朝の放送で、日向は目を覚ました。
見慣れた自分の天井が近い。
隣では罪木が眠っている。
同じベッドへ横になっていることを理解するまで、数秒かかった。
「罪木!?」
日向が身体を起こすと、罪木も目を開けた。
「ご、ごめんなさぁい! 私、また勝手にベッドへ……!」
「いつ来たんだ?」
「狛枝さんの状態が持ち直したので、日向さんにもお伝えしなければと思って……。でも、お顔を見たら安心してしまって、そのまま……」
罪木は毛布を胸元へ引き寄せた。
「本当にすみませぇん! 気持ち悪いですよね、勝手に隣で寝ていたなんて!」
「気持ち悪いとかは後でいい。狛枝が良くなったのか?」
「はい。危険な数値からは少し離れました」
日向はベッドから降りた。
「病院へ行こう」
*
病院の二階では、葦原が狛枝のベッド脇に座っていた。
狛枝の熱は下がり始めている。呼吸も昨夜より深い。ただ、目はまだ開かない。
「葦原、ずっとここにいたのか?」
「うん。罪木さんに良くなったって聞いた。もう起きるかもしれないって」
日向が窓の外を見ると、既に朝の光が強くなっていた。
「お前、寝たか?」
「今それいいから。罪木さん、熱見て」
罪木は狛枝を診察し、数値を記録した。
「危険な状態は抜けていますぅ。もう少しすれば、意識も戻ると思います」
葦原の肩が僅かに下がった。
罪木が隣の病室へ向かう。その時だった。
受付の通信装置の呼び出し音が鳴る。
「……まだ決まりの時間じゃないよな」
「何かあったんでしょうか……」
日向が一階へと降り、罪木も続いて降りてくる。
通信装置の画面が点いていた。
薄暗い映像だった。
一本の蝋燭が、黒い幕の前で揺れている。
病院着を着た人物が、頭から白い袋を被り、脚立へ足を掛けていた。
顔は見えない。
袋の右下だけが僅かに折れ、暗い画面の中に細い線が走っている。
服と体格から、日向は澪田だと思った。
「澪田!」
画面の中には声が届かない。
袋を被った人物は、頭上から下がる輪へ手をかけた。
次の瞬間、蝋燭の火が消え、映像が黒くなる。
日向は立ち上がった。
「ライブハウスだ!」
罪木が澪田の病室へ駆け込む。
「澪田さんがいません!」
二階へ上がった罪木の声が、廊下へ響いた。
葦原が狛枝の病室から顔を出す。
隣の病室では、終里が毛布を被ったまま眠っている。その横のベッドだけが空だった。
毛布は床へ落ち、病院着もない。
「いつから? 何があったの」
「分かりませぇん! 夜中にお水を渡した時はいました。ライブカメラに澪田さんらしい映像映って……!」
葦原は階段へ視線を向けたあと、狛枝の病室を見た。
「……病院に残る人も必要でしょ。私ここにいる」
日向は何か言いかけ、やめた。
「分かった。何かあったら呼べ」
階段を降りる。
「日向さんは先にライブハウスへ! 私は終里さんと狛枝さんを確認してから追います!」
日向は一人で病院を飛び出した。
*
ライブハウスの入口は、押してもすぐには開かなかった。
鍵ではない。扉の縁が何かに貼りつき、鈍い音を立てている。
日向が体当たりすると、二度目で扉が開いた。
中は暑かった。
空調の風が熱気を回し、舞台の黒い幕を揺らしている。照明は消え、床に置かれた蝋燭だけが残っていた。
舞台の上に、澪田がいた。
病院着の身体が、天井から伸びた縄に吊られている。
頭には、映像と同じ袋が被せられていた。
日向は舞台の手前で立ち尽くした。
映像で見た直後なのに、目の前の光景は繋がらなかった。
「澪田……?」
返事はない。
舞台へ上がりかけ、日向は止まった。
一人で触れてはいけない。
