七武装輪転の転生者は平穏に暮らしたい   作:ポーンδ

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第66話

第1話 七武装の七瀬

 

『特集! 雄英高校に現れた新たなる怪物!』

 

 朝から響いた大げさな声に、七瀬刃人は読んでいた本から顔を上げた。

 

 A組寮の共有スペースに設置されたテレビ。その画面いっぱいに、自分の顔が映されている。

 

 正確には、雄英体育祭で轟焦凍と向かい合っている時の映像だった。

 

『雄英体育祭では、飯田天哉選手、八百万百選手、爆豪勝己選手、轟焦凍選手を次々と撃破! 普通科所属ながら、ヒーロー科の強豪を退けました!』

 

「朝からうるさいな」

 

 刃人は興味を失い、再び本へ視線を落とした。

 

 目立ちたくて戦ったわけではない。

 

 孤児院の子供たちと交わした、優勝するという約束。それを守っただけだ。

 

 しかし、世間はそんな事情など知らない。彼らが見るのは結果だけであり、その結果へ好き勝手な意味を付け加える。

 

「あっ、七瀬君の特集だ!」

 

 共有スペースへ入ってきた緑谷が、テレビと刃人を交互に見る。その後ろから麗日や上鳴たちも集まってきた。

 

『職場体験では、これまでに確認された個体を大きく上回る、極めて強力な脳無と交戦! 被害の拡大を防いだとも報告されています!』

 

 画面には規制線に囲まれた現場と、遠巻きに撮影された刃人の姿が映った。

 

 あの脳無が何を基準に製造されたものなのか、世間はまだ知らない。当然、報道機関も正確な分類などできるはずがない。

 

 だからこそ、情報は曖昧に処理されていた。

 

「改めて聞くと、やってることがおかしいよな」

 

 上鳴が率直な感想を口にする。

 

「成り行きだ」

 

「成り行きで、そんな脳無を倒せる人はいないと思うな」

 

 いつの間にかソファに座っていた尾白が、眠そうな顔で突っ込んだ。

 

 書類上、刃人は普通科C組に所属している。

 

 だが、実際の生活拠点はA組の寮だ。授業や訓練でもA組と行動する機会が多く、今では誰も彼が共有スペースにいることを不思議に思わない。

 

 自分でも、妙な立場だと思う。

 

 普通科でありながら、普通科らしい生活をしていない。それでいて、ヒーロー科の生徒になったつもりもない。

 

 その中途半端な立場は、刃人にとって都合がよかったはずだった。

 

 少なくとも、神野までは。

 

『そして、七瀬選手の名を全国に知らしめたのが神野事件です』

 

 番組の雰囲気が変わった。

 

 画面に映し出されたのは、大きく崩壊した神野区の映像。

 

 その中心には、黒と白の双銃を手にした刃人の姿があった。

 

『敵連合に拉致された七瀬選手は、オール・フォー・ワンと交戦。詳細は公表されていませんが、オールマイト到着以前に、オール・フォー・ワンへ甚大な損傷を与えたとされています』

 

 共有スペースが静かになる。

 

 あの場にいなかった者たちも、神野で何が起きたのかは聞いている。ただし、その全容を知る者は少ない。

 

「随分と都合よく編集しているな」

 

 刃人は淡々と呟いた。

 

 甚大な損傷。

 

 なんとも便利な表現だ。

 

 実際には、《双銃・崩壊と再生》によってオール・フォー・ワンを戦闘不能に追い込んだ。

 

 だが、そんな事実を公表すれば、新たな問題が生まれる。

 

 十五歳の少年が、長年にわたって裏社会に君臨してきた怪物を倒した。その事実を知った者たちは、刃人を英雄として期待するか、制御不能な兵器として恐れるだろう。

 

 どちらも御免だった。

 

 英雄になりたいわけではない。

 

 兵器として扱われるつもりもない。

 

 望んでいるのは、ただ静かに本を読み、孤児院の子供たちと過ごし、信頼できる者たちとくだらない会話をする生活だけだ。

 

 それだけの願いが、なぜこうも遠いのか。

 

『先日の仮免許試験においても、七瀬選手は単独で救助活動を続け、極めて高い評価を獲得したとされています』

 

 映像が切り替わる。

 

 瓦礫を撤去する刃人。

 

 負傷者を抱えて運ぶ刃人。

 

 救護所の設営を手伝う刃人。

 

 どれも撮影された覚えはなかった。

 

「七瀬君、すごくヒーローらしいね!」

 

 麗日が感心したように言った。

 

「試験だからやっただけだ」

 

 救助対象を放置すれば減点される。だから効率よく救助した。

 

 刃人にとっては、それだけの話だった。

 

「それでも、あれだけの人数を一人で救助するのはすごいよ!」

 

 緑谷まで目を輝かせ始める。

 

