「ここがこの都市の冒険者ギルドです」
ルーデウスが地図と場所を照らし合わせながら、建物を見る
「着きましたわね…」
エリナリーゼは、少し疲れた様子だ
「ハァ…ハァ…そう…だな…ハァ…」
かく言う俺は肩で息をしている
他の二人は何事もなかったような顔をしているのに、俺だけがへたり込んでいる
だって色々あって疲れたんだもん
俺がサキュバスに誘われてしまったり
それが原因で魔物と一対十になってしまったり
流砂に巻き込まれて砂漠に大穴を開けたり
ホント、よく生きてここまで来たよ俺
そんなこんなで滅茶苦茶疲れているのだ
「あれは…ギース!」
ギースと呼ばれたサル顔の男がこっちに走ってくる
「エリナリーゼじゃねぇか!?ちょっと早すぎやしねぇか?そっちの二人は?」
「どうも…ルーデウス・グレイラットです」
「あんた…先輩だよな?ずいぶんデカくなったな~」
どうやら、皆は知り合いのようだ
「で?そちらの死にかけさんは?」
「俺は…スモーク…レン…二人の…友達です…」
俺の身体を下から上までじっくりと見て、怪訝な顔をする
「お前、ホントに強いのか?冗談抜きで命がけだぜ?」
そんなギースに、ルーデウスが説明してくれる
「彼はスノウドレイクの群れを単独で殲滅出来る実力者です」
「期待には…応えますよ…」
「群れを単独で?!そりゃあいい!頼りにしてるぜ!」
背中を思い切り叩かれ、一瞬本当に吐くかと思った
「ここに、パウロと、パーティーメンバーがいるぜ」
「はい。スモーク、彼らと合流し、ゼニス救出の作戦を立てます」
「分かった…その…分かったから…水と…椅子をくれ…疲れた…」
「はいはい」
「あと少しですわよ~」
「もう一回聞くけど、本当に強いんだろうな?」
三人が地面に伏している俺の足を掴み、中へ引きずっていく
「…うわ~…」
「だから闘い以外の道中でも気を付けてくださいと言ったのに…」
「いくら強くても、旅慣れていないとこうなるんですわね…昔を思い出しますわ…」
中に投げ入れられると、何人かの冒険者らしき人が集まっていた
その中心に、いかにも絶望した顔をしている、やつれた男が居た
「…誰だ…?」
「パウロ…」
その言葉を聞くと、やつれた男がルーデウスに駆け寄ってきた
「ごめん…ごめんなルディ…俺はダメな親父だ…おれは…おれはぁ…」
パウロ
あの男がルーデウスの父親なのか
さっきまで俺と普通に笑っていたルーデウスの顔が、今は酷く歪んでいる
…家族を失うかもしれない
その恐怖は、俺にも少しだけ分かる気がした
ルーデウスとエリナリーゼの顔を見る限り、常にこんな様子ではないのだろう
そりゃそうか
自分の奥さんが危ないんだもんな
「なんてザマだ。パウロ」
「パウロ…くそ…エリナリーゼさん。スモークを一旦休ませてください」
俺はエリナリーゼに担がれ、二階で休息を取った
そして、そのまま眠ってしまった
眠りから覚めた俺は、一回に降りると、ルーデウスに会った
『ごめん、迷惑かけたな。それで、作戦はもう立てたのか?』
『出発は明日の朝、メンバーは僕、エリナリーゼさん、パウロ、スモーク、ギース、
『オッケー。完全に回復したんでな。頼りにしてくれ…そう言えば、ロキシーって言ったか?ほら、お前が旅の途中話してた師匠って奴。アイツもいるんだろう?』
ルーデウスは悔しい顔をしながら言った
『彼女は…迷宮で行方不明になりました…』
俺も落ち込んでしまう
聞かなきゃよかったな
『まぁ…水王級魔術師なんだろ?迷宮なんかで死なねぇって』
『…はい』
『だろ?だったら生きてるってことにしようぜ?心配とか、悲しむとか、そういうのは死んだって分かったあとでいいだろ?』
『えぇ…えぇ、そうですよね』
少し明るくなったかな
『絶対生きてますよ!だってあの師匠なんですから!師匠!俺が助けに行きますからね!』
よし
調子を取り戻してきたな
あんなメンタルで戦わせるわけにはいかないからな
ルーデウスが立ち上がり、手を突き出す
『明日の朝、俺達はゼニスを救う!』
俺も手を突き出し、彼の手を取る
『明日、迷宮で、俺達はロキシーを見つける』
俺たちの手は、しっかりと固く握られていた
やっぱり、こういう目に見えた表明っていうか、約束は大事だ
転移の迷宮の中で一人の男が歩いていた
彼はつい最近まである女を探していた
何日も
壁を破壊し、部屋を調べ、迷宮の隅々まで探し回った
だが、見つからなかった
彼は彼女の捜索を諦めていた
それはもう彼にとってどうでも良い
彼は、既に二つ目の目的を果たそうとしている
彼は歩いていた
その先にいる、この迷宮の主を目指して
最奥には、マナタイトヒュドラがいた
ヒュドラは彼が近づいてくるのに気づき、目を醒ました
彼を見るや否や、ヒュドラは全ての首を持ち上げた
目の前の彼を、自身の命を脅かす者
敵であると判断し…
ーシャアアァァァァ!ー
戦闘態勢に移行した
九つの首のうち、三本が彼に向かって火を放つ
彼が炎に向かって右手をかざした瞬間
地面がひび割れて浮かび上がり、炎から彼を守る壁となった
ヒュドラは浮かんでいる岩に向かって走り出した
体当たりを食らわせ、岩が壊れた
その瞬間
ゴトッ
ゴッ
ボトッ
八つの首が地に落ちた
だが、最後の一つの首は、ゆっくりと振り向き、彼の後ろ姿を見る
ヒュドラはそこで初めて、違和感に気づいた
おかしい
再生していない
傷口を見る
断面は焼き切られていた
傷口を見つめている間に、男が自身の頭上に立って、角を掴んでいた
最後の首が男を見た時、ヒュドラは恐怖した
男はヒュドラに手をかざした
ヒュドラの唸り声が止まった
九つあった首のうち、残された一つが穏やかな目で男を見る
先ほどまでの殺意は、そこにはなかった
まるで、忠実な獣のように
男はヒュドラに何かを命じた
ヒュドラは、それに従うように首を伏せた
男はそれを確認すると、何事もなかったかのように歩き出した
そして、迷宮を後にした