誰かを呼ばなければならない。
その時は、舞台脇の柱に不自然な継ぎ目があることも、貼られた紙の向こうに何が隠れているかも分からなかった。
日向はライブハウスを飛び出し、モーテルへ走った。
*
モーテルでは、左右田がベルの点検に外へ出ていた。
そこへ、日向が走りこんでくる。
「朝から何だよ。 何のためのベルだと思って……」
「澪田が……!」
左右田の手から工具が落ちた。
七海、九頭龍、ソニア、田中が部屋から出てくる。
「どこだ」と九頭龍が聞いた。
「ライブハウス。首を吊ってる。映像が病院に流れて、それで――」
「西園寺さんもいません!」
ソニアが廊下の奥から叫んだ。
西園寺の部屋は、扉が細く開いたままだった。
中に人はいない。ベッドもほとんど乱れていなかった。鏡の前には、結びかけの帯と小さな櫛だけが残っている。
「いつからだ?」
「分かりません。昨夜、部屋へ入るところは見ましたが……」
「鍵、持って出たのか?」
左右田が机を探す。
「ねえ。まず澪田さんの方へ行こう」
七海の声だけが、廊下の空気を切った。
「西園寺さんも、ライブハウスに行ったのかもしれない」
九頭龍が腹を押さえ、廊下の先へ歩き出す。
「急ぐぞ」
全員が動いた。
*
二度目にライブハウスへ入った時、日向は柱を覆っていた紙がなくなっていることに気づかなかった。
先に、人の身体が目に入った。
西園寺が柱へ固定されていた。
幾重にも巻かれたテープが、小さな身体と柱を繋いでいる。首元には深い傷があり、着物の胸元まで赤く染まっていた。
「西園寺……」
九頭龍の呼びかけが掠れた。
ソニアが口元を押さえ、左右田は扉の前で立ち尽くす。田中の上着の中へ、四天王が一斉に隠れた。
一同が二人の死を理解するより早く、島中へ陽気な音が二回響いた。
死体発見を告げる放送だった。
続けて、店内を含む島中の画面へモノクマの顔が映る。
「殺人が起きたので、動機のお時間は終了! 絶望病は、ただいまをもって完治しましたー!」
「しかも今回は二名様! 一度に二人も見つけるなんて、朝から豪華だねえ!」
「人が死んだら治る病気だったのかよ!」
左右田が怒鳴る。
「病気で殺人が起きたから、もう十分なのです。病原体も空気を読んで撤収しました!」
「最初から病気じゃなくて、あんたが付け外ししてたんじゃねえか!」
「医療の神秘に失礼だなあ!」
モノクマは笑い、捜査開始を告げて画面から消えた。
会場に残った誰も、すぐには動かなかった。
七海だけが、最初に見た日向の顔を確かめた。
「日向くん。さっきも、西園寺さんの身体は見えてた?」
「いや。なかった。少なくとも、見える状態じゃなかった」
七海は柱の周囲を見た。
床には破れた厚紙が落ち、端に新しい糊が光っている。
罪木は肩で息をし、舞台の二人を見上げる。
「そんな……澪田さん、西園寺さん……!」
*
死体発見放送は、病院の二階にも届いた。
葦原は椅子から立ち上がり、廊下を見た。
隣の病室で、ベッドが軋む。
終里が起き上がっていた。
「なんだ、あの放送。誰が死んだ?」
声から怯えが消えている。
「病気、治ったんだ……」
葦原が答える。
背後で、小さく咳をする音がした。
狛枝が目を開けていた。
「……葦原さん?」
掠れてはいるが、聞き慣れた声だった。
葦原はベッドへ戻る。
狛枝の目が、自分を追って動くのを確かめた。
「……私のこと嫌い?」
狛枝は、目を覚ました直後とは思えないほど長く黙った。
熱に浮かされながら吐いた言葉を、途切れ途切れに覚えている。
うるさい、迷惑だ、嫌いだと、熱の中で並べた言葉。
