ヘリオスフィアに愛の方程式を   作:松兄

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一応アサルトリリィとビルドの両方の設定を活かしたつもり。


ラビットタンクスパークリング

 

 

千香瑠「あ……、あ、あ…………」

 

 カチカチと、頭の中で何かが壊れていくような音がした。

 

 目の前で血を流し、息を荒くしているのは、昨日笑顔で再会したばかりの、私の手を優しく握ってくれた光輝だった。

 

千香瑠「うそ…………なんで、光輝くんが、そこに、倒れて……?」

 

 光輝の流す鮮血が、千香瑠の瞳に映る。

 

 「どうしてあなたがここにいるの?」「なんでこんなボロボロになるまで戦っていたの?」という疑問が頭を殴り、同時に

 

千香瑠(私がリリィなんかになったから、彼を巻き込んでしまった………?)

 

 強烈な罪悪感が千香瑠を襲うその刹那、彼女の脳裏で、止まっていた時間が狂ったように動き出した。

 

 赤。赤。赤―――。

 

 目の前の光景が、あの日なくなった親友——山川真琴の凄惨な姿と完全に重なり合う。

 

千香瑠「嘘……嘘、嘘、嘘!! なんで……なんであなたなの……っ!? 嫌、目を開けて! 私を見て、お願い、私を置いていかないで……!!」

 

一葉「千香瑠様!? しっかりしてください、千香瑠様!!」

 

 一葉が必死に叫ぶが、今の千香瑠にはその声すら届かない。

 

 視界が急速に狭くなり、呼吸の仕方を忘れたように胸が激しく上下する。

 エレンスゲの教官から与えられていた精神安定剤の効果なんて、光輝の血の赤さの前に、一瞬で消し飛んでいた。

 

千香瑠「嫌……嫌嫌嫌嫌!! また、私のせいで……! 私が守れなかったから……っ!!」

 

 千香瑠は激しい動悸に襲われ、過呼吸一歩手前の状態。

 

千香瑠「光輝くん!! 目を開けて、嫌よ、私を置いていかないで……!! 嘘だって言ってよぉぉぉーーーっ!!」

 

 喉を引き裂くような絶叫。

 

 千香瑠はなりふり構わず地面を這うようにしてその震える手で、彼の傷だらけの身体を狂ったように抱きしめるのだった。

 

恋花「千香瑠、しっかりしなさい! 泣いてる暇があったらその手を動かす! とにかくこのバカな男の子の命を繋ぎ止める事を考えるのよ、早くっ!!」

 

 涙で視界を濡らし、狂ったように光輝の名を叫ぶ千香瑠。

 

 その悲痛な絶叫が、光輝の意識を強引に引き戻した。

 

光輝「ぐ、っ……あ…………」

 

 ピクリ、と光輝の指先が動く。

 

 光輝は、自分を抱きしめて震える千香瑠の手を、血に染まった自分の手で——しかし、驚くほど強い力で、ぎゅっと握り返した。

 

千香瑠「……え? こう……き、くん……?」

 

 驚きに涙を止める千香瑠の目の前で、光輝は泥と血にまみれた地面に手のひらを突き、軋む肉体を無理やり押し上げた。

 

一葉「だめです、動かないで……! 骨が折れて……っ!」

 

 一葉の静止すら、今の光輝の耳には届かない。

 

 ガタガタと震える足に、一歩、また一歩と、執念だけで大地の重力を撥ね退けるように力を込めていく。

 

 膝が鳴り、傷口から再び鮮血が溢れても、その瞳に宿る光だけは、何一つ衰えていなかった。

 

 完全に立ち上がり、千香瑠の前に立ちはだかるように背筋を伸ばしたその瞬間。

 

 光輝は千香瑠を安心させるように、フッと不敵な笑みを浮かべて、静かに、だが力強く言い放った。

 

光輝「……泣くなよ、千香瑠。お前を泣かせるために、俺はベルトを巻いたんじゃない……!」

 

千香瑠「あ…………」

 

 その言葉、その背中。千香瑠の脳裏で暴走しかけていた過去のトラウマが、彼の圧倒的な「(せい)の意志」によって、一瞬で綺麗に上書きされていく。

 目の前にいるのは、守れなかった過去の幻影じゃない。今、この瞬間も、命を懸けて自分を守り、戦おうとしてくれている——幼馴染の姿だった。

 

 光輝は腰のビルドドライバーに、"缶"を装填する。

 

 

光輝「ここからは、俺の実験(ステージ)だ……!」

 

 

千香瑠「あ…………」

 

 千香瑠の視界を覆っていた、血塗られた山川真琴の幻影が、まるで朝日に溶ける霧のようにサラサラと霧散していった。

 

 喉を締め付けていた過呼吸がすっと収まり、冷え切っていた彼女の身体に、確かなマギの熱が戻ってくる。

 

千香瑠(……違う。光輝くんは、死なない。私を守って、前を向いて笑ってくれている……!)

