【AI利用実験中】ポケモン世界に転生したら、旅どころではなかった 作:うどん風スープパスタ
~食堂~
「ウッ、パ~」
「よく食べたな」
歓迎会の後、満足したウパーはテーブルの上で倒れている。お腹が一目で分かるほどに膨らんでいて、しばらく動けそうにない。そんなウパーを微笑ましく思って眺めていると、母さんとシズカ先生が食後の飲み物を持ってやってきた。
「食後のコーヒーを飲む人は?」
シズカ先生が声をかけると一斉に大人達が手を上げて、コーヒーが配られた。
……コーヒーにはちょっとした仕掛けがあり、それを知っている俺と母と先生は口をつけず、皆の反応を観察してしまう。
「ん? どうかしたのかね?」
「ふふふ……あなた、何か気づかないかしら?」
「? 特に何もないと思うが」
「あっ、もしかしてこのコーヒーに何か入ってます?」
「キリカちゃん正解よ。このコーヒーは普段の半分の豆。もう半分は、みじん切りにして炒ったチーゴの実を混ぜて煮出したの」
「マジ!? 全然気づかなかった」
先生が種明かしをすると、皆さん驚いてもう一度カップに口をつける。
「言われてみれば微かに、でもよく味わっても豆が違うかも? くらいにしか感じない」
「カレーを作ってるときにウノ君が“コーヒーに似てる”って言っていたから、試しに煮出してみたのよ。そうしたら本当にそれっぽいものができたの」
「チーゴの実だけだともう少し違いを感じやすくなりますけど、それも美味しかったですよ」
「へぇ、ウノのお手柄だな」
父さんが俺達の頭を撫でながらチーゴコーヒーを味わっているが、シズカ先生の話はまだ続く。
「皆も普通に飲めるみたいね……提案なんだけど、これからうちのコーヒーはこのチーゴコーヒーにしない? 特に夜は。皆の健康を預かる医師として言わせてもらうけど、貴方達はカフェインの摂取量が多すぎるわ」
なんでもうちの父を含めた研究者の皆さんは、毎日朝から晩までに何杯もコーヒーを飲んでいるらしい。特に論文や報告書などが重なって忙しい時期はカフェインパワーで徹夜もしている。端的に言えばカフェイン依存症が懸念されているのだそうだ。
「私も貴方達の仕事と熱意は理解しているつもりですし、コーヒーを飲むなとは言いません。でも飲みすぎは体に毒ですし、一番悪いのはそれが習慣化しつつあること。
幸い味は気にならないみたいですから、いつものコーヒーの代わりにこれを飲めば、それだけで1杯のカフェイン摂取量が半分になるわ」
「で、でもシズカ先生、どうしても徹夜しなければならない時にはカフェインが……」
「徹夜が必要なら昼間はカフェインを取らないとか。工夫できるでしょう? ミヤビ君、一番コーヒーの量が多いのは貴方よ?」
「はい……」
だいぶ腹に据えかねていたのだろう。声を荒げているわけではなく、俺に向けられているわけでもないのに、シズカ先生の圧で背筋が伸びる。
『ウノ、シズカ先生を怒らせるのはやめような』
(うん……)
「いいんじゃないか? 健康に関しては反論の余地はないし、言われなければ気づかないくらいに美味しいからね。それに、コーヒーの消費量が減ればその分の経費も節約にもなるだろう」
俺達が脳内で同意したところで、イワオさんが口を開いたのだが……その瞬間、研究チームの大人達が一斉に納得した様子だが、表情に諦めや苦々しさを感じる。
「おっと、このコーヒーが不味いというわけではないよ。私も、皆もね。ただちょっと、そうだな……ここに住んでいたらいつか耳にするだろうし、ウノ君にも私達の状況を知っておいてもらった方がいいか。ウド君、話してもいいかい?」
「私は構いませんよ。ウノならちゃんと理解してくれると思いますから」
父さんの同意を得てイワオさんが語ってくれたのは“フィールド・インサイト”という皆さんの雇用元が現在、活動資金の問題を抱えているという話だった。
「我々の仕事は長期にわたり学術的なデータを収集・蓄積することで、利益に直結するものではないからね。主な資金源は各地方の様々な企業や篤志家の方からの寄付なんだ。
