【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
さらに一か月後。
中央のログハウス前に大人たちが全員集まって、固唾を飲んでこちらを見守っている。
目の前には、研究員のミヤビさんがボールを構え、緊張の面持ちでバトルの準備中。
……一月前、俺がバトルの訓練について大人たちに相談すると、激しく止められた。無理をするな。バトルなんかしなくていい。やるとしても、流石に昨日の今日では急ぎすぎだと、ウノ少年のことを考えての言葉を沢山いただいた。
それから両親を始めとした大人たちを説得すること2週間、それからさらにこちらの体調や精神状態の観察期間を経て、ようやくバトルをやってみることになったのが今日。相手がミヤビさんなのは、戦いながら相手を観察するのが得意だからだそうだ。
「準備はいいかな?」
「はい、よろしくお願いします!」
「じゃあ始めようか。イワオさん、お願いします」
「うむ。今日は私が審判を務めるよ。使用ポケモンは互いに1体。道具の使用はなしとする。では、互いにポケモンを出してくれたまえ」
「頼むよ、ビリリダマ」
「ビリィ!」
宣言と同時に投げられたボールから、ボールポケモンのビリリダマが出てきた。
ビリリダマは登場直後に声を上げ、やる気十分と言った様子。
……現実のポケモンバトルは初体験。ウノ少年も随分と久しぶり。緊張からか手が振るえるが、それを抑えてボールを投げる。
「……」
ボールから出たミニーブは、ビリリダマとは対照的に、静かに位置についた。
(ミニーブ、大丈夫かな?)
『俺達よりやる気だったみたいだから、大丈夫だろう』
俺達が事前にミニーブにバトルはできるかと確認したところ、ミニーブは想像以上のやる気を見せた。彼女は以前からひかえめで物静かだったが、事件後はさらに鳴くことが減っていたので、その騒ぎ方には俺達だけでなく両親も驚くほど。
最初は嫌がっているのかと思ったけど、どうも俺達と同じ気持ちらしい。彼女は彼女で、あの時に負けた自分を“不甲斐ない”と思っていたのではないだろうか? 今は彼女の背中しか見えないけれど、その背中に残る傷跡もあるせいか、そう言っているように感じる。
「では、始め!」
「先手は譲るよ」
ミヤビさんとビリリダマは動きを見せない。ならばお言葉に甘えて、
「ミニーブ、あまいかおり!」
「!」
指示に従ったミニーブのつぼみから、濃厚な香りが拡散した。周囲がむせ返るほどの甘い匂いに包まれると、ミヤビさんが軽く表情を歪めた。
「変化技──」
「続けてせいちょう!」
「──! ビリリダマ! たいあたり!」
あまいかおりは相手の回避率を下げ、せいちょうは自分自身の特殊攻撃の威力を上げる。放置していればそれだけ不利になるので、止めようとしたのだろう。
妨害には一歩遅かったけれど、日光を全身で受け止めるようなポーズを取っていたミニーブに、急加速したビリリダマの体当たりが直撃。
(!!)
『大丈夫!』
その光景に、一瞬ウノと体が強張るが──まだ気分は悪くない。ミニーブも僅かに後ずさりをした程度だ。戦闘続行!
「ミニーブ! そのまま“すいとる”!」
「!!」
「ビリッ!?」
ミニーブの体から細い根のようなものが伸びてビリリダマを襲う。体当たりの直後で至近距離にいるビリリダマは回避が間に合わず、クリーンヒット。同時にダメージの一部が回復効果となり、ミニーブが少し活力を取り戻した。
先にせいちょうが成功していたことで、相手へのダメージも回復量も多かったのだろう。
「ビリリダマ! 距離をとりながら“いやなおと”!」
「耐えてもう一度せいちょう!」
ビリリダマはすばやさが高く、スピード勝負になると不利。無理に追うよりも、さらに特殊攻撃の威力を高める。防御力は下げられるが、相手へのダメージが増えれば回復量も増える。
「動き回ってたいあたり!」
(右からくる!)
