境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド 作:ターミナル カフェ
・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。
・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。
・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。
・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。
・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。
以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。
【達人視点】
ゲンが司のもとへ向かっている間、俺たちは御前試合に備え、コハクたちと戦闘訓練を行っていた。
――もっとも、訓練しているのはコハクたちだけではない。
「そこだ! 脇が甘いぞ、達人!」
「おっと、危ない!」
横薙ぎに振るわれたコハクの木剣を、俺は上体を反らしてかわした。鼻先すれすれを風が通り抜ける。すぐさま後方へ跳び、間合いを取り直した。
そう。俺自身も、この訓練に参加している。
理由は単純だ。今の俺には、戦うための知識がある。
あの時、アキレウスを憑依させた影響だろう。これまでまともに習ったこともなかった格闘術や、敵との間合いの測り方が、なぜか頭の中に浮かぶようになっていた。攻撃を受け流す腕の角度も、踏み込む際の重心の置き方も、まるで昔から知っていたかのように理解できる。
おそらく、憑依した英霊の情報が俺の中に残っているのだ。
だが――知っていることと、実際に身につけていることは違う。
頭の中では完璧に動けるつもりでも、俺自身の身体がついてこない。アキレウスの感覚をそのまま再現しようとすれば、踏み込みが強すぎて体勢を崩す。反応できたとしても、筋力が足りずに攻撃を受け止めきれないことだってある。
知識だけなら一流の戦士でも、それを使いこなす身体は、まだ鍛え始めたばかりなのだ。
だからこそ、俺はこうしてコハクたちの訓練に混ざっていた。
借り物の知識を、自分自身の技術として身につけるために。
ひと通りの訓練を終え、俺たちはしばしの休憩に入った。
息を整えながら広場へ目を向けると、千空がスイカの被り物を外していた。
何をしているのかと思って見ていると、素顔をさらしたスイカが、目を細めてものすごい顔をし始めた。かわいらしい顔立ちが一瞬にして変顔へと変わり、さすがの俺も目を丸くする。
「……何だ、あれ?」
どうやらスイカは、かなり目が悪いらしい。
そういえば訓練中、遠い間合いを測る時に、金狼も似たように目を細めていた気がする。本人が何も言わない以上、今は確かめようがないが……それよりも、目の前のスイカには、かなり度の強い眼鏡が必要になりそうだった。
千空は、そんなスイカのために眼鏡を作るつもりらしい。
そして眼鏡を作るには、まずガラスが必要になる。その材料となる珪砂を採りに行く話が、あっという間にまとまった。
材料が手に入ったとしても、レンズの加工には相当な技術が必要になるはずだ。千空一人でどうにかするつもりなのかと思ったが、本人の顔を見る限り、すでに次の手まで考えているらしい。
そんな話をしている間にも、珪砂を採りに行く準備は整ったようだった。
コハクたちは、この程度なら自分たちだけで問題ないと言っている。涼音は千空たちに同行するようなので、俺は村に残ることにした。
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### 【涼音視点】
スイカちゃんの眼鏡を作るため、私たちはガラスの材料になる珪砂を集めに来ていた。
ついさっきまで、お兄ちゃんはコハクちゃんを相手に訓練していた。頭では理解できていても、身体が追いつかないらしく、何度も転ばされていたけれど……それでも立ち上がる姿は、どこか楽しそうに見えた。
アキレウスを憑依させたことで、お兄ちゃんの中にも英霊の知識が残ったのだろう。
そして、私の中でも、あの一件をきっかけに何かが変わり始めている。