しかし3か月ほど前に、最大の出資者だった財閥のトップが代替わりをしたそうで、後継者の方から“支援を打ち切る”と予告なく通達されたんだ」
「だから節約を」
「うむ。支援をしてくださる方は他にもいるし、団体としては私達研究者の生活の保障を優先してくれたから、我々がクビになったり路頭に迷うことはない。そこは安心できるんだけど……その分、研究や活動資金の方にしわ寄せがきてしまっているのさ。
研究滞在の費用として、さっき話していたコーヒーやお茶菓子なんかも経費で落としていたからね……全体からすれば微々たるものではあるけれど、毎月消費していたものでもある。節約というのは、そういう小さな事を積み重ねなくてはいけないのだよ。
ただ、あまり我慢しすぎてもそれはそれで心身に良くない。チーゴの実がコーヒーの代用になるのなら、我々としても助かるんだ。勿論他の実もね。モモンやナナシはおやつ代わりになりそうだし、今日のカレーも美味しかったからね」
納得、そして世知辛いな……と思っていたら、なにやらウノ少年がはりきり始めた。
(なら、もっときのみを増やそう)
『皆さんには色々協力してもらってるしな、お役に立てるなら俺も賛成ではある』
(どうせなら味も、もっと美味しいのにしたい)
『できればいいけど……本格的に“こやし”を作ってみるとか?』
(それもいいけど、まずはお母さんに頼む)
『ああ、アレか』
脳内会話で結論が出たので、まず皆さんに協力の意思を表明。イワオさんからは“ありがたいけど無理はしなくていい”と伝えられ、体を大事にすると約束してから味に関する具体的な話に入った。
「きのみをもっと美味しくしたいから、お母さんの力を貸してほしい」
「もちろんいいけど、何をするの? 今日みたいにお料理かしら?」
「それもあるけど、お母さんはカジッチュを持ってたよね? 特性が“じゅくせい”の子。ミニーブと同じで、あの子がいれば収穫したきのみがもっと美味しくなるんじゃないかと思って。熟した果物って美味しいでしょう?」
きのみ栽培を始めてから俺達はポケモンの特性についての疑問を抱えていた。
ミニーブのしゅうかくは、きのみの収穫量に影響したのか?
影響があったのなら、他にもポケモンの特性に秘められた効果があるのではないか?
そんなことがずっと気になっていたけれど、ポケモンと特性は無数にある。
だから手始めにしゅうかくと同じく、きのみに関する特性だけを列記してみたところ、
・きんちょうかん(きのみが食べられなくなる)
・くいしんぼう(きのみを早く使う)
・じゅくせい(きのみの効果が倍になる)
・じんばいったい(きんちょうかんとしろいいななきの複合、きのみが食べられなくなる)
・はんすう(きのみを食べると次のターンの終わりに胃から出してもう1回だけ食べる)
・ほおぶくろ(きのみの効果に加えて最大HPの三分の一のHPが回復する)
収穫の他にこれだけの候補が上がり、その中で試せそうなのが母のカジッチュのじゅくせいだけだった。今回の話がなくても近いうちに相談するつもりだったので、俺達としても渡りに船だと言えるだろう。
「ポケモンの特性の活用か……確かに、ウノ君のミニーブの特性が収穫量に影響している可能性は高かったんだったね。ミヤビ君」
「はい。僕のウツボットとキリカさんのワタッコでデータを取ったところ、せいちょうによるきのみの収量増加や品質の向上は確認できました。しかし、ウノ君とミニーブが育てている木ほど顕著ではありません」
「私も確認しましたけど、数値で見ても単なる誤差とは言い難い差がありました。まだ試行回数は少ないですが、ウノ君の仮説は信憑性があると見ていいかと」
「ポケモン関係はまだまだ未知の部分が多いというか、頻繁に新発見やら新事実が発覚してるからなぁ……全然あり得るっつーか、これわりとデカい発見なんじゃないか?」
この後もしばらく相談を続け、最終的に今後も特性の影響確認を含む畑仕事に協力していただくことを対価として、俺達はきのみの栽培と提供を継続することが決定。
ウノ少年が趣味に没頭する理由が、また一つ増えた。