取り敢えず咬月さんに事情説明っすね
高速道路や下道などを併用して移動し、車に揺られること2時間。
光輝を乗せた車は神奈川の鎌倉市にある百合ヶ丘女学院へ。
天葉「ここだよ。降りて」
光輝「はい……痛っ」
まだ傷口が痛むが、ガマンして何とか車から降りる。そして2人に連れられて応接室に向かう。
―――その途中、
依奈「千香瑠の幼馴染なんだよね? 戦うための力を得たのは、千香瑠のため?」
光輝「………はい」
天葉「そう。まったく無茶して……」
でも、天葉の顔は怒ってなかった。むしろ……
天葉(こんなに自分を思ってくれる人がいる千香瑠が少し羨ましいな……)
そして案内されたのは、重厚な調度品が並ぶ静かな応接室。
光輝は与られたソファーに腰を下ろす。
部屋の隅、天井の近くには小さな動作音を立てるマイク付きの監視カメラが配置されていた。
自分の存在がただの「客人」として扱われているわけではないことを、光輝は冷静に受け止めていた。
静寂の中、応接室に入って来た百合ヶ丘の理事長代行、高松咬月が静かに口を開いた。
咬月「相澤一葉からの『保護の依頼』は、我が百合ヶ丘女学院として謹んで承ろう。エレンスゲやゲヘナの不当な介入から、あなたを守ることを約束する」
そこまで告げると、咬月代行は鋭い視線を光輝に向けた。
咬月「だが……そのためには、まず我々は知らねばならん。君がが使っていたあの異様な力――『仮面ライダー』とは一体何なのだ? リリィの使うマギとは異なるあのシステムの正体の説明を頼む」
カメラのレンズが光輝の表情を克明に捉えようと微かに動く。
光輝は誤魔化すことなく、自らの瞳をまっすぐに相手へと向け、語り始めた。
光輝「……俺の力は、昔、じいちゃんが使ってたシステムです」
光輝は落ち着いた声で、一つひとつ言葉を紡ぐ。
祖父から聞いていた真実をそのまま口にする光輝に、部屋の空気が緊張を増す。
かつてこの世界の前に存在した旧世界、そしてこの新世界。
そして自分の祖父、桐生戦兎の残したライダーシステムの事。
咬月「にわかには信じがたいが、確かにこの世界の技術では作れんだろうな……事実か」
光輝「ただ……このシステムを扱うには、一つ絶対に避けて通れない条件があります」
だが、光輝の告白はそれだけでは終わらなかった。
光輝は己の手のひらを見つめ、静かに、けれど重い声音で続けた。
光輝「『ネビュラガス』と呼ばれる未知のガスを、自らの身体に注入しなければならない。人体における適合度――ハザードレベルを引き上げるための、人体実験同然のプロセスを突破する必要があるんです」
一気に顔が険しくなる理事長代行やそばで控えていた天葉や依奈。
咬月「人体実験……それを、君は自分自身に行ったというのか?」
呆然と問いかける理事長代行に対し、光輝の瞳に一切の迷いはなかった。
光輝「そうです。俺は、千香瑠一人に戦わせたくなかった。……親友を失って心に傷を負いながらも戦ってきたあいつを、今度は俺が守るって決めたんです。あいつが背負わされた暗闇から、あいつ奪い返すためなら、自分の身体に何を注入しようが、何のリスクを背負おうが、どうだってよかったんです」
監視カメラの向こうでこのやり取りを見つめているであろう者たちも含め、応接室全体が息を呑むような静寂に包まれた。
エレンスゲやゲヘナが非道な技術でリリィを兵器として作り上げたのに対し、目の前の少年はただ一人の少女を救うためだけに、己の頭脳と身体を投げ打ってその領域へと足を踏み入れたのだ。
―――応接室から、講堂に控えていた百合ヶ丘のリリィたちに、この映像は中継されていた。
落ちた重い静寂を破ったのは、話を静かに聞いていた百合ヶ丘のリリィの、息を呑むような震え声だった。
梨璃「自分の身体を……実験台に……?」
絶句したのは、百合ヶ丘のレギオンのひとつ、一柳隊の隊長を務めるリリィ、一柳梨璃。
梨璃の瞳には、深い動揺の色が浮かんでいる。
そしてそれは、G.E.H.E.N.A.に身体をいじられた過去のある、安藤鶴紗も同様だ。
彼女たちが日頃から知る「強化リリィ」の裏側――それは、ゲヘナやエレンスゲといった大組織が、権力や戦力増強の欲望のために、無力な少女たちの身体を勝手に改造し、道具として消費していくという非人道的なもの。
命を軽視し、他人の尊厳を踏みにじる大人の醜いエゴ。それを彼女たちは嫌というほど見聞きしてきた。
だからこそ、光輝の告白は彼女たちの常識を根底からひっくり返した。
辰姫「……ッ! 全く違う……!」
思わず声を荒らげたのは、別のリリィ。鶴紗と同じく、G.E.H.E.N.A.に身体を弄られた過去を持つ、森辰姫だ。
彼女は唇を噛み締め、目の前で静かに座る光輝を見据えた。
鶴紗「ゲヘナの連中は、他人の命を踏みにじって自分の欲望を満たしてる。……でも、こいつは違う。自分の命を、自分の身体を、たった一人の大切な人を守るために……自分の意志で差し出した……!」
冷酷な「強制された人体実験」と、崇高な「選ばれた自己犠牲」。
構造は同じはずなのに、そこにある動機があまりにも対極的だった。
大人の欲望の犠牲になった被害者ではなく、自らが盾になるために修羅の道を選び取った光輝の姿に、百合ヶ丘の生徒たちの胸は激しく打たれていた。
雨嘉「……こんなのって……ずるいよ」
二水「……………うぅ」
百合ヶ丘のリリィたちの中でも、特に心の優しいリリィ達は、涙を流す。
そして先ほどまで厳格な態度を崩さなかった咬月も、ぐっと拳を握りしめ、言葉を詰まらせる。
怒りでも恐怖でもない。それは、利己的な大人たちとはあまりにかけ離れた、純粋すぎる「愛ゆえの狂気と覚悟」に対する畏怖の念だった。
G.E.H.E.N.A.の闇の深さを知る百合ヶ丘だからこそ、光輝という存在が持つ圧倒的な「光」の重みが、痛いほど胸に突き刺さったのだ。
咬月「よかろう……我々の腹は決った。君の保護、謹んで承ろう」
― つづく ―
百合ヶ丘で保護してもらえることになった光輝。
ここから約束通り、よほどのことがない限り光輝の戦闘はありません