境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド 作:ターミナル カフェ
・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。
・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。
・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。
・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。
・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。
以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。
第八話「チュートリアル」
谷を越えてしばらく歩いたところで、先頭を飛んでいたフォウが突然こちらへ向き直り、進路を塞ぐように宙へ浮かんだ。
「フォウ」
《止まってください。これ以上、説明なしで進ませるのは危険です》
「は? なんでだよ」
達人が不満そうに眉を寄せると、フォウは間髪入れずホログラムを展開した。
《先ほどの谷。達人は自分の身体に何が起きたか理解しないまま切り抜けました。次も同じように運良く済む保証はありません》
「運良くって……」
《装備の用途、魔力の扱い、あなたたちの内部にある力。何も知らないまま進む方が異常です》
図星なのか、達人は口を閉じた。涼音はその横で素直に地面へ座る。
「私は聞く。知らないもの使って事故る方が嫌だし」
「……分かったよ」
二人が腰を下ろすと、フォウの前に大きな画面が開いた。
《チュートリアル開始。第一項――現在装備について》
最初に表示されたのは、二人が身につけている服だった。見た目は現代の制服に近いが、森を何日歩いても破れず、汚れも妙に付きにくい。
《これは【礼装】です。レフがこの時代へ適応できるよう調整した特殊装備》
「礼装?」
《魔術と科学技術を組み合わせています。身体能力補助、魔力供給、防御、温度や環境への適応、一部の概念的効果を装着者へ付与します》
達人が自分の袖をつまむ。
「つまり、着てるだけで?」
《着ているだけで最低限の補助は働きます。ただし万能ではありません》
「ライオンに噛まれても平気、とかじゃない?」
《平気ではありません》
「そこはちゃんと現実的なんだ……」
涼音が手の甲へ視線を落とす。そこには、目覚めてから消えずに残っている謎の模様がある。
「この模様も礼装?」
《違います。令呪の痕跡です》
「令呪?」
《詳細は、記憶状態を確認しながら後ほど説明します》
「また記憶……」
涼音は納得しきれない顔をしたが、フォウは次へ進んだ。
《第二項――キャンプセット》
達人の背中側に小型の装備が浮かび上がる。
《魔力を流し、展開をイメージしてください》
「だから、その“魔力を流す”が分からないんだって」
《感覚です》
「それを説明するのがチュートリアルだろ!?」
涼音が少し考え、自分の胸元へ手を当てる。
「体の奥にある力を、手の先へ押し出す感じじゃない?」
「なんでお前は分かるんだよ」
「なんとなく」
《涼音の説明で概ね正解です》
「俺だけ置いていかれてない?」
達人は半信半疑のまま目を閉じた。呼吸を整え、身体の内側へ意識を向ける。しばらくして、ぱん、と小気味よい音が鳴り、何もなかった場所へ簡易テントと生活用具一式が展開した。
「おお……」
《合格。初回としては及第点》
「及第点かよ」
続いて涼音が試す。数秒後、同じように装備が展開された。
《涼音、満点》
「やった」
「採点甘くない?」
《達人が遅いだけです》
フォウは、人目のある場所でキャンプセットを展開しないよう強く念を押した。この世界の住民が現代文明すら知らない可能性があり、正体不明の技術を不用意に見せれば混乱や敵意を招くためだ。
《第三項――フェイト・レプリカント》
それまで軽口を叩いていた二人も、画面に現れた文字を見て表情を変えた。
《正式名称――英霊憑依型簡易召喚システム。歴史や伝説に刻まれた英雄“英霊”の力を、使用者の身体へ一時的に重ねる仕組みです》
「憑依って……誰かが身体に入ってくるの?」
涼音が慎重に尋ねる。
