ヘリオスフィアに愛の方程式を   作:松兄

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 今回はヒュージ戦です。

 相手は以前の千香瑠たちヘルヴォルの時のようなマギジャミングを持つ、特型ギガント級。

 ヘルヴォルのときはまだラージ級でしたからね。


蒼海の脅威と、届いた救い

 

 

 光輝の作った"ランク戦"に夢中になっていた百合ヶ丘女学院の日常は、鳴り響いたけたたましい緊急警報によって一瞬にして切り裂かれた。

 

『――特型ギガント級ヒュージ、百合ヶ丘近海に出現! 迎撃体制に移行せよ!』

 

 事態の深刻さに、一柳隊やアールヴヘイムをはじめとするリリィたちが即座に出撃する。

 

 

 しかし―――、

 

二水「何かおかしいです! マギが……」

 

楓「これは!?」

 

 現場海域に到着した彼女たちを待ち受けていたのは、最悪の悪夢だった。

 

亜羅椰「嘘……っ!? マギの巡環が急激に阻害される……!?」

 

樟美「ジャミング波よ! このヒュージ、広範囲に高濃度のマギジャミング波 を放ってるわ!」

 

 海上にそびえ立つ特型ギガント級ヒュージが放つ異様な波長。

 

 それは瞬く間に周囲の空間を呑み込み、リリィたちのマギ循環を底から断ち切っていく。

 

 マギの供給を断たれた瞬間、空中でCHARMを起動していたリリィたちの足場が崩れ、変形機構が沈黙する。

 リリィの超常的な身体能力や防御、そして必殺の攻撃手段――そのすべてが、マギという基盤を失ったことで一瞬にして失われてしまった。

 

梨璃「きゃああっ……!」

 

 

樟美「あああっ!!」

 

 マギを遮断されたリリィたちは、ただの「特殊な訓練を受けた普通の少女」に過ぎない。

 

 吹き荒れる暴風と、ヒュージからの容赦ない攻撃の嵐の前に、何人ものリリィが吹き飛ばされ、冷たい海水と地面に叩きつけられていく。

 

夢結「梨璃!!」

 

天葉「樟美!」

 

 吹き飛ばされた自身のシルトのもとへと駆け寄る2人のシュッツエンゲル(リリィ)

 圧倒的な無力感の中、絶望の色が少女たちの顔を染めた。

 

 動かないCHARM。遮断されたマギ。このままでは全滅してしまう――。

 

 その絶体絶命の窮地の中、戦域の司令通信に割り込む形で、一つの電子音が響いた。

 

光輝『――そこまでだ。お前ら、下がりな』

 

 聞き覚えのある、どこか澄んだ光輝の声。

 

 次の瞬間、海岸線の防衛ライン、あるいは上空の輸送ドローンから、一筋の閃光が戦場へと撃ち出された。

 

 狙いすまされたようにリリィたちの足元、あるいは手元のCHARMへと降り注いだのは、光輝が突貫で造り上げたばかりの、『CHARM強化パッケージ』だった。

 

壱「なに、これ……?」

 

弥宙「何かのコネクター?」

 

月詩「……っ! これを、CHARMに……!」

 

 震える手で『CHARM強化パッケージ』を拾い上げた月詩が、CHARMのソケットへと迷わず突き刺す。

 

カチリ! と、

 

 世界が変わるような乾いた音が響いた。

 

光輝『マギが使えなかろうが、関係ねえよ』

 

 光輝の通信が、通信障害すらも超えてクリアに響く。

 

 それは、仲間たちを生かして返すためだけに用意された、理不尽を叩き潰すための「反則の切り札」だった。

 

 硬質な機械音が響いた瞬間、それまで沈黙していたCHARMの基部が青く、あるいは鮮やかな色彩の光を帯びて唸りを上げた。

 

 それは、マギではない。マギの巡環すら必要としない、純粋な物理法則とエネルギーの再構築システム。

 

 『マギが使えなかろうが、関係ねえよ』という光輝の言葉通り、少女たちの手元で、牙を剥くような新たな戦闘力が起動した。

 

雨嘉「いける……っ!」

 

 雨嘉が射撃モードのCHARMのトリガーを引く。

 

 その銃身から放たれたのは、マギ弾ではない。

 

 ガトリングフルボトルのシステムを極限まで応用した、圧倒的な物理弾道と超高速連射の長距離狙撃の嵐だった。

 

ゴオオオオオッ!! ズドドドドドドドドッッッ!!!!

