【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
6日後
~ミズハタウン・バザール会場~
早朝から設営に追われる出店者たちの姿を横目に見ながら、割り当てられたスペースへ向かう。今日は二度目のバザー参加……たった2週間だがしっかりと準備をしてきたこともあり、初回よりは落ち着いている。
一緒に来ているのは俺と母さんと父さん、シズカ先生にケントさんとキリカさんの計6人だ。
「さあ、着きましたよ」
運転席のシズカ先生がブレーキを踏み、指定されたキッチンカーの出店区画に車を停めると、父さんがドアを開けて一足先に車外へ出た。俺も車を降りて、軽く身体を伸ばす。
「あらウノ君、おはよう」
「あっ、おはようございます! タエさん」
「今日は私達の方が早かったみたいね。おはよう」
「おはよう、ルリさん。今日もよろしく」
隣のブースからの声に視線を向けると、手作り小物のブースを準備している親子が手を振っていた。そして反対側には串焼き屋台の骨組みを組み立てているゲンさんと、その手伝いをしているシンの姿がある。
「ゲンさん、シン、おはようございます」
「おう、ウノ坊! 今日もよく来たな。調子はどうだ?」
「ばっちりです! 母さん達と、しっかり準備してきました」
「そいつは何よりだ! うちも肉を提供した甲斐があるってもんだ」
ゲンさんが汗を拭いながら豪快に笑う。
今日のカレーに使われている肉は、全てゲンさんの本業である精肉店から購入したもの。バザー参加者同士の縁で、割安で提供してもらえたと母さん達が喜んでいたのが記憶に新しい。
「ふぅ……親父、炭と火はこれでいいよな?」
「ああ、それでいい。後はもっと手際よくできるまで続けて慣れるんだな」
「分かってるよ。っと、ウノおはよう! 待ってたぞ!」
「おはよう、シン。今日は朝早くからお手伝い?」
「そうなんだけど、それよりアレ! あの道具ってのすげぇな!」
おや? どうやらパワー系アイテムの効果を実感したようだ。2週間前とは明らかに反応が違う。
「実感できたの?」
「した。したんだけどさ……」
「ん? 何か問題あった?」
「ウノ君、気にしなくていいわよ。シンはせっかちだから、1週間と経たないうちに“持ち物を外した状態でバトルしよう”って言い出したの。そしてボロ負けしたのよね、私に」
シンより先に、機嫌の良さそうなルリが説明してくれた。それは事実なんだろうけど、
「勝てたんだ」
「そう! マグマラシの素早さを活かして、“たいあたり”と“でんこうせっか”をヒットアンドアウェイで繰り返す。余裕があれば“なきごえ”で攻撃力を下げるって、ウノ君が教えてくれた戦い方がバッチリ決まってね。
道具のおかげでさらに動きが速くなってたから、これまでの負けはなんだったの? ってくらいよ」
「ぐぐぐ……腹立つけど、ほんと一方的に負けてさ……こっちの攻撃がまるで当たらなかった。道具を使って鍛える前とは別のポケモンみたいだったよ」
なるほど、シンとルリはこれまで何度もバトルしてきたらしいし、それだけに以前との違いをより強く実感したのだろう。
尤も、それはパワー系アイテムにきちんと目に見える効果があったからこそ。父さん達の実験でも効果アリとの結果が出ているのだけど、実は俺からすると“想定以上”の結果がでている。
『細かい記録を取ったりはしていないであろう2人でも、強く実感できる事を考えると』
(やっぱり、この世界における努力値──というかステータス? の数値は1つ違うだけでも、実際に現れる能力の差が大きいみたいだね)
パワー系アイテムと努力値振りの知識は、こちらでもポケモンの育成方法として高い効果があると証明された。取り扱いには注意しよう……と考えていたら、
「だからさ、俺達もあのおっちゃんから自分用に1セット買うことにしたんだよ。でもあれ1つでも高いだろ? だから父ちゃんに店を手伝うかわりにお金は前借させてくれって頼んだんだ」
「ああ、それで手伝いに繋がるんだ」
「まったく、普段からちゃんと貯金していれば慌てる必要ないのにね」
「ははは、俺としては息子に仕事を叩き込むいい機会だから、歓迎したくらいだぜ」
話を聞いていたゲンさんが笑って、シンが鼻を鳴らした直後、食欲をそそるカレーの匂いが漂いはじめた。どうやら第一陣のカレーが温まってきたようだ。
「……前回も思ったけど、ウノのとこって凄いいい匂いさせるよな……」
シンが喉を鳴らしてキッチンカーに目を向けると、丁度小窓から母さんが顔を出した。
「シン君、ルリちゃん、朝ご飯は食べた? 味見をするのだけれど、よかったら今日も食べていかない?」
