第10話 『障害物競走』
釣竿。
手の中にあるのは釣竿。
どう見ても釣竿。
何度見ても釣竿だった。
「終わったな……」
もう一度呟く。
周囲では爆豪が爆発で加速している。
轟は氷で道を作っている。
飯田も凄まじい速度で駆けている。
その中で俺だけ釣竿だった。
ひどい。
◇◇◇
だが文句を言っても仕方ない。
これも個性だ。
しかも。
ビーチ・ボーイはハズレじゃない。
レース向きじゃないだけで。
◇◇◇
最初の関門。
巨大ロボ地帯。
原作通りだった。
生徒達が次々に足止めされる。
ロボットが倒れる。
悲鳴が上がる。
混乱している。
◇◇◇
だが。
俺は釣竿を振った。
糸が伸びる。
ロボットを貫通する。
内部構造が伝わってくる。
駆動部。
重心。
可動範囲。
全部分かる。
◇◇◇
「そこか」
最も安全な道を選ぶ。
走る。
飛ぶ。
避ける。
倒れたロボの肩を蹴る。
そのまま通過。
◇◇◇
観客席がざわついた。
「なんだあいつ」
「普通科か?」
「地味だけど速いぞ」
そんな声が聞こえる。
聞こえないふりをした。
目立ちたくない。
本当に。
◇◇◇
ロボ地帯を抜ける。
順位は悪くない。
だが先頭集団には届かない。
前方には。
爆豪。
轟。
飯田。
そして緑谷。
◇◇◇
「やっぱ無理か」
そう思った時だった。
第二関門が現れる。
巨大な谷。
◇◇◇
多くの生徒が足を止めた。
俺も止まる。
流石に厳しい。
釣竿では突破できない。
◇◇◇
その瞬間。
身体の奥が熱を帯びた。
ルーレット。
七武装輪転。
再回転。
◇◇◇
「は?」
思わず声が漏れる。
今まで気付かなかった。
武装変更できるのか。
◇◇◇
金色のルーレットが高速回転する。
カラカラカラカラ。
そして停止した。
数字は。
『4』
◇◇◇
光が溢れる。
釣竿が消える。
代わりに現れたのは。
黒い大型バイクだった。
第四武装。
《機導兵装》
◇◇◇
「助かった」
思わず呟く。
だが。
その直後だった。
◇◇◇
頭の中へ情報が流れ込んでくる。
バイク。
装甲車。
飛行機。
輸送機。
重機。
様々な形態。
そして。
搭乗者の生命エネルギーを燃料へ変換する能力。
◇◇◇
「……は?」
動きが止まる。
知っている。
どこかで見た。
いや。
前世で確かに知っている能力だった。
◇◇◇
そして数秒後。
全てが繋がった。
「ツボネか」
思わず呟く。
◇◇◇
ハンターハンター。
ゾルディック家執事。
ツボネ。
能力名《ライダーズハイ》。
自らを乗り物へ変形させる能力。
さらに搭乗者のオーラを燃料へ変える特殊能力。
◇◇◇
「なるほどな……」
ようやく理解した。
今まで分からなかった。
なぜバイクになったのか。
なぜ乗り物なのか。
なぜ飛行機や輸送機の情報まで存在するのか。
◇◇◇
この武装。
バイクじゃない。
乗り物そのものへ変形する能力だ。
◇◇◇
「相変わらずろくでもないな」
思わずため息が出る。
クラピカ。
ペッシ。
そしてツボネ。
ますます確信した。
七武装輪転は前世の能力や人物を武装として再現している。
そうとしか思えない。
◇◇◇
その時。
少し離れた場所に心操がいた。
谷の前で立ち止まっている。
突破方法を探しているらしい。
◇◇◇
少し考える。
そして。
声を掛けた。
「心操」
「ん?」
「乗れ」
◇◇◇
心操が固まった。
「は?」
「乗れ」
「説明しろ」
もっともだった。
◇◇◇
「飛べるらしい」
「らしい?」
「今分かった」
「大丈夫か?」
「多分」
「その多分が怖いんだよ」
正論だった。
◇◇◇
「あと一つ問題がある」
俺は続ける。
「まだあるのか」