 

 轟音が海を揺らし、無数の弾丸がジャミング波を無視して一直線に特型ギガント級ヒュージへと突き刺さる。

 

 さらに、別のレギオンのメンバーが手にしたブレード型のCHARMが、パッと鮮やかな色彩に染まる。

 

 それは『ニンニンコミック』の概念を移植されたパッケージ。

 

 刀身にまとったのはマギではなく、純粋な物理的熱量と圧縮空気による、荒れ狂う炎と鋭い風の刃だった。

 

依奈「――これが、光輝くんの……!」

 

 依奈が自身のレアスキル、"円環の御手"によるCHARMの二刀流を渾身の力を込めて十文字に交差するように振るうと、放たれた十字状の斬撃は凄まじい爆風と炎を纏い、闇夜を切り裂く対の三日月となって特型ギガント級の巨躯へと叩きつけられた。

 

ドォンッッ!!

 

 海面が沸騰するかのような激しい爆発が起きる。しかし、驚異はそれだけではなかった。

 

 特型ギガント級ヒュージが身を守るために展開していたのは、あらゆるマギ攻撃を無慈悲に弾き返す絶対の盾――《マギリフレクター》。

 これまであらゆるガーデンのリリィたちがどれほどの強大なマギ弾や必殺の追撃を放とうとも、このリフレクターの前に無力化されてきた悪夢の障壁。

 

 現に以前現れた《マギリフレクター》持ちのヒュージは、梨璃のレアスキル、"カリスマ"が進化したレアスキル―――。

 

 "ラプラス"でなければ破れなかった。

 

 だが、今――。

 

 ヒュージが反射の構えを取り、迫り来る攻撃を迎え撃とうと障壁を輝かせた瞬間。

 

 リリィたちが放ったガトリングの弾丸も、炎と風を纏った忍法刀の斬撃も、マギリフレクターに阻まれるどころか、何事もなかったかのようにすり抜け、あるいはその硬質な装甲を直接粉砕して深々と突き刺さった。

 

辰姫「嘘……!? 結界が、効いてない……!?」

 

 辰姫が思わず声を漏らす。

 

 そう、この攻撃の根底にあるのは「マギ」ではない。

 

 ヒュージがどれほどマギを感知し、それを反射しようと構えようとも、システムそのものが『マギ非依存』である以上、マギにしか反応しないマギリフレクターにとっては、その一撃は『存在しないもの』に等しく、盾としての役割を一切果たさない。

 

 盾の意味を失った特型ギガント級ヒュージは、防御の要を剥ぎ取られたまま、次々と浴びせられる物理と属性の暴力に晒された。

 

閑「……ふざけないでよ、こんなの……!(歓喜)」

 

天葉「でも、これなら……勝てる……っ!」

 

 マギを奪われ、絶望のどん底に落とされたはずの戦場。

 

 そこから反撃の狼煙を上げたのは、光輝が残した「生還のための切り札」を手に、見事に牙をむき出しにした百合ヶ丘のリリィたち。

 

 光輝から届いた『CHARM強化パッケージ』が、その戦局を文字通りひっくり返していく。

 

 魔力に依存しないそのシステムは、次々とヒュージの巨躯を抉り取っていく。

 

 そんな中、戦場の前線では、特異な《レアスキル》を持つリリィたちの手元に、それぞれの特性を極限まで引き上げる「最適化されたパッケージ」が届いていた。

 

