境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド 作:ターミナル カフェ
・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。
・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。
・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。
・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。
・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。
以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。
第十一話「再会」
【達人side】
イシガミ村へ到着する少し前、ゲンから一つ提案を受けた。
「村にいる“科学使い”が善人かどうか、ジーマーで分からないでしょ? だからオレが先に入る。もしバイヤーな相手だったら、キミらは逃げるか、オレを助けるか選べる位置にいてほしいのよ」
信用しているというより、互いに保険をかけておきたいらしい。合理的だったので、俺と涼音は森の陰に残り、ゲンだけ先に村へ向かわせた。
しばらくして様子を覗くと、なぜかゲンは器を持って何か食っている。
「……ラーメン?」
「おいしそう……」
隣で涼音が本気の目をしていた。三千七百年後の世界に来てから、まともな現代食にはほとんど縁がない。猫じゃらしらしき植物から作ったものに見えるが、それでも麺料理が存在すること自体がおかしい。
「科学使いが作ったのか?」
「たぶん。ていうか、私も食べたい」
「目的忘れるな」
ゲンはわざと怪しく振る舞っているようにも見えた。周囲には村人らしい数人がいて、そのうち三人――金髪の男、銀髪の男、それから金髪の少女が徐々にゲンを囲み始める。殺意までは感じないが、警戒されているのは明らかだ。
「涼音、まだ動くなよ。ゲンも自分で何とか――」
返事がない。
「……涼音?」
横を見ると、さっきまでいた妹が消えていた。
「嘘だろ」
慌てて村側へ視線を戻した瞬間、金属音が響いた。
【千空side】
俺は科学者だ。見えないものを都合よく信じる気はねぇし、証明できない現象ならまず観察する。だが、目の前で起きたことまで「ありえねぇ」で片づけるほど頭は固くない。
猫じゃらしラーメンを配っていたところへ、突然現れたあさぎりゲン。司帝国側のメンタリストだと分かった時点で警戒はしていた。問題は、そのゲンを金狼、銀狼、コハクが囲もうとした瞬間だ。
甲高い金属音が三度、ほぼ同時に響いた。
金狼と銀狼の槍が弾かれ、コハクの武器も切り落とされる。誰の身体にも傷はない。武器だけを正確に無力化した。
「……は?」
やった奴を見て、さらに思考が止まった。
藤丸涼音。
科学部で、燕の石像に関するデータを即興の解析ソフトでまとめてきた後輩。その顔に間違いはない。だが、俺の知る涼音とは気配がまるで違っていた。
黒いスーツ。腰には二本の刀。立ち方からして現代の高校生じゃねぇ。何より、目が違う。周囲を警戒しているというより、“斬る必要があるかどうか”を冷静に判定している目だ。
(なんだ、ありゃ)
司みてぇな圧倒的な身体能力とは違う。無駄がなさすぎる。戦い方を身体へ叩き込まれた人間の動きだ。
ゲンを横目で見ると、あいつも困惑している。知り合いではあるが、今の涼音を知らない顔。
その時、森側から聞き覚えのある声がした。
「涼音! 何やってんだ! 相手をよく見ろ、千空先輩だぞ!」
飛び出してきたのは藤丸達人。こいつも昔から運動能力が異常に高く、見た動きを短期間でコピーするタイプだった。
だが、涼音は兄の声に反応しない。
達人は一瞬迷ったあと、妹へ真正面から飛び込み、勢いのまま蹴りを入れた。普通なら避けるはずの攻撃だったが、涼音はまったく反応せず吹き飛び、その場で意識を失う。
同時に、黒いスーツも二本の刀も光の粒みてぇに消えた。
「……ククク。笑えねぇな」
目の前の現象は、今の科学じゃ説明できない。だが、見た以上は情報として扱うしかない。
【涼音side】
現代の京都だった。
夢だと分かっているような、でも現実より鮮明な感覚。石畳の路地、和菓子屋の甘い匂い。私は誰かと並んで歩いている。
「はじめちゃん、今日はありがとう。あっちにもお茶菓子あるけど、テレビで紹介してたの一回食べてみたかったんだよね」
隣の男性が、気の抜けたような口調で答える。
「そうか。なら、来た甲斐があったね」
はじめちゃん。
その呼び方だけは、びっくりするほど自然に出てきた。頼れるお兄さんみたいな人。普段は軽くて、適当そうで、それでも本当に危ない時は必ず前へ出てくれる。
(誰……?)
