境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド 作:ターミナル カフェ
・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。
・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。
・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。
・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。
・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。
以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。
【ゲンside】
イシガミ村へ向かう道中、俺はずっとさっきの光景を考えていた。浅葱色の羽織、白鞘の刀、目で追うことすら難しかった三段突き。そして何より、その全部をやった本人が「何も覚えていない」と言ったこと。
涼音ちゃんの反応を観察した限り、嘘をついている様子はない。記憶喪失の演技なら多少なりとも不自然な間や視線の逃げが出る。でも彼女にはそれがなかった。本当に、自分が何をしたのか知らない。
(じゃあ、あれは誰がやった?)
答えを持っていそうなのは一匹だけだった。
「ねえ、一個聞いていい?」
隣を浮いているフォウへ声をかける。
「さっきの現象。あれ、何だったの?」
「フォウ」
《説明します。少し長くなります》
「ジーマーで聞くよ。むしろ聞かない方が怖いし」
俺たちはちょうどいい倒木を見つけて腰を下ろした。フォウがホログラムを広げ、達人くんと涼音ちゃんも自然と画面へ視線を向ける。
《まず【英霊】について》
歴史や伝説に名を残し、人々の記憶の中で英雄として形を得た存在。それが英霊。単に有名なら誰でもいいわけではなく、功績や逸話、人々がその人物へ抱いたイメージが重なって、一種の“記録”として世界へ残るらしい。
「じゃあ、史実と伝説が違ったら?」
《後世に定着した伝説や心象が影響します。実在した本人と完全に同じ姿、同じ能力とは限りません》
涼音ちゃんが少し考える。
「だから……私が見た沖田総司は、女性だったの?」
《可能性はあります。ただし、詳細はあなた自身の記憶と共鳴が戻ってから確認してください》
また記憶。二人の周囲には、やたらその単語が付いて回る。
《次に【英霊の座】》
英霊の記録は通常の時間軸とは異なる場所に存在し、過去・現在・未来のどの時代からでも条件が整えば呼び出せるという。
「世界の外側にある記録庫みたいなもの?」
《簡略化すれば、その理解で構いません》
「スケールがゴイスーすぎて、メンタリストの守備範囲を完全に超えてるんだけど」
「俺も同じ気持ちだ」
《慣れてください》
「無茶言うなよ!」
達人くんが本気で頭を抱えた。フォウは構わず説明を続ける。
英霊を現実へ呼び出した存在をサーヴァント、召喚や契約を行う側をマスターと呼ぶ。ただし、涼音ちゃんたちが使っているフェイト・レプリカントは通常の召喚とは違う。
「じゃあ、この二人はマスターなの?」
《候補としての資格を持っています。ただし、現在は記憶封印があるため、通常の契約状態とは異なります》
涼音ちゃんが自分の手を見下ろす。
「私が沖田さんになったみたいになったのは、そのフェイト・レプリカント?」
《そうです》
フェイト・レプリカントは、英霊そのものを独立して召喚するのではなく、使用者へ英霊の技術や能力、戦闘経験を一時的に重ねる仕組みらしい。通常召喚より必要なエネルギーを抑えられる反面、使う側の肉体と精神へ直接負担がかかる。
「だから私、覚えてなかったの?」
《現在は記憶封印によって正常な制御ができません。危機に反応した英霊側が、一時的に表へ出る場合があります》
「英霊が、自分から助けてくれた……」
涼音ちゃんの声が少し柔らかくなる。
