境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド   作:ターミナル カフェ

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注意事項

・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。

・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。

・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。

・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。

・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。

以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。


第二十話「透明な世界への一歩」

 

【達人視点】

 

 ゲンが司のもとへ向かっている間、俺たちは御前試合に備え、コハクたちと戦闘訓練を行っていた。

 

 ――もっとも、訓練しているのはコハクたちだけではない。

 

「そこだ! 脇が甘いぞ、達人!」

 

「おっと、危ない!」

 

 横薙ぎに振るわれたコハクの木剣を、俺は上体を反らしてかわした。鼻先すれすれを風が通り抜ける。すぐさま後方へ跳び、間合いを取り直した。

 

 そう。俺自身も、この訓練に参加している。

 

 理由は単純だ。今の俺には、戦うための知識がある。

 

 あの時、アキレウスを憑依させた影響だろう。これまでまともに習ったこともなかった格闘術や、敵との間合いの測り方が、なぜか頭の中に浮かぶようになっていた。攻撃を受け流す腕の角度も、踏み込む際の重心の置き方も、まるで昔から知っていたかのように理解できる。

 

 おそらく、憑依した英霊の情報が俺の中に残っているのだ。

 

 だが――知っていることと、実際に身につけていることは違う。

 

 頭の中では完璧に動けるつもりでも、俺自身の身体がついてこない。アキレウスの感覚をそのまま再現しようとすれば、踏み込みが強すぎて体勢を崩す。反応できたとしても、筋力が足りずに攻撃を受け止めきれないことだってある。

 

 知識だけなら一流の戦士でも、それを使いこなす身体は、まだ鍛え始めたばかりなのだ。

 

 だからこそ、俺はこうしてコハクたちの訓練に混ざっていた。

 

 借り物の知識を、自分自身の技術として身につけるために。

 

 ひと通りの訓練を終え、俺たちはしばしの休憩に入った。

 

 息を整えながら広場へ目を向けると、千空がスイカの被り物を外していた。

 

 何をしているのかと思って見ていると、素顔をさらしたスイカが、目を細めてものすごい顔をし始めた。かわいらしい顔立ちが一瞬にして変顔へと変わり、さすがの俺も目を丸くする。

 

「……何だ、あれ?」

 

 どうやらスイカは、かなり目が悪いらしい。

 

 そういえば訓練中、遠い間合いを測る時に、金狼も似たように目を細めていた気がする。本人が何も言わない以上、今は確かめようがないが……それよりも、目の前のスイカには、かなり度の強い眼鏡が必要になりそうだった。

 

 千空は、そんなスイカのために眼鏡を作るつもりらしい。

 

 そして眼鏡を作るには、まずガラスが必要になる。その材料となる珪砂を採りに行く話が、あっという間にまとまった。

 

 材料が手に入ったとしても、レンズの加工には相当な技術が必要になるはずだ。千空一人でどうにかするつもりなのかと思ったが、本人の顔を見る限り、すでに次の手まで考えているらしい。

 

 そんな話をしている間にも、珪砂を採りに行く準備は整ったようだった。

 

 コハクたちは、この程度なら自分たちだけで問題ないと言っている。涼音は千空たちに同行するようなので、俺は村に残ることにした。

 

---

 

### 【涼音視点】

 

 スイカちゃんの眼鏡を作るため、私たちはガラスの材料になる珪砂を集めに来ていた。

 

 ついさっきまで、お兄ちゃんはコハクちゃんを相手に訓練していた。頭では理解できていても、身体が追いつかないらしく、何度も転ばされていたけれど……それでも立ち上がる姿は、どこか楽しそうに見えた。

 

 アキレウスを憑依させたことで、お兄ちゃんの中にも英霊の知識が残ったのだろう。

 

 そして、私の中でも、あの一件をきっかけに何かが変わり始めている。

 

「これが、本当にガラスになるんだ……」

 

 手のひらにすくった珪砂を太陽にかざす。細かな粒が光を反射した、その瞬間。頭の奥に、白い光が走った。

 

 ――まただ。

 

 あの出来事以来、私の中では少しずつ記憶の整理が始まっているらしい。

 

 人の名前や出来事の順番は、相変わらずほとんど思い出せない。それでも、眠っている間に昔の光景が映画のワンシーンのように浮かぶことがある。

 

 もっとも、その大半はノイズと砂嵐に埋もれていて、誰が何をしているのかまでは分からない。

 