「これが、本当にガラスになるんだ……」
手のひらにすくった珪砂を太陽にかざす。細かな粒が光を反射した、その瞬間。頭の奥に、白い光が走った。
――まただ。
あの出来事以来、私の中では少しずつ記憶の整理が始まっているらしい。
人の名前や出来事の順番は、相変わらずほとんど思い出せない。それでも、眠っている間に昔の光景が映画のワンシーンのように浮かぶことがある。
もっとも、その大半はノイズと砂嵐に埋もれていて、誰が何をしているのかまでは分からない。
ただ、騒がしかったということだけは、妙にはっきり覚えている。
ダ・ヴィンチちゃん――レオナルド・ダ・ヴィンチ。
記憶の中に浮かぶ姿と、私が知っている偉人の知識を照らし合わせると、おそらくエジソンやニコラ・テスラも、あの場所にいたのだと思う。
「……絶対、トラブルだらけだったよね」
「あ?」
「こっちの話です」
千空先輩に聞き返され、私は慌てて手を振った。
エジソンとテスラは、確かものすごく仲が悪かったはずだ。顔を合わせるたびに言い争っていたとしても、何の不思議もない。
ダ・ヴィンチちゃんだって、天才なのは間違いない。けれど、常識人かと聞かれたら、私は全力で首を横に振る自信がある。
それに、記憶の隅にはもう一人いた。
爽やかな雰囲気をした、顔のいい男の人。白衣のような服を着ていたから、たぶん科学者か医者だと思う。
名前は、まだ思い出せない。
けれど、あの人については妙な確信があった。
「良かれと思って、とんでもないトラブルを起こすタイプだ。あれは」
袋へ珪砂を詰めながら、私は誰に聞かせるでもなく愚痴をこぼした。
カルデア――確か、そんな名前だった。
お父さんとお母さんが働いていた場所ではないかと、今の私は推測している。けれど、そこが何を目的とした機関だったのかは、まだ分からない。
「いったい、どんな職場だったんだろう……」
歴史に名を残すほどの偉人たちを集める必要がある場所。そう考えれば、とても重要な機関だったのかもしれない。
ただし、思い出せる範囲の顔ぶれを見る限り――。
「人類史の偉人って、もしかして人格に問題がある人ばっかりなのかな……」
「テメー、さっきから一人で何ブツブツ言ってやがる」
「何でもありません。こっちの話です」
千空先輩の冷めた視線から逃げるように、私は珪砂の袋を抱え直した。
これ以上、余計なことを口にするのはやめておこう。今の私だって、思い出せないことばかりなのだから。
「でも、材料を集めた後はどうするんですか? ガラスの細かい加工なんて、職人がいないと難しいですよね」
「いねえもんはしゃーねえ。俺らでクッソ時間かけてやるっきゃねえだろ」
「やっぱり、そうなりますか……」
「職人……」
それまで黙って珪砂を集めていたクロムくんが、不意に手を止めた。
「どうしたの、クロムくん?」
「いや……何でもねえ」
一瞬だけ、誰かの顔を思い浮かべたように見えた。
けれど、クロムくんはすぐに首を振ると、再び珪砂を袋へ詰め始めた。
心当たりがあるのなら、教えてくれてもいいのに。
そう思ったけれど、今は材料を持ち帰る方が先だ。私はそれ以上追及せず、再び手元の作業に集中した。
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【達人視点】
涼音たちが珪砂を集めている頃、村の広場には束の間の静けさが戻っていた。
ちょうどいい。
その間に、フォウへ確かめておきたいことがあった。
「フォウ。今から三つ質問する。答えられる範囲でいいから、正直に教えてくれ」
『承知しました。現在開示できる情報に限り、回答します』
腕輪から聞こえるフォウの声は、いつもどおり感情の薄いものだった。
「まず一つ目。憑依の対象になり得る基本クラスは、全部でどれくらいある?」
『標準規格として存在する基本クラスは七つです。まず、三騎士に分類される〈セイバー〉〈ランサー〉〈アーチャー〉。これらは、基本装備に近いものと考えてください』
「基本装備、ね……」
『残る四騎が、〈ライダー〉〈キャスター〉〈アサシン〉〈バーサーカー〉です。ただし、存在することと、現在使用できることは同義ではありません』
合わせて七つ。
剣、槍、弓だけでなく、騎乗、魔術、暗殺、狂戦士。それぞれ戦い方も役割も大きく異なる。使い方次第では、単純な戦闘以外でも役に立つはずだ。
