七武装輪転の転生者は平穏に暮らしたい   作:ポーンδ

9 / 37
体育祭編
雄英体育祭


第9話 『雄英体育祭』

 

体育祭当日。

 

朝。

 

目を覚ました瞬間。

 

思った。

 

「帰りたい」

 

本心だった。

 

◇◇◇

 

理由は簡単。

 

目立つからだ。

 

雄英体育祭。

 

全国放送。

 

プロヒーロー。

 

報道陣。

 

観客。

 

つまり。

 

平穏の天敵だった。

 

◇◇◇

 

「お兄ちゃーん!」

 

部屋のドアが開く。

 

子供達だった。

 

嫌な予感しかしない。

 

◇◇◇

 

「頑張ってね!」

 

「優勝して!」

 

「応援するから!」

 

朝から凄かった。

 

期待が重い。

 

非常に重い。

 

◇◇◇

 

「だから優勝は無理だって」

 

「できる!」

 

即答だった。

 

なんだろう。

 

この根拠のない信頼は。

 

◇◇◇

 

朝食。

 

院長が笑っている。

 

アルトリアもいる。

 

ナイチンゲールもいる。

 

全員楽しそうだった。

 

◇◇◇

 

「刃人」

 

院長が声をかける。

 

「なんだ」

 

「頑張ってこい」

 

「気が重い」

 

本音だった。

 

◇◇◇

 

院長は苦笑する。

 

「分かってる」

 

「だが」

 

少しだけ真面目な顔になる。

 

「ひなたの家のみんながお前を応援してる」

 

◇◇◇

 

言葉に詰まった。

 

ズルいと思う。

 

本当に。

 

◇◇◇

 

「別に優勝しなくていい」

 

院長は続ける。

 

「ただ」

 

優しい声だった。

 

「胸を張れるようにやってこい」

 

◇◇◇

 

朝倉春人。

 

俺にとって父親みたいな人だ。

 

だから弱い。

 

こういう言葉に。

 

◇◇◇

 

「分かった」

 

短く答える。

 

院長は満足そうに頷いた。

 

◇◇◇

 

雄英高校。

 

観客席は既に人で埋まっていた。

 

凄まじい熱気。

 

歓声。

 

報道カメラ。

 

◇◇◇

 

「最悪だな……」

 

思わず呟く。

 

「始まる前からか」

 

隣の心操が呆れていた。

 

◇◇◇

 

「帰りたい」

 

「無理だろ」

 

「知ってる」

 

◇◇◇

 

選手控室へ入る。

 

普通科。

 

サポート科。

 

経営科。

 

ヒーロー科。

 

全学科の生徒が集まっていた。

 

◇◇◇

 

周囲は騒がしい。

 

USJ事件の影響もある。

 

視線の多くがヒーロー科へ向いていた。

 

◇◇◇

 

不満。

 

嫉妬。

 

羨望。

 

色々混ざっている。

 

◇◇◇

 

「大変そうだな」

 

思わず呟く。

 

「他人事だな」

 

心操が言う。

 

「他人事だからな」

 

少なくとも今は。

 

◇◇◇

 

やがて。

 

全選手が競技場へ出る。

 

歓声が響いた。

 

大歓声。

 

耳が痛い。

 

◇◇◇

 

観客席へ目を向ける。

 

いた。

 

孤児院のみんなだ。

 

子供達。

 

院長。

 

アルトリア。

 

ナイチンゲール。

 

全員手を振っている。

 

◇◇◇

 

なんとなく。

 

胸の奥が温かくなった。

 

◇◇◇

 

その瞬間。

 

理解する。

 

◇◇◇

 

俺は優勝したいわけじゃない。

 

有名になりたいわけでもない。

 

ヒーローになりたいわけでもない。

 

◇◇◇

 

だが。

 

あの人達を喜ばせたいとは思っている。

 

◇◇◇

 

孤児院は居場所だ。

 

大切な場所だ。

 

だから。

 

少しだけ。

 

本当に少しだけ。

 

頑張ってもいいかもしれない。

 

◇◇◇

 

『さぁ始まるぜェェェ!!』

 

プレゼント・マイクの声が会場へ響く。

 

体育祭が開幕する。

 

◇◇◇

 

第一種目。

 

障害物競走。

 

原作通り。

 

ここから始まる。

 

◇◇◇

 

生徒達がスタート地点へ並ぶ。

 

俺も列へ加わる。

 

心操は少し離れた場所にいた。

 

目が合う。

 

◇◇◇

 

「負けるなよ」

 

心操が言った。

 

◇◇◇

 

少し意外だった。

 

◇◇◇

 

「お前もな」

 

そう返す。

 

心操が少しだけ笑った。

 

◇◇◇

 

悪くない。

 

こういうの。

 

◇◇◇

 

『On your mark!!』

 

空気が張り詰める。

 

◇◇◇

 

深呼吸する。

 

本気を出す理由はある。

 

孤児院のため。

 

あの場所のため。

 

それだけで十分だった。

 

◇◇◇

 

『START!!!』

 

号砲が鳴った。

 

生徒達が一斉に飛び出す。

 

俺も地面を蹴る。

 

そして。

 

個性を発動した。

 

◇◇◇

 

金色のルーレットが現れる。

 

高速回転。

 

カラカラと音を立てながら回る。

 

◇◇◇

 

頼む。

 

移動向きで来てくれ。

 

本気でそう思う。

 

◇◇◇

 

ルーレットが止まる。

 

表示された数字は――

 

『3』

 

◇◇◇

 

光が溢れる。

 

右手に現れたのは。

 

一本の釣竿だった。

 

◇◇◇

 

《深海の釣竿》

 

◇◇◇

 

沈黙。

 

◇◇◇

 

「終わったな」

 

思わず呟いた。

 

レース開始早々だった。

 

◇◇◇

 

だが。

 

止まるわけにはいかない。

 

あの子達が見ている。

 

院長も。

 

アルトリアも。

 

ナイチンゲールも。

 

◇◇◇

 

だから走る。

 

たとえ手にあるのが。

 

どう見てもレース向きじゃない釣竿だったとしても。

 

◇◇◇

 

雄英体育祭。

 

障害物競走。

 

七瀬刃人の戦いが始まった。

 

第9話 完

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。