 ただ、騒がしかったということだけは、妙にはっきり覚えている。

 

 ダ・ヴィンチちゃん――レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 

 記憶の中に浮かぶ姿と、私が知っている偉人の知識を照らし合わせると、おそらくエジソンやニコラ・テスラも、あの場所にいたのだと思う。

 

「……絶対、トラブルだらけだったよね」

 

「あ?」

 

「こっちの話です」

 

 千空先輩に聞き返され、私は慌てて手を振った。

 

 エジソンとテスラは、確かものすごく仲が悪かったはずだ。顔を合わせるたびに言い争っていたとしても、何の不思議もない。

 

 ダ・ヴィンチちゃんだって、天才なのは間違いない。けれど、常識人かと聞かれたら、私は全力で首を横に振る自信がある。

 

 それに、記憶の隅にはもう一人いた。

 

 爽やかな雰囲気をした、顔のいい男の人。白衣のような服を着ていたから、たぶん科学者か医者だと思う。

 

 名前は、まだ思い出せない。

 

 けれど、あの人については妙な確信があった。

 

「良かれと思って、とんでもないトラブルを起こすタイプだ。あれは」

 

 袋へ珪砂を詰めながら、私は誰に聞かせるでもなく愚痴をこぼした。

 

 カルデア――確か、そんな名前だった。

 

 お父さんとお母さんが働いていた場所ではないかと、今の私は推測している。けれど、そこが何を目的とした機関だったのかは、まだ分からない。

 

「いったい、どんな職場だったんだろう……」

 

 歴史に名を残すほどの偉人たちを集める必要がある場所。そう考えれば、とても重要な機関だったのかもしれない。

 

 ただし、思い出せる範囲の顔ぶれを見る限り――。

 

「人類史の偉人って、もしかして人格に問題がある人ばっかりなのかな……」

 

「テメー、さっきから一人で何ブツブツ言ってやがる」

 

「何でもありません。こっちの話です」

 

 千空先輩の冷めた視線から逃げるように、私は珪砂の袋を抱え直した。

 

 これ以上、余計なことを口にするのはやめておこう。今の私だって、思い出せないことばかりなのだから。

 

「でも、材料を集めた後はどうするんですか? ガラスの細かい加工なんて、職人がいないと難しいですよね」

 

「いねえもんはしゃーねえ。俺らでクッソ時間かけてやるっきゃねえだろ」

 

「やっぱり、そうなりますか……」

 

「職人……」

 

 それまで黙って珪砂を集めていたクロムくんが、不意に手を止めた。

 

「どうしたの、クロムくん?」

 

「いや……何でもねえ」

 

 一瞬だけ、誰かの顔を思い浮かべたように見えた。

 

 けれど、クロムくんはすぐに首を振ると、再び珪砂を袋へ詰め始めた。

 

 心当たりがあるのなら、教えてくれてもいいのに。

 

 そう思ったけれど、今は材料を持ち帰る方が先だ。私はそれ以上追及せず、再び手元の作業に集中した。

 

---

 

【達人視点】

 

 涼音たちが珪砂を集めている頃、村の広場には束の間の静けさが戻っていた。

 

 ちょうどいい。

 

 その間に、フォウへ確かめておきたいことがあった。

 

「フォウ。今から三つ質問する。答えられる範囲でいいから、正直に教えてくれ」

 

『承知しました。現在開示できる情報に限り、回答します』

 

 腕輪から聞こえるフォウの声は、いつもどおり感情の薄いものだった。

 

「まず一つ目。憑依の対象になり得る基本クラスは、全部でどれくらいある?」

 

『標準規格として存在する基本クラスは七つです。まず、三騎士に分類される〈セイバー〉〈ランサー〉〈アーチャー〉。これらは、基本装備に近いものと考えてください』

 

「基本装備、ね……」

 

『残る四騎が、〈ライダー〉〈キャスター〉〈アサシン〉〈バーサーカー〉です。ただし、存在することと、現在使用できることは同義ではありません』

 

 合わせて七つ。

 

 剣、槍、弓だけでなく、騎乗、魔術、暗殺、狂戦士。それぞれ戦い方も役割も大きく異なる。使い方次第では、単純な戦闘以外でも役に立つはずだ。

 

「次に二つ目。現在、使用を制限されているクラスと、それに関係する禁止事項を教えてくれ」

 

 少しの沈黙を挟んで、フォウが答えた。

 

『現在、憑依が制限されているのは〈バーサーカー〉、および〈エクストラクラス〉です』

 

