第2話 空席
退院して数日。
久しぶりの日常だった。
神野は終わった。
オールマイトは引退した。
公安との面倒な話し合いも終わった。
それなのに。
A組は何も変わっていなかった。
「七瀬ぇぇぇ!!」
教室へ飛び込んでくる上鳴。
「退院祝いだ!」
「帰ってくれ」
即答。
「冷たっ!?」
芦戸が笑う。
切島も笑う。
峰田が騒ぐ。
耳郎が呆れる。
いつも通りだった。
神野が嘘みたいに。
平和だった。
七瀬は窓の外を見る。
こういうのでいい。
本当に。
こういうので。
ガラッ。
教室の扉が開く。
一瞬で静かになる。
相澤だった。
「席につけ」
全員が慌てて座る。
相澤は教卓へ向かった。
「今日は仮免許試験について話す」
空気が変わる。
仮免。
ヒーローとして活動するための第一歩。
誰もが欲しい資格だった。
「今年の試験は例年以上に厳しいだろう」
神野。
オールマイト引退。
変化した社会情勢。
説明されなくても理解していた。
今年は特別だ。
その時だった。
教室の扉が勢いよく開いた。
「私が来た!!」
うるさい。
本当に。
オールマイトだった。
「諸君!!」
「仮免許試験へ向け!!」
「必殺技を開発するぞ!!」
教室が沸いた。
「必殺技!?」
「やべぇ!!」
「ヒーローっぽい!!」
上鳴が騒ぐ。
切島が盛り上がる。
芦戸も笑う。
一瞬で教室が祭りになった。
七瀬は一人考える。
必殺技。
無い訳じゃない。
むしろあり過ぎる。
七武装。
どれも必殺技みたいなものだ。
授業中。
訓練場。
エクトプラズムが待っていた。
「さて」
「君の課題だが」
七瀬は首を傾げる。
「必殺技か?」
「違う」
即答だった。
エクトプラズムは資料を開く。
「君の武装はすでに十分強い」
「問題はそこじゃない」
神野の記録が映る。
七瀬は嫌そうな顔をした。
できれば見たくない。
本当に。
「七武装輪転」
「武装が切り替わる度に戦法が大きく変わる」
図星だった。
第一武装。
第二武装。
第三武装。
全部別物。
だから考える。
どう動くか。
何をするか。
その思考が発生する。
エクトプラズムは言う。
「武装を強くする必要はない」
「引いた武装を即座に使えるようにならなければならない」
沈黙。
「それが君の課題だ」
なるほど。
確かに。
問題は武装じゃない。
引いた後だ。
必要な武装を選べない。
なら。
出た武装を最速で使うしかない。
訓練開始。
ルーレット。
第一武装。
即座に構える。
再回転。
第三武装。
即座に対応。
再回転。
第五武装。
反射で動く。
繰り返し。
繰り返し。
そして。
第七武装。
《仮面舞踏会》
賢者。
微笑。
憤怒。
無貌。
悲劇。
怒り。
六つの仮面。
そして。
最後の席。
空席。
最初からそこにあった。
何の仮面か。
分からない。
いつ出るのか。
それも分からない。
エクトプラズムが聞く。
「気になるか」
七瀬は空席を見る。
数秒。
そして首を振った。
「必要になれば出る」
賢者も。
微笑も。
憤怒も。
そうだった。
なら最後もそうだろう。
今は考える必要はない。
仮免が先だった。
翌日。
ホームルーム。
相澤が教壇に立つ。
そして。
一言。
「試験会場へ向かう」
教室の空気が変わる。
いよいよ。
始まる。
時は変わり
仮免試験会場
広い。
それが最初の感想だった。
巨大な施設。
全国から集まったヒーロー科の生徒達。
人数だけでも圧倒される。
見渡す限り。
知らない顔。
知らない学校。
知らない個性。
緑谷が息を呑む。
「すごい……」
無理もなかった。
日本中のヒーロー候補生。
その中へ放り込まれたのだから。
飯田も周囲を見ている。
切島も珍しく緊張していた。
一方で。
爆豪は相変わらずだった。
「雑魚多すぎだろ」
通常運転。
轟も冷静だった。
周囲を観察している。
強そうな相手。
危険な個性。
既に見極め始めていた。
七瀬も周囲を見る。
敵。
敵。
敵。
味方はA組だけ。
後は全員ライバルだ。
その時。
巨大モニターが起動する。
会場が静かになった。
試験官が姿を現す。
ミス・ジョーク。
明るい笑顔。
「みんな元気かなー!!」
沈黙。
誰も返事をしない。
当然だった。
皆緊張している。
だがミス・ジョークは気にしない。
「よし!」
「元気だね!!」
全然元気じゃない。
A組全員がそう思った。
ルール説明が始まる。
首元のターゲットを三つ壊されたら失格。
逆に。
相手のターゲットを壊せばいい。
単純。
だが簡単じゃない。
全国のヒーロー候補生が同じことを考えている。
説明が終わる。
緊張感が増した。
周囲を見れば。
誰もが真剣な顔をしている。
合格したい。
ヒーローになりたい。
その思いは同じだった。
試験がの声が聞こえた
「それじゃあ!」
会場が静まり返る。
全員が息を呑む。
「ヒーロー仮免許試験!!」
沈黙。
一瞬の静寂。
そして。
「始めてください!!」
轟音。
爆発。
炎。
氷。
風。
無数の個性が一斉に解放される。
会場が戦場へ変わる。
緑谷が走る。
爆豪が飛ぶ。
轟が氷を放つ。
全員が動く。
七瀬も静かに息を吐いた。
《七武装輪転》
光輪が現れる。
回転。
回転。
回転。
そして。
止まる。
現れた武装を握る。
運任せ。
いつも通りだった。
第一次選考。
開幕。
続く。