【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
「お疲れ様です」
ソウジさんの店を離れてからは露店を物色しながら、気になるものがあれば適宜購入しつつ、キッチンカーに戻った。
すると、店には長蛇の列……とまでは言えないが、次から次へとお客様が絶えない状況。俺とケントさんも合流して、できる手伝いをしつつ観察すると、一番売れているのはカレー。やはり香りで人を引き寄せているようだけれど、他のメニューも飛ぶように売れていく。
仮に母さんとシズカ先生だけで店をやっていたら、休む暇もなかっただろう。父さんとキリカさんとケントさん、そしてバザー自体に昼休みの時間が取られていて良かった。
こうして“嬉しい悲鳴”と言うべき時間はあっという間に過ぎていく。そして太陽が傾き始め、影が長く伸びてきた頃。
「それじゃ、ネコメさんを迎えに行ってきます!」
「いってらっしゃい。安全運転でよろしくね」
「任せてください!」
キリカさんが自分の車の鍵を手に、キッチンカーから一時離脱。その穴を埋めるように、そして完売まであと少し。皆でラストスパートをかけていき──閉場まであと20分、とうとうその時が訪れる。
「──完売です! お待ちのお客様には申し訳ありません! ありがとうございました!」
最後のひとすくいが盛り付けられたと同時に、父さんが張り上げた声が一時的にバザーの喧騒に打ち勝つ。不満の声もいくらかは聞こえたが、それも“残念だ”と機会を逸したことを惜しむもの。お客様は三々五々に散り始めた。
「皆、本当にお疲れ様」
「盛況でしたね」
額の汗を拭いながら、シズカ先生と母さんが心底満足そうな表情で、冷たいお茶を人数分用意している。また、隣を覗くとゲンさんとシンも串焼きを売り切っていたようで、誇らしげに焼き台の火を落としている最中。
「あら、もう終わってしまったのかしら?」
皆が一仕事終えた疲労と達成感に包まれて、外の空気で涼んでいたところに、ネコメさんとキリカさんが到着。
「ネコメさんお疲れ様です。おかげさまで、ついさっき完売しました」
「まぁっ、凄いじゃない。ウノ君も頑張ったのね」
「ネコメさん、遠い所をわざわざウノのためにありがとうございます」
「こっちに椅子があるので、時間までどうぞ」
「あらあら、どうかお気遣いなく。私も久しぶりのバザーを楽しみにしていたんですよ」
バザーと言う人通りの多い環境、仮に通り過ぎるだけなら気にもとめないだろう。しかし俺とネコメさん、両親、シズカ先生、キリカさん、ケントさん。7人も1か所に集まって話をしていると人目を引くのも当然。
「うぉっ?! 誰かと思えばネコメ婆さんじゃねぇか!」
「あら~、お久しぶりです~」
「貴方達は──ああ! お肉屋さんのゲン君と、雑貨屋さんのタエちゃんじゃないの。お久しぶりねぇ……」
「お、おう……いや、それより何でここに? 婆さん、ここ数年は商店街にも顔を出さなくなってただろ」
「最近、いい出会いがあってね。お誘いもいただいたから、良い機会だと思って」
最初にゲンさんからネコメさんの家を聞いたわけだし、3人は以前から知り合いだったのだろう。しかし彼らも言っている通り、長く顔を合わせていなかったようで、微妙な空気が流れている。特にシンとルリは、ネコメさんとどう交流すればいいのかも分からない様子。
そこで、俺が話に加わり経緯を説明することにした。
「はー……いや、ネコメ婆さんのニャースをウノ坊が連れてったのは知ってたけどよ……その後も会ってて、そんなことになってたとは知らなかったな」
「ネコメさんのニャース達がお掃除を手伝ってくれるのね~?」
「最近できるようになったのよ、ウノ君のアドバイスのおかげでね」
「掃除については、実際に見せたほうが速いかもしれませんね。そういえばニャース達は」
「連れてきているわよ」
