第19話 『微笑』
微笑の仮面。
七瀬刃人があまり好まない仮面の一つ。
理由は単純だった。
使いこなすのが面倒だからだ。
◇◇◇
《投射呪法(劣化)》
一秒を十二分割。
その間の行動を事前に決定する。
決めた軌道を守る限り。
使用者は圧倒的な速度を得る。
◇◇◇
だが。
少しでも狂えば終わりだ。
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「だから嫌なんだよ」
思わず呟く。
◇◇◇
轟が怪訝そうな顔をした。
「何がだ」
◇◇◇
「こっちの話だ」
◇◇◇
次の瞬間。
地面を蹴った。
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轟の目が見開く。
◇◇◇
速い。
◇◇◇
観客席がどよめいた。
◇◇◇
「消えた!?」
「速すぎる!」
◇◇◇
違う。
消えていない。
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投射呪法によって決められた軌道を走っているだけだ。
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轟の右側。
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左側。
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背後。
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一瞬で移動する。
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轟が氷を放つ。
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だが遅い。
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軌道変更。
加速。
回避。
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十二分割された一秒が世界を置き去りにする。
◇◇◇
「っ!」
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初めて轟の表情が崩れた。
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焦り。
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それを見た瞬間。
仮面が笑った気がした。
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本当に面倒な武装だ。
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「まだだ!」
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轟が踏み込む。
◇◇◇
左手。
氷。
◇◇◇
右手。
炎。
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会場が沸いた。
◇◇◇
ついに。
轟焦凍が炎を使った。
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観客席。
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エンデヴァーが立ち上がる。
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緑谷も。
飯田も。
八百万も。
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誰もが目を見開いていた。
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炎が迫る。
◇◇◇
熱風。
灼熱。
◇◇◇
だが。
刃人は止まらない。
◇◇◇
投射呪法。
◇◇◇
未来を決める。
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十二の動作。
十二の軌道。
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炎の間を抜ける。
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轟がさらに出力を上げる。
◇◇◇
炎と氷。
両方が襲い掛かる。
◇◇◇
普通なら逃げ場はない。
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だが。
ある。
◇◇◇
「そこだ」
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一歩。
踏み込む。
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轟の懐。
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拳が届く距離。
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轟の瞳が揺れた。
◇◇◇
その瞬間だった。
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投射呪法が途切れる。
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「なっ」
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予想外だった。
◇◇◇
仮面が軋む。
◇◇◇
理由は分かる。
◇◇◇
感情だ。
◇◇◇
戦いが楽しい。
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少しだけ。
本当に少しだけ。
◇◇◇
刃人自身が戦闘を楽しんでしまった。
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だから。
仮面が不安定になる。
◇◇◇
「ふざけるな」
◇◇◇
思わず悪態を吐く。
◇◇◇
この武装は本当に面倒だ。
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その隙。
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轟が見逃すはずもない。
◇◇◇
炎が爆発した。
◇◇◇
ドォォォォォン!!
◇◇◇
熱風。
衝撃。
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刃人の身体が吹き飛ぶ。
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観客席がどよめいた。
◇◇◇
地面を転がる。
◇◇◇
痛い。
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爆豪ほどではない。
だが。
確実に効いている。
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轟も肩で息をしていた。
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限界が近い。
◇◇◇
刃人も同じだった。
◇◇◇
仮面に亀裂が入る。
◇◇◇
微笑の仮面。
限界。
◇◇◇
観客席が静まり返る。
◇◇◇
決勝。
最終局面。
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轟が立つ。
◇◇◇
刃人も立つ。
◇◇◇
どちらも満身創痍。
◇◇◇
そして。
二人は同時に前を向いた。
◇◇◇
もう迷いはない。
◇◇◇
次の一撃で。
決着がつく。
◇◇◇
そう確信していた。
第19話 完