境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド 作:ターミナル カフェ
・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。
・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。
・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。
・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。
・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。
以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。
第二話「人理石化(ストーンオーダー)」
【涼音side】
杠先輩と合流した私たちは校門をくぐり、昇降口でそれぞれのクラスへ別れた。朝の教室はいつも通り騒がしく、友達同士の笑い声や机を引く音、提出物を忘れた誰かの悲鳴まで混ざっている。そんな日常の中にいると、昨日から胸の奥に引っかかっている違和感まで、ただの考えすぎなんじゃないかと思えてくる。
私は歴史が好きだ。小さいころは父の書斎へ入り込み、棚にぎっしり並んだ偉人伝や歴史書を読み漁っていた。特に好きなのはアーサー王と古代メソポタミア。史実なのか伝説なのか境界が曖昧な人物ほど面白く、同じ英雄でも本によってまるで違う姿で描かれていることに気づいてからは、出来事そのものより「なぜ、その姿で語り継がれたのか」を考える方が好きになった。
父は、そんな私に何度も言った。
――歴史は、すべてが正しく記録されるわけじゃない。
――誰かが残した記録、誰かが信じた物語、その両方が重なって後世の歴史になる。
――そして「好きなものを好きだと言えるかどうか」も、英雄たらしめる要素の一つかもしれない。
難しいことを言っているようで、父はいつも楽しそうだった。幼いころのお兄ちゃんはとにかくママにべったりだったから、反抗するみたいに私はパパの書斎へ通っていた。あのころのことは覚えている。パパの声も、紙とコーヒーの匂いも、頭を撫でてもらった感触も。でも、両親が家を出る少し前からの記憶だけは、ところどころ切り取られたみたいに抜け落ちている。
最後に二人から抱きしめられた日のことだけは鮮明だ。まだ子供だった私にも、「しばらく出かけてくる」という程度の別れじゃないことは分かった。なのに、どこへ行くのか尋ねた記憶がない。聞いたのかもしれない。答えてもらったのかもしれない。それでも思い出そうとすると、頭の中に薄い膜が張ったように、その部分だけが遠ざかる。
あの後、私たちはしばらく知り合いの世話になり、今は兄妹二人で暮らしている。お兄ちゃんは日英ハーフだけど顔立ちはかなり日本人寄りで、地毛はシルバーに近い白。それが嫌らしく、わざわざ黒く染め続けている。運動神経は反則級で、体育の授業では初めてやる競技でも数回見れば要領を掴み、すぐにエース扱いされる。
昼休み、窓から校庭を見れば、その本人がまたサッカーで妙な活躍をしていた。
「……ほんと、なんでもできるんだから」
思わずため息が漏れる。お兄ちゃんは「できないこと」があると、できるまで試さずにはいられない人だ。それに比べると、私は天才なんかじゃない。思いついたことを何度も試して、数字を集めて、失敗した理由を一つずつ潰していく。だから自分のことを聞かれたら、天才より「万能の努力家」と答えることにしている。
そして、私は「守られているだけの妹」という立場があまり好きじゃない。お兄ちゃんが私を大事にしてくれているのは分かっている。それでも、誰かの後ろにいるだけでは、自分が何者なのか分からなくなりそうだった。だから私は、自分の力で考えて、自分の成果を出せる場所として科学部を選んだ。
「どーも! 紅一点の女子部員が来ましたよー!」
放課後、勢いよく科学部の扉を開ける。案の定、誰も拍手どころか顔すら上げない。部室の奥では、白菜みたいな髪型の先輩――石神千空先輩が、見たことのない装置へ配線をつないでいた。
「そのテンションと、やってることの地味さが噛み合ってねぇんだよ」
「失礼ですね。こっちはちゃんと成果持ってきたんですけど」
「ほー。なら数字で喋れ」
この人は昔からそうだ。肩書きや雰囲気ではなく、結果と再現性しか見ない。だから私は机へ鞄を置くと、ノートパソコンを開き、自作した集計画面を表示した。
「昨日から、ネットに上がってる燕の石像の発見報告を拾ってたんです。本物の燕の観測報告と、石像として見つかった数を地域別に比較してみました」
「で?」
「昨日までは石像の報告が増え続けてた。でも、ある時間を境に新規報告が急激に減ってます。単に話題が落ち着いただけなら、地域差がもっと出るはずなのに、ほぼ同時です」
千空先輩の手が止まった。さっきまで面倒そうだった目が、一瞬で研究者の目に変わる。
「……そそるな。それは」
たった一言。それでも、この人が本気で興味を持ったことは分かった。私も画面を見つめ直す。最初はただの変なニュースだと思った。道端や屋根の上で、まるで生きていた燕がそのまま石になったような像が見つかる。それだけなら悪戯や新しいアートで片づけられる。けれど、数が増え、分布が広がり、そして突然止まった。
(誰が、どうやって、何のために?)
