【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
3日後
~醸造所~
朝の日差しが少しずつ強まり、昼に近づく頃。朝食を終えた俺とミヤビさんは、先日購入したクラフト専用として使う家電の設置を終えた。
「電源よし。バッテリーが持つ限りは家と同じように使えるよ」
「ありがとうございます。早速いつも作っているものを作って、試してみましょう」
今回使うのは電動皮むき器、ミキサー、手動くし切りカッター、そしてフードドライヤーの4種類……まずは電動皮むき器で、オレンのみの皮を厚めに剥いていく。きのみを中央の金属棒に刺して刃を添え、電源を入れれば高速回転が始まり、5秒で1個の皮むきが終わる。
「おお! やっぱり電動だと速いですね」
「セットに10秒くらいかかるけど、合わせても15秒~20秒だからね。皮は薬にするとして、中身は?」
「そっちはフードドライヤーでドライフルーツにして保存しましょう。あとついでに1つ試したいこともあるので、ひとまず先に進みます」
同じようにあと9個オレンのみの皮を剥き、さらに荒く切ったクスリソウ10株をミキサーの1つに投入。電源を入れて1分ほどすると……粘度の高い混合物ができた。
「粘度はともかくすり潰し方が荒いですね」
「ミキサーだけだと時間をかけてもこのくらいが限界だろうね。後は手作業ですり潰そう」
「ですね。刻んで最初からすり潰すよりはだいぶ楽だと思います」
こうしてキズぐすりを作ったら、実験としてフードドライヤーの乾燥用トレーの一段分に流し込んで広げる。使用説明書を読んだところ、この機械は材料を高温で熱することがない。だったら薬の水分を抜くことで、薬の保存性を高められないか? と考えた。
(今でもクスリソウの効果で一か月はもつけど、もっと保管できれば備蓄もしやすいよね)
『仮に失敗したとして、別に痛手でもないしな。実験はできるだけやっていこう』
フードドライヤーの残りの段には、スライスしたオレンのみを並べてスイッチオン! 機械の動作と風の音が聞こえてくるので、あとは待つだけだ。
その間にもう一仕事。まずはモモンのみを大量に用意して、くし切りカッターで八等分にカット。きのみをカット台に置いてハンドルを下げると、勢いよく八等分されたきのみになる。
次に、カットされたきのみは新しいミキサーでスムージーにして、完成したそばから醸造用のツボに注ぐ。これを繰り返してツボ1つを満たしたら、ツボツボのきのみジュースを作る準備が完了。
「先の作業まで考えると、これが一番楽になる作業ですね」
「手作業で潰すとそれなりに力がいるからね。きのみの繊維が細かくされていれば、ツボツボの体液も偏りなく混ざるだろうし、溶け残りも少なくなる。完成までの時間も短縮されるかもしれない……」
その後も俺達は新しい道具の前で、ああだこうだと話し合いながら動作確認を兼ねた作業を続けた。
……
…………
………………
昼
~食堂~
卓上にはお母さん達が用意してくれた昼食が並び、皆で舌鼓を打ちながら穏やかな時間が流れている。
「ほう、キズぐすりの保存性の向上かね」
「とりあえず単純に乾燥して粉砕しただけのサンプルはできました」
「必要な時に水で戻せば使えたらいいな、と思っています」
「ドライフルーツとか干物とか、水分を抜くのは保存食作りの基本だから、いけるんじゃないか?」
「水分が抜けただけで成分に影響がないのなら、蒸留水で戻せば軟膏に戻して使える可能性は高いわ。後で確認してみましょう」
「普段の方が緊急時にサッと使えてよさそうだけど、まとめて作り置けるならそれはそれで助かるな」
「効果があるなら、使用感も試さないとね」
研究者チームも一堂に会し、昼食の合間に雑談として午前中のことを報告すると、各々が思ったことを口にする。どれも積極的に協力する方向の意見なので、とてもありがたくて俺達のモチベーションも上がる。
しかし。ここで少し難しい顔をして黙り込んだのはイワオさんだ。
「保存の効く薬……」
「イワオさん?」
「おっと、すまない。少し考え事をね。実はつい先ほど、私の友人から連絡があったのさ。そいつは“テツオ”といってね、私の登山仲間であり、今は別の支部に警備員として所属しているんだが──近くに“バンギラス”が出たらしいのだよ」
「ゲッ!? マジっすか!?」
「大丈夫だったんですか? それ」
バンギラス……前世では歩く災害などと呼ばれ、この世界でも凶暴性が有名なポケモン。そんなものが出たとあって、研究者チームの中でもフィールドワークの多いケントさんとキリカさんが真っ先に声を上げた。
「心配ないよ。最初に遭遇したのがテツオだったそうでね、撃退して山に戻したそうだ。あいつは元々は格闘家で、バンギラスとは山ごもりで何度も戦った経験があるからね。
そんなこんなで被害はなかったらしいが、それでも身近に危険なポケモンが姿を現したのは事実。向こうの支部では緊急時の対応とか、いざという時の治療や薬のことが話題によく上がる。そして決まって、予算の話になるそうだ」
「まぁ、そりゃそうっすよね。撃退したとはいえ、戻ってくる可能性もありますし」
「資金に関しても同じ会社の一部なら──なるほど」
キリカさんの言葉で納得。イワオさん達と同じく向こうも資金難だが、今回の件で医薬品の需要が高まった。備蓄をしていないわけではないが、不安があるとかそんなことだろう。
「イワオさん、薬をそちらに送りますか?」
「私もそれができればと考えていた。だけどね、ウノ君」
