンジン音が遠のいて、朝の爽やかな静けさが戻ってきた。
「さあ、ウノ君。中へ入りましょうか」
「「「ニャ~ン!」」」
ネコメさんの弾んだ声に反応し、足元にいたニャースたちがしっぽを立てて玄関の奥へと走り出す。早く来いと言うように、ちらちらとこちらを見ている彼らを追って、ひとまず上がらせてもらうことにした。
……
…………
………………
~ネコメさんの家の庭~
前回と同じように、お茶とお菓子で歓迎していただいた後……俺はやはり植物の手入れをさせてもらうことにした。
玄関からぐるりと回って庭に足を踏み入れると、ハーブ園では数十匹のニャースたちが思い思いに集まり、前脚の爪を器用に使って雑草を摘んだり、土を均したりして精を出していた。
『……もう既に手入れはほとんどできてるな……』
(やっぱりポケモンって頭がいいよね)
一度教えただけで、教えたことはできるようになっている。世の中には同じ失敗を何度もする人だっていることを考えると、人間と比較しても優秀な方だろう。そりゃ“ポケジョブ”なんてものも生まれるよなぁ……と2人で納得。
それからは少し土が乾燥しているので水やりくらいかと、やれることを考えていたら、不意に足に衝撃を感じた。
「ニャーン」
「おっ、どうした?」
「ゴロゴロゴロ……」
「あれ? 君もしかして、最初に会った子かな?」
「ニャッ!」
喉を鳴らして足にすりつくニャース。ここの子達は皆、ネコメさんに大事に育てられているから人懐っこくはあるのだけれど、ここまですりついてくる子は珍しかった。尋ねてみると、肯定と思われる返事が返ってきた。
そしてそのまま一鳴きすると、ハーブ園の一角へ向かう。ついてこいと言っているようなのでついていくと、そこは先程よりも雑草が残っている区画。どうやらまだ手入れが残っている場所を教えてくれたようだ。
尤も、全体的に手入れが行き届いているので“残っている”といってもほんの僅かだが……教えてくれたので、しっかり手伝っていこう。杖を支えに膝を折り、ハーブの根元に生えた小さな雑草を丁寧に摘み取っていく。
……しかし、やはり全体の量が少ないだけに作業はすぐ終わる。管理の行き届いたハーブ園は見栄えもよくていい香りに包まれているが、作業のない所にこれ以上いても仕方がない。
今度はご厚意で植えさせてもらった“ぼんぐり”の木の所に向かう。
『おお、こっちもよく育ってるな』
(そうだね……全体的にきのみよりは少しだけ大きいかな? こやしの成果?)
『いや、たぶんきのみとぼんぐりの差だろう。前にこやしを撒いた地面と撒いてない地面で比較して栽培してもらった時“成長速度や実のなり方に明確な差は見られなかった”ってネコメさんから聞いただろ?
