第4話 第二試験
第一次試験終了。
合格者達は次の会場へ集められていた。
移動する受験者達の表情は様々だ。
安堵。
疲労。
警戒。
そして緊張。
誰もが理解していた。
まだ終わっていない。
仮免許試験は続く。
その中を。
七瀬は一人で歩いていた。
手には白い猫面。
《観測者》。
つい先程まで使っていた仮面だった。
そして。
カチリ。
小さな音が鳴る。
猫面に亀裂が走った。
「なんだ?」
七瀬が見つめる。
次の瞬間。
パリン。
仮面は光となって砕け散った。
白い光の粒が空中へ溶けていく。
そして。
最後の情報が頭の中へ流れ込んできた。
《観測者の仮面》
リンカーネイションの花弁に出てくる能力
猫は選択者。
世界には数万を超える無数の可能性が存在する。
人は常に選択を繰り返している。
進むか。
退くか。
戦うか。
逃げるか。
成功するか。
失敗するか。
全ては可能性がいくつもに分岐したものである。
《観測者》はそれを観測する。
そして。
可能性の中から望んだ結果を選択する。
一%でも。
〇・一%でも。
可能性が存在するなら。
その結果へ到達できる。
攻撃が外れる可能性があるなら外れる。
相手が躊躇う可能性があるなら躊躇う。
誰かがこちらを見失う可能性があるなら見失う。
可能性は結果となる。
ただし。
不可能は選択できない。
可能性が存在しない結果には辿り着けない。
また。
可能性が低いほど結果は不安定になる。
万能ではない。
絶対でもない。
それでも。
可能性がある限り。
《観測者》はその結果へ手を伸ばす。
猫は選択者。
観測とは結果の選択である。
情報が途切れる。
静寂。
七瀬は数秒考えた。
そして。
「なるほど」
頷く。
理解した。
多分。
完全ではないが。
何となく理解した。
強い能力だった。
かなり。
いや。
相当強い。
思い返せば。
受験者達の様子も妙だった。
途中から誰も近寄らなくなった。
攻撃も鈍った。
何となく距離を取られていた。
理由はこれだったらしい。
そして。
七瀬はもう一つ思い出す。
シュレーディンガーの猫。
観測。
毒ガス。
量子力学。
受験者達の困惑顔。
沈黙。
総ツッコミ。
「……」
少し恥ずかしくなった。
「あれは失敗だったな」
小さく呟く。
何故あんな話をしたのか。
今でもよく分からない。
きっと仮面の影響だった。
多分。
そういうことにしておく。
その時だった。
「おい」
声が聞こえる。
振り向く。
受験者が数人。
こちらを見ていた。
そして。
一人が言った。
「あ」
「猫の人だ」
沈黙。
別の受験者も振り向く。
「マジだ」
「猫の人じゃん」
「いた」
「猫の人だ」
七瀬はだいぶ傷付いた。
名前ではなくなっていた。
完全に猫の人になっている。
「今回は意味がわからない話しないよな?」
一人が聞く。
「しないと思う」
七瀬は真面目に答える。
「思う?」
「多分」
「多分かよ!」
周囲からツッコミが飛んだ。
何故か警戒されていた。
納得がいかない。
そのまま会場へ到着する。
巨大なホール。
そこには第一次試験合格者が集められていた。
百名近い生徒達。
雄英。
士傑。
傑物。
全国各地のヒーロー科。
実力者ばかり。
やがて。
前方へ一人の女性が現れる。
黒いスーツ。
ヒーロー公安委員会の職員だった。
会場が静まり返る。
女性は資料を開く。
「第一次試験を突破した皆様」
「おめでとうございます」
淡々とした声。
しかし。
誰も緩まない。
むしろ空気が引き締まる。
女性は続けた。
「これより第二試験の説明を行います」
大型モニターが起動する。
映し出されたのは。
崩壊した街だった。
倒壊したビル。
瓦礫。
煙。
炎。
そして。
負傷者達。
ざわめきが広がる。
「第二試験は救助試験です」
受験者達の表情が変わる。
戦闘ではない。
救助。
ヒーローの本分。
最も重要な仕事。
「皆様にはヒーローが来るまでに被災地で」
「負傷者の救助」
「避難誘導」
「状況把握を行って頂きます」
モニターへ次々に映像が映る。
泣いている子供。
怪我人。
動けなくなった高齢者。
混乱する避難民。
「救助対象は皆様を観察しています」
「行動」
「判断」
「態度」
「言葉遣い」
「全てが採点対象です」
完全に空気が変わる。
力だけでは通用しない。
ヒーローとしての在り方を見られる試験。
それが第二試験だった。
「なお」
女性が続ける。
「試験中には追加状況が発生する可能性があります」
受験者達が真剣な表情になる。
「常に状況変化を想定してください」
説明が終わる。
静寂。
そして。
女性が資料を閉じた。
「それでは」
全員が前を見る。
「第二試験を開始します」
サイレンが鳴る。
重い音が響く。
巨大なゲートがゆっくり開いていく。
崩壊都市。
災害現場。
無数の救助対象。
まるで神野をイメージしているようだ。
そして。
百名のヒーロー候補生達。
七瀬は前を見た。
戦う試験ではない。
助ける試験だ。
それでも。
やることは変わらない。
目の前の問題を解決するだけ。
「行くか」
小さく呟く。
そして。
第二試験の会場へ足を踏み入れた。
第4話へ続く。