「お前の体力を燃料にするらしい」
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
「降りる」
即答だった。
◇◇◇
「待て」
「待たねぇよ!」
心操が叫ぶ。
「なんだその能力!?」
「俺も今知った」
「最悪じゃねぇか!」
完全同意だった。
◇◇◇
だが。
心操は谷を見る。
先頭集団との差を見る。
しばらく悩んでから。
大きくため息を吐いた。
◇◇◇
「分かった」
「乗る」
「賢明だな」
「飯奢れ」
「高いぞ」
「体力使うんだぞ!」
それはそうだった。
◇◇◇
心操が後部座席へ乗る。
その瞬間。
身体へ力が流れ込む感覚。
燃料。
本当に燃料になっているらしい。
◇◇◇
「なんか吸われてる気がする」
「気のせいじゃない」
「やっぱ降りる」
「もう遅い」
◇◇◇
アクセル全開。
エンジンが唸る。
黒い機体が加速する。
谷へ向かう。
そして。
跳んだ。
◇◇◇
機導兵装が変形する。
タイヤが収納される。
装甲が展開される。
巨大な翼が現れる。
◇◇◇
「飛行機かよ!?」
心操が叫ぶ。
◇◇◇
次の瞬間。
機体は空高く舞い上がった。
◇◇◇
観客席がどよめく。
「飛んだ!?」
「おい!」
「普通科だぞ!」
「なんだあの個性!?」
◇◇◇
空中。
風が頬を打つ。
谷を一気に突破する。
◇◇◇
「すげぇ……」
後ろで心操が呟いた。
少しだけ嬉しそうだった。
◇◇◇
着地。
そのまま加速。
先頭集団との差が一気に縮まる。
◇◇◇
前方には最後の関門。
地雷原。
原作でも厄介だったエリア。
◇◇◇
だが。
飛行能力のある機導兵装なら関係ない。
地雷の上空を突き進む。
爆発が下で起こる。
生徒達が避ける。
その全てを追い抜いていく。
◇◇◇
「便利だな」
心操が言う。
「そうだな」
珍しく同意した。
◇◇◇
やがて。
ゴールが見えた。
観客席の歓声も聞こえる。
そして。
孤児院のみんなも。
◇◇◇
子供達が立ち上がっていた。
必死に手を振っている。
院長も笑っている。
アルトリアも。
ナイチンゲールも。
◇◇◇
その光景を見た瞬間。
少しだけ。
本当に少しだけ。
勝ちたいと思った。
◇◇◇
孤児院のため。
あの場所のため。
それなら。
一位も悪くない。
◇◇◇
機導兵装が解除される。
俺と心操が地面へ降り立つ。
そのまま最後の全力疾走。
◇◇◇
「行くぞ」
「ああ」
◇◇◇
ゴールまで残り数メートル。
走る。
ただ走る。
◇◇◇
そして。
ゴールラインを越えた。
◇◇◇
『ゴォォォール!!』
プレゼント・マイクの声が響き渡る。
競技場が揺れるほどの歓声。
◇◇◇
順位表が表示される。
そこに。
確かに書かれていた。
第一位 七瀬刃人
◇◇◇
会場がどよめく。
普通科。
無名。
それだった少年が。
障害物競走一位。
◇◇◇
だが。
俺は順位表を見ながら。
違うことを考えていた。
◇◇◇
「終わったな……」
「始まったばかりだろ」
心操が呆れる。
◇◇◇
違う。
分かっていない。
◇◇◇
一位。
つまり。
次の騎馬戦で。
全員から狙われる。
◇◇◇
そして何より。
目立った。
とんでもなく。
◇◇◇
プロヒーローが見ている。
教師達も見ている。
全国放送だ。
そして。
あの男も。
◇◇◇
オール・フォー・ワン。
◇◇◇
見ていないはずがない。
◇◇◇
孤児院のために頑張った。
そのことに後悔はない。
だが。
確実に平穏から遠ざかった。
◇◇◇
「本当に最悪だ……」
そう呟きながら。
俺は大型モニターに映る自分の名前を見上げた。
体育祭は。
まだ始まったばかりだった。
第10話 完