おそらく今あるこやしは通常のきのみの生育に関係しない、特定の木の実を隣り合わせに植えた時に突然変異の発生確率を上昇させる“びっくりこやし”だ。それで気が大きくなることはないと思う』
(8種類のこやしの中で、成長速度と実の数に変化がないのは“ながながこやし”、“ねばねばこやし”、“びっくりこやし”の3種類。その内コンポストで作れたのはびっくりこやしだけだもんね……堆肥化に失敗したにしては、悪影響もなさそうだし)
こやしの種類を検証するには、持ち帰って実験用の畑を作って試すしかないだろう。丁度今はマトマ以外の、努力値低下効果のあるきのみが欲しかったところだ。帰りに忘れずもらっていく、と心に決めて……ふと思い出す。
『そういえば今日はニャース達にお土産があったんだった。あれどこやったっけ?』
(大きくもないし、カレーと一緒にクーラーボックスの中に入れてもらったよ)
『そうだ! ……ここでもやることなさそうだし、回収してニャース達と遊ぶか』
(そうしよう)
こうして俺達は、再びネコメさんの家の中に戻ることにした。
……
………
……………
「ウノ君、お昼ごはんが温まりましたよ」
「はーい」
縁側に座りニャース達と遊んでいたら、結構時間が経っていたようだ。
「ごめんね、皆で遊んでいてね」
手に持っていた“ぼんぐり製の玩具”を庭に投げると、ニャース達はそれを追って一斉に駆けていく。
「楽しそうに遊んでるわねぇ……うちに来てくれるだけでもみんな喜んでるのに、おもちゃまでありがとう」
「庭も貸してもらっていますし、僕の練習のために作ってもいるので」
今回持ってきた玩具の材料は、ネコメさんの家で育ててもらったぼんぐり。これを“むしくいぼんぐり”にして後に“ねばりだま”を作れるようにするため、将来的に“ぼんぐりボール”を作れる可能性が出てきた時に備えて、ケントさん指導の下でおもちゃのボールに加工したもの。
現状だとぼんぐりは使い道も少なく持て余していたので、こちらとしても喜んでもらえてよかった。
そんな話をしつつ、部屋に入ってネコメさんが温めてくれた発酵カレーを食べる。
「まあ……本当に美味しいわ。アケノさんはお料理がお上手なのね」
「元々プロですが、最近は特にバザーのために色々と研究しているので」
今日のカレーも昨日の残り物ではなく、早朝から作り直したもの。なんでも昨日の試作を経て、きのみジュースを利用することを前提とした改良点に気づいたらしく、それを反映させたものがこのカレー。
普通のカレーはとろみをつけるためにルーに小麦粉、また小麦粉のダマ防止のために油が入っている。しかし母さんはきのみジュースのとろみで代用することで使用量を抑え、美味しさととろみはそのまま“低脂質、低糖質、低カロリー”を実現したという。
「普通に作るよりも太りにくく、胃もたれや胸やけもしにくい健康的なメニューになったそうです」
「確かに食べていて重くないし、具も柔らかいから私みたいなおばあちゃんでも食べやすいわ」
ネコメさんは感心したように頷きながらスプーンを動かし、あっという間に綺麗に平らげてくれた。その後は食器の片付けを手伝い、お茶を準備して一息つく。
「ごちそうさまでした。あんなに美味しい物を貰って、後でアケノさんにもお礼を言わないと」
「美味しいと言ってもらえただけで、お母さんは喜びますよ」
「それなら何度だって言うわよ。私の生涯の外食経験の中でも、上位に入るお味だったと思うもの。最近はもう家で適当に済ませてしまっていたけれど、若い頃は夫と色々なお店に通っていたから、舌は肥えている方なのよ?」
うん……そんな感じはする。だってこの人、最初の印象がゴミ屋敷の住人だっただけで、そこが解消されたら家も本人もひたすら品が良いんだもの。
「どうせならバザーの出店じゃなくて、ちゃんとしたお店を持ってもいいと思ったわ。そうしたら人気店になりそうなのに……そういえば、今のバザーはどのくらい人が来るのかしら……?」
「人は沢山、それこそ数えきれないほど来てましたよ。大通りに沢山の個人店が並んで、中央広場では企業ブースや大道芸もあって楽しかったです」
「あらまぁ! 昔とはだいぶ違うのね」
「昔というと」
「私が最後にバザーに行ったのはいつだったかしら? あの頃はまだ大通りもできて間もなく、規模はとっても小さかった記憶があるけれど……そうそう、会場に行ったのなら、競技場と自然公園は見た?」
