だいぶオリジナル解釈入りますが、それでもよければご覧ください。
芹沢千香瑠・誕生日短編:千香瑠と光輝の幼少期
――10年前。西暦2042年の秋。
四方を険しい山々に囲まれた、山梨の穏やかな市街地の風景の中に、あどけない三人の子供たちの姿があった。
まだ幼さの残る七歳の夏、いや、少し肌寒さを帯びた初秋の、学校終わりの放課後の公園。
甲府盆地を吹き抜ける風はどこか甘く、遠くに見える山並みは夕陽に照らされて赤く染まっている。
小さな3つの足音が駆け抜けていた。
光輝「急げー! 早く、真琴のお母さんに特製ぶどうジュース作ってもらうぞー!」
先頭を切って走り回るのは、少し日焼けした、この頃はやんちゃ盛りだった光輝だ。
その手には、近所の農家でお手伝いの代わりに貰ったばかりの大きな紫色のぶどうの房が握られている。
真琴「ちょっと、光輝! そんなに急に走ったら転ぶわよ! ……もう、危なっかしいんだから」
そう言ってぷんぷんと頬を膨らませながらも、楽しそうに光輝の後を追いかけていたのは、今はもう故人となった山川真琴だった。
彼女は、ただの負けず嫌いでちょっと甘えん坊で、優しい女の子。
光輝に置いていかれまいと、小さな靴を鳴らして必死に食らいついている。
そして、その二人の少し後ろから、穏やかで優しい微笑みを浮かべて歩いていたのが――芹沢千香瑠だった。
千香瑠「ふふっ、二人ともそんなに急かさなくても、ジュースは逃げないよ?」
真琴「まあ、ゆっくり歩いた方が、夕焼けの空がとっても綺麗に見えるからね……ほら、あっちの山を見て」
真琴が指差した先には、燃えるような茜色の空と、甲州の山の向こうに沈みゆく太陽が広がっていた。
まだあどけない少女の瞳には、美しすぎる夕暮れの景色がビー玉のように映り込んでいる。
誰よりも優しく、いつも周囲を包み込むような温もりを持っていた真琴の存在は、幼い光輝と千香瑠にとって、なくてはならない大切な光だった。
やがて、三人は真琴の家でおばさんにぶどうをジュースにしてもらい、真琴の部屋で腰を下ろした。
光輝「甘酸っぱくて美味い……!」
真琴「でしょ?」
真琴の得意げな笑顔に、光輝は満面の笑みで返す。
その横で、千香瑠は少し不服そうにしながらも、光輝の袖をキュッと引っ張った。
千香瑠「ねえ、光輝くん。約束して。大きくなっても、ずっと3人でこうしていようね? ……どこか遠くに行ったり、離ればなれになったりしないって、今ここで約束してよ」
言葉には出さなかったものの、千香瑠の潤んだ瞳はそう訴えていた。
光輝はそんな千香瑠の頭を少し乱暴にポンと撫で、
光輝「当たり前だろ! 俺がずっと、二人を護ってやるからさ!」
と、どこまでもまっすぐで、少し照れくさいことを堂々と言ってのける。
その無邪気な少年の言葉に、真琴はふふっと優しく微笑み、千香瑠は真っ赤になりながら
千香瑠「私だって、護られてばかりは嫌だもん!」
と、可愛らしい反発の声を上げた。
夕焼けの山梨を吹き抜ける秋風が、3人の笑い声を遠くへと運んでいく。
誰もがその時間が永遠に続くと信じて疑わなかった、あまりにも鮮やかで、二度と戻らない幼き日の宝物のようなワンシーン。
この頃はまだ、千香瑠も真琴も、リリィになろうとは思っていなかった。
後に失われた真琴の命、未来の痛みも、背負うべき過酷な宿命も、この時の彼らはまだ何も知らない。
ただ青く澄み切った甲州の空の下で、三人の小さな心は、確かに一つの温もりとして結ばれていたのだった。
― 完 ―
千香瑠ちゃん、Happy Birthday!!