どれも嘘だった。
狛枝は、葦原ならそう分かっているはずだと思っていた。
「どうして?」
ようやく出たのは、問い返す言葉だった。
葦原は狛枝の顔を見たまま、僅かに口元を緩めた。
「『大嫌いだよ』って言葉、もう言わなさそうだね」
安堵したように見える笑い方だった。
狛枝には、それが痛かった。
「嘘だとは、分かっていたんだよね」
「分かってた。でも、逆の意味が一個じゃなかったから」
嫌いではない。
好ましい。
いてほしい。
休んでほしい。
狛枝自身にも、そのうち一つだけを正解と呼ぶことはできなかった。
「ボクは、キミを嫌っていないよ」
狛枝は言った。
「今のは本当?」
「病気は治ったからね」
「うん」
葦原はもう一度、小さく笑った。
「よかった」
狛枝が思っていたより、ずっと単純な言葉だった。
「キミなら、あれが嘘だと分かれば十分だと思っていたよ」
「嘘かどうかと、中に何があるかは別でしょ」
「そうだね」
狛枝は目を閉じかけ、廊下の向こうを見た。
「それで、誰が死んだの?」
葦原の笑いが消えた。
「まだ分からない。澪田さんがいなくなってる」
「二人だ」
終里が病室の入口に立っていた。
「二回鳴った」
「終里さん、もう怖くない?」と葦原が聞く。
「何がだ? 腹減った」
元に戻っている。
狛枝は身体を起こそうとした。
「狛枝くんは待ってて。罪木さん戻るまで」
「捜査が始まったなら、寝ている場合じゃないよ」
「さっきまで死にかけてた」
「もう治ったみたいだね」
そう言って立ち上がると、膝が揺れた。
終里がすぐ横へ回る。
「運ぶか?」
「遠慮しておくよ。今のキミに抱えられたら、病気より先に骨が折れそうだ」
葦原は壁際に立ててあった松葉杖を、狛枝へ一本渡した。
「これ使って」
「病院の備品を持ち出すのはどうなのかな」
「返すまで生きてればいいよ」
三人は病院を出た。
*
ライブハウスへ着くと、入口でモノクマファイルを渡された。
澪田唯吹。
首への圧迫が死因。頭部を袋で覆われ、死後に縄で吊られた可能性がある。
西園寺日寄子。
首元を鋭い刃物で切られ、出血により死亡。凶器は見つかっていない。
二人とも死亡推定時刻は不明だった。
「室温が高すぎますぅ。これでは、体温から時間を絞れません」
罪木が空調の表示を見て言う。
「三十度か。ずっとこの設定だったのか?」
日向が聞く。
「少なくとも、私たちが来た時から暑かった」と七海が答えた。
葦原はモノクマファイルを読み終えると、舞台より先にモノクマを探した。
「質問」
「捜査相談窓口へようこそ!」
客席からモノクマが顔を出す。
「病気の人へ『自分で首を吊って』って命令して、その人が本当にやったら、クロは誰?」
「ずいぶん具体的だねえ」
「澪田さん、何でも言うこと聞いてたから。自分で吊ったんだとしても、自殺とは限らない」
モノクマは短い腕を組んだ。
「本人に死ぬ意思がなく、病気を利用した命令で死なせたと認定できれば、命令した方がクロです! でも、誰も命令していなければ、ただの自殺。最終判定は学園長であるボクが行います!」
「本人が考えて動いたかどうか?」
「辺古山さんの道具論をまだ引っ張るの? 物持ちがいいねえ!」
「人は物じゃないって話と、意思がない動作を誰の行為に数えるかは別でしょ」
葦原は続けようとして、舞台の狛枝を見た。
「今は事件だった」
自分で話を切り、モノクマから離れる。
狛枝は何も言わず、澪田の足元を見ていた。
靴底に、乾いた赤い汚れがついている。
「西園寺さんの血かな」と七海が言う。
