第14話 『加速する者と死を告げる者』
昼休憩が終わった。
いよいよ個人戦が始まる。
俺はゆっくりと立ち上がった。
観客席から歓声が響く。
正直うるさい。
帰りたい。
本当に。
◇◇◇
大型モニターには対戦カードが表示されている。
第一試合。
七瀬刃人。
飯田天哉。
◇◇◇
「頑張れよ」
心操が言う。
「適当にやる」
「適当に勝つなよ」
無茶を言う。
◇◇◇
闘技場へ向かう。
視線が集まる。
障害物競走一位。
騎馬戦二位。
当然と言えば当然だった。
◇◇◇
フィールド中央。
飯田は既に待っていた。
背筋を伸ばし、真っ直ぐ立っている。
実に飯田らしい。
◇◇◇
「よろしく頼む!」
深々と頭を下げる。
◇◇◇
「よろしく」
こちらも頭を下げる。
◇◇◇
正直。
嫌いじゃない。
こういう奴は。
◇◇◇
『START!!』
開始の合図が響いた。
◇◇◇
同時に。
俺は個性を発動する。
七武装輪転。
黄金のルーレットが回転する。
◇◇◇
カラカラカラカラ。
◇◇◇
頼む。
面倒じゃないやつ。
◇◇◇
そして停止した。
数字は――
『6』
◇◇◇
光が集まる。
右手へ現れたのは。
一本の巨大な黒い鎌だった。
◇◇◇
観客席がざわつく。
◇◇◇
「また違う武器!」
「今度は鎌か!」
「いくつ能力持ってるんだよ!」
◇◇◇
だが。
俺は鎌を見ながら記憶を探っていた。
◇◇◇
死神。
黒い鎌。
状態異常。
そして頭へ流れ込む能力情報。
◇◇◇
「なるほどな」
思わず呟く。
◇◇◇
元ネタを思い出した。
◇◇◇
BLEACH。
東仙要。
卍解。
《清虫終式・閻魔蟋蟀》。
◇◇◇
いや。
正確にはそれをアレンジした武装らしい。
◇◇◇
能力名。
《死告の鎌 モルス》
◇◇◇
斬撃を受けた相手へ段階的な弱体化を付与する。
充分強い。
というか普通に厄介だ。
◇◇◇
その時。
飯田が動いた。
◇◇◇
「レシプロ!」
◇◇◇
爆発的加速。
一瞬で距離を詰める。
◇◇◇
速い。
さすが飯田だ。
◇◇◇
ガギィン!!
◇◇◇
鎌で受け流す。
火花が散る。
◇◇◇
観客席から歓声。
◇◇◇
飯田が驚いた顔をした。
◇◇◇
「反応しただと!?」
◇◇◇
反応はできる。
未来を知っているわけじゃない。
だが飯田の戦い方は知っている。
それだけで十分だった。
◇◇◇
二撃目。
三撃目。
四撃目。
◇◇◇
飯田が加速を繰り返す。
◇◇◇
俺は必要最低限だけ動く。
◇◇◇
そして。
鎌の切っ先が腕を掠めた。
◇◇◇
一撃。
◇◇◇
《第一印》
◇◇◇
飯田は気付かない。
◇◇◇
身体能力微減。
それだけだからだ。
◇◇◇
だが。
効果は確実に蓄積する。
◇◇◇
五撃目。
六撃目。
◇◇◇
掠る。
◇◇◇
《第二印》
《第三印》
◇◇◇
飯田の表情が変わる。
◇◇◇
「何か……」
◇◇◇
違和感を覚え始めたらしい。
◇◇◇
当然だ。
少しずつ身体が重くなる。
少しずつ反応が鈍る。
◇◇◇
だが。
飯田は止まらない。
◇◇◇
原作通りだな。
そう思った。
◇◇◇
真っ直ぐ過ぎる。
だから強い。
だから危うい。
◇◇◇
「まだだ!」
◇◇◇
さらに加速。
◇◇◇
ガギィン!!
◇◇◇
鎌が脚部装甲を掠める。
◇◇◇
《第四印》
◇◇◇
飯田の動きが目に見えて鈍る。
◇◇◇
観客も気付き始めた。
◇◇◇
「飯田の動き落ちてないか?」
「疲れた?」
「まだ前半だぞ?」
◇◇◇
そして。
決定打。
◇◇◇
飯田の突進。
◇◇◇
俺は半歩だけ動く。
◇◇◇
黒い刃が頬を掠めた。
◇◇◇
《第七印》
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
飯田の身体が止まる。
◇◇◇
「なっ……」
◇◇◇
視界喪失。
聴覚喪失。
平衡感覚喪失。
◇◇◇
完全停止。
◇◇◇
観客席がどよめく。
◇◇◇
飯田は立ったまま固まっていた。
◇◇◇
何も見えない。
何も聞こえない。
何も分からない。
◇◇◇
俺は鎌を下ろした。
◇◇◇
「終わりだ」
◇◇◇
これ以上やる必要はない。
◇◇◇
ミッドナイトが前へ出る。
◇◇◇
「勝負あり!」
◇◇◇
歓声が爆発した。
◇◇◇
『勝者ァァァァ!!』
『七瀬刃人ォォォォ!!』
◇◇◇
会場全体が沸く。
◇◇◇
だが。
俺はため息を吐いた。
◇◇◇
また勝った。
また目立った。
◇◇◇
教師席を見る。
相澤が見ている。
根津も見ている。
プロヒーロー達も。
◇◇◇
嫌な予感しかしない。
◇◇◇
観客席を見る。
孤児院のみんなが喜んでいた。
◇◇◇
子供達は飛び跳ねている。
院長も笑っている。
アルトリアも誇らしそうだ。
ナイチンゲールも安心している。
◇◇◇
それを見て。
少しだけ。
少しだけだけど。
頑張って良かったと思った。
◇◇◇
「面倒だけどな」
◇◇◇
小さく呟く。
◇◇◇
体育祭はまだ終わらない。
次の相手も待っている。
◇◇◇
そして。
大型モニターへ次の名前が表示された。
◇◇◇
準々決勝。
七瀬刃人。
VS
八百万百。
◇◇◇
「うわ……」
◇◇◇
思わず本音が漏れた。
◇◇◇
また面倒そうなのが来た。
◇◇◇
俺は深いため息を吐きながら控室へ戻っていった。
第14話 完