ゆめの夢
いつも通り、定刻。
夜の10時30分にベッドに着く。彼女はこの時間でないと眠れないらしい。それ以外には眠れないし、時間を過ぎてもまだ起きているとなんだかイライラしてしまう。
医者には特に異常がないと言われた。よく考えて見れば、それはとても健康のサイクルが整っていて別の見方から言えばすごく健康的だと。言われてみれば言い得て妙ではあるが、彼女が思うところはそんなことではなかった。医者の言うことが間違っている、と完全否定したいわけではないが、彼女の腹の中ではそうではない、と誰かが彼女に語りかけるのだ。自分の睡眠はただの睡眠ではないことを誰かに知ってもらおうと、必死に自分自身に呼びかける何かが。
眠る前に今日一日起きた出来事について心の中で反芻する。特に思い出に残らない日常を何とかして思い浮かべる。無味乾燥とした無意味な行為にも関わらず少女は必ず寝る前にそうするのだった。
今日は何が起きた日だっただろう。朝起きて歯磨きして、それから母が作ったらしい味のない料理を口に運んで部屋に閉じこもる。少し時間をおいて母が昼食を作ったというのでリビングに出て来て有機物を口に運ぶ。その後、朝と同じように自室に戻り閉じこもった。二回ほどトイレのために部屋を出て、しばらく経って夜7時を回ったところで夕食を食べる。もちろん、味の感想は持たなかった。そして再三部屋に閉じこもる。部屋に彼女が閉じこもっている間、家族は誰一人として彼女が何をしているかは分かっていない。否、分かろうとはしない。不可思議な、溝が存在していた。彼女の生き方に文句は言わないし、特に気にかける様子もなく親子は親子とも呼べない共有空間内での生活を営んでいた。彼女もその事について何の異論もない。
さて、自分の一日がいつもと変わりない色のない世界であることを確認して少女は部屋の電気を消した。電気を消せばすぐに瞼が重くなる。枕元には常にウサギのぬいぐるみがある。これも、無ければ眠ることが出来ない。おかしなことだが、寝るのに準備のようなものが必要だった。それが今まで述べてきたことだった。
後は勝手に急速に眠気が体をおそう。抗いようのない眠気に流されるようにして彼女は意識にかかる光の照明を落としていく。そして彼女が彼女をもう一度自覚するころには――――。
彼女は彼女の夢の中に身を投ずるのだった。
これは一人の病弱な少女が日記に綴った夢の物語――――。