名前を思い出そうとすると、ところどころが黒く抜ける。■■組、■番隊隊長、斎藤――そこまで浮かびかけて、またノイズが走る。
他にも何人か知っている気がする。騒がしい人、真面目な人、いつもお茶を出してくれた人。みんな大切だったはずなのに、顔も名前も歯抜けになっている。
「また一緒に遊びに行こうね。今度は――」
場所の名前が出てこない。
(なんで、思い出せないの?)
急に寂しさが込み上げる。その時、隣の男性がぽん、と私の頭へ手を置いた。
「焦らなくていいんじゃない?」
その声を最後に、周囲が白い光で満たされた。
【千空side】
クロムの倉庫へ涼音を運び込んでから、しばらく経った。達人から状況を聞こうとしているんだが、こいつはずっと妹の方を見たまま動かねぇ。
「達人。心配なのは分かるが、いい加減説明しろ」
「……」
「聞いてるか?」
「聞いてます」
「ならこっち見ろ」
見ない。昔から妹を過保護気味に扱っていたが、ここまで露骨なのは初めてだ。
「涼音は呼吸も脈も問題ねぇ。まず話すこと話して、それから好きなだけ妹の横にいろ」
ようやく達人がこちらを向いた。
そこから聞かされた話は、非科学的という言葉だけでは足りない内容だった。二人は石化した記憶がない。緑色の光を見た直後に意識を失い、目覚めるまでに何か移動するような感覚があり、気づけば三千七百年後の森にいた。そして“レフ”という謎の人物から、自分たちは未来へ飛ばされたのだと説明されたという。
「要するに、タイムスリップしたと?」
「俺たち自身には仕組みは分かりません。レフは未来座標への退避だとか言ってました」
コハクたちは当然意味が分からない顔をしている。俺も証明できない話をそのまま信じる気はない。
「で、そのレフが南米へ行けと言った。さらに俺がこの村にいることまで知ってた、と」
「そうです。ゲンにも話した」
胡散臭い。だが、涼音の腕に付いていた端末を見ると簡単には切り捨てられない。分解せず観察しただけでも、現代の技術体系と合わない部品がある。少なくとも石器時代に作った代物じゃない。
「この通信機、三千七百年前の俺らの時代でも作れるか怪しいぞ」
「……俺も詳しくは知りません」
その時、倉庫の奥で小さな声がした。
「……ん」
達人が勢いよく振り向く。
涼音が、ようやく目を覚ました。
本人にとっては――ここで初めて、三千七百年後の俺を見ることになる。
起きた涼音へ聞きたいことは山ほどある。さっきの二刀流が何だったのか、あの妙な装備はどういう原理で出たり消えたりするのか、本人の記憶が飛んでいるという話が本当なのか。科学者としてなら、今すぐ質問を浴びせたいくらいだ。
ただ、その前に一つ確かめることがある。三千七百年前、同じ科学部にいた後輩が、本当に目の前にいるという事実だ。俺は石になって時間を越えた。こいつらは、本人たちにも分からない何かで時間そのものを飛び越えた。経路は違っても、ありえねぇほど長い時間の先で再び顔を合わせた。
(ククク。世界はとんでもねぇ偶然を寄越しやがる)
とはいえ、感傷に浸る趣味はない。起きたなら、観察して、聞いて、確かめるだけだ。まずはこいつが、今の状況をどこまで覚えているか――そこから始めればいい。
第十一話 了