柱の前の床には、拭き取られたような薄い筋が残っていた。
「もし同じ血なら、澪田さんは西園寺さんが傷ついたあと、この床へ足をついたことになるね」
狛枝の声はまだ弱いが、内容ははっきりしていた。
「吊られた場所まで、自分で歩いたとは限らないけど」
「死んだあとに運ぶなら、靴底は床につかない」と葦原が言う。「持ち方によるけど」
「犯人がわざと付けた可能性もあるよ」
「順番を誤認させるため?」
「それも、まだ決めない方がいいね」
狛枝は結論を急がなかった。
葦原は証拠より、答える時の狛枝の顔を見ていた。
舞台の反対側では、左右田が壊れた通信カメラを拾い上げていた。
「これ、オレがつけたやつだ」
外装は砕かれ、レンズにも亀裂が入っている。
「壊されたのはいつだ?」と日向が聞く。
「知るかよ。けど、殴って壊す前に一回外してんな」
左右田は固定金具を指した。
「ネジ頭に新しい傷がある。工具で外して、また戻した跡だ。昨日つけた時はこんなんなかったぞ」
「病院で見た映像は、このカメラから?」
「そのはずだ。こいつに録画機能はつけてねぇからな。繋いだ映像をそのまま送るだけだ」
左右田の顔から血の気が引いた。
「誰かが、オレの機械を使ったのか」
「作った人が悪いわけではありません」
ソニアが言う。
「けれど、仕組みを知っている方は限られますね」
「説明書なんかなくても、端子見りゃ繋ぎ方くらい分かる。電気街の機械触れるヤツなら――」
左右田は途中で口を閉じた。
島でそれをできる者を、自分と葦原だけにしたくなかったのだろう。
「私は使ってないよ」と葦原が言う。
「分かってる。お前、ずっと病院にいたんだろ」
狛枝が壊れたカメラへ手を伸ばす。
「借りてもいいかな。病院側の配線と比べたいんだ」
「落とすなよ。証拠だからな」
「今の狛枝くん、手に力入らないよ」
葦原が横から言い、カメラを受け取った。
「ボクより信用されているみたいだね」
「お前より機械は落とさねえよ!」
左右田の声だけが、一瞬、いつもの調子へ戻った。
*
西園寺のモーテルの鍵は、着物の内側から見つかった。
誰かに無理やり連れ出されたのではなく、自分で部屋を出た可能性が高い。
「昨夜、帯を結び直していらっしゃいました」
ソニアが西園寺の部屋で話したらしい。
「わたくしがお手伝いすると申し上げたのですが、お断りになって。ライブハウスの更衣室に大きな鏡があることも、お伝えしました」
鏡の前には結びかけの帯が残っている。
「じゃあ、あいつ一人で練習しに行ったのか」
九頭龍が低く言った。
「扉、開けてたのに。オレが気づいてりゃ――」
「九頭龍くんが隣の部屋を一晩中見張る約束はなかったよ」
七海が言う。
「西園寺さんは、自分でできるようになりたかったんだと思う。その選択を、犯人が後から利用した」
「だからって、死んでいい理由にはならねえ」
「うん。ならないよ」
七海は否定せず、帯を元の場所へ戻した。
狛枝は部屋へ入らず、廊下から中を見ていた。
「西園寺さんは、計画に入っていなかったのかもしれないね」
その声を聞いて、葦原が振り返る。
「偶然見たから殺された?」
「二人分を最初から用意したなら、隠す必要がない。柱へ紙を貼って一人だけ見えなくしたのは、殺す順番か人数を誤魔化すためだと思う」
「澪田さんだけが最初の対象」
「命令を疑えないから、扱いやすかったんだろうね」
扱いやすい。
狛枝はその言葉を、希望について話す時とは違う温度で口にした。
葦原はしばらく狛枝を見ていた。
*
病院へ戻ると、受付の通信装置は映像を出さなくなっていた。
