第6話 『普通科の二人』
雄英高校。
日本最高峰のヒーロー育成機関。
そして。
俺ができるだけ関わりたくなかった場所。
◇◇◇
入学式当日。
校門の前で立ち止まる。
巨大な校舎。
大勢の生徒。
騒がしい。
そして何より。
ここには原作キャラが大量にいる。
「帰りたい」
思わず本音が漏れた。
まだ入学もしていないのに。
◇◇◇
もちろん帰れない。
せっかく普通科へ合格したんだ。
ここで逃げる理由はない。
たぶん。
◇◇◇
校内へ入る。
周囲では新入生達が騒いでいた。
緊張。
期待。
不安。
色々あるのだろう。
だが俺は違う。
ただ一つ。
平穏。
それだけが欲しかった。
◇◇◇
入学式が始まる。
壇上には根津校長がいた。
テレビで見たまま。
小柄。
可愛い。
だが騙されない。
原作知識がある俺は知っている。
あの校長がめちゃくちゃ頭の良い化け物だと。
「関わりたくないな……」
心からそう思った。
◇◇◇
式が終了する。
普通科C組。
俺のクラスだ。
教室へ向かう。
席に座る。
窓際。
悪くない。
昼寝もしやすそうだ。
最高である。
◇◇◇
そう思った時だった。
「なあ」
隣から声が聞こえた。
振り返る。
紫色の髪。
眠そうな目。
見覚えがある。
ありすぎる。
「……」
「なんだその顔」
相手が眉をひそめた。
◇◇◇
心操人使。
原作キャラだった。
思わず天井を見上げる。
なんでいる。
いや。
普通科だからいて当然だった。
だが。
関わりたくない。
本当に。
◇◇◇
「聞いてるか?」
「ああ」
返事をする。
心操は少し怪訝そうだった。
「お前、入試何位だった?」
「知らない」
「は?」
「見てない」
興味がなかった。
合格だけ確認した。
それで十分だった。
◇◇◇
「変な奴だな」
心操が言う。
「よく言われる」
「俺もだ」
短いやり取り。
だが不思議だった。
話しやすい。
余計な気遣いがいらない。
◇◇◇
「ヒーロー科落ちか?」
心操が聞いてくる。
「最初から普通科だ」
「は?」
今度は本気で驚いていた。
◇◇◇
「なんで?」
「平穏に生きたい」
即答だった。
沈黙。
数秒。
そして。
「意味分からん」
心操が真顔で言った。
◇◇◇
当然だった。
普通の人間ならヒーロー科を目指す。
雄英ならなおさらだ。
だが俺は違う。
原作を知っている。
だからヒーロー科がどれだけ危険か分かっている。
絶対に近付きたくない。
◇◇◇
昼休み。
窓際で弁当を食べる。
静かだった。
実に良い。
こういうのでいい。
◇◇◇
「また一人か」
心操がやって来た。
いつの間にか隣へ座る。
「そういうお前もだろ」
「否定はしない」
それはそうだ。
◇◇◇
しばらく無言。
やがて心操が口を開く。
「なあ」
「なんだ」
「本当にヒーロー興味ないのか?」
「ない」
即答だった。
◇◇◇
心操が呆れた顔をする。
「雄英まで来て?」
「ああ」
「もったいなくないか?」
「全然」
本心だった。
俺にとって重要なのは平穏。
ヒーローは目標じゃない。
◇◇◇
「変わってるな」
「そうかもな」
否定はしない。
普通じゃない自覚はある。
◇◇◇
放課後。
帰り道。
校門を出た瞬間。
少しだけ肩の力が抜けた。
やっぱり学校は疲れる。
人が多い。
騒がしい。
平穏じゃない。
◇◇◇
しばらく歩く。
そして。
見慣れた建物が見えてきた。
ひなたの家。
帰る場所。
◇◇◇
門を開ける。
次の瞬間。
「お兄ちゃーん!」
子供達が飛び付いてきた。
「雄英どうだった!?」
「友達できた!?」
「ヒーロー見た!?」
質問攻めだった。
◇◇◇
「一人できたな」
そう答える。
すると。
「本当!?」
「お兄ちゃんに!?」
「奇跡だ!」
失礼すぎる。
◇◇◇
庭へ向かう。
そこには木刀を振るアルトリアの姿があった。
「おかえりなさい」
「ただいま」
いつもの会話。
それだけで少し安心する。
◇◇◇
「学校はどうでしたか?」
「普通だった」
「友人は?」
「一人できた」
アルトリアが少し笑う。
「良かったですね」
「そうか?」
「そうです」
即答だった。
◇◇◇
その時。
「刃人さん」
ナイチンゲールが現れる。
白衣姿だった。
相変わらずだ。
◇◇◇
「学校生活はどうですか?」
「普通」
「昼食は?」
「食べた」
「睡眠時間は?」
「寝た」
「本当ですか?」
「多分」
◇◇◇
ナイチンゲールがため息を吐いた。
完全に信用されていない。
心外だった。
たぶん。
◇◇◇
夕方。
縁側に座る。
今日も平和だった。
事件もない。
戦闘もない。
ヴィランもいない。
実に素晴らしい。
◇◇◇
「悪くないな」
小さく呟く。
普通科。
心操との出会い。
孤児院への帰宅。
今のところ完璧だった。
◇◇◇
このまま三年間。
静かに過ごせばいい。
目立たない。
関わらない。
巻き込まれない。
それだけでいい。
そう思っていた。
◇◇◇
だが。
俺は知っている。
もうすぐ始まる。
原作が。
USJ襲撃事件。
ヴィラン連合。
死柄木弔。
そして。
オール・フォー・ワンへ繋がる全ての始まり。
◇◇◇
関わりたくない。
本当に関わりたくない。
頼むから普通科には来ないでくれ。
心の底からそう願う。
しかし。
残念ながら。
運命は俺の願いを聞いてくれるほど優しくなかった。
数日後。
雄英高校を揺るがす最初の事件が始まることになる。
第6話 完