境界記録帯(ゴーストライナー)×ストーンワールド 作:ターミナル カフェ
・本作品は『Fate/Grand Order』×『Dr.STONE』のクロスオーバー二次創作です。
・原作には存在しないオリジナルキャラクター、オリジナル設定が登場します。
・原作キャラクターの設定や関係性に独自解釈・改変があります。
・原作とは異なる歴史、展開、世界観が存在します。
・今後の展開によっては、複数のFateシリーズ作品および関連作品の設定を扱う予定です。
以上の点をご了承いただいた上で、お楽しみください。
第九話「英霊の力」
【涼音side】
イシガミ村まで、あとどれくらいだろう。谷を越えてからも私たちは森の中を歩き続けていたが、少しずつ地形が変わってきている。木々の密度が薄くなり、視界の先に丘が見え、空も広くなった。フォウくんによれば目的地までは順調らしいけれど、三千七百年後の森に「順調」という言葉がどこまで通用するのかは正直分からない。
そんなことを考えながら丘を登り切った、その時だった。
「ドイヒー!!!」
どこかから、ものすごく切羽詰まった声が飛んできた。私とお兄ちゃんは同時に足を止める。
「……今の、なに?」
「人の声だろ。普通じゃない叫び方だけど」
フォウくんの耳がぴくりと動く。
「フォウ」
《前方二十メートル。大型動物一頭、人間一名。大型動物はクマと推定》
「クマ!?」
私たちは顔を見合わせ、そのまま丘の向こうを覗き込んだ。草地の中央に大きなクマが一頭。その正面には、細身の男性が追い詰められている。黒と銀が半分ずつ混じったような髪、左頬には大きな石化痕らしきヒビ。着物風の上着に裸足という、どう見ても現代ではない格好だった。
「ちょっ、待って待って、話し合おうよクマさん! オレ、ジーマーで美味しくないから!」
クマは当然聞いていない。低い唸り声を上げ、前足で地面を掻く。
「時間がない」
お兄ちゃんがすぐに状況を判断した。
「涼音、回り込んで注意を引けるか。俺があいつを――」
「クマに素手で行くつもり?」
「他に手がないだろ」
「谷の時みたいな力が毎回出る保証ないよ」
石、枝、草。周囲にあるものを一瞬で見回す。投げて注意を引ける距離じゃない。クマと男性の距離は縮まっている。考える時間もない。
(どうする?)
距離、視線、足場、クマの向き。頭の中で情報が一気に組み上がり、答えだけが先に出た。
「涼音?」
私は丘を駆け下りた。
「おい、待て!」
背後のお兄ちゃんの声を無視し、草地へ飛び込む。
「こっちです!」
クマの視線が私へ向いた。男性から離れる。それでいい。少しでも距離を稼げれば――そう思った直後、クマの前足が想像以上の速さで振られた。
避けきれない。
衝撃とともに身体が飛び、地面へ叩きつけられた。肺から空気が抜け、全身が痺れる。痛い。でも意識はある。男性は離れた。ところがクマは私への興味を失い、再び男性の方へ向こうとしている。
(まだ……助けられてない)
身体が動かない。指に力を入れても土を掴むだけ。その瞬間、意識が遠くへ引かれた。
雪の降る京都だった。木造の道場、障子越しの灯り、冷たい空気。目の前には浅葱色の着物をまとい、刀を持った一人の女性が立っている。
「お前はそこで、何もできないと嘆くだけか」
「……できないよ。私、何も」
「できない、ではない。まだ知らないだけだ」
女性は刀を静かに構えた。穏やかな顔なのに、その切っ先だけが異様なほど鋭く見える。
「力がないと嘆く前に、使い方を知れ。知らなかったことと、存在しないことは違う」
「信じたら……あの人を助けられる?」
「助けたいと思う、その心ごと貸してみろ」
女性の口元に、小さな笑みが浮かぶ。
「後は、私が共に立とう」
その言葉が胸へ落ちた瞬間、恐怖でばらばらだった思考が一つにまとまった。
【ゲンside】
正直に言うと、俺はこの時点でかなり混乱していた。クマに吹っ飛ばされた女の子が、どういうわけか再び立ち上がった。身体はボロボロのはずなのに足元は揺れていない。半分閉じていた目も、さっきとは違う何かを見ている。
「……これ、バイヤーなやつじゃない?」
場違いな電子音が鳴った。白い毛玉――フォウとかいう奴の前へ文字が浮かぶ。
《英霊憑依反応を確認》
《対象との共鳴上昇》
