第18話 『決勝』
準決勝。
爆豪勝己との戦いは終わった。
勝った。
だが。
代償も大きかった。
◇◇◇
脇腹が痛い。
腕も痛い。
背中も痛い。
全身が痛かった。
◇◇◇
「安静にしてください」
ナイチンゲールが言う。
◇◇◇
「してる」
◇◇◇
「今にも闘技場へ行こうとしている人の台詞ではありません」
◇◇◇
図星だった。
◇◇◇
医務室のベッドへ横になる。
天井を見上げる。
◇◇◇
本当に帰りたい。
◇◇◇
だが。
決勝が残っている。
◇◇◇
「お兄ちゃん!」
子供達が駆け寄ってきた。
◇◇◇
「すごかった!」
「勝った!」
「優勝だー!」
◇◇◇
まだ優勝してない。
◇◇◇
「気が早い」
◇◇◇
「でも勝つでしょ!」
◇◇◇
信頼が重い。
◇◇◇
院長が苦笑した。
◇◇◇
「無理はするな」
◇◇◇
「善処する」
◇◇◇
「信用できないな」
◇◇◇
全員頷いた。
ひどい。
◇◇◇
やがて。
決勝開始のアナウンスが流れる。
◇◇◇
『いよいよ最後の試合だァァァ!!』
◇◇◇
大歓声。
◇◇◇
ため息を吐く。
◇◇◇
行くか。
◇◇◇
闘技場へ向かう。
◇◇◇
フィールド中央。
そこには既に相手が立っていた。
◇◇◇
轟焦凍。
◇◇◇
推薦組。
ヒーロー科。
そして。
雄英一年最強候補。
◇◇◇
「来たか」
◇◇◇
「ああ」
◇◇◇
短いやり取り。
◇◇◇
だが。
轟の目は真剣だった。
◇◇◇
俺も知っている。
◇◇◇
強い。
間違いなく。
◇◇◇
『決勝戦!!』
『七瀬刃人!!』
『轟焦凍!!』
◇◇◇
歓声が響く。
◇◇◇
胃が痛い。
◇◇◇
そして。
七武装輪転を発動した。
◇◇◇
黄金のルーレットが回る。
◇◇◇
カラカラカラカラ。
◇◇◇
停止。
◇◇◇
数字は。
『7』
◇◇◇
嫌な予感しかしなかった。
◇◇◇
白い仮面が現れる。
◇◇◇
第七武装。
《仮面舞踏会》
◇◇◇
七武装の中で最も面倒な武装。
◇◇◇
理由は単純。
能力が固定ではない。
◇◇◇
仮面舞踏会は感情へ反応する。
◇◇◇
怒り。
悲しみ。
闘志。
憐憫。
殺意。
◇◇◇
その時最も強い感情によって仮面が決まる。
◇◇◇
だから。
俺自身ですら制御できない。
◇◇◇
「今回は何だ……」
◇◇◇
仮面へ模様が浮かび上がる。
◇◇◇
銀色の紋様。
知恵を象徴する刻印。
◇◇◇
賢者の仮面。
◇◇◇
少しだけ安心した。
◇◇◇
まだマシだ。
◇◇◇
頭の中で声が響く。
◇◇◇
『解析開始』
◇◇◇
慣れた声だった。
◇◇◇
『対象の呼吸安定』
『筋緊張上昇』
『初手氷結攻撃確率84%』
◇◇◇
「便利だな」
◇◇◇
『ありがとうございます』
◇◇◇
「返事するな」
◇◇◇
『了解しました』
◇◇◇
返事してるじゃねぇか。
◇◇◇
『START!!』
◇◇◇
開始。
◇◇◇
次の瞬間。
轟の足元から巨大な氷河が広がった。
◇◇◇
『到達まで0.8秒』
『左方向への回避を推奨』
◇◇◇
半歩動く。
◇◇◇
それだけ。
◇◇◇
氷柱が身体を掠める。
◇◇◇
観客席がどよめいた。
◇◇◇
「避けた!?」
「今のを!?」
◇◇◇
『次行動予測』
『炎による牽制後に接近』
◇◇◇
轟が炎を放つ。
◇◇◇
回避。
◇◇◇
そして。
予測通り轟が接近した。
◇◇◇
拳。
◇◇◇
だが。
それも見えている。
◇◇◇
避ける。
◇◇◇
轟の目が僅かに見開かれた。
◇◇◇
「なんでだ……」
◇◇◇
『驚愕反応を確認』
◇◇◇
「解説までしなくていい」
◇◇◇
『了解しました』
◇◇◇
本当に面倒だ。
◇◇◇
戦いは続く。
◇◇◇
氷。
炎。
◇◇◇
轟は全力だ。
◇◇◇
だが。
どこか違和感がある。
◇◇◇
『対象精神状態を分析』
◇◇◇
『迷いを確認』
◇◇◇
『怒り』
◇◇◇
『葛藤』
◇◇◇
『自己否定傾向あり』
◇◇◇
仮面の分析を聞きながら。
俺も理解した。
◇◇◇
やっぱりか。
◇◇◇
轟は。
俺と戦っていない。
◇◇◇
親父と戦っている。
◇◇◇
過去と戦っている。
◇◇◇
自分自身と戦っている。
◇◇◇
その姿を見て。
少しだけ苛立った。
◇◇◇
俺は平穏を失いながらここへ来た。
◇◇◇
孤児院のために。
居場所のために。
◇◇◇
それなのに。
目の前の男は。
まだ自分の殻と戦っている。
◇◇◇
「轟」
◇◇◇
轟が動きを止める。
◇◇◇
「お前」
◇◇◇
「俺と戦ってないだろ」
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
会場が静まり返る。
◇◇◇
轟の顔が強張る。
◇◇◇
「何?」
◇◇◇
「親父と戦ってる」
◇◇◇
轟の目が見開かれた。
◇◇◇
図星だった。
◇◇◇
「だから」
◇◇◇
「そっち終わらせてこい」
◇◇◇
長い沈黙。
◇◇◇
轟は何も言わなかった。
◇◇◇
だが。
右拳が震えている。
◇◇◇
怒り。
悲しみ。
悔しさ。
◇◇◇
色々な感情が混ざっている。
◇◇◇
そして。
その瞬間だった。
◇◇◇
賢者の仮面へ亀裂が入る。
◇◇◇
『感情変動を確認』
◇◇◇
「は?」
◇◇◇
『仮面変質開始』
◇◇◇
嫌な予感。
◇◇◇
非常に。
◇◇◇
白い仮面が砕ける。
◇◇◇
新しい仮面が形成される。
◇◇◇
笑っていた。
◇◇◇
どこか楽しげに。
◇◇◇
微笑の仮面。
◇◇◇
『個性・投射呪法(劣化)起動』
◇◇◇
「おい待て」
◇◇◇
決勝中だぞ。
◇◇◇
なぜ変わる。
◇◇◇
『戦闘高揚を確認』
◇◇◇
『仮面変更は正常です』
◇◇◇
正常じゃない。
◇◇◇
だが。
身体は知っていた。
◇◇◇
一秒を十二分割。
◇◇◇
動きを決定。
◇◇◇
加速。
◇◇◇
轟が目を見開く。
◇◇◇
今度は俺が踏み込む番だった。
◇◇◇
本当の決勝戦が。
ようやく始まる。
第18話 完