境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド 作:ターミナル カフェ
・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。
・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。
・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。
・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。
・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。
以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。
第六話「南米へ」
【涼音side】
「あれは、人類が石化した成れの果てだ」
レフさんの言葉を聞いたあと、しばらく誰も話せなかった。森では鳥が鳴き、風が葉を揺らしている。世界は何も変わらず動いているのに、私の中だけ時間が止まったようだった。
三千七百年。数字として口にするのは簡単だ。でも、その間に知っている街も学校も家もなくなり、あの日まで普通に話していた人たちが石像になっているかもしれない。そう考えると、感情を一つに決めることなんてできなかった。驚き、怖さ、悲しさ、現実感のなさ。その全部が一度に胸へ詰まってくる。
「……やっぱり、そうなんだ」
自分でも驚くほど小さな声が出た。否定したかった。でも、この二日間で私は森の中に点在する石像を何体も見ている。顔や姿勢があまりに自然で、最初から彫刻だったとは思えなかった。
レフさんは、私たちが落ち着くのを待ってから続けた。
「あの日、世界規模で石化現象が発生した。人類の活動は停止し、文明を維持する者が消えた。建造物は崩れ、都市は植物に呑まれ、長い年月を経て今の世界になった」
「原因は?」
「完全には分かっていない」
「じゃあ、どうして自然現象じゃないって言い切れるの?」
問いかけると、レフさんは初めて少し迷ったように目を伏せた。いつもなら即答しそうな人なのに、数秒の沈黙がやけに長く感じる。
「……お前たちの両親が、調べていたからだ」
「え?」
聞き間違えたと思った。
「誰が?」
「藤丸立香とマシュ。お前たちの両親だ。彼らは石化現象の兆候を事前に観測し、発生源と、その背後にいる可能性のある“敵”を追っていた」
パパとママ。家では普通に笑って、料理して、私たちを学校へ送り出していた二人。その二人が、世界規模の異常を調べていた?
頭の中で何かが軋む。思い出せそうで思い出せない。両親が家を出る前、私は何かを聞いた気がする。けれど、そこへ触れようとすると記憶が白くなる。
【達人side】
「……ふざけるな」
気づけば声が出ていた。頭の奥がまた鈍く痛む。
「なんで親父たちの名前が出てくるんだよ。石化を調べてた? 敵を追ってた? あの人たちは、ただの研究者だろ!」
自分でも、理屈になっていないことは分かっていた。でも認めたくなかった。俺の中の父さんは、朝にコーヒーを淹れて、世界の話をして、何かあれば「希望を探せ」と笑っていた人だ。母さんは穏やかで、俺たち兄妹をいつも気にかけていた。
「知ってたなら、止められただろ!」
レフは怒鳴り返さなかった。ただ、少し疲れたような目でこちらを見る。
「落ち着け、達人」
「落ち着けるか!」
「彼らはすべてを知っていたわけではない。石化が起こる“可能性”と、その兆候を掴んでいただけだ。発生源を確定し、対処へ移る前に、あの日が来た」
拳に力が入る。
「じゃあ、親父たちは何者なんだよ」
「世界規模の異常を観測し、解析し、対処する側にいた。それ以上は、お前たち自身が思い出すべきことでもある」
「また記憶かよ……」
苛立って額を押さえる。レフを見ると懐かしい。父さんの言葉を思い出すと、その背後に知らない部屋や人影が浮かぶ。俺の人生の中に確かにあったはずなのに、全部に薄い鍵がかかっている。
「一つだけ、今伝えておく」
レフの声が少し低くなった。
「石化が発動する直前、お前たちを未来へ逃がすための退避処理が起動された。お前たちは偶然ここへ来たのではない」
「……誰がやった?」
