第5話 死告の鎌と仮面舞踏会
朝食後。
いつものように呼び出された。
最近はもう慣れた。
慣れたくはなかったが。
「七瀬」
相澤先生が手招きする。
「何ですか」
「訓練だ」
「ですよね」
知っていた。
最近まともに休めた記憶がない。
訓練場にはいつもの面子がいた。
相澤先生。
マンダレイ。
ラグドール。
それに上鳴と切島。
完全に野次馬である。
「今日は何ですか」
俺が聞く。
「武装確認だ」
嫌な予感しかしない。
地面が盛り上がる。
土人形。
五体。
昨日より増えていた。
「増えてません?」
「増えてるな」
「何でですか」
「訓練だからだ」
理不尽だった。
五体の土人形が一斉に動き出す。
俺は諦めてルーレットを回した。
「七武装輪転」
光が巡る。
停止。
現れた武装を見て肩を竦めた。
第六武装。
《死告の鎌 モルス》
巨大な黒鎌が姿を現す。
「またその鎌か」
相澤先生が言う。
体育祭でも使った武装だ。
ただし。
能力までは見せていない。
「説明はしませんでしたからね」
鎌を肩へ担ぐ。
ラグドールが興味深そうに見る。
「確か体育祭で持ってたわね」
「持ってただけです」
「じゃあ能力は?」
「見れば分かります」
土人形が迫る。
一体目。
斬る。
何も起こらない。
二体目。
斬る。
何も起こらない。
上鳴が首を傾げた。
「弱くね?」
失礼だった。
三体目。
斬る。
四体目。
斬る。
そして。
最初に斬った土人形の動きが鈍った。
「ん?」
切島が眉をひそめる。
「遅くなった?」
「なりましたね」
再び鎌を振るう。
さらに斬る。
すると今度は土人形がふらつき始めた。
ラグドールが目を細める。
「弱体化?」
「正解です」
ようやく察してくれた。
土人形へさらに攻撃。
死蝕印が重なる。
一印。
身体能力低下。
二印。
平衡感覚低下。
三印。
疲労蓄積。
四印。
個性出力低下。
五印。
判断力低下。
六印。
聴覚喪失。
七印。
視覚喪失。
「待て待て待て」
上鳴が止める。
「七段階あんの?」
「あります」
「多くね?」
「多いですね」
俺もそう思う。
相澤先生が腕を組む。
「長期戦特化か」
「そうです」
「一発は軽い」
「だが重ねるほど致命的になる」
正解だった。
派手さはない。
だが。
時間が経つほど相手は弱る。
最後には何も見えなくなる。
そういう武装だった。
「嫌だなぁ……」
ラグドールが本音を漏らす。
「敵にしたくないわ」
「同感です」
珍しく意見が一致した。
数分後。
土人形五体は全て崩壊した。
終了。
切島が呟く。
「第五武装より怖くね?」
「方向性が違います」
「第五は火力」
「第六は嫌がらせです」
「嫌がらせ言うな」
上鳴が笑った。
事実だから仕方ない。
その後。
休憩時間。
木陰へ移動する。
そこでラグドールが本題を切り出した。
「じゃあ次」
嫌な予感しかしない。
「第七武装」
やっぱり来た。
「嫌です」
「却下」
最近本当にこればかりだった。
「説明だけよ」
ラグドールが言う。
少しだけ安心する。
「第七武装って何?」
少し考える。
「仮面です」
沈黙。
「それは知ってる」
相澤先生が言う。
「体育祭でも見た」
「問題は仕組みだ」
確かに。
「感情ごとに仮面があります」
「感情?」
マンダレイが首を傾げる。
「はい」
指を折る。
「微笑」
「賢者」
「憤怒」
「怒り」
「哀劇」
「無貌」
「それぞれ別能力です」
切島が真顔になる。
「厨二病だな」
「否定は出来ません」
自覚はある。
「賢者の仮面は《大賢者》」
「体育祭で使った分析能力です」
「敵の情報整理」
「思考補助」
「戦闘解析」
「そんな感じですね」
上鳴が頷いた。
「ああ」
「頭良くなるやつか」
「そんな感じです」
続ける。
「微笑の仮面は《投射呪法》」
ラグドールが反応する。
「それよ」
「体育祭の超スピード」
「どういう能力なの?」
少し考える。
説明が面倒だ。
だが聞かれた以上答える。
「一秒を十二分割します」
沈黙。
「分からない」
マンダレイが即答した。
「ですよね」
俺もそう思う。
「一秒を十二枚の絵だと思ってください」
「十二コマの映像です」
「その一秒間の行動を先に全部決めます」
切島が首を傾げる。
「全部?」
「全部です」
「右へ避ける」
「左へ踏み込む」
「攻撃する」
「さらに回避する」
「そういう動きを十二コマ分」
「先に確定します」
上鳴が目を丸くした。
「それを身体が勝手にやる?」
「そうです」
「だから速い」
「普通の人間より無駄な動きがありません」
相澤先生が頷く。
「だが」
「予定外に弱い」
「正解です」
一秒の未来を決める。
だから精密で速い。
だが。
予想外が起きると弱い。
万能ではない。
「憤怒の仮面は《生命進化》」
「職場体験で使ったやつですね」
「生物の特徴を再現できます」
「翼」
「鱗」
「爪」
「筋力強化」
「色々です」
「便利ねぇ……」
ラグドールが呟いた。
「かなり」
実際かなり便利だった。
「怒りの仮面は《闘争本能》」
「傷付くほど強くなります」
切島が顔をしかめる。
「痛そう」
「痛いです」
即答だった。
「哀劇の仮面は《水操作》」
「水を操ります」
「攻撃」
「防御」
「補助」
「全部出来ます」
ラグドールが頭を抱える。
「本当に一個性なの?」
「個性判定です」
「納得いかないわねぇ……」
俺もたまにそう思う。
そして。
最後の質問。
「無貌の仮面は?」
空気が少し変わった。
俺は黙る。
数秒。
そして答える。
「あれは説明したくありません」
全員の表情が変わる。
「そんなに危険なの?」
マンダレイが聞く。
「一番危険です」
即答だった。
「精神系か?」
相澤先生が聞く。
「ノーコメントで」
それ以上は言わない。
言う気もない。
しばらく沈黙が流れた。
そして。
相澤先生が腕を組む。
「なるほどな」
「第五武装も強い」
「第六武装も厄介だ」
「だが第七武装は別格だ」
「対応力が高過ぎる」
教師達の評価が固まっていく。
そこへ。
ラグドールが思い出したように言った。
「そういえば」
嫌な予感がした。
「第二武装は?」
来た。
「銃です」
全員が固まる。
「銃?」
「はい」
「能力は?」
「回復系です」
「へぇ」
「便利そうね」
「便利です」
その程度で十分だった。
遠く離れた場所。
薄暗い部屋。
オール・フォー・ワンは報告書を見ていた。
第五武装《愚者の財宝》。
第六武装《死告の鎌》。
そして。
第七武装《仮面舞踏会》。
男は静かに笑う。
「やはり本命はこちらか」
今の彼にとって最も価値があるのは。
仮面舞踏会。
誰もがそう考え始めていた。
七瀬刃人本人を除いて。