第15話 『普通科の怪物』
飯田戦は終わった。
結果は勝利。
観客席は大いに盛り上がっている。
だが。
俺は全く盛り上がっていなかった。
◇◇◇
「また勝ったな」
控室へ戻る途中。
心操が声を掛けてきた。
◇◇◇
「そうだな」
「嬉しくないのか?」
「目立った」
「そればっかだな」
◇◇◇
本当にそればっかりだった。
勝つこと自体はどうでもいい。
問題は目立つことだ。
◇◇◇
観客席では未だに俺の話題で持ちきりだった。
普通科。
無名。
謎の個性。
そして飯田への勝利。
注目されない方がおかしい。
◇◇◇
「普通科なのに強すぎないか?」
「なんなんだあの鎌」
「ヒーロー科じゃないのか?」
◇◇◇
そんな声が聞こえてくる。
聞こえないふりをした。
◇◇◇
控室。
モニターでは次の試合が流れている。
爆豪。
轟。
緑谷。
原作の主役達。
◇◇◇
「やっぱすげぇな」
思わず呟く。
◇◇◇
強い。
本当に。
少なくとも現時点では俺より戦闘経験も戦闘センスも上だろう。
◇◇◇
だが。
だからこそ疑問だった。
◇◇◇
なんで俺が目立ってるんだ。
◇◇◇
「七瀬」
呼び止められる。
振り向く。
◇◇◇
相澤消太だった。
◇◇◇
嫌な予感しかしない。
◇◇◇
「なんでしょう」
「少し話がある」
◇◇◇
帰りたい。
今すぐ。
◇◇◇
「個性についてだ」
◇◇◇
さらに帰りたくなった。
◇◇◇
相澤は腕を組む。
鋭い目。
完全に教師の顔だった。
◇◇◇
「お前の個性」
「七武装輪転でしたか」
「そうだ」
◇◇◇
短い沈黙。
◇◇◇
「一つ聞く」
相澤が言う。
◇◇◇
「まだ隠している能力があるな?」
◇◇◇
思わず固まった。
◇◇◇
流石だった。
◇◇◇
釣竿。
鎖。
機導兵装。
鎌。
◇◇◇
観客から見ればバラバラ。
だが教師から見れば違う。
◇◇◇
まだある。
そう考えるのは自然だった。
◇◇◇
「否定はしません」
正直に答える。
◇◇◇
「そうか」
◇◇◇
相澤はそれ以上追及しなかった。
だが。
視線は鋭かった。
◇◇◇
警戒。
興味。
観察。
色々混ざっている。
◇◇◇
面倒だ。
本当に。
◇◇◇
「一つだけ言っておく」
相澤が去り際に言う。
◇◇◇
「その力の使い方は間違えるな」
◇◇◇
俺は少しだけ目を丸くした。
◇◇◇
もっと説教されると思った。
◇◇◇
だが。
言われたのはそれだけ。
◇◇◇
「分かってます」
◇◇◇
短く答える。
◇◇◇
相澤は何も言わず立ち去った。
◇◇◇
入れ違いに心操が近付いてくる。
◇◇◇
「何だった?」
◇◇◇
「面談」
◇◇◇
「絶対違うだろ」
◇◇◇
正論だった。
◇◇◇
その頃。
観客席。
◇◇◇
「凄いですね」
アルトリアが微笑む。
◇◇◇
「そうですね」
ナイチンゲールも安心したようだった。
◇◇◇
院長は少し苦笑する。
◇◇◇
「本人は嫌そうだがな」
◇◇◇
実際嫌だった。
とても。
◇◇◇
子供達は違う。
◇◇◇
「次も勝てるよ!」
「絶対優勝!」
「お兄ちゃん最強!」
◇◇◇
やめてほしい。
フラグになる。
◇◇◇
そんな中。
一人だけ違う感情を抱いている人物がいた。
◇◇◇
峯田実。
◇◇◇
「なんでだよぉぉぉ……」
◇◇◇
完全に魂が抜けていた。
◇◇◇
「あの美少女」
「美人なお姉さん」
「子供達からの人気」
「しかも強い」
◇◇◇
両膝をつく。
◇◇◇
「勝てる要素がねぇ……」
◇◇◇
上鳴が肩を叩いた。
◇◇◇
「元気出せ」
◇◇◇
「無理だ」
◇◇◇
切島達が苦笑する。
◇◇◇
そして。
俺はその様子に全く気付いていなかった。
◇◇◇
モニターを見る。
試合は進む。
トーナメントも進む。
◇◇◇
そして。
次の対戦相手が決まる。
◇◇◇
大型モニターへ名前が映った。
◇◇◇
七瀬刃人
VS
八百万百
◇◇◇
「うわ……」
◇◇◇
また面倒そうなのが来た。
◇◇◇
知力。
判断力。
応用力。
◇◇◇
原作でも屈指の優等生。
◇◇◇
正直。
飯田より厄介かもしれない。
◇◇◇
「帰りたい」
◇◇◇
今日何度目か分からない本音を呟きながら。
俺は次の試合へ向かう準備を始めた。
第15話 完