第12話 『捨てる勇気』
『STARTォォォォォ!!』
騎馬戦開始。
その瞬間。
予想通り。
全チームが動いた。
狙いは一つ。
一千万ポイント。
つまり俺だった。
◇◇◇
「いたぞ!」
「七瀬だ!」
「囲め!!」
四方八方から騎馬が押し寄せる。
思った以上だった。
いや。
予想通りか。
◇◇◇
「大人気だね!」
発目が笑う。
「嬉しくないな」
本当に。
全然嬉しくない。
◇◇◇
心操も周囲を見渡していた。
「どうする?」
聞かれる。
俺は少し考えた。
二秒くらい。
そして結論を出した。
◇◇◇
「捨てる」
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
「は?」
心操が固まる。
◇◇◇
「は?」
発目も固まる。
◇◇◇
「何を?」
発目が聞く。
◇◇◇
俺は自分の鉢巻を指差した。
◇◇◇
「一千万ポイント」
◇◇◇
今度は二人とも完全に固まった。
◇◇◇
「正気か?」
心操が聞く。
◇◇◇
「正気だ」
即答だった。
◇◇◇
むしろ冷静だった。
一千万ポイントを持っている限り。
全員が敵になる。
なら。
原因を消せばいい。
それだけだ。
◇◇◇
近くへ突っ込んできた騎馬を見る。
相手も困惑している。
たぶん何を考えているのか分からないのだろう。
◇◇◇
俺は鉢巻を外した。
そして。
放り投げる。
◇◇◇
「取れ」
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
「え?」
相手が間抜けな声を出した。
◇◇◇
「早くしろ」
◇◇◇
慌てて受け取る。
その瞬間。
会場が爆発した。
◇◇◇
『なぁぁぁにぃぃぃ!?』
プレゼント・マイクの絶叫が響き渡る。
◇◇◇
『一千万ポイントを自分から捨てたァァァ!!』
◇◇◇
『意味が分からねぇぇぇぇ!!』
◇◇◇
観客席が大混乱になる。
◇◇◇
心操が頭を抱えていた。
「お前マジか……」
◇◇◇
発目は大爆笑している。
「面白すぎるよ!」
◇◇◇
俺は肩を竦めた。
◇◇◇
「だって邪魔だろ」
◇◇◇
本音だった。
◇◇◇
次の瞬間。
一千万ポイントを持ったチームへ他の騎馬が殺到する。
まるで獲物へ群がるピラニアだ。
◇◇◇
「うわぁ……」
発目が引いていた。
◇◇◇
俺も少し引いた。
◇◇◇
「成功だな」
◇◇◇
心操がため息を吐く。
「お前らしいわ」
◇◇◇
一千万ポイントを捨てたことで。
俺達への視線は激減した。
もちろん完全ではない。
だが。
さっきまでとは比べものにならない。
◇◇◇
平穏。
素晴らしい。
◇◇◇
だが。
現実はそう甘くない。
◇◇◇
残り時間十分。
順位表が更新される。
上位チームが表示され始める。
◇◇◇
「なんだかんだでポイント少ねぇな」
心操が言う。
◇◇◇
確かに。
このままでは突破すら怪しい。
◇◇◇
「少し取るか」
◇◇◇
個性を発動する。
七武装輪転。
ルーレットが回る。
カラカラカラ。
そして停止。
◇◇◇
『3』
◇◇◇
深海の釣竿。
◇◇◇
発目が首を傾げた。
「また釣竿?」
◇◇◇
「これが一番楽なんだ」
◇◇◇
「絶対嘘でしょ」
◇◇◇
普通はそう思う。
だが実際便利なのだ。
◇◇◇
敵チームが近付く。
だが俺は動かない。
糸を伸ばすだけ。
◇◇◇
シュッ。
◇◇◇
誰も気付かない。
糸は騎馬をすり抜ける。
身体をすり抜ける。
そして。
鉢巻だけへ絡みつく。
◇◇◇
引く。
◇◇◇
ピンッ。
◇◇◇
「え?」
敵チームが固まる。
◇◇◇
次の瞬間。
鉢巻は俺の手元にあった。
◇◇◇
「取れた」
◇◇◇
心操が呆れる。
「ズルくね?」
◇◇◇
「合法だ」
◇◇◇
たぶん。
◇◇◇
その後も。
取る。
取る。
また取る。
◇◇◇
釣り竿とは思えないほど順調だった。
◇◇◇
『なんだその釣竿ァァァ!!』
実況が叫ぶ。
◇◇◇
『鉢巻だけ盗っていくぞォォォ!!』
◇◇◇
会場が盛り上がる。
俺は盛り下がる。
目立っているからだ。
◇◇◇
残り三分。
順位表が再び更新される。
◇◇◇
一位。
轟チーム。
◇◇◇
二位。
七瀬チーム。
◇◇◇
「あ」
◇◇◇
思わず声が漏れた。
◇◇◇
「二位じゃん」
発目が笑う。
◇◇◇
「ああ」
◇◇◇
よろしくない。
非常によろしくない。
◇◇◇
また目立つ。
本当に困る。
◇◇◇
残り一分。
上位陣がこちらを狙い始める。
◇◇◇
「二位を落とせ!」
「まだ逆転できるぞ!」
◇◇◇
騎馬が突っ込んでくる。
◇◇◇
「どうする?」
心操が聞く。
◇◇◇
少し考えた。
◇◇◇
そして。
答える。
◇◇◇
「守る」
◇◇◇
ここまで来た。
だったら。
孤児院のみんなに少しくらい良いところを見せてもいい。
◇◇◇
発目の発明品が炸裂する。
煙幕。
ワイヤー。
フラッシュ。
◇◇◇
「私のベビーは凄いでしょ!」
◇◇◇
「助かる」
◇◇◇
本音だった。
◇◇◇
十秒。
九秒。
八秒。
◇◇◇
最後の突撃をかわす。
◇◇◇
五秒。
四秒。
三秒。
◇◇◇
二秒。
一秒。
◇◇◇
『終了ォォォォォ!!』
◇◇◇
ブザーが鳴った。
騎馬戦終了。
◇◇◇
俺は大きく息を吐いた。
終わった。
◇◇◇
大型モニターへ結果が表示される。
◇◇◇
一位。
轟チーム。
◇◇◇
二位。
七瀬チーム。
◇◇◇
通過。
確定だった。
◇◇◇
「やったね!」
発目が喜ぶ。
◇◇◇
心操も笑っていた。
◇◇◇
「突破だな」
◇◇◇
「ああ」
◇◇◇
「満足か?」
◇◇◇
少し考える。
そして。
正直に答えた。
◇◇◇
「目立ったから不満だ」
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
「二位でそれ言う奴初めて見たぞ」
◇◇◇
心操が笑った。
発目も笑った。
◇◇◇
俺だけが笑えなかった。
◇◇◇
なぜなら。
次はいよいよ個人戦。
一対一。
隠れることもできない。
誤魔化すこともできない。
◇◇◇
つまり。
さらに目立つ。
◇◇◇
「帰りたい……」
◇◇◇
その呟きは。
大歓声の中へ消えていった。
第12話 完