「後ろに飛んで“はっぱカッター”!」
「ミニッ!」
「ビ、リィッ!?」
ウノ少年の注意のおかげで反応と指示が間に合った。ミニーブは突っ込んできたビリリダマを紙一重で躱し、ばら撒いたはっぱカッターがビリリダマの背中を襲う。
「うっ……」
『落ち着こう!』
その光景が一瞬トラウマを刺激したが、ウノ少年を励ましながら意識を強く持つ。ビリリダマははっぱカッターを受けた衝撃と自分自身の勢いで体勢を崩して転がっている。今がチャンスだ!
「すいとる!!」
「避けるんだ!」
俺とミヤビさんの声が重なり、互いのポケモンが行動に移す。
2つの影が一瞬にして近づいて……1つになっていた。
回避を試みたビリリダマが、ミニーブの出した根っこに捕まり、動けなくなっている。
その意味を認識するよりも早く、イワオさんの声が轟く。
「ビリリダマ戦闘不能! ウノ君の勝ちだ!」
高らかに宣言したイワオさんに続いて、観戦していた皆さんからワッと声が上がる。
「ウノ! よくやった!」
「ウノ君、結構やるじゃん!」
「体調は大丈夫?」
父さんとケントさん、キリカさんが真っ先に駆けつけて声をかけてくれるが、いきなりで返答に困る。そこへシズカ先生が助け舟を出してくれた。
「はいはい、貴方達は少し落ち着きなさい。一斉に話しかけたらウノ君も困るでしょう」
「おっと……」
「そうだったな」
「ごめんね、ウノ君」
「そんなことは。応援ありがとうございました」
大丈夫だと伝えると、一歩遅れてイワオさんとミヤビさん、そして母さんが近づいてくる。
「皆が詰め寄る気持ちも分かる、いい試合だったぞ! ウノ君! それで、気分はどうかね?」
「……少し、胃が重い感じはします。けど、前みたいに苦しくて倒れそうな感じはありません」
「無理に答えなくていいけれど、どのあたりから気持ちが悪くなり始めたかは分かるかしら?」
シズカ先生の質問には少し時間をもらい、ウノ少年と相談して分析する。
「……攻撃技が当たった時だと、思います。ミニーブ、ビリリダマ、どちらに対しても。回数を重ねるごとに不快感も積み重なる感じ……? でも今回はあの時とは違ってちゃんとした試合ですし、ミヤビさんも手加減をしてくれていたので、負担は少なかったかも」
「それなら、しばらくは私達と練習試合をすることに慣れましょうか。もちろん無理をしない範囲で、ウノ君がやりたいときに。野生のポケモンや知らないトレーナーとのバトルはまだ控えた方がいいわね」
「分かりました」
旅をして出会うトレーナーはこちらの事情など知らないし、バトルをすれば本気で挑みかかってくる。野生のポケモンは言わずもがな、人間のルールやマナーを期待する方がおかしい。挑戦するには時期尚早だろう。
「ウノ、急がなくてもいいのよ。バトルをしなくたって、生きていくことはできるんだもの。だからそんな顔をしないで」
どういう顔か自分ではわからないが、母さんを心配させてしまったようだ。
「大丈夫。ゆっくりがんばる」
「ウノ君は才能があるようだし、克服したらチャンピオンになれるかもしれんな!」
イワオさんはそう言って笑っているが、流石に持ち上げ過ぎだろう……と思ってひかえめに否定すると、皆さんが一度顔を見合わせた後、代表して対戦相手だったミヤビさんが口を開く。
「ウノ君、チャンピオンは言い過ぎかもしれないけど、才能があるとは僕も思ったよ」
「そう、ですか?」
「うん、細かいことを言えば長くなるけど、僕がそう思った大きな理由は2つ。まず1つ目は、効果的に変化技を使えていたこと。これに関しては僕が君を侮っていた言い訳になってしまうけど、ウノ君くらいの歳でちゃんと変化技を使う子は珍しいんだ。