 

 

ラビットタンクスパークリング!

 

《Are You Ready?》

 

光輝「変身!!」

 

シュワっと弾ける! ラビットタンクスパークリング!! イェイ!イェーイ!!

 

 

 弾ける炭酸の光の中、ビルドが弾丸のように地を蹴った。

 

 通常のリリィの連携なら、綿密な作戦と合図が必要だ。

 

 だが、千香瑠と光輝にはそんなものは要らない。ビルドが右へステップを踏み、一瞬だけ肩を引く。

 

 その、コンマ数秒の『予備動作』を見ただけで、千香瑠の身体は勝手に動いていた。

 

千香瑠(——光輝くんは、あいつの右足を狙う……!)

 

 訓練したことなど一度もない。しかし、子供の頃に何度もやった鬼ごっこで、彼がいつもどっちの足から踏み出して自分を捕まえに来たか、彼女の細胞がすべて覚えている。

 

 千香瑠が瞬時にCHARM『ゲイボルグ』を構え、ヒュージの死角、ビルドの狙う軌道の「わずか数センチ外側」へ向けて、ピンポイントで高精度のマギ弾を撃ち込む。

 

ズドォン!!

 

ビルド「っ!?(千香瑠……!)」

 

 ビルドが驚きを見せる。千香瑠の放った魔弾は、ヒュージを倒すためではない。

 ヒュージの巨体を強引にノックバックさせ、【ビルドの右拳が最もクリーンヒットする完璧な位置】へ、敵の身体をコントロールするための射撃だった。

 

一葉「な、に……!? 事前の合図もなしに、あの速度の戦士の動きに完全に先回りして射線を合わせるなんて……っ!」

 

恋花「あはは……! さすが幼馴染、千香瑠とアイツの間には、アタシたちの知らない『方程式』が最初から出来上がってるってわけね!」

 

 お互いに一言も交わしていない。

 

 目線すら合わせていない。

 

 なのに、ビルドが跳べば千香瑠がその着地狩りを完璧にカバーし、千香瑠が狙われればビルドがスパークリングの泡の盾を展開して絶対に無傷で守り抜く。

 

 二人は一緒に戦ったことも、訓練したことも一度もない。

 

 しかし、子供の頃の泥だらけの泥泥遊び、他愛のない鬼ごっこ、日常の歩幅の合わせ方、そういった「リリィとしての訓練」とは全く別の次元の、魂のレベルでの『阿吽の呼吸』を生み出していた。

 

ビルド「いくぞ、千香瑠……っ!」

 

千香瑠「はい……! いつでもいけます、光輝くん!」

 

 初めて並び立つ戦場で、二人の「呼吸」が完璧にシンクロする——。

 

 そして千香瑠の援護のもと、次々と重量級の攻撃をヒュージに叩き込むビルドスパークリング。

 

 そして、ついにヒュージは行動不能の一歩手前まで追い詰められる。

 

ビルド「これで決める!!」

 

Ready Go!

 

《スパークリングフィニッシュ》!!

 

ビルド「はぁああああっ!!」

 

 ビルドのライダーキックがヒュージに激突。――そして、

 

ドゴオォオォオオンッ!!

 

 ビルドのキックはヒュージの装甲を穿ち、核を粉々に打ち砕き、ヒュージは爆散した。

 

ビルド「…………」グッ

 

千香瑠「!!」グッ!

 

 サムズアップする千香瑠とビルド。すると

 

ビルド(あっ、まず………)

 

 大怪我をしていたことを忘れていたビルド。変身が解除され、道路に光輝は倒れた。

 

千香瑠「っ! 光輝くん!」

 

一葉「光輝さん!!」

 

 駆け寄ってくるヘルヴォルの面々。

 

瑤「不味いって……多分もうすぐG.E.H.E.N.A.とかエレンスゲの上層部とか来るよ……!」

 

恋花「……この近くに、前あたしがたまたま見つけた場所があるの。そこならもしかしたら……」

 

一葉「恋花様、案内してください。彼をそこに隠します!」

 

恋花「こっち!」

 

藍「こーき、大丈夫?」

 

瑤「大丈夫よ。藍ちゃん……」

 

千香瑠「…………」

 

一葉「千香瑠様、光輝さんはきっと生きててくれます。私たちは今はとにかく、政府や上に彼を渡さないことだけ考えましょう!」

 

千香瑠「……うんっ!」

 

― つづく ―




一葉たちが光輝を上に渡したくない気持ちは、ヘルヴォルのみんなが受けてきた扱いを知ってるアサルトリリィファンの方なら分かると思う。
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