七武装輪転の転生者は平穏に暮らしたい   作:ポーンδ

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無貌

第10話 無貌

 

七体。

 

軍隊型脳無。

 

未完成の怪物。

 

賢者では足りない。

 

微笑でも届かない。

 

哀劇でも押し切れない。

 

勝ち筋が無い。

 

七体が同時に動く。

 

視界の全てが敵になる。

 

尾白が叫ぶ。

 

「七瀬!!」

 

聞こえている。

 

だが。

 

少し遠かった。

 

焦りが消えていく。

 

怒りも。

 

恐怖も。

 

苛立ちも。

 

全部。

 

消えていく。

 

静かだった。

 

何も感じない。

 

だから分かった。

 

来た。

 

仮面舞踏会。

 

最後の仮面。

 

現れる。

 

白。

 

何も描かれていない顔。

 

笑わない。

 

怒らない。

 

悲しまない。

 

ただ存在しているだけの仮面。

 

《無貌》

 

尾白が息を呑む。

 

「それが……」

 

答えない。

 

答える理由も無かった。

 

仮面を手に取る。

 

被る。

 

瞬間。

 

世界から音が消えた。

 

違う。

 

興味が消えた。

 

全てがどうでもよくなる。

 

軍隊型脳無を見る。

 

七体。

 

未完成。

 

共有能力。

 

実験体。

 

分析完了。

 

脅威度算出。

 

排除可能。

 

結論。

 

排除。

 

軍隊型脳無が突撃する。

 

速い。

 

だが。

 

遅い。

 

全てが遅い。

 

動き。

 

呼吸。

 

筋肉。

 

全部見える。

 

尾白が叫んでいる。

 

聞こえている。

 

だが興味が無い。

 

軍隊型脳無の視線と交差する。

 

その瞬間だった。

 

世界が反転する。

 

軍隊型脳無達の動きが止まった。

 

沈黙。

 

尾白が固まる。

 

「なっ……!?」

 

何が起きたのか分からない。

 

当然だった。

 

外から見れば。

 

ただ目が合っただけだった。

 

だが。

 

軍隊型脳無達の精神は。

 

既にここにはいない。

 

虚無劇場

 

白。

 

白。

 

白。

 

どこまでも白。

 

空も無い。

 

地面も無い。

 

光も無い。

 

闇も無い。

 

何も無い。

 

そこに。

 

七体の精神だけが立っていた。

 

動く。

 

意味は無い。

 

走る。

 

意味は無い。

 

叫ぶ。

 

返事は無い。

 

永遠に。

 

何も無い。

 

そして。

 

目の前に一人の人影が現れる。

 

無貌の七瀬。

 

感情の無い顔。

 

感情の無い声。

 

ただ静かに告げる。

 

「ここには何も無い」

 

沈黙。

 

「出口も無い」

 

沈黙。

 

「終わりも無い」

 

沈黙。

 

「救いも無い」

 

沈黙。

 

ただ。

 

無。

 

永遠の虚無だけが存在していた。

 

一年。

 

十年。

 

百年。

 

千年。

 

時間だけが流れる。

 

終わらない。

 

終わることを許されない。

 

名前を忘れる。

 

目的を忘れる。

 

怒りを忘れる。

 

記憶を忘れる。

 

やがて。

 

自分が何者だったかすら忘れる。

 

それでも続く。

 

無限に。

 

永遠に。

 

終わりなく。

 

現実。

 

軍隊型脳無達が膝をつく。

 

尾白が後退った。

 

「何だよ……これ……」

 

誰も攻撃していない。

 

誰も触れていない。

 

それなのに。

 

七体全員が震えている。

 

怯えている。

 

まるで。

 

何か恐ろしいものを見たみたいに。

 

無貌の七瀬は無言だった。

 

ただ見ている。

 

感情も無く。

 

慈悲も無く。

 

ただ観察している。

 

その頃。

 

遠く離れた場所。

 

オール・フォー・ワンは立ち上がっていた。

 

笑みは消えている。

 

モニターに映る。

 

白い仮面。

 

軍隊型脳無の異常反応。

 

そして。

 

理解した。

 

危険だ。

 

仮面舞踏会ではない。

 

成長性でもない。

 

保存能力でもない。

 

無貌。

 

あれが危険だ。

 

「あれは駄目だ」

 

死柄木が振り返る。

 

「あ?」

 

「回収しろ」

 

声は低い。

 

だが。

 

初めて焦っていた。

 

「今すぐだ」

 

黒霧が動く。

 

空間が歪む。

 

転移門。

 

森の中。

 

軍隊型脳無達を飲み込む。

 

一体。

 

二体。

 

三体。

 

七体全て。

 

消える。

 

虚無劇場が解除される。

 

無貌を外す。

 

頭痛。

 

吐き気。

 

視界が揺れる。

 

感情が戻ってくる。

 

最初に出た感想は一つだった。

 

「最悪だ……」

 

膝をつく。

 

尾白が駆け寄る。

 

「七瀬!」

 

「生きてるか!?」

 

「多分」

 

全然大丈夫じゃない。

 

だが。

 

説明する気力も無かった。

 

尾白は消えた軍隊型脳無達を見る。

 

そして。

 

白い仮面を見る。

 

「今の能力……」

 

七瀬は少しだけ黙る。

 

そして答えた。

 

「相手を俺の中に閉じ込める」

 

尾白は理解出来ない顔をした。

 

当然だった。

 

七瀬自身も。

 

出来れば二度と使いたくないのだから。

 

遠く離れた場所。

 

オール・フォー・ワンは静かにモニターを見つめていた。

 

仮面舞踏会。

 

無貌。

 

未知の能力。

 

男はゆっくり呟く。

 

「必ず手に入れる」

 

だが。

 

その声には。

 

僅かな警戒が混じっていた。

 

続く。

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