境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド   作:ターミナル カフェ

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注意事項

・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。

・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。

・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。

・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。

・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。

以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。


第十八話「狩人と疾風の境界」

【達人side】

 

 林の景色が消えた場所には、白い地面がどこまでも続いていた。頭上には空の代わりに淡い光の層があり、遠くを見ても村への道はない。フォウが腕輪の固有結界を展開し、俺と涼音だけを移したのだ。足音が妙にはっきり響く。向かいに立つ妹は、その音を聞いて顔を上げた。俺を見ているはずなのに、目が合った気はしない。

 

「涼音。ゲンのところには千空が向かってる。お前が今やるべきことは、ここで俺の声を聞くことだ」

 

 返事はなかった。涼音が地面を蹴り、次の瞬間には俺のいた場所へ踏み込んでいる。俺は横へ走った。少し遅れて足元に衝撃が伝わる。アキレウスの力を借りていなければ、最初の一歩すら間に合わなかっただろう。速度だけなら距離を取れる。だが俺が止まると、涼音はすぐにその位置を捉え直した。

 

 ここからが、英霊同士の戦いだった。疾風のように先へ出るライダーと、獲物の行き先を見失わないバーサーカー。俺は広い地面を駆け、涼音の動きを村ではなく自分へ向け続ける。彼女はただ無秩序に暴れているわけではない。俺が右へ抜けた後、次は反対側へ行くと読んで先回りした。わざと足音を大きくして逆へ踏み出しても、視線は騙せない。次に俺が減速する場所を、走っている間に見つけている。狩人の勘と、妹が元から持っている観察力。その二つが重なっているように感じた。

 

「邪魔をするな。あの子を脅かす者を、退けなければならない」

 

 涼音の口から出た声には、別の誰かの怒りが混じっていた。ゲンはもうここにはいない。それでも彼女には、守るべき相手がまだ目の前にいるらしい。俺もマグマと同じ、ゲンへ近づく邪悪な大人として見られているのだろう。否定したくても、まず攻撃をかわさなければ言葉を続けられない。

 

《達人、ライダーとの同調が上昇しています。ただし現在の習熟では長時間の維持を推奨できません》

 

「長時間なんかいらねぇ。涼音が戻るまででいい」

 

 腕輪の表示に細かな乱れが走る。速さは確かに俺の足に宿っているが、英霊自身の経験まで自分のものになったわけではない。歩幅を誤れば身体が追いつかず、涼音の進む方向を読み違えれば、その先に立ち止まることさえできない。借りた力だけで勝てる相手ではなかった。

 

 涼音は俺の走る軌道を狭めてくる。速く動くほど次の行き先は限られ、ついに正面から向き合う距離になった。アキレウスの力を使えば、ここから強引に押し返すこともできるのかもしれない。だが相手は妹だ。俺が勝ったとして、それで涼音自身が戻ってくるとは思えなかった。昨夜、記憶の中で聞いた「守ることと閉じ込めることは違う」という言葉が、今度は足を止める理由になった。

 

「俺はお前を、どこかへ押し込めるために来たんじゃねぇ。ゲンのところへ一緒に戻るために来たんだ」

 

 涼音は答えない。けれど、それまで迷わず俺を追っていた足が、ほんの一瞬だけ鈍った。まだ届く。俺はそう信じて、彼女が次に踏み出す前に再び走った。

 

【涼音side】

 

 白い場所の中心に、ゲンくんがいる。そう見えていた。倒れた彼の周りを怖い大人たちが囲み、誰かが近づくたび、私の中の狩人が遠ざけようとする。相手の顔は黒く塗り潰され、何を話しかけられても聞き取れない。ただ一人、私の前を走り続ける人物だけが妙に気になった。何度追い払っても逃げず、私のほうへ戻ってくる。

 

 私はゲンくんを守りたかったはずだ。なのに目の前の影を追ううちに、肝心のゲンくんの声が聞こえなくなった。どこへ行ったのだろう。助けなければならないのに、その人が今何を望んでいるか、私は一度も確かめていない。疑問を持った瞬間、胸の内側から強い怒りが押し寄せる。考えている暇などない、と急かす声だった。

 

「守る。子供が安心していられる場所を、誰にも奪わせない」

 

 その願いを嘘だとは思わなかった。けれど、ゲンくんを見ていた私の目と、世界中を敵として見る狩人の目は、同じものではない。彼は何でも作れるような気がすると笑っていた。昨日の光を見て、次に何ができるか話したかったはずだ。自分を助けようとして誰かが争うことを、望んでいたとは限らない。

 

 逃げない影の声が、ノイズの切れ間から届く。

 

