第22話 『注目』
体育祭終了後。
雄英高校。
教師専用会議室。
◇◇◇
室内のモニターには一枚の写真が映し出されていた。
優勝者。
普通科所属。
七瀬刃人。
◇◇◇
誰も口を開かない。
静寂。
それを破ったのは相澤だった。
◇◇◇
「一つ気になることがある」
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会議室の空気が変わる。
◇◇◇
相澤の視線はモニターへ向いていた。
◇◇◇
「七瀬刃人」
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「こいつは本当に一般生徒か?」
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沈黙。
◇◇◇
セメントスが眉をひそめた。
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「どういう意味です?」
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「そのままの意味だ」
相澤が答える。
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「強すぎる」
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「戦闘経験があるように見える」
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「精神的にも落ち着きすぎている」
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「個性も詳細不明」
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モニターに映像が流れる。
◇◇◇
鎖。
釣竿。
変形能力。
仮面。
◇◇◇
能力同士の関連性が見えない。
◇◇◇
「普通じゃない」
相澤が言う。
◇◇◇
誰も否定できなかった。
◇◇◇
体育祭だけ見ても異常だ。
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飯田との戦闘。
八百万との戦闘。
爆豪との戦闘。
轟との戦闘。
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どれも高校一年生とは思えなかった。
◇◇◇
「スパイだと?」
ミッドナイトが聞く。
◇◇◇
相澤は少しだけ考えた。
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「可能性の話だ」
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「断定はしない」
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「だが」
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「USJ襲撃の件がある」
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会議室の空気が重くなる。
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ヴィラン連合。
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内部情報流出。
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未解決の問題。
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誰も忘れていない。
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もし。
本当に雄英内部へスパイがいるなら。
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七瀬ほど怪しい存在はいない。
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普通科。
無名。
経歴不明。
個性不明。
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条件だけなら揃っていた。
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「待ってくれ」
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オールマイトが口を開く。
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「私はそうは思わない」
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全員の視線が向く。
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「あの少年は轟君を助けた」
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「もっと早く勝てたはずだ」
◇◇◇
「だがそうしなかった」
◇◇◇
体育祭決勝。
轟へ向き合った姿を思い出す。
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「悪意を感じない」
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「私はそう思う」
◇◇◇
真っ直ぐな意見だった。
◇◇◇
相澤も否定しない。
◇◇◇
実際。
相澤自身も完全にスパイだとは思っていない。
◇◇◇
だが。
教師として。
可能性を捨てる訳にはいかなかった。
◇◇◇
「俺もそう思いたい」
◇◇◇
「だが確認は必要だ」
◇◇◇
根津が小さく笑った。
◇◇◇
「なるほど」
◇◇◇
「つまり監視だね」
◇◇◇
相澤が頷く。
◇◇◇
「そうだ」
◇◇◇
「少なくとも卒業までは観察すべきだ」
◇◇◇
「普通科に置くより」
◇◇◇
「目の届く場所へ置いた方がいい」
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会議室が静かになる。
◇◇◇
その意味を理解したからだ。
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ヒーロー科。
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教師達が直接見られる場所。
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「編入か」
プレゼント・マイクが言う。
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「体育祭優勝者だ」
◇◇◇
「実力的には問題ない」
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セメントスも頷いた。
◇◇◇
「監視もできる」
◇◇◇
「教育もできる」
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根津は手を組む。
◇◇◇
「面白い」
◇◇◇
心からそう思った。
◇◇◇
七瀬刃人。
◇◇◇
平穏を求める少年。
◇◇◇
だが。
優勝した以上。
もう無名ではいられない。
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「では決まりだ」
◇◇◇
根津が微笑んだ。
◇◇◇
「体育祭優勝者七瀬刃人」
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「ヒーロー科への編入候補として呼び出そう」
◇◇◇
もちろん。
表向きの理由は別だ。
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優秀だから。
才能があるから。
◇◇◇
だが。
教師達の本音は少し違う。
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確認したいのだ。
◇◇◇
七瀬刃人が何者なのか。
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その頃。
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薄暗い部屋。
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巨大なモニターが光っていた。
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そこへ映るのは。
体育祭決勝。
◇◇◇
七瀬刃人。
◇◇◇
優勝の瞬間。
◇◇◇
「ふふふ」
◇◇◇
老人が笑う。
◇◇◇
オール・フォー・ワン。
◇◇◇
モニターには。
鎖。
釣竿。
仮面。
◇◇◇
様々な能力が映し出されていた。
◇◇◇
「素晴らしい」
◇◇◇
心からそう思う。
◇◇◇
個性とは可能性。
◇◇◇
ならば。
七武装輪転は可能性の塊だ。
◇◇◇
「先生」
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黒霧が頭を下げる。
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「接触しますか?」
◇◇◇
オール・フォー・ワンは首を横へ振った。
◇◇◇
「まだだ」
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「まだ若い」
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「まだ未熟だ」
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「だからこそ価値がある」
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もっと育つ。
◇◇◇
もっと強くなる。
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オール・フォー・ワンには分かっていた。
◇◇◇
「焦る必要はない」
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「いずれ彼は」
◇◇◇
「私の前へ来る」
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確信したように笑う。
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モニターの中。
困ったような顔で優勝インタビューを受ける少年を見ながら。
◇◇◇
オール・フォー・ワンは静かに呟いた。
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「平穏を求める者ほど」
◇◇◇
「運命に愛される」
◇◇◇
その言葉だけが。
静かな部屋へ響いた。
◇◇◇
そして。
七瀬刃人はまだ知らない。
◇◇◇
平和の象徴だけではなく。
悪の象徴にも。
その存在を認識されたことを。
◇◇◇
そして。
教師達ですら。
彼を完全には信じていないことを。
◇◇◇
平穏は。
また一歩。
遠ざかっていた。
第22話 完