《沖田総司との共鳴は、あなたの“誰かを助けたい”という意思へ反応したと推測されます》
彼女はしばらく何も言わなかった。さっきまで自分の中に知らないものがいることを怖がっていたが、「助けてくれた」と理解したことで見え方が変わったらしい。
「で、あの技は?」
達人くんが身を乗り出す。
《宝具【無明三段突き】。英霊の逸話や技が極限まで結晶化した切り札の一つです》
フォウの説明では、英霊が持つ武器や技、象徴的な逸話そのものが、宝具として形になることがあるらしい。沖田総司の場合、三度の突きをほぼ同一の瞬間へ重ねる異常な剣技がそれに当たる。
「俺、見てたけど三回どころか一回にしか見えなかったぞ」
《その認識で正常です》
「正常なのそれ?」
涼音ちゃんは自分の肩を抱く。
「私、本当にそんなの使ったの……?」
《現時点では完全制御できていません。だからこそ、無理に再現しないでください》
「言われなくてもやらないよ!」
最後に、俺が一番気になっていたことを聞く。
「二人の中にいる英霊って、一人ずつ?」
《不明です》
「不明?」
《記憶の自然解凍と同時に、縁のある英霊との共鳴が段階的に確認されます。現時点で判別できる情報は限定されています》
ホログラムに文字が表示される。
《達人――槍術系統の英霊反応、複数候補》
《涼音――沖田総司との共鳴を確認》
「俺、“複数候補”って何人だよ」
《現段階では回答不能》
「怖い言い方すんな」
「お兄ちゃん、人気者なんじゃない?」
「そういう人気いらない」
俺は思わず笑った。話している内容は世界の外側だの英雄の魂だの、とんでもないものなのに、この兄妹がやり取りすると少しだけ普通の話に見える。
立ち上がり、服についた土を払う。
「大体わかった。英霊の力を借りられるけど、今の二人は説明書も記憶も欠けた状態。危険になると英霊側が勝手に助けることがある、と」
《概ね正解です》
「ジーマーで、とんでもない役回りだね。三千七百年後に飛ばされて、英霊背負って、南米目指すんでしょ?」
「俺もそう思ってる」
《必要な旅です》
フォウが再び進路を示す。イシガミ村までは、もう遠くないらしい。
俺は歩きながら、涼音ちゃんの手の甲を横目で見た。英霊、マスター、記憶封印。どれも常識の外側にある。
(ま、勝ち馬を見極める材料は多い方がいいか)
その時点ではまだ、俺は自分がどちら側に立つか決めていなかった。
歩き出してからも、涼音ちゃんは時々自分の手を見ていた。怖がっているのは間違いない。それでも、沖田総司という名前を聞いた時だけ、その表情にはわずかな懐かしさが混じる。本人が忘れていても、身体や感情のどこかには記憶が残っているのかもしれない。メンタリストとしては、記憶より先に感情が答えを出す人間を何度も見てきた。だからこそ、この兄妹の“忘れているもの”が戻った時、何が起きるのか少し気になった。
答えは、まだ先だ。
勝ち馬を見極めるには、相手が何を隠しているかだけでなく、本人さえ知らない何かも見る必要がある。二人を観察するうち、俺はいつもの仕事以上に厄介で、そして面白い相手と関わったのだと理解し始めていた。
森の向こうに人の生活痕が見え始める。煙の上がり方、踏み固められた道、遠くから聞こえる声。目的地のイシガミ村は、もう近い。俺にとっては本来、千空ちゃんが本当に生きているかを確かめるための場所でもある。司側から来た自分と、目の前を歩く兄妹。そのどちらにも、まだ全部は話していない。
(さて、どう転ぶかな)
勝ち馬に乗る。それが俺のやり方だ。けれど勝つかどうかを決める材料は、力の大きさだけじゃない。何を目指しているか、どこまで人を動かせるか、そして追い詰められた時に何を選ぶか。英霊なんて規格外の要素まで加わった今、盤面は最初に考えていたよりずっと複雑になっていた。
やがて木々の隙間から、人工的に立ち上る煙が見えた。火を使い、人が集まり、生活を続けている証拠だ。三千七百年後の世界に残る村と、そこにいるという“科学使い”。そして俺が探す相手が本当にいるのか。ここから先は、ただの道中ではなくなる。そう思うと、自然と観察する目にも力が入った。
第十話 了