そう言うなり、ネコメさんはキリカさんに目を向けた。彼女の手元にはアタッシュケースがあり、鍵が開くと凹凸のついたクッションに埋まって、数十個のモンスターボールが保管されている。
「うちの子をそのまま連れてくるわけにも行かないからねぇ……はい、ウノ君はこの子達に手伝ってもらって頂戴」
「ありがとうございます」
受け取ったボールは3つ。早速、中のニャースを出してみる。
「ニャ」
「ニャン!」
「ニャオ~ン」
すると、3匹のニャース達の内、3匹目が出てくるや否や俺の足にすりついてくる。
(あっ、あの子だ)
『この子は分かりやすいな。というか、すりつく勢いが強すぎてほぼ頭突きなんだが……まぁいいか』
「今日もよろしくね。早速だけど、1つだけでいいから近くのゴミを拾ってきてくれるかな?」
「「「ニャッ!」」」
機敏に反応した彼らは、歩道と自然公園を隔てる茂みの中に飛び込むと、数秒でそれぞれ空き缶やペットボトルを咥えて戻ってきた。
「凄い! 本当にゴミを拾って戻ってきた!」
「拾ってくるだけじゃないよ。ペットボトルはこっちの袋に、空き缶はこっちに入れてね」
ニャースが拾ってくる間に用意していた2枚のポリ袋を見せると、3匹は指示通りにゴミを分別して袋に投入。そしてまたルリの歓声が上がる。声を上げなかったシンや大人達、さらにたまたま様子を見ていた通行人も感心しているようだ。
元々敵対していたわけでもないけれど、一気に場の空気が緩み、友好的な雰囲気になったことを肌で感じる。清掃作業の準備は、これで整ったと言っていいだろう。
……
…………
………………
【本日のバザーは終了いたしました。御来場の皆様はお気をつけてお帰りください。出店者の皆様は、会場の清掃活動にご協力いただけますようお願いいたします】
バザーの終了を知らせる鐘の音と、係員のアナウンスが賑やかな会場全体に響き渡った。
このアナウンスに従って来場者が会場から立ち去ると、歩行者天国の路上には来場者の残したゴミが散乱している。また、既に準備を終えていた出店者達が、各々の道具を手に取り作業へ着手しようとしている姿も見てとれた。
「僕たちも始めましょうか」
「そうね」
ネコメさんがキリカさんからアタッシュケースを受け取り、収められたボールからニャース達を次々と解放していく。軽快な音が響くたびに、路上へ総勢20匹ほどのニャース達が姿を現す。
流石に屋敷にいる全部は連れてこなかったようだけれど、これでも十分に多い。作業を始めようとしていた周りの人々の目が集まる中……新たに出てきた20匹のニャース達は5匹ずつ4列に、俺とネコメさんの前で整列する。
「うわっ、ニャースがすごい数いる」
「あれ、西のお屋敷のネコメさん?」
「ろくに世話もできてないと聞いたが、それにしては妙に行儀がいいな……」
これには少し離れたお店の方々も気づき、感心と驚きが混ざった視線を向けていた。中には街の人もいたようで、この光景だけでもわずかにネコメさん達の悪評が揺らいだことを感じるが……まだ作業は始まってもいない。
「ウノ君、私達はどうすればいいかしら?」
「ネコメさん達は自然公園に近くて遮蔽の多い、こちらの歩道沿いをお願いします。あとニャース達がゴミを持って来てくれればそれはそれで助かるけれど、ここには僕たち以外にも大勢の人がいるので。隠れたゴミを道に出してくれるだけでも十分助かると思います。
あとゴミ袋は事前に運営の人から配布されているので、それを使ってください」
「袋は私達が持ちますよ!」
「拾うのも任せて、ネコメさんはニャースの指示に専念してください」
「分かったわ。皆この道に沿って、いつも通りお願いするわね」
俺とキリカさんやケントさんの会話も把握して、ネコメさんの指示を理解したニャース達は一斉に声を上げ意気揚々と散開。しなやかな身のこなしで歩道沿いのベンチの下、街路樹の根元、植え込みの奥深くまで入り込んでいく。
「かわいい~! ニャース達が掃除を手伝ってる~!」
「いや、あれただ拾って持ってくるだけじゃなくて、ゴミに対応する袋を持ってる人の所に行ってないか?」
