境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド 作:ターミナル カフェ
・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。
・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。
・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。
・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。
・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。
以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。
第一話「最後の日常」
境界記録帯――ゴーストライナー。魔術師が使役する使い魔でも、単純な兵器でもない。それは人類史に刻まれた現象や、人々の祈りと記憶に形を与え、必要とあらば歴史そのものの側から呼び起こされる存在だ。人類史を守るために働く抑止の力、その尖兵として現れる守護者、そして英霊という名で語り継がれる者たち。彼らは時としてサーヴァントとして召喚され、人理を脅かすものへ立ち向かう。
――だが、これは人理を二度救った英雄たちの物語ではない。これは、その英雄たちの子供が、失われた記憶と英霊の残響を抱えながら、石と科学の世界を歩き始めるまでの物語だ。
【達人side】
子供のころから、俺の頭にはときどき、自分が経験したはずのない光景が浮かぶことがあった。剣を握り、怪物へ立ち向かう勇者が、戦場では一歩も退かないくせに愛した相手の前では情けないほど慌てている姿。花の咲かない冥界で、誰かから受け取った花束を大切そうに抱えて微笑む女神。灼けるような陽射しの中、槍と盾を構えながら豪快に笑う大男――どれも知らない。知らないはずなのに、胸のどこかが「知っている」と訴えてくる。
夢だと片づけるには妙に鮮明で、記憶だと認めるには俺の人生から遠すぎる。小さいころは母さんに話したこともあったが、母さんは困ったように笑いながら、ただ俺の頭を撫でてくれた。その手の温かさだけは、今でもはっきり覚えている。
――あの日もそうだった。父さんと母さんは、何も説明しないまま俺と涼音を強く抱きしめた。明日も普通に帰ってくる人間の抱き方じゃない、と子供心にも分かった。俺は理由を聞けなかったし、二人も答えなかった。それから両親は姿を消した。どこへ行ったのか、何をしに行ったのか、本当は何かを知っていたような気がするのに、そこへ手を伸ばそうとすると記憶だけが白く霞む。
(……母さん。約束するよ)
俺は何度も心の中で繰り返してきた。涼音は俺が守る。あの日、言葉にしなくても託されたような気がしたからだ。
――ピピピピピ。
けたたましいアラーム音で意識が現実へ引き戻された。薄く目を開けば、見慣れた自室の天井。窓から差し込む朝日を見て、俺は小さく息を吐いた。夢の余韻は残っているが、学校が待ってくれるわけじゃない。ベッドから抜け出し、顔を洗うと、そのまま一階のキッチンへ向かった。
両親がいなくなってから、朝食はだいたい俺の担当だ。コーンポタージュを温め、ソーセージを焼き、パンを皿へ並べる。目玉焼きだけは涼音が起きてからだ。以前、うっかり両面をしっかり焼いたら「黄身が固い!」と三日くらい言われ続けた。あいつは食べ物の恨みを妙に覚えている。
二階から、ドタドタと床を踏み鳴らす音がした。数秒後、黒髪に紫がかったピンクのメッシュを入れた少女が、寝癖を直しきれないまま階段を駆け下りてくる。
「お兄ちゃん! アラーム鳴ってたなら起こしてよ!」
「自分のアラームだろ。俺が責任持つ部分じゃない」
「妹を起こすくらい、お兄ちゃん業務に入ってるでしょ!」
「いつからそんな業務契約結んだんだよ。で、目玉焼きは?」
「半熟。この前の両面焼きの件、まだ忘れてないから」
「やっぱり根に持ってんじゃねぇか」