 戦場の左翼――空間の歪みを思わせるほどの超高速移動を誇る、レアスキル。《縮地》の使い手である梅などの元へ届いたのは、赤と青の鮮烈な輝きを放つ『ラビット&タンク』のパッケージだった。

 

梅「……これ、はっ!」

 

 ソケットに差し込んだ瞬間、ラビットフルボトルの爆発的な脚力増幅効果が、リリィの肉体ではなく、彼女の《縮地》の踏み込みそのものへと直接上乗せされる。

 

 元より一瞬で視界から消え去るほどの速度を誇った《縮地》が、音速の壁すら置き去りにするほどの、レアスキルの限界速度を超えた異次元の加速へと昇華した。

 

梅「見えた……っ!」

 

 海の上を駆け抜け、空間を跳躍するように敵の死角へと回り込んだ少女の手に握られたCHARMは、タンクフルボトルの重厚なエネルギー変換機関によって、巨大な砲身へと変形している。

 

 超高速の移動スピードから叩き出される、重戦車並みの高火力の零距離砲撃。

 

ドォンッ!!

 

 特型ギガント級の側面に激しい衝撃と爆炎が走り、分厚い装甲が粉々に吹き飛んだ。

 

 一方、上空を制圧する戦域では――、マギの圧倒的な放出を誇るレアスキル《フェイズトランセンデンス》の持ち主が、舞うように空中に浮遊していた。

 

 彼女のCHARMに差し込まれていたのは、『ホークガトリング』のパッケージ。

 

ミリアム「――空中機動、獲得じゃ……!」

 

亜羅椰「参りますわよぉ!!」

 

 ホークの能力によって、マギなしで背中に光の翼のような揚力が生み出され、リリィは本来不可能だった自由な飛行能力を獲得する。

 上空からの圧倒的な高度優位を得た彼女たちは、ヒュージの頭上へと回り込み、射撃モードのCHARMの銃口を向けた。

 

 だが、この組み合わせの真価はそこだけではない。

 

 彼女たちが持つレアスキル《フェイズトランセンデンス》がもたらす圧倒的なマギの奔流が、非マギ型パッケージと奇跡的な化学反応(ベストマッチ)を起こしていた」

 

 体内で有り余るマギのエネルギーが、ガトリングの弾丸を生成するための「物理的エネルギーの触媒」として、ただリリィの身体に"あるもの"として、CHARMと身体の直接接続からジャミングを無視して強制変換される。

 

 結果として起きる現象は、文字通りの『弾切れ知らず』。

 

 

ダダダダダダダダッ!!

 

 途切れることのない超高速の連続射撃が、角度をつけた死角から雨あられとヒュージの頭部へ叩き込まれる。

 

 反射もジャミングも意味をなさず、無数の弾丸が急所を正確に蜂の巣にしていく。

 

神琳「これなら……落とせます……っ!」

 

梨璃「はい!」

 

鶴沙「はああああっ!!」

 

 地上を駆け抜ける超音速の斬撃と、空から降り注ぐ無限の弾幕。

 光輝が送った「生還のための切り札」は、百合ヶ丘のエースたちのポテンシャルを限界突破させ、絶望の海原をまたたく間に圧倒的な反撃の舞台へと変えていった。

 

 特型ギガント級ヒュージが放つ「マギジャミング波」という圧倒的な悪夢―――。

 

 だが、それを頼りにしていたからこそ、その巨躯は致命的な油断を孕んでいた。

 相手のマギを奪い、反射さえすれば無敵であると過信していたそのヒュージは、そもそも物理的な強靭な装甲にリソースを割く必要がなかったのだ。

 

 マギに依存しない光輝の『CHARM強化パッケージ』の前では、その薄い装甲など紙細工に等しかった。

 

 《縮地》とラビットの超加速による零距離砲撃が走り、

 

 《フェイズトランセンデンス》とホークガトリングの無限の弾幕が上空から降り注ぐ。

 

 

 次々と装甲を剥ぎ取られたヒュージは、ついにその弱点である「核」を剥き出しにした。

 

 

 もはや、レギオンの総力を結集する必殺戦術――「ノインヴェルト戦術」を展開するまでもない。

 

 圧倒的な物量と物理の暴力の前に、ヒュージの核は耐えきれず、激しいチェインリアクションを引き起こした。

 

 

ドォオオオオオオンッ!!

