境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド 作:ターミナル カフェ
・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。
・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。
・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。
・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。
・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。
以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド
第五話「ストーンワールド」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【達人side】
――懐かしい、コーヒーの香りがした。
父と、誰か懐かしい人と。あの場所で淹れてくれた、少しだけ苦いコーヒーの匂い。父は言っていた。世界がどれだけ残酷でもいい。そこに"希望"を見出せる人間であれ、と。強い熱を持って生きろ、と。
あれは初めて父から教わった、大切なことだったから。
────────────────────────────────────────
……懐かしい夢を見た気がする。
ゆっくりと瞼を開ける。視界に映ったのは、布の天井。揺れる影。焚き火の匂い。
俺は反射的に身体を起こしかけて、そこで一気に記憶が押し寄せた。――ライオン。森。絶体絶命。
「っ……涼音は!?」
喉が焼けるように痛い。俺は確か、妹を庇ったはずだ。あの瞬間、せめて涼音だけは守ろうと――そこから先が、ない。
「お兄ちゃん!」
テントの入口が勢いよく開き、涼音が駆け寄ってきた。
「よかった……! 目が覚めるかはわからないって言われてたから……!」
「……無事か?」
「うん。助けてもらったの」
ここは森の中のはずだ。なのに、俺が寝かされているのはしっかりと組まれた簡易テントの中。応急処置の痕跡。水。布。最低限の生活物資。壁の隙間から差し込む光は柔らかく、外はもう朝らしい。こんなものが、都合よく存在するはずがない。
「……誰がやった」
俺がそう呟いた瞬間、テントの外から落ち着いた声が届いた。
「ようやく目覚めたか。思ったより早いな」
その声を聞いた瞬間、頭の奥がズキリと痛んだ。――この声を、俺は知っている。だが思い出そうとすると、何かが強制的にブロックする。
入口に立っていたのは、白銀の髪を持つ男。知っているはずなのに、知らないはずの人物。
「さて――この世界を語ろうか」
────────────────────────────────────────
【涼音side】
お兄ちゃんが目を覚ましてくれたのは、本当に良かった。でも。
――あの光景を、私は忘れられない。
レフさんに出会った直後、お兄ちゃんは頭を抱えてその場に崩れ落ちた。声にならない呻き声。額に浮かぶ脂汗。何かに耐えるように歯を食いしばる姿を見て、私は動けなくなった。
そこへ、痛みで無防備になったお兄ちゃんの気配を嗅ぎつけたのか、もう一頭のライオンが藪の奥から飛び出してきた。
私が悲鳴を上げるより早く、レフさんの手のひらから光弾が放たれた。ライオンは正面から撃ち抜かれ、地面に転がる。それは間違いなく、私たちを助けるための一撃だった。
だけど――光の余波は、うずくまったままのお兄ちゃんの体も、そのまま巻き込んでいった。
「……世界を語ろうか、じゃないですよね?」
私は口の端だけを上げて言った。
「お兄ちゃんに"ガンド"ってやつ、思いっきり巻き添え食らわせてますよね?」
レフさんは一瞬「ざまぁ」とでも言いたげな顔をしたが、すぐに澄ました表情に戻る。
「何のことかな。我は、そこのバカとライオンの区別くらいはつく」
「聞こえてますからね!?」
私は母仕込みの"完璧な笑顔"を浮かべる。
「普通に兄はあなたの攻撃を食らって気絶してましたよ? しかも気絶してから二日経ってるんですが?」
レフさんの額に、じわりと冷や汗が浮かぶ。視線を逸らした。逸らしましたね?
「……想定より、少々繊細だっただけだ」
「どこがですか。悪気があるなら巻き込まないでください」
「悪気はない」
「悪気はないが、まず状況が悪かった。距離が近すぎた。お前たちが窪地に寄りすぎていたのが原因だ。それと、ライオンの跳躍角度も予測より鋭かった。あと、達人が蹲っていたことそのものが、そもそもの誤算だ。我のせいばかりではない」
「早口で言い訳するじゃないですか」
「言い訳ではない。状況分析だ」
「一緒です」
お兄ちゃんが、まだ少し痺れの残る体で苦笑する。
「……お前ら、朝から元気だな」
私はむっとしながらも、ほっと息をついた。お兄ちゃんがここにいるだけで、十分だった。
────────────────────────────────────────
レフさんは軽く咳払いをし、空気を切り替える。
「茶番はそこまでだ。……本題に入ろう。この世界を語る」
「ここは、お前たちが生まれ育った世界だ。ただし――お前たちの時間軸から、およそ三千七百年以上が経過している状態だがな」
沈黙。二人とも、ほぼ同時に同じ顔をした。――ドッキリか?
「別に、未来へ"移動"してきたわけではない。正確には、未来の座標を使用し、その時間軸へ転送されたに過ぎん」
涼音がすぐに整理する。
「つまり……過去から未来へ、一方通行の時間旅行をしたってこと?」
「概ね正しい」
達人は言葉を失ったまま、視線だけを宙にさまよわせている。理解が追いついていないのは、傍から見ても明らかだった。
「なぜ時間を超える羽目になったか。それは、もう心当たりがあるはずだ。あの緑に発光した光線状の現象。あれこそが、お前たちをこの時間軸へと跳躍させた原因だ」
視線を森の外へ向ける。
「お前たちも、既に気づいているはずだ。この周囲に点在する"石像"の存在に」
沈黙が落ちる。二人とも、否定したいのだろう。だが否定できない。ライオンに襲われるまでのわずかな時間で、周囲を見る余裕はあった。涼音に至っては、この二日間で探索もしている。石像が一体や二体ではないことも、うすうす理解しているはずだった。
「言いづらいのはわかっている。だからこそ――我が言おう」
わずかに間を置いて。
「あれは、人類が石化した成れの果てだ」
森に、静寂が落ちた。
────────────────────────────────────────
【レフ side】
この我が、冷や汗をかかされるとは。
……成長したな、涼音。軽口はここまでだ。この二人には、この世界の現状と、次に成すべき目的を伝えねばならない。
(達人のことは嫌いではない。だが、成長した姿にあの男の面影を見てしまい――つい、ガンドを巻き込む形で放ってしまった)
……まあ、そこはどうでもいい。
――いや、どうでもよくはない。分かってはいるのだが。
小さく咳払いをひとつ。伝えるべきことは、まだ山ほどある。石化の真相。そして、この世界の"本質"。時間は限られている。
二人の脳裏には、まだ理解が追いついていない様子が浮かんでいる。それでもいい。順を追って話せば、いずれ辿り着く。
――さすがは、あの天才集団の中で英才教育を受けていた娘だ。理解が早い。一方、達人は……まあよい。どうせ涼音が後で補足するだろう。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第五話 了
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━