イワオさんは感謝を伝えた後、温かな眼差しで俺を見つめつつ、腕を組んで口を開いた。
「ウノ君の薬は既に効果が実証されているし、ウノ君が善意で助けてくれていることは分かっている。しかし君の善意に甘えて今後もタダで薬を提供してもらう。さらに他所の支部にもというのは、いかがなものかと思うのだよ。
しかしウノ君の薬は“我々が自分達で作り、自己責任で利用している民間薬”という扱いだからこそ問題になっていないだけで、譲渡や金銭という対価が直接的に発生すると、流石に法律の問題が出てきてしまう。
そこで以前から考えていたのだが……うちの臨時研究員になる気はないかい? そうすれば“歴史的な薬の研究用のサンプル”という扱いにできる。ウノ君への報酬も正式に研究活動費として支払えるし、より良い設備や資材を集められる可能性もある」
思いがけない提案に俺達は驚くが──逆に驚いているのは俺達だけ。他の皆、特に研究者チームは腑に落ちているようだ。
「色々と聞きたいことはありますが、僕が研究員になれるんですか? 子供なのに」
「なれる。臨時研究員というのは、各支部で行われている研究に必要と判断された知識・技術を持つ人物に、一時的に協力を求めるために会社が認めている既存の制度なんだ。
もちろん通常は大人が対象であって、子供を臨時研究員にした前例はない。ただし、子供を臨時研究員にしてはならない、という規定もない。それにウノ君は子供といっても10歳にはなっているだろう?」
さらに話を聞くと、10歳といえばポケモントレーナーとして旅に出られる歳。これが何故10歳かというと、“ある程度の自己判断が可能で、法的な権利が強くなる年齢”とされているからだそうだ。
そしてジョウトではジム巡りをするトレーナーはポケモンセンターで旅の途中の食と住、治療の提供を受けることが多いけど、それはあくまでも最低限の保証。旅をしていればお金が必要になる場面は多いし、必要なら短期のアルバイトで稼ぐらしい。
もちろん子供だと仕事の内容や時間帯に制限はあるけど、この世界で10歳はアルバイトを、やろうと思えばできる年齢とのこと。
「臨時研究員は短期契約になるけど、先程言った通り10歳じゃダメとは決まっていないし、ここには親であるウド君とアケノさんもいる。本人と両親の同意があれば問題なく契約はできる。あと採用を決めるのはその支部の支部長、つまりここでは私だからね」
なるほど……とりあえず、可能であることには納得した。しかし、可能だからといって何でもやっていいわけではないだろう。あまり無茶をして、会社の上層部とかから睨まれるようなことはないのだろうか? と尋ねると、
「確かに経費を使用する以上、上層部への報告と説明は必要だろう。でもそこはウノ君がこれまでやってきたことを、たとえば“きのみ栽培を中心とした環境負荷の低減と生活の両立の実戦的研究”などと言葉を飾って伝えれば大丈夫さ。
これはその場しのぎの誤魔化しではなく、ちゃんと研究価値のある内容だと思っているし、実態もある。ポケモンの特性と“せいちょう”によるきのみの収量増加という発見や、ヒスイ式の薬品レシピという希少な知識もウノ君は持っている。
それに、身も蓋もないことを言うとウノ君の知識がうちの資金難を軽減する一助になっているのは紛れもない事実だからね。うちはこうやってやりくりしているんだ! と言えば、資金難を解消できていない上層部としては追究もしづらいだろう。
……正直に言えば合法というより脱法、グレーゾーンなやり方ではある。しかし建前を整えればできないことはない。大人はズルいのだよ」
本当に身も蓋もないことを言い出したイワオさん。“お金がないのは首がないのと同じ”という言葉があるが、昔の人はよく言ったものだ……
「あと、臨時研究員になってもウノ君はこれまで通りの生活をしてくれて構わない。これまでやってくれていた分でも十分に体裁は整えられるし、年齢を加味して働き方には配慮をしていることを示す必要はあるからね」
「お父さんとお母さんはちょっと前から相談を受けていたんだけど、問題はないと思っているから、ウノの好きにしなさい」
「私もウノの判断に任せるわ」
父さんと母さんは認めている。言葉が少ないのは、あれこれ言うと俺の判断でなくなるからだろう。
『ウノ、どうする?』
(どうする? って聞かれても、これを断る理由ある? お父さんたちが言ったからとかじゃなくて、メリットしかないし)
『ぶっちゃけそうだよなぁ……これまでと同じことしてるだけで、正式にお金を貰えるんだろ? あと研究員として契約するってことは、ちゃんとした職歴になる。まだ子供だし慌てる必要はないだろうけど、それでも空白期間が埋まるのは、元大人としてはデカく感じる』
(報酬できのみ栽培関連の物が貰える可能性もあるし、一応研究機関に所属していれば、色々と勉強したり調べものをしたりするにも有利かも)
脳内で相談した結果、わかりきってはいたけれど双方“提案を受け入れる”ということで合意。さっそくその旨を理由と共に伝えたところ──
「理由が職歴と勉強かぁ……俺がウノ君くらいの時って何考えてたっけ……」
「勉強はともかく、職歴は普通考えないでしょ」
「下手な大人よりしっかりしている」
「きちんと考えて判断したならいいじゃない」
「うむ! 皆も異論はないようだし、決定だな。我々はウノ君を臨時研究員として歓迎するよ!」
ちょっと子供らしくはなかったけれど、俺達は無事に臨時研究員として採用されることが決まった!