「いいんすか!? 食います!」
「私もお言葉に甘えていただきます」
シンは二つ返事で頷き、ルリも後に続いた。すると母さんは笑顔で車内に戻り、すぐに2皿のカレーライスとスプーンを持って出てくる。
「どうぞ。熱いから気をつけてね」
「「いただきます!」」
2人が受け取った皿を大事に抱え、そのままスプーンですくい口へ運ぶ。そして一口食べた瞬間、2人の動きはピタリと止まった。目が大きく見開かれ、咀嚼する速度が上がる。
「えっ、うまっ」
「なにこれ……前回の味もめちゃくちゃ美味しかったけど……全然違う!」
「この2週間でうちのカレーは進化したからね」
基本は6日前と変わらないけれど、肉の漬け方をトレーからツボ漬けに変更。空のツボにきのみジュースを少し注ぎ、ぶつ切りにした肉を入れ、さらにうま味を増すためにキノコのスライスを追加。その上からまた肉を入れ……と繰り返して層にした。
こうすることで肉がよりうま味の爆弾になるだけでなく、少量のジュースで無駄なく大量の肉を漬けられる。さらに使用前にはツボごとにサンプルを採取し、検査キットで衛生検査を行うことで食の安全も確保できる。どこを取っても胸を張って提供できるカレーなのだ!
母さんも誇らしげに胸を張って眺めている中、シンとルリはあっという間に一皿を平らげる。
「ごちそうさまでした!」
「最高だった……ごちそうさま……っと、そろそろ時間だな」
「そうね、そろそろ準備に戻りましょう。また後でね!」
2人は満足そうに笑うと、空になった皿を母さんに返し、自分の屋台の手伝いへと元気に戻っていった。2人の言う通り、開場まではあと少し。鐘の音が響くまでの間、俺達はキッチンカーの裏で静かにその時を待つ。
……
…………
………………
「始まった!」
開場を知らせる鐘の音が鳴り響くと、入場口で待ちわびていた大勢の来場者が一斉に歩行者天国へとなだれ込んでくる。
「いい匂~い」
「あそこのキッチンカーみたいね。朝は食べたけど……1つ頼んでみる?」
「いいんじゃない? 3人で分ければちょっとでしょ」
「だよね! すみません、カレー1皿ください!」
「いらっしゃいませ。甘口と辛口がありますが、どちらにしますか?」
本日最初のお客様は、大学生くらいの女性3人組。わざわざ呼び込みをするまでもなく、漂う香りに誘われてやってきた。
「んんっ! これマジ美味しい!」
「メニュー見るときのみが入ってるらしいけど、こんなに美味しいんだ」
「てかこの美味しさでカロリー低いのすごくない!?」
女性三人組はカレーを食べながらかしましい会話をしている。これが周囲への宣伝になっているようで、通りかかった人が興味を持ってキッチンカーに目を向ける様子が見て取れる。
一部、男子高校生くらいのグループが彼女達をサクラじゃないかと口にしながら通り過ぎていったが……あれはそういうお年頃だと思われるので、問題はなさそう。
……ということで、お店は母さん達に任せて、俺はケントさんと買い物に出かけることにする。
「母さん、ちょっと他のお店を見て回ってくるね」
「気をつけてね。ケントさん、ウノをよろしくお願いします」
「もちろん、心配無用っすよ」
母さんに声をかけ、俺とケントさんは活気あふれるメインストリートへと歩みを進めた。目的はもちろん、どこかにいるはずのソウジさんから追加のパワー系アイテムを購入すること。
2週間の研究結果で全員が効果を認め、値段を聞いても1セットは確保したいという結論に至ったため、代表としてケントさんがお金を預かりまとめ買いをする予定。俺は紹介をする形になるのだが、
(ソウジさん、どこにいるのかな?)
『企業ブースから一般ブースに移るみたいなことを言っていたけど、お店もお客も多すぎるからなぁ……』
本人とお店の場所が不明なので、まず探すところから始めなければならない。まぁバザーもイベントだし、急がずゆっくり探そう。最終的に人数分のアイテムが買えればいいわけだし、前回の様子からして売り切れることはないだろう。申し訳ないけど。
こうして2人でのんびり歩行者天国を歩いていくと、落ち着いた雰囲気のお店が立ち並ぶ区画に入った。このあたりは家庭から集められた中古品が多く投げ売りされているようで、品物はどれも古いが破格の値段がつけられている。
「おっ、そこの御兄弟……にしては似てないが、ちょっと見ていかないか? うちは中古家電を安く売ってるよ。小物が中心だけどね」
パイプ椅子に腰掛けた年配の店主が、愛想よく声をかけてきた。せっかくなので品物を見てみると、調理家電の山で目が止まる。
(ミキサー……これ、薬ときのみジュース作りに使えるよね?)
