祖父の力を扱う、新世代のビルドとヘルヴォルの遭遇は果たして?
千香瑠(あの日、山梨で真琴を失って、私の世界は真っ暗になった。エレンスゲに転校して、一葉ちゃんたちと出会って救われるまで、私の心を辛うじて繋ぎ止めてくれていたのは……この不器用で優しい男の子との思い出だった)
「リリィとしての芹沢千香瑠」ではなく、山梨にいた頃の「ただの1人の女の子」だった時の記憶が今、湧き上がってくる——。
千香瑠「――こうき……くん?」
光輝「千香瑠……?」
振り返った光輝の視線の先に立っていたのは、見違えるほど凛とした佇まいになりながらも、面影は昔のままの少女――芹沢千香瑠。
小さい頃、地元山梨近郊の小さな公園で、砂まみれになって一緒に笑い合った幼馴染。
最後に別れてから何年の月日が流れただろう。互いの名前を呼んだ瞬間、時間の距離は一瞬で縮まった。
だが、その劇的な再会の場には、彼女の仲間たちも居合わせていた。
エレンスゲのトップクラスレギオン『ヘルヴォル』の精鋭たちである一葉、藍、恋花、瑤の姿があった。
一葉「千香瑠様。知り合いですか?」
小首をかしげ、一葉が興味深そうに目を細める。
その直後、千香瑠の様子がわずかに揺らいだ。
普段の彼女といえば、レギオンの精神的支柱であり、包容力抜群の「お姉さん」として仲間たちを優しく包み込む存在だ。
どんな時も穏やかで、誰に対しても慈愛に満ちた微笑みを絶やさない。
しかし――。
千香瑠「こう……き、くん……どうして、ここに……っ?」
楽しかった幼少期を思い出し、少しだけ上ずった声。
満面の笑顔を見せ、ぎゅっと手を握りしめている。その姿は、歴戦のリリィとしての威厳などどこへやら、ただの友達と再会した年頃の少女そのものだった。
恋花「千香瑠?」
千香瑠「あっ、み、みんな……こちら私の幼馴染の桐生光輝くんです……!」
光輝「どうも……」
瑤は腕を組み、面白そうにフッと口角を上げる。
瑤「ふーん……。私たちの知らない昔の千香瑠を知ってる男の子…ねぇ? これは後で詳しく事情聴取が必要かしら」
一葉「さ、さすがにからかいすぎは……瑤様。でも、確かに気になりますね……」
仲間たちの温かい、しかしからかうような視線に耐えかねて、千香瑠は顔を覆った。
そんな彼女の様子を、光輝は少し気恥ずかしそうに、しかしどこか懐かしそうに見つめている。――変わっていない。あの頃の優しい千香瑠のままだ。
エレンスゲという舞台で、戦うリリィとして生きる彼女の、ほんの少しだけ見せた「素の表情」。
だが―――、緊迫した空気を切り裂くように、街中に警報音が鳴り響いた。
『――緊急警報。ヒュージの接近を確認。市民は速やかに避難してください』
千香瑠「っ……!」
千香瑠の表情から、先ほどの少女らしい微笑みが一瞬にして消える。
彼女の瞳に宿るのは、歴戦のエレンスゲ後衛リリィとしての鋭い光。
千香瑠はすぐさま、その場にいる光輝の腕をしっかりと掴み、真剣な眼差しを向ける。
千香瑠「光輝くん、ここにいたら危ないわ。早く、近くのシェルターへ逃げて!」
光輝「あ、ああ、千香瑠も……」
千香瑠「大丈夫。私たちに任せて」
微笑んでみせた千香瑠は、仲間たちと視線を交わす。一葉、藍、恋花、瑤、そして千香瑠。ヘルヴォルの面々は一瞬で戦闘態勢へと移行し、それぞれのCHARMにマギを通し、を起動した。
一葉「行きます!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
現場へと駆けつけた彼女たちの前に現れたのは、市街地を蹂躙しようとする狂暴なヒュージの群れだった。
一葉「ヘルヴォル現着! 掃討します!」
一葉の号令を合図に、戦闘が始まる。
千香瑠は愛用の槍型CHARM『ゲイボルグ』を軽快に操り、その刀身を鮮やかに翻す。
振るえば薙ぎ払い、踏み込めば突き穿ち、隙あらば銃撃で敵の足を止める。
長年培った圧倒的な実力とチームワークで、ヘルヴォルは瞬く間にヒュージの群れを圧倒していった。
やがて、最後の一匹が断末魔を上げて崩れ落ちる。
藍「終わり〜?」
息を整えた藍がCHARMを下ろす。誰もが戦闘の終わりを確信し、一瞬の油断が生じたその時だった。
ビュッッ!!