 

 

 海面を揺るがす大爆発が響き渡り、紫色の粒子となって、特型ギガント級ヒュージの巨躯は四散して消滅した。

 

 静けさを取り戻した海上に、リリィたちの息を弾ませた声が響く。

 

 結果は、完全なる勝利だった。

 

 マギを封じられ、一時はどうなることかと冷や汗を流したものの――蓋を開けてみれば、「誰一人として死なず」、かすり傷や打撲程度の「軽傷」を負った者が数名出たのみで、「大怪我」を負った者は一人もいなかった。

 

 かつてないほどの凶悪な特殊能力を持つヒュージを相手にしたとは思えない、圧倒的な無傷での生還だった。

 

 やがて、安堵と興奮の入り交じった空気の中、防衛ラインへと帰還した百合ヶ丘のリリィたち。

 ゲートをくぐり、緊張の糸が解けた彼女たちの視線の先に――ふらりと佇む一人の男の姿があった。

 

 

 あの戦闘の最中、絶望の底にあった彼女たちへ「生還の切り札」を届けた張本人、光輝だ。

 

 その姿を見つけた瞬間、リリィたちの足取りがピタリと止まる。

 

 そして次の瞬間――。

 

梨璃「――いたっ!」

 

 真っ先に声を上げ、一目散に駆け出したのは梨璃だった。

 

 その後を追うように、夢結や天葉、依奈、壱、神琳、二水など、そして他のレギオンの面々も一斉に光輝のほうへと殺到する。

 

天葉「ちょっと、光輝くんっ……!」

 

 勢いそのままに光輝の目の前で急停止した天葉は、呆れたような、しかし胸がいっぱいといった複雑な表情で両手を腰に当てる。

 

天葉「あんなすごいもの、いつの間に作ってたわけ!? おかげで助かったけど……心臓に悪いっての!」

 

依奈「本当よ! マギが使えなくなって『もうダメかも』って思った瞬間に、あんな反則みたいなパッケージが飛んでくるんだから……!」

 

 天葉や依奈が頬を膨らませつつも、その目には確かな感謝と興奮の色が宿っている。

 

 夢結や梨璃も光輝の前に歩み寄り、深く息を吐き出してから、心からの笑みを向けた。

 

夢結「ありがとう、光輝さん。あなたのその『備え』がなければ……私たちは、今日ここに帰れなかったかもしれないわ」

 

二水「はいっ! みなさん……大きな怪我もなく、無事に帰ってこられました!」

 

 少女たちが口々に紡ぐのは、驚きと、そして圧倒的な安心感から来る言葉の数々だった。

 

 誰一人として死なず、守り抜けたという事実。その最大の功労者が目の前にいる。

 

 しかし、そんな少女たちのただならぬ熱気と、一斉に詰め寄られたプレッシャーに、光輝は少しだけたじろぎながら、フッと悪びれない笑みを浮かべた。

 

光輝「おおい、そんなに囲むなよ。……怪我人がいないなら、俺が余計な心配をしたってだけだ。上出来だろ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、リリィたちの表情がさらに緩む。

 

 

ミリアム「……まったく、謙虚なのか何なのか分からんやつじゃな」

 

辰姫「でも、辰姫は嫌いじゃないです」

 

 ミリアムと辰姫が呆れたように鼻を鳴らしながらも、どこか嬉しそうに腕を組む。

 

 リリィたちは、ふふっと柔らかく微笑んでいた。

 

― つづく ―




何事もなく特型ギガント級を撃破。

そしてこの件の情報は、様々なガーデンに届くはずであり……
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