第7話 『USJ』
雄英へ入学して数日。
今のところ。
驚くほど平和だった。
◇◇◇
普通科。
最高だった。
本当に最高だった。
ヒーロー科のような戦闘訓練もない。
爆発もない。
叫び声もない。
ヴィランもいない。
俺が求めていた環境にかなり近い。
◇◇◇
「何笑ってんだ」
昼休み。
心操が気味悪そうに言った。
「笑ってない」
「笑ってる」
「気のせいだ」
笑っていたかもしれない。
仕方ない。
平穏だから。
◇◇◇
窓の外を見る。
ヒーロー科が授業を受けていた。
爆豪が騒ぎ。
緑谷が何かを書き込み。
他の連中も走り回っている。
大変そうだ。
本当に。
◇◇◇
「見てるな」
心操が言う。
「別に」
「羨ましいか?」
「全く」
即答だった。
◇◇◇
ヒーロー科。
原作の中心。
つまり危険地帯。
俺からしたら近寄りたくもない。
だから現状には満足していた。
今のところは。
◇◇◇
その日の昼。
校内放送が流れる。
『ヒーロー科一年は本日の救助訓練へ向かいます』
聞き覚えがあった。
いや。
ありすぎた。
◇◇◇
救助訓練。
USJ。
そして。
ヴィラン連合。
◇◇◇
「…………」
思わず動きが止まる。
嫌な予感ではない。
知っている。
起きる。
確実に。
今日だ。
◇◇◇
「どうした?」
心操が気付いたらしい。
「いや」
首を振る。
言えるわけがない。
今日ヴィランが襲撃してくる。
なんて。
◇◇◇
落ち着け。
関係ない。
俺は普通科だ。
ヒーロー科ではない。
USJにもいない。
つまり巻き込まれない。
問題ない。
大丈夫。
そう自分へ言い聞かせる。
◇◇◇
放課後。
学校の空気がおかしかった。
教師が走り回っている。
職員室付近が騒がしい。
明らかに何か起きている。
◇◇◇
「やっぱり何かあったな」
心操が言った。
「そうだな」
短く答える。
未来を知っているから分かる。
もう始まっている。
◇◇◇
帰宅後。
夕食。
テレビがついていた。
臨時ニュース。
ニュースキャスターの表情が険しい。
そして。
画面に映った。
USJ。
◇◇◇
『本日、雄英高校の訓練施設USJにてヴィラン集団による襲撃事件が発生しました』
やっぱりか。
◇◇◇
ため息が出る。
原作通り。
死柄木弔。
黒霧。
脳無。
全部始まった。
◇◇◇
「大丈夫でしょうか……」
子供達が不安そうに画面を見ている。
当然だ。
ヒーローを育てる学校が襲われた。
怖くないわけがない。
◇◇◇
「お兄ちゃん」
小さな女の子が聞いてくる。
「雄英って危ないの?」
返答に困った。
◇◇◇
危ない。
めちゃくちゃ危ない。
これからもっと危なくなる。
だが。
そんなことは言えない。
◇◇◇
「大丈夫だ」
そう答えた。
「先生達もいるからな」
嘘ではない。
実際にオールマイト達が解決する。
知っている。
だから言えた。
◇◇◇
ニュースは続く。
やがて。
画面に映る。
白髪。
大量の手。
死柄木弔。
◇◇◇
「……」
初めて見る。
漫画では見た。
アニメでも見た。
だが。
現実で見ると違う。
◇◇◇
不気味だった。
ただただ不気味だった。
◇◇◇
さらに。
隣には黒い霧。
黒霧。
俺の知識が正しければ。
ワープ能力。
厄介極まりない。
◇◇◇
「嫌だな」
思わず呟く。
「何がですか?」
アルトリアが聞いてきた。
◇◇◇
少しだけ考える。
死柄木か。
違う。
黒霧か。
違う。
もっと嫌なのがいる。
◇◇◇
オール・フォー・ワン。
◇◇◇
まだ表には出ていない。
だが。
確実に存在している。
この世界で一番会いたくない男。
◇◇◇
「ヴィランがだ」
そう答えた。
半分本当で。
半分嘘だった。
◇◇◇
夜。
縁側。
一人で空を見上げる。
静かだった。
孤児院は平和だ。
子供達も寝ている。
アルトリアもいる。
ナイチンゲールもいる。
院長もいる。
◇◇◇
守りたい。
改めて思った。
この場所だけは。
◇◇◇
だから。
関わりたくない。
ヴィランも。
原作も。
戦いも。
全部。
◇◇◇
「刃人」
振り向く。
アルトリアだった。
◇◇◇
「考え事ですか?」
「ああ」
「USJ事件ですか?」
「少しな」
◇◇◇
アルトリアはしばらく黙る。
やがて言った。
「怖いですか?」
◇◇◇
怖い。
その一言では足りない。
未来を知っているからこそ。
これから何人も傷付くことを知っているからこそ。
怖い。
◇◇◇
だが。
俺はそれを口にしなかった。
代わりに。
小さく笑う。
「面倒だと思ってる」
本音だった。
◇◇◇
アルトリアが苦笑する。
「あなたらしいですね」
そうだろう。
たぶん。
◇◇◇
空を見上げる。
USJ事件は終わる。
だが。
始まりでもある。
ヴィラン連合。
オール・フォー・ワン。
そして。
数年後の戦争へ続く全ての始まり。
◇◇◇
関わりたくない。
本当に。
心の底から。
◇◇◇
だが。
その願いはきっと叶わない。
そんな予感だけがあった。
静かな夜空を見上げながら。
俺は小さくため息を吐いた。
「平穏って難しいな……」
第7話 完