「涼音、お前がどうしたいか聞かせろ。俺の答えを押しつけるつもりはねぇ」

 

 お兄ちゃん。名前が浮かんだ途端、白い地面の向こうに別の部屋が重なった。作業台の図面を指す小柄な少女。間違えても急がせず、次に見るべき場所を自分で見つけるまで待ってくれた人。答えは一段ずつ確かめればいい。あの記憶を持ち帰ったばかりの私が、目の前の人の顔も確かめず、ひとまとめに敵と決めていいはずがなかった。

 

「私は……ゲンくんがどうなったか、確かめたい」

 

 初めて自分の意思で声を出した。狩人の怒りはすぐには消えない。私を守ろうとするように腕を動かし、再び目の前の影を遠ざけようとする。私はその動きを止めようとしたが、身体が言うことを聞かない。ならばせめて、お兄ちゃんに次の動きを伝える。白い場所で彼の姿を探し、かすれた声を振り絞った。

 

「右へ行って……! 私、まだ止められない!」

 

【達人side】

 

 声が聞こえた。涼音のものだった。俺は言われたとおり右へ駆け、彼女の動きが向いた場所を外す。速くなることより、今は聞き取れた一言のほうが大きかった。涼音はまだそこにいる。英霊の強い願いに呑まれながらも、こちらを見ようとしている。

 

「フォウ! 涼音の声が戻った。今なら切り離せるか?」

 

《本人の意思を確認。ただし接続の強制解除は反発を招きます。涼音自身が手放すまで、意識を保ってください》

 

 涼音を追い詰めないよう距離を取る。彼女は俺の動きを追うが、さっきまでの迷いのなさはない。バーサーカーの力と涼音の意思がせめぎ合っている。俺にできるのは、その間に余計な敵を増やさないことだ。大きく回り込むと見せて一歩だけ引き、彼女が自分から踏み止まれるだけの場所を空ける。

 

 ふと、借りた力の奥に風のような気配を感じた。姿も言葉も見えない。ただ、その狩人へ向ける思いには敵意だけでないものが混じっていた。俺の知らない過去に、この二人の英霊が向き合った時間があるのかもしれない。けれど今、向き合っているのは俺と涼音だ。借りた速さの行き先は、俺が選ぶ。

 

「涼音。俺もゲンが心配だ。でも、確かめるのはお前だ。戻って、あいつと話そう」

 

 涼音の肩が揺れた。彼女は振り上げていた手をゆっくり下ろす。狩人の気配が周囲に残っているうちは、俺も近づかなかった。誰かに止められたからではなく、涼音が自分で選ぶのを待つ。しばらくして、彼女は目を閉じ、息を整えた。

 

「……力を貸してくれて、ありがとう。でもここからは、私が見る」

 

 白い地面に走っていた影が薄れ、フォウの表示が切り替わる。バーサーカーとの接続が閉じ、続いて俺の足からも借りていた速さが引いていった。どちらも無傷のまま終わったとは言えない。身体は重く、涼音も立ったまま動けずにいる。それでも俺たちは互いの顔を見て、言葉を交わせた。

 

《接続解除を確認。固有結界を閉鎖します》

 

「お兄ちゃん……私、マグマたちに何をしようとしたの?」

 

「止められた。今はゲンのことを考えよう。後で、覚えてることを一緒に確かめればいい」

 

 俺が差し出した手を、涼音は少し迷ってから取った。安心したと言い切るには早い。ゲンの容態も、村に戻った後で何を説明するかも分からない。けれど、涼音の代わりに答えを決めるつもりはなかった。白い世界がほどけ、土と木々の匂いが戻ってくる。

 

【千空side】

 

 千空はゲンのそばで、村へ運ぶ準備を指示していた。クロムが林の奥を気にして何度も振り返る。達人と涼音が消えた場所には、何も残っていない。理由の分からない現象を前にしても、今ここでできることは限られている。千空がまずゲンを助けると決めたのは、そのためだった。

 

 不意に木立の向こうが揺らぎ、二つの人影が現れる。クロムが声を上げた。達人は涼音の歩幅に合わせて進み、涼音は倒れたゲンを見た瞬間、足を速めた。二人とも何かを抱えて戻ってきた顔をしている。千空は問い詰める代わりに、まずゲンのほうへ目を向けさせた。

 

「話はあとで聞く。今はこいつを村へ連れて帰る。お前らも手を貸せ」

 

 涼音は頷き、達人も短く返事をした。英霊の戦いは終わった。けれどゲンが目を覚ますまで、誰にとってもこの日の出来事は終わらない。兄妹は千空たちとともに、村へ向かって歩き出した。

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