一葉「ッ! 千香瑠様!!」
千香瑠「えっ………」
倒したはずのヒュージの残骸から触手が不意に伸び、近くにいた千香瑠へと猛スピードで襲い掛かった。
恋花「千香瑠っ――!?」
一葉たちは間に合わない。
―――だが、その危機を打ち破ったのは、青と赤の奇妙な色彩をまとった、見知らぬ「影」だった。
突如として現れた、左右非対称のボディを持つ赤と青の戦士。
彼が跳躍し、右足に纏わせた螺旋状のエネルギー――。
軌跡を描くキックが、千香瑠を襲う触手を凄まじい衝撃波とともに弾き飛ばす。
ボルテックフィニッシュ!
轟音と共に、ヒュージは文字通り粉々に粉砕され、霧散した。
着地した赤と青の戦士は、振り返ることもなく、自身のスマホを操作する。
ビルドフォン!
ライオン!
ボトルを挿したスマホを投げると、
ビルドチェンジ!
彼の手にあったスマホが変形し、近未来的なオートバイへと姿を変える。
ビルドは迷うことなくそれに跨がった。
一葉「待ちなさい!」
我に返った一葉が、先陣を切って声を張り上げる。
数日前、百合ヶ丘、エレンスゲ、神庭女子の三大ガーデンだけでなく、各地のガーデンに対し、上層部から謎の戦士、"仮面ライダー"に関する極秘情報が通達されていた。
未知の技術体系を持つ存在。その正体と目的を問いただすため、一葉はすぐさま駆け出そうとした。
しかし――。
一葉「――っ!」
リリィとしての超人的な身体能力をもつヘルヴォルのメンバーであっても、そのバイクの加速には一歩も追いつかない。
マシンビルダーは爆音を轟かせ、アスファルトを蹴立てて一瞬で視界の彼方へと走り去っていった。
恋花「速っ……!? あの加速、リリィのダッシュでも追いつけないなんて……!」
恋花が目を見開き、悔しそうに地団駄を踏む。
千香瑠「逃がすわけにはいかない!」
焦りを隠せない千香瑠は、手元の自身のCHARM、《ゲイボルグ》を瞬時に射撃モードへと変形させた。
逃げゆくバイクの背中を狙い、洗練された狙撃技術で次々と光弾を撃ち込む。
常人であれば確実に捉えているはずの弾道――だが。
千香瑠「嘘……全部、避けた……!?」
ビルドは後方から放たれる高精度の狙撃を、まるで背中に目がついているかのような神業的なドライビングテクニックで次々とひらりひらりと躱していく。
ジグザグの加速と絶妙な車体の傾け方で完全に見切り、あっと言う間に大通りの角を曲がって姿を消してしまった。
静まり返った道路に、CHARMの冷却音がかすかに響く。
千香瑠はゲイボルグを握りしめたまま、バイクが消え去った遠くの空を見つめて息を呑んだ。
さきほどの再会の甘い余韻は吹き飛び、彼女たちの胸には、未知なる脅威と、得体の知れない戦士への強烈な警戒心と戸惑いだけが重く残されたのだった。
― つづく ―
早いけどこの次の戦闘で正体バレします。
約束を守るには早いほうが良いので