第13話 『昼休み』
騎馬戦が終わった。
正直。
疲れた。
肉体的ではない。
精神的にだ。
◇◇◇
障害物競走一位。
騎馬戦二位。
結果だけ見れば十分すぎる。
だが。
俺にとって問題はそこではない。
目立ったことだった。
とてつもなく。
全国放送で。
思い切り。
「終わったな……」
思わず呟く。
◇◇◇
「まだ終わってねぇよ」
隣で心操が呆れた顔をする。
「個人戦が残ってる」
「だから終わったんだ」
「意味分からん」
そうだろう。
普通はそう思う。
◇◇◇
だが俺からすると違う。
障害物競走で目立った。
騎馬戦でも目立った。
個人戦なんて始まったらさらに目立つ。
本当に最悪だった。
◇◇◇
昼休憩。
選手達は食事や休憩を取っている。
観客席も盛り上がっていた。
俺はため息を吐く。
「帰りたい」
「毎回それだな」
心操がスポーツドリンクを投げてきた。
受け取る。
◇◇◇
「ありがと」
「珍しいな」
「何がだ」
「礼を言った」
失礼だった。
◇◇◇
だが少しだけ笑う。
心操も笑った。
悪くない。
こういう時間は。
◇◇◇
「お兄ちゃーん!!」
聞き慣れた声が響く。
振り返る。
孤児院のみんなだった。
◇◇◇
「すごかった!」
「飛んでた!」
「一位だった!」
「次も勝って!」
◇◇◇
囲まれる。
完全包囲だった。
◇◇◇
「落ち着け」
「無理!」
「かっこよかった!」
◇◇◇
子供達は興奮していた。
後ろでは院長が苦笑している。
◇◇◇
「人気者だな」
心操が言う。
◇◇◇
「勘弁してほしい」
本音だった。
◇◇◇
その時。
「お疲れ様です」
アルトリアが近付いてきた。
◇◇◇
「疲れていませんか?」
「少しな」
「そうでしょうね」
◇◇◇
アルトリアが飲み物を差し出す。
ありがたく受け取る。
◇◇◇
続いて。
「刃人さん」
ナイチンゲールもやって来た。
◇◇◇
「怪我はしていませんか?」
「してない」
「本当に?」
「本当に」
◇◇◇
ナイチンゲールは少し疑わしそうな顔をした。
信用が無い。
心外だった。
◇◇◇
だが。
その様子を見ていた人物がいた。
◇◇◇
少し離れた場所。
ヒーロー科控室付近。
◇◇◇
峯田実だった。
◇◇◇
「なぁ」
震える声で言う。
◇◇◇
「なんでだ?」
◇◇◇
上鳴が振り返る。
「何が?」
◇◇◇
峯田は指を差した。
そこには。
俺と。
アルトリア。
ナイチンゲール。
そして子供達がいる。
◇◇◇
「なんでアイツあんな美少女と美人なお姉さんに囲まれてんだよ!?」
◇◇◇
絶叫だった。
◇◇◇
周囲の男子がそちらを見る。
◇◇◇
「普通科だぞ!?」
「しかも一位取ってるぞ!?」
「意味分かんねぇ!!」
◇◇◇
切島が苦笑した。
「知らねぇよ」
◇◇◇
瀬呂も頷く。
「まぁ羨ましいけどな」
◇◇◇
「羨ましいじゃねぇ!」
峯田が叫ぶ。
◇◇◇
「俺なんか話したこともねぇのに!!」
◇◇◇
「知らねぇって」
上鳴が呆れていた。
◇◇◇
一方。
こちらは平和だった。
◇◇◇
「次も頑張ってくださいね」
アルトリアが言う。
◇◇◇
「できれば頑張りたくない」
◇◇◇
「無理です」
即答だった。
◇◇◇
ナイチンゲールも微笑む。
◇◇◇
「期待されていますから」
◇◇◇
子供達が何度も頷く。
重い。
期待が重い。
◇◇◇
その時。
遠くで峯田が膝をついた。
◇◇◇
「人生不公平だろ……」
◇◇◇
心底悔しそうだった。
◇◇◇
「何やってるんだあいつ」
俺が首を傾げる。
◇◇◇
「さぁ?」
アルトリアも分からない。
◇◇◇
「熱中症ではないでしょうか」
ナイチンゲールが真面目に分析した。
◇◇◇
「違うわぁぁぁぁ!!」
◇◇◇
峰田の悲痛な叫びが響く。
周囲が笑った。
◇◇◇
俺だけ状況が分かっていなかった。
◇◇◇
やがて昼休憩終了のアナウンスが流れる。
観客席が再びざわめき始めた。
◇◇◇
個人戦。
本番が始まる。
◇◇◇
「行くか」
心操が立ち上がる。
◇◇◇
「ああ」
◇◇◇
俺も腰を上げた。
◇◇◇
その瞬間。
大型モニターへ対戦カードが表示される。
◇◇◇
第一試合。
七瀬刃人
VS
飯田天哉
◇◇◇
「うわぁ……」
思わず本音が漏れる。
◇◇◇
速い。
真面目。
真っ直ぐ。
そして強い。
◇◇◇
面倒な相手だった。
本当に。
◇◇◇
だが。
逃げるわけにもいかない。
◇◇◇
孤児院のみんなが見ている。
心操もいる。
アルトリアも。
ナイチンゲールも。
◇◇◇
なら。
少しくらいは頑張るか。
◇◇◇
そう思いながら。
俺は闘技場へ向かって歩き出した。
第13話 完