第4話 『平穏のために』
個性が発現してから一年が経った。
結論から言おう。
俺の個性はろくでもなかった。
◇◇◇
《戒律の鎖》。
《深海の釣竿》。
《機導兵装》。
現在判明している武装は三つ。
どれも強い。
控えめに言っても強い。
問題は。
強いことだった。
「本当に最悪だな……」
思わずため息が漏れる。
俺は強くなりたいわけじゃない。
ヒーローになりたいわけでもない。
平穏に生きたいだけだ。
なのに個性は、
どう考えても平穏とは真逆の方向へ進化していた。
◇◇◇
「刃人!」
庭からアルトリアの声が聞こえる。
振り返る。
木刀を担ぎながら歩いてきた。
今日も訓練帰りらしい。
「また考え事ですか?」
「個性のことだ」
「順調ではないのですか?」
「順調だから困っている」
アルトリアが首を傾げた。
意味が分からないらしい。
まあ分かる。
普通は逆だ。
個性が強いなら喜ぶ。
だが俺は違う。
強ければ強いほど目立つ。
目立てば面倒事が寄ってくる。
つまり。
強い個性は平穏の敵だった。
◇◇◇
「将来はヒーローですか?」
不意にアルトリアが尋ねた。
俺は即答した。
「絶対に嫌だ」
「即答ですね」
「当然だ」
ヒーロー。
聞こえはいい。
だが実態は命懸けだ。
ヴィランと戦う。
怪我もする。
下手をすれば死ぬ。
そんな職業に自分からなりたいとは思わない。
◇◇◇
「あなただけですよ」
アルトリアが苦笑する。
「個性が強いのに全然喜ばない人は」
「そりゃな」
俺は肩を竦めた。
前世の記憶がある。
だから知っている。
この世界がどれだけ危険なのかを。
個性が強い人間ほど。
事件に巻き込まれる。
注目される。
狙われる。
そういう世界だ。
だから俺は逆。
強さを隠したい。
静かに暮らしたい。
それだけだった。
◇◇◇
数日後。
孤児院の玄関先。
俺は院長と一緒に荷物を運んでいた。
大した量ではない。
だが生活に必要な物資だ。
「助かるよ」
院長が笑う。
「力持ちになったな」
「普通だ」
「普通じゃないな」
苦笑された。
少しだけ居心地が悪い。
◇◇◇
荷物を片付ける。
その途中。
院長が何気なく言った。
「来年には進路も考える時期だな」
「まだ先だ」
「そうでもないさ」
確かに。
個性社会では進路が早く決まる。
ヒーロー志望なら尚更だ。
「刃人はどうする?」
答えは決まっていた。
「普通科に行く」
即答だった。
◇◇◇
院長が少し驚いた顔をする。
「ヒーロー科じゃなくて?」
「行かない」
「もったいないな」
「そうか?」
「そうだとも」
院長は真剣な顔で言った。
「お前には才能がある」
「いらない」
「即答か」
「即答だ」
才能があろうが関係ない。
俺の目的は平穏。
ヒーロー科はその対極だった。
◇◇◇
その日の夜。
自室。
ベッドへ寝転がる。
天井を見つめる。
進路。
確かに考えなければならない。
だが答えは決まっている。
普通科。
それ以外はない。
◇◇◇
ヒーロー科へ入れば。
原作キャラと関わる。
事件に巻き込まれる。
ヴィランと戦う。
面倒事が増える。
良い事が一つもない。
普通科ならどうだ。
目立たない。
戦闘訓練も少ない。
原作イベントにも関わらない。
最高だった。
◇◇◇
「よし」
決めた。
雄英は受験する。
だが普通科だ。
ヒーロー科には絶対に行かない。
何があっても。
絶対にだ。
◇◇◇
窓の外を見る。
庭では子供達が走り回っていた。
笑い声が聞こえる。
その光景を見ると安心する。
これでいい。
これがいい。
俺はヒーローになりたいわけじゃない。
世界を救いたいわけでもない。
ただ。
この場所を守りたい。
それだけだ。
◇◇◇
だから。
普通科へ行く。
卒業する。
働く。
孤児院を支える。
平穏に生きる。
その未来こそ理想だった。
この時の俺は本気で信じていた。
その計画が成功するのだと。
だが。
現実はそんなに甘くなかった。
後に雄英入学。
USJ襲撃。
体育祭。
そして。
オール・フォー・ワン。
数えきれない面倒事が待っていることを。
まだ知らない。
知らないまま。
俺は静かに眠りについた。
来るべき平穏な未来を信じながら。
第4話 完