文句を言いながらも、涼音は椅子へ座り、ポタージュの匂いに満足そうな顔をした。こういう何でもない朝のやり取りが、両親がいなくなってからの俺たちの日常になっている。広すぎる家で兄妹二人暮らし。三階の一部は両親が仕事場として使っていた倉庫になっているが、俺たちはほとんど触れていない。何かを探そうとすると、なぜか踏み込んではいけないような感覚が胸をよぎるからだ。
朝食を終え、制服に着替える。玄関へ向かう途中、リビングに置いてある両親の写真の前で自然と足が止まった。写真の中では、父さんも母さんも何も知らないような顔で笑っている。
「行ってきます」
「行ってきまーす!」
返事はない。それでも、言わずに家を出る気にはなれなかった。
通学路を歩いていると、前方からやたらと大きな声が飛んできた。
「おおぉ! 藤丸兄妹! おはよう!」
振り向かなくても分かる。体格のいい先輩――大木大樹先輩だ。見た目通りの体力と声量を持ち、考えるより先に全力で動くタイプだが、面倒見がよく、俺たち兄妹も何かと世話になっている。
「おはようございます、大樹先輩」
「おはよーございまーす!」
「杠はもう少しで合流する! ……それより聞いてくれ、達人!」
声の調子だけで、何を言いたいか大体分かった。大樹先輩が何年も小川杠先輩を好きなのは、本人が隠しているつもりでも周囲にはほぼ筒抜けだ。
「告白するなら、高校生のうちの方が傷は浅いですよ」
「振られる前提で言うなあぁ! というか、分かってたのか!?」
「まあ、なんとなく」
「なんとなくで五年間の想いを見抜くな!」
涼音が横で吹き出した。大樹先輩は声はデカいが、とてもいい人だ。涼音とも妙に波長が合うらしく、学校ではなぜか涼音が「アイドル」扱いされていることまで面白がっている。
少し歩いたところで杠先輩とも合流した。大樹先輩は途端に分かりやすく挙動不審になり、俺と涼音は顔を見合わせて笑いを堪える。空は青く、街はいつも通り騒がしく、コンビニからは新商品の広告が流れ、横断歩道では通勤中の人たちが信号を待っていた。
昨日までと同じ朝。今日が終われば、また明日が来る。そんな当たり前を疑う理由なんて、どこにもなかった。
だから、この時の俺はまだ知らない。
この通学路を、四人で歩くのが最後になることも。学校で交わす何気ない会話が、三千七百年という時間の向こう側へ置き去りにされることも。
そして――俺たち兄妹の中に眠る「記憶」が、もうすぐ目を覚まし始めることも。
駅前を抜ける時、涼音がコンビニの新作スイーツのポスターを見て足を止めかけ、大樹先輩に「遅刻するぞ!」と急かされていた。俺はそんな三人の背中を見ながら、今日も変わらない一日が始まるのだと思っていた。帰りに買い物をして、家に戻れば夕飯を作り、涼音が宿題を放り出していれば文句を言う。そんな面倒で平凡な日々が、この先も続くものだと疑っていなかった。
振り返れば、何も特別ではない朝だった。だからこそ、その平凡さが後になって何より大切な記憶になる。
その時の俺にとって未来とは、せいぜい次のテストや部活、夕飯の献立くらいの距離にあるものだった。何千年も先の世界なんて想像したことすらない。まして、自分と涼音だけがそこへ放り出されるなど、冗談として考える理由さえなかった。
校門が見え始めると、いつもの登校風景がさらに濃くなっていった。部活の朝練へ急ぐ生徒、眠そうにあくびをしながら友人と歩く生徒、教師に呼び止められて慌てる生徒。俺たちも、その中の一組にすぎない。特別な使命も、世界を背負う理由もない。ただ学校へ行って、授業を受け、くだらないことで笑って帰る。その平凡さを、俺は当たり前すぎて意識したことさえなかった。
けれど今思えば、きっと父さんと母さんが最後まで守りたかったのも、こういう時間だったのだろう。世界を救うとか、人理を守るとか、そんな大きな言葉より先にある、誰かが明日の予定を疑わずに話せる日常。その意味を知るのは、まだ少し先のことになる。
第一話 了
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第1話は、達人と涼音の日常と、二人を取り巻く人間関係を中心に描きました。
この何気ない日常が、これから始まる物語の基準になります。ここから兄妹がどのような世界へ巻き込まれていくのか、見守っていただければ嬉しいです。
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それでは、次回もよろしくお願いします。