《人格を丸ごと乗っ取るという意味ではありません。基本的には技術、身体補正、戦闘経験、特殊能力などを共有します。ただし、現在のあなたたちは記憶が封印されているため、正常な制御ができません》
「記憶が戻るほど、使える力も増える?」
《正解》
達人が横から口を挟む。
「俺だってそれくらい分かってたぞ」
《では質問。谷であなたを動かしたものは何でしたか》
「……」
達人の表情が固まる。頭に浮かぶのは、あの一瞬の光景。盾と槍。灼ける陽射し。暑苦しい大男の声。
「槍……だった気がする」
《概ね正しいです。現時点で確認できるのは、槍術の基礎動作、感情に連動した身体補正、戦闘時の直感的判断》
「じゃあ、あの声も……」
《記憶の断片である可能性が高いです。ただし、誰のものかは現段階では開示できません》
「開示できないって、知らないんじゃなくて知ってるんだろ」
《ノーコメント》
「腹立つAIだな!」
涼音は笑っていたが、自分の中にも同じ仕組みがあると知って、手の甲をじっと見つめていた。知らない記憶。知らない力。それが自分の中にあるという事実は、安心より不気味さの方がまだ大きい。
《基本チュートリアルは以上です》
最後にまとめが表示される。礼装は身体と魔力を補助する装備。キャンプセットは魔力で展開と収納が可能だが、人目を避ける。フェイト・レプリカントは英霊の力を借りる仕組みで、封印された記憶が戻るほど使用範囲が広がる。
《現在習熟度――達人40%。涼音78%》
「なんで俺そんな低いんだよ!」
《キャンプセット収納に四十秒かかりました》
「そこまで採点に入る!?」
「私は何秒?」
《十七秒》
「ほら、お兄ちゃん」
「何が“ほら”だ!」
重かった話の最後がいつもの兄妹喧嘩になり、フォウは満足そうに尻尾を揺らした。
《チュートリアル終了。イシガミ村へ移動を再開します》
達人は立ち上がり、軽く腕を動かした。服の下で感じる補助。身体の奥を流れる、今まで意識したことのない力。そして頭の奥に眠っている、誰かの記憶。
「……分からないこと増えたな」
「でも、少なくとも知らないままよりはマシでしょ」
「あぁ。行くぞ、涼音」
「うん」
光の矢印が森の奥へ伸びる。二人はフォウの後を追い、再び歩き始めた。
次にこの力が目を覚ます時、自分たちがどうなるのか――まだ誰にも分からないまま。
涼音も歩きながら、自分の指先へ意識を集中させていた。魔力と呼ばれた感覚は、意識すると確かにそこにある気がする。けれど、それが本当に自分の力なのか、誰かから借りているものなのかはまだ分からない。知らないことを怖がるだけでは進めない――科学部で何度も経験したことと同じだと考えると、少しだけ呼吸が楽になった。
科学も同じだ。分からない現象を、分からないまま恐れていても何も始まらない。観察して、試して、失敗して、少しずつ輪郭を掴む。涼音はそう考えながら、未知の力もいつか自分の言葉で説明できるようになりたいと思った。
説明を受けたことで、分からないものが減ったわけではない。むしろ「魔力」「英霊」「憑依」「記憶封印」と、新しく分からない言葉が増えただけだった。それでも、名前が付いたことには意味がある。正体不明の現象だったものが、観察し、確かめられる対象へ変わったからだ。
私は科学部で何度も、最初は意味不明だったデータが一つの法則へまとまっていく瞬間を見てきた。だったら、自分の中にあるこの力も同じように向き合えばいい。いつか「怖い何か」ではなく、「こういう条件で、こう働く力だ」と説明できるようになるまで。そう考えると、フォウくんのチュートリアルも、少しだけありがたく思えた。本人には絶対言わないけど。
お兄ちゃんの方を見ると、さっきまで文句ばかり言っていたくせに、今は妙に真剣な顔で自分の手を見ている。きっと考えていることは同じだ。知らない力だから怖い。でも、知らないまま使う方がもっと危ない。兄妹で性格は違っても、そこだけは同じ結論に辿り着いていた。
第八話 了
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回はフェイト・レプリカントや礼装など、本作独自のシステムを整理する回でした。
達人40%、涼音78%。
この数字がそのまま強さを表すわけではありませんが、二人の記憶や英霊との繋がりに大きく関係しています。
まだ二人とも、使える力のほんの一部しか知りません。
次回から、いよいよ実戦へ入っていきます。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。