「……本当ね……一切迷う様子もないし……」
自分の作業そっちのけでニャース達の働きぶりを見ている人も出てきていて、彼らの表情が面白い。けど、それでは作業が進まない。
「シン、ルリさん、こっちを手伝ってもらっていいかな? 一緒に向こうの道で補助をお願い」
「わかった」
「いいわよ」
台車を歩行器の代わりに、二つ返事で引き受けてくれた2人を連れて、対面にある競技場側へ。こちらではニャースの数が少ないので“はたく”で植木の隙間に隠れたゴミを次々と道に出してもらい、シンとルリが拾って台車の袋に投げ込んでもらう分担にした。
(多いし、あっという間に袋が埋まっていくね)
『たぶん、手と目が届かなくて長く放置されてたゴミもあるんだろう。昼の様子を見る限り、バザーの民度が悪いとは思わないけど、こっそり隠して捨てる客は結構いるみたいだから』
前世のイベント事で警備や後始末のバイトもやったことがあるけれど、ある程度大きなイベントになるとそういう輩が出るのは珍しくない、というか当たり前だった。
倫理観や道徳の欠如だなぁ……なんてことを考えながら台車を押していくと、すぐに用意していた袋が尽きた。新しい物を調達しないと滞る。
「すみません、ちょっとお時間よろしいですか?」
「あら? 僕ちゃん何かしら?」
「えっと、指定のゴミ袋が余っていたら分けてもらえないでしょうか? 手持ちがなくなってしまって」
「あらぁ、頑張ってるのね。そこにあるから半分持って行っていいわよ」
「ありがとうございます!」
こうして途中で袋を調達しながら、中にはもう入らなくなった袋を引き取ってくれる人もいて、ゴミの回収は停滞することなく進み……規定の1時間が終わる頃には、どれほどの量を処理しただろうか? 気分的に、辿ってきた大通りの道が輝いて見える。
そしてもう何袋めか分からない袋を縛り、回収担当の運営スタッフさんに引き渡して戻ると……先程とはまた別のスタッフが数名、ネコメさんと何やら話をしていた。
「ウノ君、戻ってきたのね、ちょうどよかった。ちょっと来てちょうだい」
「何事ですか?」
「悪い話ではないのよ。今日のお手伝いに感謝の言葉をいただいたけれど、私だけが受けるのも変でしょう?」
「君が提案者のウノ君ですね? ミズハタウンバザー運営委員の委員長補佐をしている者です。本日のゴミの回収量が明らかに、特にこの区域だけ異常に増えていたため様子を見にきて、貴方達の活躍を把握しました。
愚痴になってしまいますが、毎回、終了後の散乱したゴミの回収と仕分けには苦労させられていまして……本当に助かりました。運営一同、感謝いたします。
あいにく本日は上の者が病欠しておりまして、謝礼などは用意できず、あくまでも“ご協力”の“お願い”という形になってしまうのですが……それから今後の参加のご予定も、可能であればお聞かせいただきたく……」
バザーの運営は市の職員さんが行っているらしいので、この人も公務員で色々あるんだろう。平身低頭で歯切れが悪い。
「少なくとも僕は、これからもお母さん達とバザーに参加を続ける予定なので、その後の掃除にも参加します。ただ、このニャース達は全部ネコメさんのポケモンなので……」
そこから先を俺が答えるのは違うだろう、ということでネコメさんに話を向けたところ、
「ウノ君になら、うちの子達を預けるのは構いません。私も、もう歳なので毎回必ずとはお約束できませんが……街のためにも、この子達にとっても、参加させていただけるなら参加したいと考えていますよ」
「本当ですか! もちろん、ご都合のよろしい時だけで十分にありがたいことですので、何卒、何卒末永くよろしくお願いいたします!」
こうしてネコメさんとニャース達の参加は、バザー運営にも歓迎された。周囲の人々も好意的な視線を向けている。そしてニャース達は自分達が受け入れられ、ネコメさんが賞賛されたことを理解している様子。
行儀よく並ぶ彼らの姿は、いつもよりも誇らしげに見えた。