第2話 『なんでセイバーがいるんだ』
ヒロアカ世界に転生した。
そこまではいい。
問題はその後だった。
◇◇◇
「刃人ー!」
庭から声が聞こえる。
今日も騒がしい。
俺は読んでいた本を閉じて縁側から立ち上がった。
孤児院『ひなたの家』。
ここが今の家だ。
そして今では大切な居場所でもある。
平穏。
俺の理想そのもの。
ずっとここで静かに生きていきたい。
本気でそう思っていた。
だからこそ。
目の前の光景が理解できなかった。
◇◇◇
「おはようございます」
金髪の少女が頭を下げる。
綺麗な金髪。
翡翠色の瞳。
年齢に似合わない気品。
真面目すぎる性格。
そして。
木刀。
朝から木刀を振っている。
意味が分からない。
本当に分からない。
何度見ても結論は変わらなかった。
「……」
少女を見る。
少女も首を傾げる。
「どうしました?」
「いや」
言葉に詰まる。
何度考えてもおかしい。
なぜなら。
どう見ても。
セイバーだからだ。
◇◇◇
アルトリア。
アルトリア・ペンドラゴン。
前世で知っている。
Fateシリーズの超有名キャラクター。
アーサー王。
円卓の王。
約束された勝利の剣。
そのアルトリア。
どう見ても本人。
名前も顔も同じ。
性格まで同じ。
なのに。
ここはヒロアカ世界だ。
意味が分からない。
本当に意味が分からない。
「どうかしましたか?」
「いや」
もう一度言う。
「何でもない」
説明しても無駄だ。
本人が一番分かっていない。
◇◇◇
最初は偶然だと思った。
名前が同じだけ。
顔が似ているだけ。
そう思っていた。
だが。
無理だった。
毎日見ている。
毎日木刀を振っている。
毎日クソ真面目だ。
どう考えてもアルトリアだった。
結論。
この世界はおかしい。
◇◇◇
嫌な予感を覚えたのはその数日後だった。
「あら、刃人さん」
聞き慣れた声。
振り返る。
そして固まった。
白衣。
長い銀髪。
穏やかな笑顔。
「擦り傷がありますね」
女性が近付いてくる。
俺は反射的に後退した。
「?」
女性が首を傾げる。
いや待て。
ちょっと待て。
なんでいる。
本当に。
なんでいるんだ。
◇◇◇
ナイチンゲール。
フローレンス・ナイチンゲール。
歴史上の偉人。
そしてFGOではバーサーカー。
どうして孤児院にいる。
しかも大学生らしい。
医学生らしい。
意味が分からない。
世界観が壊れている。
「刃人さん?」
「……」
「怪我をしましたか?」
「してない」
「右肘です」
見られた。
しまった。
木に登った時についた傷だった。
「小さい傷です」
「傷は傷です」
ナイチンゲールが優しく微笑んだ。
嫌な予感しかしない。
「あとで治療しましょう」
「大丈夫です」
「駄目です」
即答だった。
「拒否権は」
「ありません」
勝てない。
この人には勝てない。
◇◇◇
その日の夜。
自室。
布団の上で天井を見つめる。
おかしい。
絶対におかしい。
ヒロアカ世界。
そこは間違いない。
テレビではオールマイトが活躍している。
個性も存在している。
雄英高校もある。
だが。
アルトリアがいる。
ナイチンゲールもいる。
ヒロアカだけじゃない。
何かが混ざっている。
「最悪だな……」
思わず呟く。
原作知識。
それが俺の最大の強みだった。
未来を知っている。
危険を知っている。
だから避けられる。
はずだった。
だが。
この世界には本来いない人物がいる。
ということは。
未来も変わっている可能性がある。
知識が通用しないかもしれない。
それは困る。
非常に困る。
◇◇◇
翌日。
庭。
アルトリアが木刀を振っている。
ナイチンゲールは子供達の世話をしている。
子供達は楽しそうに遊んでいる。
俺はその光景を眺めていた。
相変わらず理解はできない。
だが。
一つだけ分かることがあった。
アルトリアも。
ナイチンゲールも。
ここの子供達も。
院長も。
みんな大切な存在だ。
だから。
原作がどうであれ。
世界がどうなろうと。
守りたいものは変わらない。
「刃人ー!」
子供達が走ってくる。
「遊ぼう!」
「嫌だ」
「なんでー!」
「面倒だからだ」
当然不満の声が飛んでくる。
その様子を見て。
アルトリアが笑った。
ナイチンゲールも笑っている。
俺はため息を吐く。
平穏だ。
少なくとも今は。
だからこそ思う。
この日常だけは守りたい。
たとえ未来で何が起きても。
この場所だけは。
絶対に。
◇◇◇
そして。
その数年後。
俺は個性を発現することになる。
平穏な人生を大きく狂わせることになる個性。
《七武装輪転》。
後に俺が。
平穏から最も遠い場所へ進む原因となる力だった。
第2話 完