《沖田総司――暫定リンク》
「沖田、総司?」
名前を理解するより早く、女の子――涼音ちゃんの身体を淡い光が包んだ。光が服の輪郭へ重なり、現代風の装備が浅葱色の羽織と黒い袴へ変わっていく。腰には白鞘の刀。
新選組。その単語が頭に浮かんだ。
だが、一番怖かったのは格好じゃない。さっきまでの女の子とは立ち方が違う。剣を持った瞬間から、全身に一本の芯が通っている。
「……我が剣の煌めき、受けるが良い」
声に別人の響きが重なった。
クマが飛びかかる。
次の瞬間、涼音ちゃんの姿が視界から消えた。
空気を裂く音が三つ、ほぼ同時に重なる。俺の目には、刀を突き出した姿へ一瞬で移動したようにしか見えなかった。
「――『無明三段突き』」
クマは勢いを失い、地面へ落ちた。致命傷を与えたというより、完全に戦意を奪われたように後退し、そのまま森の奥へ逃げていく。
「……ジーマー?」
メンタリストとして、人が嘘をつく時の癖や演技は散々見てきた。でも今のは演技じゃない。仕掛けがあるなら、俺には想像もつかない種類のものだ。
役目を終えたように涼音ちゃんの身体から光が消え、その場へ崩れ落ちる。
「涼音!」
少年――兄らしい達人くんがすぐに抱き止めた。
「……あれ? 私、なんかした?」
「した! めちゃくちゃした!」
本気で何も知らない顔。あれだけの動きをした本人が、直前の記憶を持っていない。
「……助かったわ。ジーマーで。あのままだったらドイヒーなことになってた」
礼を言いながら近づくと、涼音ちゃんの手の甲に奇妙な模様が見えた。さらに、普通に空中を浮いている白い毛玉。
「その模様、刺青って感じじゃないよね。それに、そこの喋る毛玉も普通のペットじゃないでしょ?」
《失礼な人ですね》
「喋った!?」
「フォウ」
《第一印象、失礼な人で確定》
達人くんが噴き出す。
「初対面でそこまで言われるのすごいな」
「キミも他人事!?」
涼音ちゃんはまだ状況が分かっていない様子だったが、少し落ち着くとこちらへ視線を向けた。
「名前、聞いてもいいですか?」
「あさぎりゲン。メンタリストやってました。まあ、よろしく」
こうして俺は、石だらけの世界で、明らかに普通ではない兄妹と、妙に口の悪い毛玉に出会った。
フォウが二人にだけ見えるらしい進行表示を更新する。
《目的地への進行度、上昇》
「まだ上がるのか……」
達人くんが空を仰ぐ横で、俺はさっきの剣技を思い返していた。
英霊。沖田総司。憑依。
(……面白いことになってきたじゃない)
もちろん、この時の俺はまだ知らなかった。自分が彼らと一緒にイシガミ村へ向かうことも、そこで古い知り合いと再会することも。
助けられた側の俺としては笑えないが、それでも興味は湧く。あの兄妹が抱えている秘密は、司帝国の思惑よりずっと大きなものに繋がっている――そんな予感が、妙に離れなかった。
命を助けてもらった恩を抜きにしても、俺はこの兄妹に興味を持ち始めていた。達人くんは分かりやすく妹を守ろうとする一方で、自分の中の力についてはまだ警戒している。涼音ちゃんは怖がっているくせに、分からないものをそのまま放置するタイプじゃない。二人とも、自分たちが何者なのかさえ完全には知らないらしい。
(本人も知らない秘密、ねぇ)
メンタリストとしては、とびきり厄介で、とびきり面白い。少なくとも、このまま「じゃあ元気で」と別れるには惜しすぎる相手だった。イシガミ村へ向かうという目的地も同じらしい。なら、しばらく一緒に歩いてみるくらいは悪くない――そう判断した時点で、俺はもう少しだけ彼らの物語へ足を踏み入れていた。
第九話 了
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は涼音側のフェイト・レプリカントが大きく動きました。
本人の意思とは関係なく現れた、沖田総司の力。
力を使ったはずなのに、その間の記憶が残っていない。
この「英霊憑依」が便利なだけの力ではないことも、少しずつ描いていければと思っています。
そして、あさぎりゲンとの出会い。
ここから『Dr.STONE』側との接点も一気に増えていきます。
次回もよろしくお願いします。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。