「お前たちの両親だ」
森が静まり返った。
最後に二人から強く抱きしめられた記憶が脳裏に蘇る。あれは別れだった。もしかすると、父さんと母さんは最初から――。
「俺たちを……逃がした?」
「そう考えていい」
怒りが消えたわけではない。ただ、その下から別の感情が浮かんできた。二人が俺たちを捨てたわけではなかったかもしれない。その可能性だけで、胸の奥が痛んだ。
【レフside】
――そろそろ頃合いか。
兄妹へ伝えるべきことはまだ山ほどある。だが、レフがこの時代に安定して存在できる時間は長くない。何より優先すべきは、二人を次の地点へ進ませることだった。
「南米へ向かえ」
突然の言葉に二人が顔を上げる。
「そこに、お前たちが求める答えがある。石化の真相も、両親が何を残そうとしたのかも、その先で繋がる」
「南米って……ここ日本だよね?」
「歩いて行けってことか?」
「最初から南米へ直行しろとは言っていない。まず、この時代で出会うべき者がいる」
そう説明しようとした瞬間、身体の芯を冷たいものが貫いた。指先の感覚が消え、視界に白いノイズが走る。
――《外部干渉を検出。“月の杯”系統へのアクセス異常》
――《霊基グラフ強制シャットダウン。維持可能時間、残り数分》
「……干渉、だと?」
誰が、何のために。考えている暇はない。足元から身体の輪郭が光の粒へ変わり始める。
「レフさん!?」
「何が起きてる!」
「構うな! 聞け!」
二人が近づこうとするのを声で制し、残された処理を急ぐ。
「最初の目的地を送る。イシガミ村へ向かえ。そこに“科学使い”がいる。その人物と合流しろ!」
「科学使い?」
「この世界で、お前たちの旅を進めるために必要な者だ!」
座標データを二人の腕輪へ転送する。さらに、今後必要になる装備の権限を開放する。
「身につけている装備とキャンプセットは、お前たち自身の力で扱えるよう調整してある。使い方はサポーターが説明する!」
「サポーターって誰!?」
「見れば分かる!」
輪郭がさらに崩れる。達人が一歩踏み出した。
「待てよ! 親父たちのこと、まだ何も――!」
「だから進め。思い出せ。お前たちの答えを、我から聞くだけで終わらせるな」
涼音も拳を握りしめている。
「また会えるの?」
その問いに、レフは一瞬だけ昔の顔に戻った。
「次に会う時は……コーヒーでも飲みながら、ゆっくり話そう」
声にできなかった言葉が胸に残る。
(さらばだ。我の、愛すべき家族よ)
「レフ――!」
光が弾けた。次の瞬間、森には兄妹だけが残されていた。
【涼音side】
レフさんが立っていた場所には、もう誰もいない。代わりに腕輪の上へ地図と座標だけが浮かんでいる。
「……お兄ちゃん」
「あぁ」
分からないことは増えた。パパとママが何をしていたのか。私たちの記憶に何が起きているのか。レフさんは何者なのか。そして南米に何があるのか。
でも、一つだけ進む方向は示された。
「まず、イシガミ村」
「そこにいる科学使いを探す。それから南米だ」
お兄ちゃんは唇を噛み、それでも前を向いた。私も腕輪に表示された光を見つめる。
止まっていても、答えは戻ってこない。
だから私たちは歩き出す。
三千七百年後の世界で、失った記憶と、両親が残した何かを探すために。
歩き出してからも、私は何度か振り返った。けれどレフさんが戻ってくる気配はなく、木漏れ日が揺れるだけだった。あの人が最後に何を言おうとしていたのか、どうして「また会う」ことを当然みたいに口にしたのか、それも今は分からない。
「行こう、涼音」
「うん」
お兄ちゃんの声に頷き、私は前を向く。答えを置いていかれたのではなく、たぶん自分たちで拾いに行けと言われたのだ。そう考えることにした。両親のことも、記憶のことも、南米のことも、今は一本の細い道の先にある。最初の一歩は、その途中にいるという“科学使い”を見つけることだった。
第六話 了━━━━━━━━━━━━━━━━
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
レフから告げられた目的地は南米。
しかし、そこへ向かう前に「石神村にいる科学を使う人物」を探すことになりました。
両親が何を調べていたのか、なぜ二人を未来へ逃がしたのか。
まだ答えは遠いですが、少しずつ物語の目的が形になってきました。
次回もよろしくお願いします。