面談
第23話 『面談』
体育祭から数日後。
昼休み。
俺は校長室へ呼び出されていた。
◇◇◇
正直。
帰りたい。
◇◇◇
根津校長からの呼び出し。
この時点で嫌な予感しかしない。
◇◇◇
しかも今回は一人ではない。
アルトリア。
ナイチンゲール。
俺達三人がまとめて呼ばれていた。
◇◇◇
普通に考えて面倒事である。
◇◇◇
コンコン。
◇◇◇
扉を叩く。
◇◇◇
「入りたまえ」
◇◇◇
校長室へ入る。
◇◇◇
そこには。
根津校長。
相澤先生。
オールマイト。
◇◇◇
嫌な顔触れだった。
◇◇◇
全員がこちらを見ている。
◇◇◇
帰りたい。
◇◇◇
本当に。
◇◇◇
「座りたまえ」
◇◇◇
言われるまま席へ着く。
◇◇◇
俺。
アルトリア。
ナイチンゲール。
◇◇◇
三人並んで座る。
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
居心地が悪い。
非常に。
◇◇◇
やがて根津が口を開いた。
◇◇◇
「まずは体育祭優勝おめでとう」
◇◇◇
「ありがとうございます」
◇◇◇
「嬉しそうじゃないね」
◇◇◇
「目立ったので」
◇◇◇
オールマイトが苦笑した。
◇◇◇
「そこは変わらないんだね」
◇◇◇
「はい」
◇◇◇
むしろ悪化している。
◇◇◇
体育祭優勝。
◇◇◇
全国デビュー。
◇◇◇
職場体験。
◇◇◇
完全に平穏から遠ざかった。
◇◇◇
相澤が腕を組む。
◇◇◇
「七瀬」
◇◇◇
「お前は何を目指している」
◇◇◇
少しだけ考えた。
◇◇◇
ヒーロー。
名声。
プロ。
◇◇◇
どれも違う。
◇◇◇
だから正直に答える。
◇◇◇
「平穏です」
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
教師陣が固まった。
◇◇◇
なぜだろう。
◇◇◇
普通だと思うのだが。
◇◇◇
「具体的には?」
根津が聞く。
◇◇◇
「卒業して働いて」
◇◇◇
「孤児院を支えて」
◇◇◇
「普通に生きたいです」
◇◇◇
本音だった。
◇◇◇
オールマイトが目を丸くする。
◇◇◇
相澤は頭を押さえていた。
◇◇◇
何故そんな反応なのか分からない。
◇◇◇
「ヒーローには?」
◇◇◇
「なりたくありません」
◇◇◇
即答だった。
◇◇◇
「理由は?」
◇◇◇
「危険なので」
◇◇◇
当然だ。
◇◇◇
USJ。
◇◇◇
体育祭。
◇◇◇
ヴィラン。
◇◇◇
ろくなことがない。
◇◇◇
沈黙。
◇◇◇
教師達が顔を見合わせる。
◇◇◇
相澤が視線を向けた。
◇◇◇
「アルトリア」
◇◇◇
「お前はどう思う」
◇◇◇
アルトリアは即答した。
◇◇◇
「その通りです」
◇◇◇
俺は思わずアルトリアを見る。
◇◇◇
珍しい。
◇◇◇
非常に珍しい。
◇◇◇
完全に同意していた。
◇◇◇
「刃人は昔から変わりません」
◇◇◇
「危険を嫌います」
◇◇◇
「目立つことも嫌います」
◇◇◇
「面倒事はもっと嫌います」
◇◇◇
全部その通りだった。
◇◇◇
相澤が眉を上げる。
◇◇◇
「言い切るな」
◇◇◇
「十年以上一緒ですので」
◇◇◇
アルトリアは全く揺らがない。
◇◇◇
そして続ける。
◇◇◇
「それに私は雄英ヒーロー科二年です」
◇◇◇
「生徒を見る目くらいはあります」
◇◇◇
校長室が静かになる。
◇◇◇
確かにそうだった。
◇◇◇
アルトリアはただの保護者代わりではない。
◇◇◇
雄英ヒーロー科の生徒だ。
◇◇◇
教師達も軽く扱えない。
◇◇◇
