第5話 『雄英普通科』
春。
桜が咲いていた。
そして。
俺は人生最大の勝負を終えていた。
雄英高校受験。
合格発表の日だった。
◇◇◇
「刃人!」
朝から院長に呼ばれる。
嫌な予感しかしない。
居間へ向かうと、全員揃っていた。
子供達。
アルトリア。
ナイチンゲール。
そして院長。
「なんだ?」
「今日は合格発表だろ?」
院長が笑う。
「そうだな」
「緊張しないのか?」
「別に」
本音だった。
落ちるとは思っていない。
ヒーロー科ならともかく、普通科だ。
筆記試験も問題なかった。
だから心配はしていない。
◇◇◇
「つまらないですね」
アルトリアがため息を吐いた。
「普通はもっと緊張するものです」
「結果は変わらないだろ」
「そういう問題ではありません」
よく分からない。
緊張したところで点数が増えるわけでもない。
◇◇◇
「合格しているといいですね」
ナイチンゲールが微笑む。
「してるだろ」
「自信満々ですね」
「落ちたら困る」
正確には。
計画が狂う。
俺の人生設計は決まっている。
雄英普通科へ進学。
目立たず卒業。
就職。
孤児院を支える。
完璧だ。
我ながら隙がない。
◇◇◇
昼。
合格発表。
パソコンの前。
画面を見る。
受験番号を探す。
そして。
見つけた。
「あったな」
短い一言。
それだけだった。
◇◇◇
「おおおお!!」
子供達が騒ぎ始める。
「合格だ!」
「お兄ちゃんすごい!」
「やったー!!」
いや。
普通科だぞ。
◇◇◇
それでも子供達には関係ないらしい。
飛び付いてくる。
抱き付いてくる。
騒がしい。
非常に騒がしい。
だが。
悪くなかった。
◇◇◇
「おめでとうございます」
アルトリアが微笑む。
「ありがとう」
「来年は雄英ですね」
「ああ」
「ヒーロー科ですか?」
「違う」
即答だった。
◇◇◇
アルトリアが苦笑する。
「まだ言いますか」
「当然だ」
ヒーロー科は危険だ。
原作イベントの中心地だ。
近付きたくない。
絶対に。
◇◇◇
「なぜそこまで嫌がるのですか?」
聞かれる。
だが答えられない。
未来を知っているから。
なんて説明できるわけがない。
「面倒だからだ」
結局それしか言えなかった。
アルトリアは呆れていた。
◇◇◇
その日の夜。
縁側。
静かな時間だった。
風が心地良い。
こういう時間は好きだ。
何も考えなくていい。
平穏だから。
◇◇◇
「隣いいですか?」
ナイチンゲールだった。
「どうぞ」
彼女は隣へ座る。
しばらく無言。
やがて口を開いた。
「嬉しそうですね」
「そうか?」
「はい」
自覚はなかった。
だが否定もできない。
◇◇◇
嬉しい理由は合格したからじゃない。
平穏へ一歩近付いたと思ったからだ。
ヒーロー科じゃない。
普通科。
危険から遠い。
事件から遠い。
原作の中心から遠い。
それが大きかった。
◇◇◇
「雄英でも無理はしないでくださいね」
ナイチンゲールが言う。
「しない」
「本当ですか?」
「多分」
「信用できません」
即答された。
酷い。
◇◇◇
夜空を見上げる。
星が見える。
静かだった。
こんな日が続けばいい。
心の底からそう思う。
◇◇◇
だが。
俺は知っている。
来年。
雄英へ入学すると同時に。
原作が始まる。
緑谷出久。
爆豪勝己。
轟焦凍。
そして。
ヴィラン連合。
◇◇◇
関わりたくない。
本当に。
心の底から。
だが。
避けられるはずだ。
俺は普通科。
向こうはヒーロー科。
接点はほとんどない。
きっと大丈夫。
事件にも巻き込まれない。
原作にも関わらない。
平穏な高校生活が待っている。
そう信じていた。
◇◇◇
そして一年後。
雄英高校入学式当日。
俺は早速その考えが甘かったことを思い知る。
なぜなら。
人生で初めて。
心操人使という男と出会うことになるのだから。
後に。
俺の数少ない友人となる男と。
◇◇◇
平穏な高校生活。
その第一歩が。
静かに始まろうとしていた。
第5話 完