左右田が配線を開き、葦原が壊れたカメラの端子を並べる。狛枝は椅子へ座り、二人の手元を見ていた。
「ここ、増えてる」
葦原が受信機の裏を指した。
「私たちが組んだ時になかった線」
「映像入力へ直接入ってるな」
左右田が線を辿る。
壁際を通り、二階の会議室へ伸びていた。
「病院の中から、別の映像を流したってことか?」
日向が聞く。
「できる。元のカメラ切って、こっちへ映像入れれば、受付には同じように出る」
受信機の裏へ腕を入れていた葦原が言った。
「……あった」
壁との隙間から、薄い黒色の箱を引き出す。
表面の印字は削り取られていた。側面には二つの端子があり、片方には会議室から戻る線、もう片方には受信機の映像入力へ入る短い線が繋がっている。
「これ、左右田くんの?」
「違う。こんな型、見たことねえ。電気街にも無かったぞ」
左右田が受け取り、光へ翳した。
削られた白い塗装の端に、丸い耳のような曲線だけが残っている。
会議室の窓には黒い布が掛けられたままだった。
室内の照明を消すと、背景は映像で見た舞台によく似た。床には脚立の脚と合う四つの擦れがあり、机の下へ蝋の小さな塊が落ちている。
「ここで撮影されたようだね」
狛枝が言った。
「ライブハウスと誤認させるためかな。映像が暗いのも、そのため」
「縄へ首を入れる直前に火が消えた。俺は死ぬところを見ていない」
日向は、画面の前で動けなかった数秒を思い出した。
「俺をライブハウスへ走らせるためだけの映像だったのか」
狛枝は蝋の塊を見たまま、笑わなかった。
「これは希望じゃない」
声から、熱とは別のものが抜けていく。
「この犯人は、何かを変えようとしていない。前へ進むためでも、誰かを救うためでもない」
葦原は、狛枝へと振り返る。
「自分の望みのために殺すなら、狛枝くんにとってそれは希望じゃないってこと?」
「望みがあることと、希望であることは同じじゃないよ」
「じゃあ復讐は? 前に進むための復讐と、過去へ戻る復讐で変わる?」
葦原はそこまで聞いて、会議室の床を見た。
「……今は、犯人を探す話だったね」
自分で戻す。
「狛枝くん、さっきから声冷たい」
日向が気づくより先に、葦原は言った。
「澪田さんの靴を見たあたりから。病院へ戻って、もっと冷たくなった」
「そうかな」
「病気の時と違って、今の返事はそのまま読んでいい?」
狛枝はようやく葦原を見た。
「希望ではないものを、希望のふりで飾るほど、ボクは優しくないよ」
「犯人、分かった?」
「ほとんどね」
名前は言わなかった。
そこで、捜査終了を告げる校内放送が流れた。
会議室の入口には、罪木が立っていた。
「皆さん、そろそろ集合するように、モノクマさんが……」
狛枝は罪木へ視線を移す。
そこに、病室で見せていた笑顔はなかった。
*
生き残った者たちは、中央の島へ集まる。
九頭龍は一度も後ろを振り返らず、終里は弐大のいない列へ無理に割り込むように歩いた。ソニアと田中は、その両側から少し距離を空けてついていく。左右田は壊れた通信装置の部品を袋へ入れ、七海は西園寺の部屋で見つけた帯の形を日向へ説明していた。
狛枝は松葉杖を使って歩く。
葦原は隣にいた。
「裁判で倒れそうなら言って」
「絶好調だから心配いらないよ」
葦原が足を止める。
狛枝は少し遅れて、自分の言葉に気づいた。
「……今のは、ただの言い回しだよ」
「嘘?」
「強がりかな」
病気が治っても、言葉がそのまま一つの意味になるわけではない。
それでも、狛枝の声から病気の熱は消えていた。
代わりに、別の冷たさが残っていた。