「次に二つ目。現在、使用を制限されているクラスと、それに関係する禁止事項を教えてくれ」
少しの沈黙を挟んで、フォウが答えた。
『現在、憑依が制限されているのは〈バーサーカー〉、および〈エクストラクラス〉です』
「エクストラクラス?」
『その名のとおり、通常の七クラスという規格から外れた、特殊な霊基を持つクラスの総称です』
「どんな奴らがいる?」
『すべてを開示することはできません。ただし、その多くが通常の英霊以上に特殊な性質を持っています。現在のお二人が憑依先として選択するには、危険性が高すぎます』
つまり、能力が強力な分、癖やリスクも大きいということか。
涼音がアタランテ・オルタを憑依させた時のことを考えれば、フォウが警戒するのも無理はない。
『もっとも、クラスとは霊基を分類するための規格にすぎません。中には、なぜそのクラスに分類されたのか、疑問を抱かざるを得ない英霊も――』
フォウの声が、不自然に途切れた。
『……今の発言は取り消します』
「おい。そこまで言ったなら最後まで説明しろよ」
『回答を拒否します』
「はぁ……まあ、いい」
どうやら英霊という連中は、俺が思っている以上に複雑らしい。
いや、今のフォウの反応を見る限り、英霊そのものというより、クラス分けの方に何か事情があるのかもしれない。
……これ以上考えても、今は答えが出そうにないな。
「最後の質問だ」
俺は腕輪へ視線を落とした。
「俺たちは、すべての英霊を覚えているわけじゃない。けど、失った記憶を取り戻していけば、憑依できる英霊も増えていくのか?」
『……以前にも説明しましたが、その認識で間違いありません』
先ほどまでより、フォウの返答がわずかに遅かった。
『英霊との記憶や縁を取り戻すことで、新たな憑依先が解放される可能性はあります。ただし、思い出した英霊すべてを憑依できるとは限りません』
「相性があるってことか?」
『はい。精神、肉体、霊基との適合率。憑依を成立させるには、それら複数の条件を満たす必要があります。そのため、記憶を取り戻したとしても、どれほどの戦力を確保できるかは回答できません』
「なるほどな……」
記憶を取り戻せば、使える力も増えていく。
だが、それは同時に――俺たちが忘れている過去へ、さらに深く踏み込むということでもある。
英霊との縁を取り戻すことが、俺たちに何をもたらすのか。
力か。それとも、忘れていた何かと向き合うことになるのか。
果たして、その先に何が待っているのか。
今の俺には、まだ分からない。
「お兄ちゃーん! 戻ったよー!」
静かな広場に、涼音の声が響いた。
顔を上げると、千空たちが珪砂を詰めた袋を抱えて戻ってくるところだった。かなりの量を集めたらしく、クロムは重そうに袋を背負い、コハクは同じ大きさの袋を軽々と運んでいる。
「これで材料はそろったのか?」
「ああ。ガラス作りのスタートラインには立った」
千空は袋の中身を確かめると、すぐに作業の指示を出し始めた。細かな実験器具をそろえるより先に、まずはスイカの眼鏡を完成させるつもりらしい。
「最初の目標は、スイカのぼやぼや病を治すレンズだ。さっさと始めんぞ」
「おお!」
クロムが勢いよく返事をする。
ところが、その直後。さっきまでの勢いが嘘のように、村の一角へちらりと視線を向けた。
「どうした、クロム?」
「いや、何でもねえ。まずは眼鏡だろ!」
そう言って作業へ向かうクロムの横顔には、何かを思い出したような色が残っていた。
……職人、か。
珪砂を集めに行く前、涼音がそんなことを口にしていたのを思い出す。クロムの反応を見る限り、何か心当たりがあるのかもしれない。
とはいえ、今はまだ本人が口にするつもりはないらしい。無理に聞き出す必要もないだろう。
千空たちは珪砂と集めておいた材料を運び込み、炉へ火を入れる準備を始めた。眼鏡といっても、スイカの被り物へレンズを組み込む形になるらしい。
この珪砂が透明なガラスへ変わった時、スイカが見ている世界もきっと変わる。
今までぼやけていた景色が、輪郭を取り戻す。
人の手で、見えなかったものを見えるようにする。
それは、科学が持つ力の一つだ。
そして今、その小さな一歩が、石の世界で踏み出されようとしていた。
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