「エクストラクラス?」

 

『その名のとおり、通常の七クラスという規格から外れた、特殊な霊基を持つクラスの総称です』

 

「どんな奴らがいる?」

 

『すべてを開示することはできません。ただし、その多くが通常の英霊以上に特殊な性質を持っています。現在のお二人が憑依先として選択するには、危険性が高すぎます』

 

 つまり、能力が強力な分、癖やリスクも大きいということか。

 

 涼音がアタランテ・オルタを憑依させた時のことを考えれば、フォウが警戒するのも無理はない。

 

『もっとも、クラスとは霊基を分類するための規格にすぎません。中には、なぜそのクラスに分類されたのか、疑問を抱かざるを得ない英霊も――』

 

 フォウの声が、不自然に途切れた。

 

『……今の発言は取り消します』

 

「おい。そこまで言ったなら最後まで説明しろよ」

 

『回答を拒否します』

 

「はぁ……まあ、いい」

 

 どうやら英霊という連中は、俺が思っている以上に複雑らしい。

 

 いや、今のフォウの反応を見る限り、英霊そのものというより、クラス分けの方に何か事情があるのかもしれない。

 

 ……これ以上考えても、今は答えが出そうにないな。

 

「最後の質問だ」

 

 俺は腕輪へ視線を落とした。

 

「俺たちは、すべての英霊を覚えているわけじゃない。けど、失った記憶を取り戻していけば、憑依できる英霊も増えていくのか?」

 

『……以前にも説明しましたが、その認識で間違いありません』

 

 先ほどまでより、フォウの返答がわずかに遅かった。

 

『英霊との記憶や縁を取り戻すことで、新たな憑依先が解放される可能性はあります。ただし、思い出した英霊すべてを憑依できるとは限りません』

 

「相性があるってことか?」

 

『はい。精神、肉体、霊基との適合率。憑依を成立させるには、それら複数の条件を満たす必要があります。そのため、記憶を取り戻したとしても、どれほどの戦力を確保できるかは回答できません』

 

「なるほどな……」

 

 記憶を取り戻せば、使える力も増えていく。

 

 だが、それは同時に――俺たちが忘れている過去へ、さらに深く踏み込むということでもある。

 

 英霊との縁を取り戻すことが、俺たちに何をもたらすのか。

 

 力か。それとも、忘れていた何かと向き合うことになるのか。

 

 果たして、その先に何が待っているのか。

 

 今の俺には、まだ分からない。

 

「お兄ちゃーん! 戻ったよー!」

 

 静かな広場に、涼音の声が響いた。

 

 顔を上げると、千空たちが珪砂を詰めた袋を抱えて戻ってくるところだった。かなりの量を集めたらしく、クロムは重そうに袋を背負い、コハクは同じ大きさの袋を軽々と運んでいる。

 

「これで材料はそろったのか?」

 

「ああ。ガラス作りのスタートラインには立った」

 

 千空は袋の中身を確かめると、すぐに作業の指示を出し始めた。細かな実験器具をそろえるより先に、まずはスイカの眼鏡を完成させるつもりらしい。

 

「最初の目標は、スイカのぼやぼや病を治すレンズだ。さっさと始めんぞ」

 

「おお!」

 

 クロムが勢いよく返事をする。

 

 ところが、その直後。さっきまでの勢いが嘘のように、村の一角へちらりと視線を向けた。

 

「どうした、クロム?」

 

「いや、何でもねえ。まずは眼鏡だろ!」

 

 そう言って作業へ向かうクロムの横顔には、何かを思い出したような色が残っていた。

 

 ……職人、か。

 

 珪砂を集めに行く前、涼音がそんなことを口にしていたのを思い出す。クロムの反応を見る限り、何か心当たりがあるのかもしれない。

 

 とはいえ、今はまだ本人が口にするつもりはないらしい。無理に聞き出す必要もないだろう。

 

 千空たちは珪砂と集めておいた材料を運び込み、炉へ火を入れる準備を始めた。眼鏡といっても、スイカの被り物へレンズを組み込む形になるらしい。

 

 この珪砂が透明なガラスへ変わった時、スイカが見ている世界もきっと変わる。

 

 今までぼやけていた景色が、輪郭を取り戻す。

 

 人の手で、見えなかったものを見えるようにする。

 

 それは、科学が持つ力の一つだ。

 

 そして今、その小さな一歩が、石の世界で踏み出されようとしていた。

 

---

 

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