私は原因より先に動機を考えてしまう。歴史書を読む時と同じだ。出来事には必ず、それを起こした何かがある。自然現象なら条件があり、人為的なら目的がある。
そして、その石像を最初に写真で見た時、胸の奥で何かが囁いた。
――これは、始まりに過ぎない。
根拠なんてない。ただ、両親の記憶が抜け落ちている場所へ触れた時と同じ、嫌な感覚だった。
考え込んでいると、部室の扉が勢いよく開いた。
「聞いてくれ千空!! 俺は決めた! 杠に、この五年間の想いを伝える!!」
大樹先輩だった。朝から言っていた告白を、ついに実行するらしい。千空先輩は機材から目も離さず、「へー、そうかよ」と信じられないほど適当な返事を返す。
「ちょっと千空先輩、親友の人生の一大イベントですよ?」
「告るだけだろ。成功率上げる化学薬品でも欲しいなら話は別だ」
「そんなのあったら怖いですよ!」
「俺は行ってくるぞ千空!!」
「勝手に行け」
大樹先輩が飛び出していく。その背中を見送りながら、私は笑った。明日になれば、大樹先輩がどんな顔で学校へ来るのか、みんなでからかうんだろう。千空先輩は興味なさそうな顔をしながら、結局は結果を聞くに決まっている。
そんなことを考えた、その瞬間だった。
窓の外が、不自然な色に染まった。
「……なに、あのひか――」
緑色の光。空の一部が輝いたのではない。世界そのものを塗り替えるような光が、こちらへ向かってくる。逃げるという考えすら浮かばなかった。光に「見られた」と感じた、その一瞬、胸の奥に眠っていた何かが強く脈打った。
知らない機械音。誰かの声。遠い記憶。
――そして、意識が途切れた。
その日、人類は石化した。
けれど、誰にも知られない場所で、別の何かもまた動き始めていた。
「間に合わなかったか。だが、希望はまだある。頼むぞ――人類最後のマスターたち」
光に呑まれる直前、最後に視界へ残ったのは、散らかった科学部の机と、解析結果を表示したままのモニターだった。ほんの数秒前まで、そこには明日の実験や大樹先輩の告白の結果みたいな、どうでもいい未来が確かに存在していた。それが一瞬で遠ざかっていく。
(まだ、何も分かってないのに)
燕の石像が何だったのか。なぜ増え、なぜ止まったのか。両親の記憶と、あの嫌な直感がどう繋がっているのか。答えを出す前に、世界の方から問題そのものを奪われたような感覚だけが残った。それでも意識の底で、私はまだ考えることをやめていなかった。分からないなら、いつか必ず確かめる――そんな意地だけを握ったまま、私は光の向こうへ落ちていった。
第二話 了
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ついに世界を覆う石化の光が発生しました。
『Dr.STONE』側の始まりと、本作独自の異変がここから本格的に交わっていきます。
達人と涼音に何が起きたのか。そして、二人はどこへ向かうことになるのか。
次回もよろしくお願いします。