【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
窓から入る光がまぶしくて、目が覚める。薄目で周囲の様子をうかがうと、検診で何度か訪れた医務室であることを認識する前に、傍に座っていた父が気づいて声を上げた。
「先生!! ウノが目を覚ましました!!」
すぐに母とシズカ先生が医務室に飛び込んできて、気分は悪くないかと訪ねられる。ここで自分が倒れたことを思い出した。
「少し、ぼーっとするだけです」
「そう……ウノ君は畑の近くで倒れていたの、あまり動かないで気を楽にして」
「倒れて……!!」
倒れた原因について考えて、明確に思い出した。森との境目で、傷だらけで倒れる1匹の“ウパー”の姿を。そして同時に、あの時のミニーブの姿を思い出したことも。
「うっ」
「ウノ!?」
「だい、じょうぶ……」
幸いなことに、今回はあの時ほど気分が悪くはならなかった。
「ウノ君、何があったか覚えているの?」
「はい……覚えています。あの子はどうなりましたか?」
「心配しないで。あの子もちゃんと保護して治療をしたから、今は命に別状はないわ。ここだと満足な治療はできないから、もう少し落ち着いたら町のポケモンセンターに連れて行くことになるけど……ひとまず、状況を聞いてもいいかしら?」
シズカ先生は俺の様子に注意を払いながら、俺が倒れた時の状況や心境を確認する。
「ありがとう、よく話してくれたわね。あと、あの子がボールに入っていたのは運ぼうとしたのかしら?」
「……わかりません。投げた気もするけど、あの時は僕も苦しかったし、無我夢中で……ミニーブと間違えてボールに戻そうとしたのかも」
「だとしても結果的に正解だったわ。下手に抱きかかえて運ぼうとすれば、その衝撃すらあの子の負担になってしまう状態だった。だからウノ君はあの子を助けたの。それは間違いないわ」
俺が気にやまないようにという配慮なのだろう。なんと返事をすればいいかわからなかったので、とりあえず頷いておく。するとシズカ先生は優しく笑って、もうしばらく横になっているようにと言って、ベッドを仕切るカーテンを出て行った。
そこには両親が待機していたのだろう、2人と話す声が聞こえてくる。
「先生、うちの子は」
「安心してください。状態は安定していますから、少し休めばまた元気になりますよ」
「そうですか、良かった……」
「あの、原因はやはり?」
「ええ……少し話してみましたが、ウノ君はやはり“怪我をしたポケモン”にトラウマがあるようです。怪我をしたポケモンを目にすると、またそれを思い出すと精神的な負担を感じてしまうのでしょう。先程も少し気分が悪くなっていたようです。
ただ、先程のように意識を失うようなことはなく、発作を起こした時の状況を自分で説明もできていましたし……今回は直接、それも不意打ちのような状況で目にしてしまったので、より驚いてしまったのではないかと考えています」
「ということは」
「日常生活への影響は少ないでしょう。ただ、ポケモンバトル関係のテレビ番組などにはご注意を。私達もそのあたりには気をつけますから」
「ありがとうございます! その言葉だけでも救われます」
父の大きな声が響いて、俺が休むのに差し支えると思ったのだろう。シズカ先生が2人を促して外へ連れていく声と足音を最後に、室内には静寂が訪れる。
(……サノ、起きてるよね?)
『ウノ? 休んでいなくて大丈夫か?』
(……今は、少し話したい)
彼がそう言うなら、俺が断る理由はない。しかし、何を言えばいいのか。
言葉が出てこず、迷った挙句に口から出たのは謝罪の言葉。
『すまない……俺はあんなにウノが苦しんでいることに気づいていなかった』
俺は大人の精神だから、比較的ふさぎ込まずに済んだと思っていた。しかし、ウノ少年の気持ちが流れ込んだ今は、ただ目をそらしていただけなのではないか? と思い始めた。
辛い記憶を切り離し、ウノ少年という子供の精神に苦痛を押し付けて、他人事のように考えることで自我を保っていたのではないか? 自分が守っていると考えるだけで、守れていなかった、それどころか守られていたのは自分の方ではないのか?
(それはちがうよ)
暗い思考が止まらなくなりかけた時、それを否定したのは他でもない、ウノ少年だった。
(サノがいなかったら、僕は部屋から出られなかった。普通の生活もできなくて、もっとひどいことになってたはず。……僕も今の状態は良く分かってないけど、サノが守ってくれていた事だけは間違いない)
これも体を共有しているからなのか、断言と同時に彼の本気が伝わってくる。
それは俺の思考にかかる暗雲を一瞬にして、大きく払拭してくれた。
『まぁ……俺まであの状態だったら、共倒れになることは確かか』
(そう。僕とサノは2人で1人。お互いに、補い合ってたんだと思う。状況判断と行動をするなら、大人の精神の方が向いているとも思うから)
それも、ある程度納得は行く……か?
疑問は残るが、気分はだいぶ晴れてきた。おそらく、ウノ少年の感情が流れ込んだ時のショックが残っていたのだろう。落ち着いてみれば、ひとまず間違ったことはしてきていないと思えてくる。
『考えるべきなのは、今後どうするかだな』
(うん……シズカ先生は日常生活への影響は少ない、バトルに注意って言ってたけど……)
『ぶっちゃけ、ポケモンがいたるところにいるこの世界で、バトルに関わらないのって難しいよな……』
街の外なら野生のポケモンが襲って来る可能性があるし、街の中でもバトルをしているトレーナーはいる。バトルでなくともトレーニングをする人だっていれば、その結果として怪我を負うポケモンもいるだろう。
結論として、バトルや怪我に関する一切を避けるというのはなかなか難しい。
『幸いなのは、覚悟しておけば多少は耐えられることか。これもシズカ先生が言ってたけど』
(ふいうちでなければ、ね)
『どこまでが大丈夫で、どこからがダメなのか、まず境界線を見極めないと対策も立てにくいな』
(うん……それから、改善も)
そこから先は、言われずとも分かった。
『このままでは、いたくないよな』
(相談すればお父さん達は色々考えてくれるし、協力してくれると思うけど)
『ずっと頼り切りになるわけにもいかない。それに、今も元凶のいじめっ子連中はのうのうと暮らしてるのに、俺達が苦しみ続けるのも癪だしな』
(復讐したいとは思わないけどね……)
まったく、不条理としか言いようがない。
しかし……バトルか……
(もし僕とミニーブが、あの時いじめっ子達を追い返せるくらい強かったら、こうなってなかったのかな?)
『まぁ、それができたら今の状況は違っただろうな』
1対5かつまともに指示ができないように押さえつけられた状態でのバトルなんて、そもそもまともなバトルではない。だけど、相手も全員子供の新米トレーナーだった。
四天王やチャンピオンクラスなら言わずもがな、ジムリーダー……いや、エリートトレーナーレベルの実力があれば、追い返すことはできたのではないだろうか? 今更言っても意味のないことだけど、
『限界を探らないといけないし、少しバトルにも挑戦してみるか?』
(正直、気は進まない……けど、また何かあった時、あんな事になるのも嫌だから……)
『だよな……よし、とりあえず明日にでも先生達とミニーブに相談してみよう。どの道、今は俺達だけでできることはほとんどない。だから今は休もうか』
(……うん。おやすみ……)
ウノ少年も疲れていたのだろう、段々と弱弱しくなっていた声が途切れる。
そして俺の意識も、再び闇に包まれていった……