第12話 魔王
薄暗い倉庫。
コンクリートの床。
鉄骨の天井。
最悪な環境だった。
爆豪が壁にもたれ掛かる。
「おい」
「何だ」
「何でお前まで捕まってんだ」
「俺も聞きたい」
本音だった。
原作なら。
ここにいるのは爆豪だけだったはずだ。
なのに。
今は俺までいる。
完全に予定が狂っていた。
その時。
扉が開く。
死柄木。
荼毘。
トガ。
黒霧。
ヴィラン連合の主要メンバー。
「よぉ」
死柄木が笑う。
「気分はどうだ」
「最悪だ」
「そうか」
「俺も最悪だよ」
死柄木は笑った。
全然最悪そうに見えない。
むしろ楽しそうだった。
「爆豪」
「アァ?」
「ヴィランにならないか?」
即勧誘だった。
爆豪が即答する。
「死ね」
「だよなぁ」
死柄木が笑う。
予想通りらしい。
次に。
こちらを見る。
嫌な予感しかしない。
「七瀬」
「何だ」
「お前は?」
「嫌だ」
即答した。
「話くらい聞いてくれよ」
「面倒だ」
「そこを何とか」
しつこい。
本当にしつこい。
その時。
別の声が響く。
「そう焦るな」
空気が変わる。
全員が黙る。
現れた。
この世界最大の怪物。
オール・フォー・ワン。
爆豪も固まる。
当然だった。
存在感が違う。
ただ立っているだけなのに。
空気が重い。
「初めまして」
男は穏やかに言った。
「七瀬刃人」
嫌な予感しかしなかった。
「私は君に興味がある」
「光栄です」
「そうは見えないが」
「見間違いです」
嘘だった。
全然光栄じゃない。
むしろ帰りたい。
本当に。
男は笑う。
「仮面舞踏会」
「素晴らしい個性だ」
やっぱりそこか。
そう思った。
だが。
次の言葉は違った。
「だが無貌」
空気が変わる。
死柄木も反応する。
黒霧も黙る。
「あの仮面は危険だ」
「そうか」
短く返す。
男は首を傾げる。
「気にならないのか?」
「別に」
本当は気になる。
だが。
こいつに話す理由は無かった。
すると。
オール・フォー・ワンが笑う。
「君は優しい」
「違うな」
「そうかな」
男は続ける。
「孤児院の子供達を守ろうとしている」
止まった。
思考が。
一瞬だけ。
「……何で知ってる」
低い声だった。
自分でも驚くくらい。
低かった。
オール・フォー・ワンは笑う。
「調べた」
それだけだった。
「君の育った施設」
「職員」
「子供達」
「全員把握している」
沈黙。
心臓が強く脈打つ。
嫌な感じだった。
怒り。
本当に久しぶりだった。
「君が協力するなら」
「彼らには手を出さない」
「だが」
男は微笑む。
「断るなら別だ」
静かな声だった。
まるで。
今日の天気を話しているみたいに。
「施設を燃やすことも出来る」
「子供達を連れてくることも出来る」
「難しい話ではない」
沈黙。
爆豪ですら黙った。
死柄木も笑うのを止める。
そして。
俺は。
「黙れ」
初めてそう言った。
空気が変わる。
「怒ったか」
「黙れ」
もう一度言う。
「園の奴らに触れてみろ」
一歩前へ出る。
「殺すぞ」
初めてだった。
明確な殺意。
隠しもしない。
そのまま向ける。
死柄木が少し引く。
「おー怖」
だが。
オール・フォー・ワンだけは笑った。
「なるほど」
「そこが逆鱗か」
その瞬間だった。
カチリ。
七武装輪転。
勝手に発動する。
ルーレットが回る。
俺は触っていない。
感情に反応した。
怒り。
殺意。
激昂。
回る。
回る。
そして。
停止。
第七武装。
《仮面舞踏会》
現れたのは黒い仮面。
鋭い目。
赤い紋様。
《怒りの仮面》
爆豪が固まる。
「初めて見るな」
「俺も出す予定無かった」
《闘争本能》
発動。
ドクン。
心臓が脈打つ。
筋力上昇。
反応速度上昇。
戦闘本能活性化。
だが。
理性も薄れる。
「七瀬?」
爆豪が眉をひそめる。
返事は無い。
ただ。
オール・フォー・ワンを見ていた。
その時。
死柄木が前へ出る。
「残念」
「そっちは駄目だ」
邪魔だった。
本当に。
轟ッ!!
拳を振るう。
死柄木が飛び退く。
背後の壁が吹き飛んだ。
コンクリートが破裂する。
鉄骨が曲がる。
倉庫全体が揺れた。
「おいおいおい!」
死柄木が笑う。
「マジじゃねぇか!」
「当たり前だろ」
床を蹴る。
突撃。
荼毘が炎を放つ。
掻き消す。
壁ごと砕く。
トガが飛び込む。
床ごと吹き飛ばす。
ヴィラン連合全員が距離を取る。
「地雷踏んだな」
荼毘が呟いた。
「盛大にな」
死柄木が笑う。
拳。
蹴り。
衝撃。
瓦礫。
倉庫が壊れていく。
壁が消える。
鉄骨が折れる。
床が割れる。
だが。
誰にも当たらない。
怒っている。
だから雑だ。
だから避けられる。
爆豪が呆れた顔をする。
「おい!」
「敵じゃなく建物が死んでるぞ!」
正論だった。
完璧に。
だが。
今の俺には聞こえない。
そんな様子を。
オール・フォー・ワンだけが静かに見ていた。
「なるほど」
「感情に引っ張られるか」
観察するように呟く。
そして。
結論を出した。
「黒霧」
「はい」
「こちらへ」
次の瞬間。
転移門が開く。
俺の足元が歪む。
「なっ」
景色が変わる。
死柄木達。
爆豪。
倉庫。
全部が遠ざかる。
そして。
気付けば。
オール・フォー・ワンの目の前だった。
まるで盤上の駒みたいに。
好きな位置へ動かされた。
男が穏やかに微笑む。
「ようやく話が出来る」
その瞬間。
心の底から思った。
この男が一番面倒だ。
続く。