 その純粋な眼差しが、刃人には少し眩しかった。

 

 緑谷は本心から人を救いたいと思っている。理由も損得も関係なく、誰かのために体を動かせる。

 

 自分には理解できない生き方だ。

 

 同時に、自分にはできないからこそ、信頼できるとも思っていた。

 

『街の皆さんにも話を聞きました!』

 

『次のオールマイトになれるんじゃないですか?』

 

『強くて格好いいと思います!』

 

『でも、少し怖いですね。あの個性、本当にヒーローが持っていていいんでしょうか』

 

『敵になったら、誰が止められるんですか?』

 

 刃人の足が止まった。

 

 称賛、期待、憧れ。

 

 そして、恐怖。

 

 どれも勝手な評価だと思う。

 

 だが、恐怖を抱く者の意見を否定する気にもなれなかった。自分の個性が危険であることは、誰よりも自分が理解している。

 

 武装の一つが違えば、救助者にも破壊者にもなれる。

 

 神野で引き当てた双銃なら、街一つを消し飛ばすことさえ不可能ではない。

 

 そんな力を持つ人間を恐れるなと言う方が無理だろう。

 

 だからこそ、刃人は目立ちたくなかった。

 

 力を示せば期待される。

 

 期待に応えれば利用される。

 

 拒絶すれば危険視される。

 

 どの道を選んでも、平穏から遠ざかっていく。

 

「ネットでもすごいぞ」

 

 上鳴がスマートフォンを見せてくる。

 

「『普通科の怪物』『七武装の七瀬』『次世代最強候補』だってよ」

 

「最後のは余計だ」

 

「こっちは『国が管理すべき危険人物』だとさ」

 

「それはもうされている」

 

「え?」

 

「何でもない」

 

 刃人は誤魔化すようにキッチンへ向かった。

 

 冷蔵庫から水を取り出したところで、寮の玄関から足音が聞こえてくる。

 

 直後、相澤が共有スペースへ入ってきた。その手には、場違いなほど整った白い封筒が握られている。

 

「七瀬、話がある」

 

「断る」

 

「まだ何も言っていない」

 

「その封筒を見れば十分だ」

 

 相澤は否定しなかった。

 

 嫌な予感が確信へ変わる。

 

「公安からだ」

 

 差し出された封筒の表には、七瀬刃人の名前だけが記されていた。差出人も用件も書かれていない。

 

「仮免を取得したお前と、今後の活動について話し合いたいそうだ」

 

「話し合い、か」

 

 刃人は封筒を受け取り、その言葉を頭の中で反芻した。

 

 公安が自分と対等に話し合うとは思えない。

 

 協力という名前の命令。

 

 要請という形をした脅迫。

 

 拒絶すれば、自分の周囲へ手を伸ばしてくるかもしれない。

 

「行かなかった場合は?」

 

「向こうから来るだろうな」

 

「最悪だ」

 

 自分だけの問題なら無視できる。

 

 だが、公安が孤児院やアルトリア、ナイチンゲール、心操たちへ接触する可能性がある以上、放置することはできない。

 

 胸の奥に冷たいものが広がっていく。

 

 怒りではない。

 

 恐怖でもない。

 

 大切なものへ手を伸ばそうとする存在を、どう排除するか。そのための思考が、静かに回り始めただけだ。

 

「随分と嫌そうだね」

 

 尾白が言った。

 

「実際、嫌だからな」

 

「相手は公安だぞ。大丈夫なのか?」

 

 刃人は封筒を片手で弄びながら、テレビへ視線を向けた。

 

 画面の中では、専門家を名乗る者たちが七瀬刃人の危険性について議論している。

 

 国が管理すべきだ。

 

 正しく教育すべきだ。

 

 ヒーローとして社会に貢献させるべきだ。

 

 勝手な話だ。

 

 自分の人生を、自分以外の誰かが所有しているように語っている。

 

「問題ない」

 

 刃人は静かに答えた。

 

 公安が、自分を脅せば従うと考えているのなら。

 

 それは大きな間違いだ。

 

 正義の名の下に行われてきた、表へ出せない仕事。

 

 存在を消された者たち。

 

 英雄を作り上げるため、その陰で処理されてきた不都合な事実。

 

 刃人は、それを知っている。

 

 原作で語られた知識が、この世界でも完全に同じとは限らない。それでも、公安という組織の本質まで変わっているとは思えなかった。

 

 確認する方法はいくらでもある。

 

 何より、相手には刃人がどこまで知っているのか判断できない。

 

「脅す相手を間違えたことくらいは、教えてやる」

 

 守りたいのは世界ではない。

 

 自分の居場所だけだ。

 

 その居場所へ手を伸ばそうというのなら、たとえ相手が国家であっても、引き下がる理由はなかった。




今日からまた投稿再開します。
ペースはだいぶ遅くなりますが・・・・
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