変化技はバトルを有利に運ぶため。戦略的には重要な要素だけど、傍目には効果が分かりづらい。だから視覚的に分かりやすい攻撃技を連発するような戦い方をする人が多いんだ。初心者は特にね」
「そうそう、俺も昔はまるっきりそんな感じだったぜ。ってか、本気でリーグ優勝とか狙う人じゃなければ、だいたいそんな感じじゃないか? 攻撃技オンリーでガンガン攻めていくっていう戦術」
「ポケモンと技のタイプや相性とか、状態異常の方が分かりやすいものね」
言われてみれば、戦闘中にゲームのような能力変化のエフェクトは見られなかった。変化技は知られているようだけれど、テクニックとしては中級者から上級者向けと考えられているのか……確かに俺も子供の頃は所謂“フルアタ構成”だったなぁ……
「ただでさえ分かりにくい変化技の効果を正しく把握して、正しく戦略に組み込める。それだけでもウノ君は初心者の域を脱しているよ。少なくとも知識面では確実に。
あと、もう1つの要素は“バトル中の視野の広さ”。自分のポケモンへの指示だけじゃなく、相手の動きもちゃんと把握して適切に指示を出せていたこと。
不利なスピード勝負に付き合わずにせいちょうで特殊攻撃力を上げていたし、ビリリダマの体当たりの起動を読んで後退を指示しただろう? さらにはっぱカッターは広範囲に攻撃できるから、動きが早い相手でも当てやすい。そして体勢を崩したところに、威力を上げたすいとるで一気に体力を削られた。実に合理的な戦い方だった。
技の組み立て方だけなら事前に考えておくことはできるけれど、それを状況が常に移り変わるバトルの最中に実践するのは──」
「はいはい一旦ストップ!」
ミヤビさんは話しているうちにどんどん勢いが早くなり、何と言っていいかわからず呆然としてしまったところ、キリカさんが割って入ってくれた。周囲の反応を見る限り、おそらくこれはいつものことなのだろう。研究者にはありがちなやつかな?
「──失礼した。とにかく……ウノ君は今10歳だったね? 僕が言いたかったのは、さっきの試合はもっと年上の、本格的にジム制覇やリーグを目指すトレーナーがやるような内容だったということだよ」
さらに話を聞いたところ、今回戦ったビリリダマは本来のミヤビさんの手持ちではなく、わざわざ初心者に合わせた育成度の子を知人から借りて来てくれたらしい。その上で手加減もするつもりだった。しかし、わざと負けてくれるつもりはなかったとのこと。
状況の把握に関しては、ウノ少年と脳内で情報共有をしていたからだろう。
……そう考えると精神が2つあるというのは、結構なチート能力かもしれない。
その後もしばらく俺は大人たちに褒められ、やがて解散。
今回のバトルでの収穫をまとめると……
・ポケモンに攻撃が当たると不快感を覚え、回数を重ねることに不快感は累積する。
・不快感は、相手よりミニーブに当たった時の方がより大きかったと思う。
・感覚的かつ推測になるが、非人道的な攻撃、または負傷が酷いほど不快感は大きくなる?
・常識的なバトルなら、即座にパニックや呼吸困難などの発作を起こすわけではない。
・バトルそのものは上手な方、それには前世の知識と2つの精神が大きく寄与している。
……こんな感じだろうか?
注意すべき点としては、シズカ先生にも言われた通り、しばらくは身内での練習試合のみにとどめること。あとは戦闘中はなるべく攻撃回数を少なく、バトルにかかる時間を短く、一撃必殺の戦い方が負担軽減のためには理想的か?
しかし、威力が強すぎて過剰攻撃になってしまうとそれはそれで負担になりそうだし、そもそも禁止行為だ。
……何かの漫画で“戦いは相手を殺すよりも、相手を殺さないようにする方がはるかに難しい”という内容の言葉があったが、本当にその通りかもしれない。
まあ、今はまだ徐々に慣れていく段階だ。
これから様子を見ながらゆっくりと考えていこう。