見たと答えると、ネコメさんはこの街のバザーはそれらの施設や土地を“少しでも有効活用するため”に後から計画されたものだと教えてくれた。
なんでも、この街ではかつて“ミズハタウンからミズハシティに! ”を標語として掲げた、大規模な都市計画が推し進められていた。しかしこの計画は強引だった上に、途中で建設会社との癒着や市長の横領の発覚が重なって、途中で頓挫してしまう。
しかし、頓挫までに作られた施設や道などは完成・未完成を問わず街のいたるところに残されており、競技場やその周辺施設もその一部。そしてバザーは計画に費やされた資金の回収、および都市計画に代わる“町おこし”として始まったものなのだそうだ。
「経緯が経緯だったせいで、最初は街の人にも受け入れられてなくてね……“市の職員が仕事をしているように見せているだけ”とか、“市民のご機嫌取り”なんて揶揄される始末だったのよ」
「全然知らなかった……」
「ふふふ、都市計画があったのはもう20年以上前の話だもの。大人でも、若い人は知らない人が大半でしょう。
でも、そう……知らないうちに成果が出ていたのね」
……ネコメさんは遠い目をしている……何か思うところがあるようだ。懐かしむように語るネコメさんはどこか寂しげだけれど、きっと大事な思い出もあるのだろう。
(サノ)
『言われなくても分かる。任せとけ』
脳内で合意したので、すぐさま行動に移す。
「……そうだ、話が変わりますがネコメさん、今日はちょっと相談したいことがあったんです」
「あら、何か困りごと? 私が力になれればいいのだけれど」
「単刀直入に言いますと、次のバザーでニャース達の力を貸してもらいたいんです。厳密にはバザーが閉場した後。
僕も前回初めて参加者になってから知ったんですが“参加者は閉場後、会場の清掃活動に参加する”というルールがあるんです。ただ、僕はご存じの通りこの足なので……」
俺は視線を落とし、自分の足に軽く手を触れる。前回、一応俺も掃除には参加したけれど、この足でできることは少ない。何よりも、他の普通に動ける人達の中に混ざってペースを合わせることができない。そうなると集団の中では、ハッキリ言えば邪魔になりがち。
その結果、前回の清掃活動ではほぼ役に立てず。周りが忙しく動く中で1人だけ手持ち無沙汰。迷惑にならない場所を探して、ほぼ
「そういうこと。うちの子達に、お掃除を手伝ってもらうのね?」
「はい。以前と同じゴミ拾いを。特に道路に落ちているゴミよりも、一目につきにくい場所に隠されるようにして捨てられているゴミ。これには皆さん見つけるにも回収するにも苦労していたように見えたので、それらを道路に出すだけでも大きな力になると思います。
僕も片手が杖で塞がっていてもできる作業──例えば背負い籠を背負うとか袋を持つくらいならできますから、ニャース達にゴミを集めてもらえば貢献できるはず。ただ立っているだけなのが心苦しいので、できるだけ参加したいのです」
「そういう事なら、参加したいという子を探しましょうか」
「ありがとうございます!」
ニャースの手を貸していただくことに同意をいただいたので、まずはお礼。そしてさらに、
「それと、もしよければネコメさんも会場にお越しになりませんか?」
「あら、私も?」
思わぬ提案だったのか、ネコメさんは驚いた表情で口元に手を当てた。
「大事なニャースをお借りする以上、僕も大切に扱わせてもらうつもりです。それでも不安はあるかと思いますし、ニャース達にとっても普段と違う環境での作業になるので、ネコメさんがいてくださった方が双方安心するかな……と」
「……ウノ君……」
ネコメさんは少し考えるそぶりを見せたが、すぐに笑って俺の頭を撫でた。
「話を聞いていて、久しぶりにバザーの様子を見てみたいと思ったところだったの。この機会に、参加させてもらうわ。流石に朝から終了までは体力がもたないでしょうし、片付けの時間が近くなったら合流する形になると思うけれど」
「問題ありません。お待ちしています」
こうして俺達は次回のバザーに、ネコメさんの協力を取り付けることに成功した!
また、その後はニャース達とも相談したところ、熱意のある子たちから猛烈なアピールを受けているうちに母さん達が帰宅。ネコメさんにもう一度お礼を伝えてから帰路についた。