『使えるな。一々洗ってたら手間だけど、ここなら安いものだと数百円。機種はバラバラでも数があるし、特定の用途やきのみの種類ごとに使い分ければ効率的に大量生産もできそうだ』
「えっと……おじさん、このミキサーって全部ちゃんと動きますか?」
「ああ、動作確認はしてあるよ。寿命は保証できないけどね」
「だったら、10個まとめて買いたいです」
「えっ、10個も? 買うなら売るけど、ミキサーばかり10個もいるのかい?」
「おっちゃん、この子もバザーでお母さんと軽食のお店を出してるんだよ。その手伝いで色々と混ぜて、沢山の種類のソースを大量に作るんだ」
「あー、納得した。そういうことならこっちの商品も一緒にどうだい?」
ケントさんの補足を受けて、さらりと別の商品を勧めてくるおじさん。
提示されたのは、同じ調理家電や加工機械。しかも果物の皮を素早く自動でむける“皮むき器”、果物を一気に八等分にカットする“くし切りカッター”、食品を乾燥させるための“フードドライヤー”等々、確かに役立ちそうなものが多数。
今後、節約できる時間と労力を考えれば、ここでお金を使うのはアリだろう。
「全部ください」
「おっ!? 御大尽だねぇ! ……勧めといてなんだけど、本当に買う?」
「役立ちそうですし、安いので」
「ウノ君、ついでにこっちの台車も買おうぜ。荷物運ぶのにあった方がいいだろ」
「ああ、それじゃその台車はサービスするから持って行っていいよ。大量に購入してくれたおまけってことで」
とんとん拍子に話が決まり、全部まとめて1万円で機材を購入。ケントさんと力を合わせて台車に積み込み、さらにバザー会場を歩く。ソウジさんはなかなか見つからない。
やがて一般ブースから中心地にある企業ブースに入り、くまなく探したが見つからず。そこを超えて反対側の一般ブースに向かったところ、ようやく発見。今日は最低限の棚が置かれているテントの中にソウジさんがいた。相変わらず、お店は閑古鳥が鳴いている。
「ソウジさん!」
「えっ? あっ! ウノ君じゃないか! 今日も来てくれたのかい?」
「もちろん、前回の約束を果たしにきましたよ」
「約束と言うと」
すぐに思い出したのだろう。俺の隣にいるケントさんを、期待のこもった瞳が一瞬で“ロックオン”した。
「こちらは僕の父の同僚のケントさんです」
「はじめまして、ケントと申します」
それからケントさんはいつもよりも社会人らしい態度で、ここまでの経緯を説明。
「というわけで我々の全員分、人によってはウノ君のように複数セット確保しておきたいという者もいるので“10セット”購入させていただきたいのですが、在庫はありますか?」
「10セット! あります! ありますとも! た、ただお値段も相応にかかりますが……」
「ご心配なく、値段もウノ君から聞いていたので用意してきました。60万円、ご確認ください」
「あ、ありがとうございます! あっ、セット購入の場合は5万円にしたんでした……ウノ君の紹介もあるので、10万円はお返ししますね。
ああ……これでやっと在庫が、一気に一割も減ってくれた……」
「10個で1割ってことは、持ち込んだサンプルは全部で100セットだったんですね」
「おかげさまで、残りの在庫は88セットさ。前回に引き続き見向きもされなくて落ち込んでいたけど、なんだか売れそうな気がしてきたよ」
88だとまだ結構……って、それ今回の10と前回の2、つまり俺達にしか売れてないってことじゃない? 本当に俺達以外、1人も買ってないのか……
「そうだ、さっきシンとルリ──前回、僕と一緒にいた2人も買いに来るって言ってましたよ。特にシンはここの道具を買うために、お父さんのお店で働くほど本気で」
「本当かい!? それは嬉しいなぁ!」
「仕事中なのでちょっと遅れるかもしれないですけど、2人が買いに来るつもりなのは本当ですから、頑張ってくださいね」
「もちろん! そうだ、2人の分は別にして取り置いておこうか。せっかく来てくれたのに、なくなっていたら申し訳ないからね」
……ソウジさんはすっかり気分を良くしたようで、とても嬉しそうに2人分の道具を隠し始めている……素直で誠実な人なのは分かるが、ちょっと騙されやすそうで心配。
若干失礼なことを考えながら、彼の商売が上手くいくことを願うことにした……