ヘリオスフィアに愛の方程式を   作:松兄

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エレンスゲが燃えていない、"if〜"ストーリーのような感じになりますのでご了承ください。


松村優珂・誕生日短編:感謝

 

 

 あの、六本木の地獄のような防衛戦から数日―――。

 

 G.E.H.E.N.A.、そしてエレンスゲ上層部が下した「マディックを肉の壁にしてリリィは撤退せよ」という非道な命令は、光輝が密かに送った「非マギ強化パッケージ」によって完全に粉砕された。

 

 マディックたちは誰一人見捨てられることなく、すべてが無傷で生き残った――。

 それを現場で目の当たりにした、松村優珂の胸を最も強く満たしたのは、激しい怒りでも冷徹な得心でもなく、底知れない「安堵」だった。

 

優珂(……よかった。本当に、誰も死ななかった……!)

 

 普段は冷めた仮面を被り、エレンスゲのシビアな実力主義の中で「弱さを見せてはならない」と自分を縛り続けていた優珂。

 

 しかし、あの時、マディックたちが安堵の涙を流していた姿を思い出すたび、彼女の心は温かい感情と、ある一つの大きな「借り」への意識でいっぱいになっていた。

 

 そんなある日、クエレブレのメンバーである美岳から耳寄りな情報がもたらされる。

 

美岳「あ、優珂。さっき一葉が教えてきたんだが……」

 

優珂「はあ? 序列1位様が何の用よ?」

 

 ぶっきら棒に、苛ついた様に問い返す優珂。

 

美岳「なんでも、あの技術者。光輝が、今、東京の街にきているらしい」

 

優珂「……は? アイツが……?」

 

 情報を聞きつけた瞬間、優珂の心臓が大きく跳ね上がった。

 

 反射的に「ふん、この街に何の用かしらね」とツンとした態度を作ってみせたものの、その足はもう勝手にレギオンルームを飛び出していた。

 

優珂(お礼……? 別に、そんな大げさなものじゃないわ。ただ、あの時勝手にカッコつけて全部持っていった借りを、少しだけ返してあげるだけよ……!)

 

 自分にそう言い聞かせながら、優珂は東京の街並みを駆ける。

 彼女の手には、少し不格好ながらも自らの手で焼き上げた、小さなクッキーの入った包みがしっかりと握りしめられていた。

 

 お菓子作りなど普段はしない彼女が、夜な夜なレシピを見ながら必死に作ったものだなんて、本人以外の誰も知らない。

 

 光輝が生きそうな場所。電気街などを探し回り、そしてついに――東京の静かな裏通りで、お馴染みのパーカー姿でぼんやりと佇む光輝の背中を見つけた。

 

優珂「……っ、いた!」

 

 優珂は勢いよく駆け寄ると、わざとわざとらしい大きな足音を立てて光輝の背後で立ち止まる。

 

 そして、いつもの冷徹な――しかしどこか震える声を張り上げた。

 

優珂「ちょっと、アンタ! こんなところで何してるのよ!」

 

光輝「うわっ!? ……なんだ、優珂さんか。驚かせないでくれよ」

 

 振り返った光輝が、突然声をかけられたことに驚きながらも振り向く。

 

 その無防備な顔を見た瞬間、優珂の顔にパッと鮮やかな朱色が広がった。

 

優珂「ふ、ふん! 別に、アンタを探してたわけじゃないんだから! たまたま通りかかったら、アンタみたいな変な奴が突っ立ってたから、声をかけたのよ! 職務質問よ!」

 

 必死の言い訳を早口で並べ立てながら、優珂は持っていたクッキーの包みを、まるで爆弾でも押し付けるかのように光輝の胸元へと突き出した。

 

優珂「こ、これ……! 別に、特別な意味なんかないけど、先日の六本木防衛戦での……その、非マギパッケージでマディックたちを助けてくれた件で、少しだけ……ほんの気まぐれでお礼を作ってきただけよ!」

 

光輝「え……? これ、手作りなのか?」

 

 光輝が驚きながら包みを受け取り、中身を確認する。不揃いではあるが、しっかりと焼き上げられたクッキーからは、甘い香りがふわりと漂っていた。

 

優珂「うっさいわね! 文句ある!? ……べ、別に、あの時マディックたちを全員無傷で助けてくれたことに対して、感謝してないわけじゃないんだから……。その……助かったわよ、本当に」

 

 最後の一言だけは、蚊の鳴くような、かろうじて聞き取れるほどの小さな声だった。

 

 耳まで真っ赤に染め、恥ずかしさのあまりその場で地団駄を踏みたくなるのを必死にこらえながら、優珂はぷいっと勢いよくそっぽを向く。

 

優珂「もう! 用事はそれだけよ! あまり目立つ行動はすんじゃないわよ! G.E.H.E.N.A.に勘付かれたら最悪なんだから!!」

 

 そう言い残すと、優珂は逃げるようにその場から走り去っていった。

 

 その後姿を見送りながら、光輝は包みの中のクッキーをつまみ、少し呆れたような、しかし優しい笑みを浮かべるのだった。

 

 東京の空の下、不器用な女の子の甘い秘密は、少しだけ温かい風に乗って、しっかりと少年の胸へと届いたのだった。

 

 

― 完 ―




優珂、Happy Birthday!!
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