七武装輪転の転生者は平穏に暮らしたい   作:ポーンδ

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逆鱗

第13話 逆鱗

 

気付けば。

 

オール・フォー・ワンの目の前だった。

 

死柄木もいない。

 

爆豪もいない。

 

黒霧もいない。

 

広い空間。

 

目の前にいるのは。

 

オール・フォー・ワン。

 

そして脳無。

 

それだけだった。

 

「ようやく話が出来る」

 

男が穏やかに言う。

 

七瀬は舌打ちした。

 

本当に面倒だった。

 

「話すことなんかない」

 

「そうかな」

 

「そうだ」

 

即答。

 

だが男は気にしない。

 

むしろ楽しそうだった。

 

「君は優秀だ」

 

「興味ない」

 

「ヒーロー社会では使い切れない才能がある」

 

「興味ない」

 

「もっと上へ行ける」

 

「興味ない」

 

三連続。

 

オール・フォー・ワンは笑った。

 

「頑固だな」

 

その時。

 

男が一枚の写真を床へ落とした。

 

視線が向く。

 

そして止まる。

 

孤児院だった。

 

育った場所。

 

帰る場所。

 

先生達。

 

子供達。

 

全部が写っていた。

 

嫌な予感しかしない。

 

「調査は終わっている」

 

男が言う。

 

「施設」

 

「職員」

 

「子供達」

 

「全員把握している」

 

沈黙。

 

心臓が強く脈打つ。

 

「もし君が協力してくれるなら」

 

男は穏やかに続ける。

 

「彼らには手を出さない」

 

「だが」

 

嫌な予感が確信へ変わる。

 

「断るなら別だ」

 

沈黙。

 

「施設を燃やすことも出来る」

 

「子供達を攫うことも出来る」

 

「私には難しくない」

 

静かな声。

 

まるで。

 

今日の天気でも話すように。

 

自然に。

 

当たり前に。

 

ブツリ。

 

何かが切れた。

 

「黙れ」

 

低い声だった。

 

自分でも驚くほど。

 

低かった。

 

オール・フォー・ワンは笑う。

 

「怒ったか」

 

「黙れ」

 

一歩前へ出る。

 

「園の奴らに触れてみろ」

 

さらに一歩。

 

「殺すぞ」

 

初めてだった。

 

隠しもしない殺意。

 

本気の怒り。

 

その瞬間。

 

既に装着していた怒りの仮面が脈打つ。

 

ドクン。

 

ドクン。

 

ドクン。

 

《怒りの仮面》

 

《闘争本能》

 

出力上昇。

 

床を蹴る。

 

轟音。

 

一瞬で距離を潰す。

 

だが。

 

オール・フォー・ワンは動かない。

 

代わりに。

 

背後の巨大シャッターが開いた。

 

暗闇。

 

そこから現れる。

 

脳無。

 

一体。

 

二体。

 

三体。

 

大型戦闘型。

 

七瀬の拳は脳無へ叩き込まれた。

 

轟ッ!!

 

顔面が吹き飛ぶ。

 

壁へ激突。

 

倉庫全体が揺れる。

 

だが。

 

再生。

 

肉が盛り上がる。

 

骨が繋がる。

 

立ち上がる。

 

「鬱陶しい」

 

本音だった。

 

脳無達が同時に襲い掛かる。

 

迎撃。

 

殴る。

 

砕く。

 

吹き飛ばす。

 

潰す。

 

それでも。

 

再生。

 

終わらない。

 

怒りが蓄積していく。

 

脳無の拳。

 

脇腹へ直撃。

 

吹き飛ぶ。

 

壁へ激突。

 

立ち上がる。

 

次。

 

また次。

 

再び攻撃。

 

傷が増える。

 

疲労も増える。

 

それでも。

 

怒りだけは消えない。

 

オール・フォー・ワンが静かに観察する。

 

「素晴らしい」

 

気持ち悪い。

 

研究対象を見る目だ。

 

本当に。

 

心の底から。

 

嫌いだった。

 

脳無を掴む。

 

投げ飛ばす。

 

別の脳無へ叩き付ける。

 

轟音。

 

クレーター。

 

それでも再生。

 

終わらない。

 

オール・フォー・ワンが呟く。

 

「生命進化」

 

「そう呼ぶには少し違うな」

 

七瀬の動きが僅かに止まる。

 

男は続ける。

 

「爪」

 

「牙」

 

「外骨格」

 

「筋繊維」

 

「神経系」

 

「全て別種の特徴だ」

 

脳無の首を握り潰しながら聞く。

 

「君は全ての遺伝を持っているのか」

 

沈黙。

 

「生命進化ではない」

 

「生命情報への干渉」

 

「あるいは遺伝子そのものの支配」

 

気持ち悪い。

 

本当に。

 

そして。

 

男は笑った。

 

「君で脳無を作りたい」

 

沈黙。

 

殺意が増す。

 

「今までの脳無は失敗作だ」

 

「個性を詰め込んだだけ」

 

「人を継ぎ接ぎしただけ」

 

「だが君は違う」

 

男の目が輝く。

 

「君の遺伝情報」

 

「君の適応能力」

 

「君の個性」

 

「全て手に入れば」

 

そして。

 

「最高傑作が生まれる」

 

ブツリ。

 

完全に切れた。

 

怒り。

 

憎悪。

 

殺意。

 

破壊衝動。

 

全てが混ざる。

 

もう怒りではない。

 

もっと重い。

 

もっと深い。

 

憤怒。

 

怒りの仮面へヒビが入る。

 

一つ。

 

二つ。

 

三つ。

 

止まらない。

 

脳無が迫る。

 

拳を振り上げる。

 

だが。

 

七瀬は動かない。

 

俯いたまま。

 

静かに立っている。

 

オール・フォー・ワンが初めて目を細めた。

 

「ほう」

 

パキッ。

 

仮面が割れる。

 

さらに。

 

パリン。

 

怒りの仮面が砕け散った。

 

黒い破片が床へ降り注ぐ。

 

沈黙。

 

その奥から現れる。

 

深紅。

 

血のような赤。

 

獣の牙を思わせる意匠。

 

禍々しい紋様。

 

《憤怒の仮面》

 

ドクン。

 

心臓が大きく脈打つ。

 

生命進化。

 

発動。

 

骨格が軋む。

 

筋肉が膨張する。

 

皮膚が黒く硬質化する。

 

腕が変質する。

 

爪が伸びる。

 

牙が覗く。

 

背中から黒い棘が形成される。

 

人ではない。

 

怪物。

 

その言葉が一番近かった。

 

だが。

 

理性は残っている。

 

それが一番危険だった。

 

オール・フォー・ワンは静かに笑う。

 

「なるほど」

 

「これが憤怒か」

 

七瀬はゆっくりと顔を上げる。

 

赤黒い瞳。

 

怪物のような姿。

 

そして。

 

今まで以上の殺意。

 

オール・フォー・ワンへ向けて。

 

一歩踏み出した。

 

床が耐え切れず崩壊した。

 

戦いは。

 

ここから本番だった。

 

続く。

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