【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
~自室~
ジョウト地方に引っ越して、あっという間に一か月が経過した。新生活には慣れた、と言っていいのだろうか? ウノ少年は相変わらず部屋に引きこもっている。正直なところ、引越しの前と後で生活はほとんど変わっていない。
朝起きて身支度をして、食堂で朝食。
朝食後は部屋で最低限の勉強を済ませ、時間が余れば昼までベッドで横になる。
昼食後には湖畔でミニーブの日光浴に付き合う。長さは天気と風の冷たさ次第。
日光浴が終わったら部屋に戻って夕食まで横になる。
夕食を食べたらお風呂に入り、寝る準備をして寝る……これが一日の流れだ。
長い入院生活で体力低下+足の後遺症で歩きにくく、疲れやすい。外は野生ポケモンが現れる危険があるため、1人では湖畔周辺までしか出歩けない。室内中心の生活になる原因は色々あるのだけれど、やはり1番の理由はウノ少年の精神状態。
困ったことに、ウノ少年はほとんど外の出来事に反応や興味を示さない。両親や父の同僚の皆さんが気遣ってくれていても、それを認識しているだけ。意識が消えたわけではないのは分かるけれど、完全に心が“からにこもる”状態。
シズカ先生も今は静養に専念すればいいと言ってくれているけど……俺達の体は今も与えられた部屋のベッドで横になっている。これ、俺が日常生活を送っているのが逆効果だったりしないだろうか?
せめてゲームや漫画とか、遊びでもなんでもいいから興味を示してくれると多少は安心できるのだけれど、
「……」
「ああ、おいで」
「……」
ベッドの下からウノ少年のミニーブが覗き込んでいた。手を差し出すと、腕に捕まってベッドまで一生懸命によじ登ってくる。
ミニーブの体長は30cmほど、体重は6キロ程度と小さい割にずっしりとした重みが腕にかかる。しかし登り終えるなり布団の中、胸元あたりに潜り込んでくるので可愛らしい。ウノ少年もこの子に対しては心を開いているようで、潜り込んできた時はそっと抱きしめている。
「……」
抱きしめられたミニーブがそっと“あまいかおり”を放つと、眠気がやってくる。
逆らわずに昼まで寝よう……
……
…………
………………
昼になり、食堂でシズカ先生と母さんが作ってくれたシチューを食べた後は、今日も日光浴。湖畔にある手ごろな岩に腰かけて、寄り添ってきたミニーブを抱えて空を眺める。
今日は風もなく、日差しが温かいので長くなるかな……天気が崩れるか、あるいは日差しがもっと強くなったら戻るけど……
そんなことをボーっと考えていると、抱えていたミニーブが身じろぎをした。
「ミニーブ?」
少し動くくらいはよくあるが、今回はソワソワした感じ。何か気になる物があるのかと、視線の先に目を向けてみれば……湖の上に何か浮かんでいた。あれは……
「きのみ? あれが欲しいの?」
「!」
どうやらそのようだ。何の実かまでは判別できないけど、水面に揺れながらゆっくりとこちら側に近づいてくる。湖までの傾斜は緩やかだし、杖を使えば引き寄せられそうだ。
ミニーブを下ろして水面に近づく。この湖の傾斜は緩やかだから、少しなら入っても足はつくけれど、水に足を取られたら転びかねない。少し手前で膝をついて右手で体を支え、おもいっきり左手で杖を伸ばす。体力が低下しているといっても、このくらいなら……
指先に力をこめると、カツ、カツと軽い手ごたえ。杖の先端をひっかけて、慎重に引き寄せると徐々にきのみの形がよく見えてくる。ひし形に近くて、鉛筆のような模様。
「“カゴの実”か」
手の届く距離まで流れ着いた実を拾い上げると、つややかな果皮についた水滴が太陽光を反射してキラキラと輝く。
(きれい)
『!!』
驚いた。ウノ少年が久しぶりに反応した。
『そうだな、綺麗だな』
(実物ははじめて見た……)
内心で声をかけながら、湖の水できのみを洗う。カゴの実の果皮はなかなか頑丈なようだ。引き寄せるために杖で何度も叩いたのに、傷はついていない。もう一度水から引き揚げて空にかかげると、更に輝きが増したような気がする。
痛んでいる箇所は見当たらないから、たぶん大丈夫だろうけど……念のためシズカ先生に確認しておくか。ついでにミニーブが食べやすいように切ってもらおう。
「行こう、ミニーブ」
「!」
……
…………
………………
「すみません」
「おっ? ウノ君じゃない。何かあった?」
食堂には研究員のケントさんの姿があった。シズカ先生や母さんの姿は見当たらない。
「ケントさん。シズカ先生はいませんか?」
「あー……シズカ先生ならほんのちょっと前に出かけちゃったな。もしかして体調が悪くなったのか?」
心配そうな目をしていたので、体調は問題ないことと要件を伝える。
「それで厨房に来たのか。腐ってたりしたら大変だからな。ちゃんと確認できてえらいぞ。すぐに切ってくるから座って待ってな」
そう言って彼は厨房の奥に入り、8つに切ったカゴの実をお皿に盛って持ってきてくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。ミニーブ」
「!」
「おお、すごい勢い。喜んでるなぁ」
床に皿を置いた途端、ミニーブは切り分けられたカゴの実に飛びついて、嬉しそうに貪り始める。うちの子はひかえめな性格なのに、こんなに食いつく様子は初めて見た。いや、ひかえめな性格だからこそ、渋い味のカゴの実が好みなのか。
(……もっと食べさせてあげたい)
『確かに。そういえばこのカゴの実って何処から来たんだろう? 少なくとも湖の傍にカゴの実の木はないよな?』
湖の周りは何度か歩いて回ったので、カゴの実が成っていたらその時に気がついたはず。風で飛んで来るような距離にはないだろうから、ポケモンが持ってきたのかもしれない。もしかしたら森の中、比較的近いあたりにカゴの実のなる木があるのではないか?