今度はナイチンゲールへ視線が向く。
◇◇◇
「君は?」
◇◇◇
ナイチンゲールは静かに答えた。
◇◇◇
「刃人さんがヴィランになることはありません」
◇◇◇
断定だった。
◇◇◇
迷いがない。
◇◇◇
「根拠は?」
相澤が聞く。
◇◇◇
ナイチンゲールは少し考えた。
◇◇◇
そして。
静かに言う。
◇◇◇
「自分が傷付くことには無頓着です」
◇◇◇
「ですが」
◇◇◇
「他人が傷付くことは嫌います」
◇◇◇
「特に子供達が」
◇◇◇
俺は少し目を逸らした。
◇◇◇
言い返せない。
◇◇◇
事実だからだ。
◇◇◇
「それに」
ナイチンゲールは続ける。
◇◇◇
「私は医師です」
◇◇◇
「雄英ヒーロー科の卒業生でもあります」
◇◇◇
「危険人物の判別には多少自信があります」
◇◇◇
再び沈黙。
◇◇◇
医師。
◇◇◇
ヒーロー科卒業生。
◇◇◇
その経歴は重い。
◇◇◇
教師達ですら簡単には否定できない。
◇◇◇
相澤が小さく息を吐いた。
◇◇◇
「そうか」
◇◇◇
少なくとも。
三人の話に嘘は見当たらなかった。
◇◇◇
根津が手を組む。
◇◇◇
「では本題だ」
◇◇◇
来た。
◇◇◇
俺の中で警報が鳴る。
◇◇◇
絶対にろくな話じゃない。
◇◇◇
経験がそう言っている。
◇◇◇
「七瀬刃人」
◇◇◇
「君をヒーロー科へ編入させたい」
◇◇◇
思考停止。
◇◇◇
完全停止。
◇◇◇
数秒。
本当に理解できなかった。
◇◇◇
ヒーロー科?
◇◇◇
今。
ヒーロー科と言ったか?
◇◇◇
爆豪。
轟。
緑谷。
◇◇◇
事件。
ヴィラン。
面倒事。
◇◇◇
平穏の対義語。
◇◇◇
それがヒーロー科だ。
◇◇◇
「嫌です」
◇◇◇
即答だった。
◇◇◇
人生で一番速い返答だったかもしれない。
◇◇◇
教師陣が固まる。
◇◇◇
だが構わない。
◇◇◇
俺は本気だ。
◇◇◇
「理由を聞いても?」
◇◇◇
「平穏が遠ざかります」
◇◇◇
本心だった。
◇◇◇
完全に。
◇◇◇
確実に。
◇◇◇
今より面倒になる。
◇◇◇
アルトリアが手を上げた。
◇◇◇
「私も反対です」
◇◇◇
俺は思わず見た。
◇◇◇
ありがとう。
◇◇◇
心の中でそう思った。
◇◇◇
「危険です」
◇◇◇
「ヒーロー科ですよ?」
◇◇◇
本当にその通りだ。
◇◇◇
続いて。
ナイチンゲール。
◇◇◇
「私も反対です」
◇◇◇
深く頷く。
◇◇◇
完全同意だった。
◇◇◇
「怪我が増えます」
◇◇◇
爆豪戦を思い出す。
◇◇◇
痛かった。
◇◇◇
本当に。
◇◇◇
あれ以上は勘弁してほしい。
◇◇◇
三対三。
◇◇◇
綺麗に意見が割れた。
◇◇◇
だが。
根津は笑った。
◇◇◇
その笑顔を見た瞬間。
終わったと思った。
◇◇◇
嫌な予感が確信へ変わる。
◇◇◇
「実はね」
◇◇◇
「既に決定事項なんだ」
◇◇◇
終わった。
◇◇◇
完全に終わった。
◇◇◇
俺の平穏な学生生活。
◇◇◇
普通科。
◇◇◇
静かな日々。
◇◇◇
全部終わった。
◇◇◇
USJ。
↓
体育祭。
↓
優勝。
↓
ヒーロー科編入。
◇◇◇
なんでだ。
◇◇◇
俺は平穏に暮らしたかっただけなのに。
◇◇◇
「終わりましたね」
アルトリアが言う。
◇◇◇
「終わりましたね」
ナイチンゲールも続く。
◇◇◇
妙に達観していた。
◇◇◇
「終わった……」
◇◇◇
俺だけが絶望していた。
◇◇◇
こうして。
七瀬刃人は。
最も行きたくなかった場所へ向かうことになった。
◇◇◇
雄英高校。
ヒーロー科。
◇◇◇
平穏から最も遠い場所へ。
第23話 完