そう考えて、ケントさんに尋ねてみたところ、
「カゴの木のある場所なら知ってるよ。よかったら上に来て地図を見てみないか?」
と、食堂の2階に招待してくれた。
「階段上がっただけだけど、ここが俺達の職場だ」
大人たちの仕事場に初めて踏み込んだので、子供のウノ少年は緊張している様子。しかし、職員のケントさんは当然そんなことはなく、“研究室”の札がかかった扉を勢いよく開けた。
「所長ー、ちょっとこの辺の地図借りていいすか?」
「いいぞー! でも何に──おや? ウノ君じゃないか」
パソコンと大量の資料で埋まった机から顔を上げ、イワオさんは俺に気づく。そして彼の声によって、他の皆さんもこちらを向いた。
「ウノ? どうしたんだこんなところで」
「俺が連れてきたんですよ、ウドさん。実は──」
俺が口を開くよりも早く、ケントさんが父に事情を話す。それは他の方々の耳にも届き、
「そうかぁ! 偉いぞウノ!」
「うむ、自然のものを不用意に口にしないことはもちろん、ポケモンに与えるものに気をつけるのはトレーナーとして大切だ」
「お菓子をあげよう」
「あっ、ありがとうございます」
説明が終わるやいなや、ニャースかわいがりが始まった。
優しい人達ではあるのだが、こうなると少々対応に困る。
「はいはい皆さんそのへんで。ウノ君、地図見つけたよ。
ここが俺達のいる湖で、カゴの実があるのはこのあたり。ちょうどここから東にある感じだな。この辺でカゴの木が生えているのはこの一帯しかないから、さっきの実はここから来たと見てまず間違いない」
「……結構、遠い?」
「そうね。歩くと大人でも結構かかるから、おそらく鳥ポケモンが落としたんだと思うわ。
反対の西側、このあたりには鳥ポケモンがたくさん生息しているから……ほら、線で結ぶと湖の上を通過するでしょ?
うっかり落としたのか、水を飲みに来て忘れていったのか、理由までは分からないけどね」
なるほど……しかし、巣がある場所からだとさらに木の生えている場所は遠くなる。鳥ポケモンはこんなに遠くまで餌を取りに行くのだろうか?
(……近くに餌がない?)
『キリカさんが、鳥ポケモンがたくさんいると言っていたから、その可能性はあるな』
ウノ少年との予想を確かめるべく尋ねてみると、大人たちは感心したような目でこちらを見た。
「よく分かったね、ウノ君。実は今、西の鳥ポケモンたちは産卵期を終えて、ヒナが孵り始めたところなんだ。だから餌が普段よりも沢山必要なんだよ。だから行動範囲が広がっているのさ」
(ミニーブにきのみをあげたい、けど鳥ポケモンの餌を取るのは……)
『だなぁ……でもきのみって植えたら増やせたよな?』
ミニーブにあげる分は自分で育てられないか? と尋ねると、栽培すること自体はできるらしい。ただ、きのみ用の肥料などは手に入らないそうだ。
「残念ながら、ジョウト地方ではきのみを利用する文化が他の地方ほど発展していなくてね。我々は仕事柄それなりに知識があるけど、一般の人は“ぼんぐり”くらいしか知らないんだ。だから栽培用の肥料も扱っているところがほとんどない」
「知ってても味で“にがいきのみ”とか、“どくけしのみ”みたいに効果で呼んで、正式名称は知らないって人が大半だからな。ウノ君が“カゴの実”って言った時、よく知ってるなーって感想がまず出たくらいだ」
「私もこっちに来て驚いたわ。ホウエン地方だとポロックに使うからわりと一般的なのに、こっちでは全然見かけないんだもの」
「サバイバル知識としては有用だけど、きちんと準備さえしていればきのみやその知識が必要になる状況なんてまずないし、フレンドリーショップに行けば大抵のものは簡単に揃うから、どうしてもね……」
ジョウト地方のきのみ文化に関しては、ゲームだと第二世代と呼ばれた金・銀の設定に準拠されているのだろうか? 持ち物システムが初めて導入された時は、きのみの種類も少なかった覚えがある。
キリカさんは話を聞く限り、ホウエン地方のご出身。ルビー・サファイアできのみの種類も用途も一気に増えたから、その辺りの違いが文化の違いとして現れているのかもしれない。
肥料となる“こやし”が手に入らないのは少し残念だけど、あれは木の成長を早めたり、成った実の数を増やしたり、長持ちさせたりといった機能を持つ道具だ。効率を求めないなら、なくてもいいだろう。
「具体的な育て方を教えてください」
「そうね……大事なのは地面を耕して“ふかふかなつち”にすることと、“水をあげること”よ。それだけちゃんとやれば、まず失敗はしないわ。
きのみは植えたら数日で木になって実をつけるし、自生している木は全部取っても数日でまた実をつける。一回に取る量を制限すれば毎日だって収穫できるくらい、本来は強い植物なの」
「植えるためのカゴの実はお父さんが取ってきてあげるよ。一か所じゃなくて複数個所を回って、少しずつ取れば鳥ポケモンの餌を奪うこともないだろう。場所は……所長、うちのログハウスの裏を使っても構いませんか?」
「もちろんだとも! 道具も野営装備のスコップで代用できるだろうから、敷地内なら好きに使ってかまわないよ」
「!」
図らずもきのみを育てるために必要な場所と道具、そしてきのみを手に入れる算段がついた。これにはウノ少年も喜びを滲ませたので、俺の方から丁寧にお礼を伝えて研究室を後にした。